【楽曲解説】ブリテン:ソワレ・ミュージカル

Benjamin Britten
ベンジャミン・ブリテン(1913~1976)


Soirees Musicales Op. 9
~Suite of Five Movements from Rossini~
ソワレ・ミュージカル 作品9



 近現代の英国音楽を愛好する熱心なファンは少なくないが、一般に広く知られている作曲家というとそう多くはない。その中でベンジャミン・ブリテンの名を、卓越した演奏活動(指揮およびピアノ)も含め、20世紀の英国音楽を代表するものとすることにまず異論はないだろう。詩人のW. H. オーデン、テノール歌手のP. ピアーズとの親交から生み出された、数々の声楽作品や歌劇に代表されるブリテンの創作活動については、ここで改めて述べるまでもない。日本との関係も意外に深く、いわくつきの「シンフォニア・ダ・レクイエム」や、日本で観賞した能「隅田川」に感銘を受けて作曲された歌劇「カーリュー・リヴァー」などの作品もある。

 彼の音楽の本質を考える上で、1960年代初め頃から始まったショスタコーヴィチとの交流を見逃すわけにはいかない。後にブリテンは歌劇「放蕩息子」をショスタコーヴィチに、ショスタコーヴィチは交響曲第14番をブリテンに献呈したが、この2曲を思い浮かべるだけでも両者の持つ音楽的な共通点を理解することができるだろう。特にオーケストレイションについては、表面的な類似もさることながら、共に極めて優れた職人的な技術を持っていたことがわかる。楽器固有の音色を十二分に活かしたオーケストレイションの見事さは、有名曲としてとかく軽視されがちな「青少年のための管弦楽入門」作品34を一聴するだけでも明らかだ。本日演奏される「ソワレ・ミュージカル」は、自身のオーケストレイションの技術向上を意図してG. ロッシーニの声楽作品を管弦楽配置したもので、比較的初期の作品(1935年)である。しかしながら、色彩感溢れる楽器選択や詳細なニュアンスの指示など、この作品には既に完成の域に達したブリテンの職人技が惜しみなく繰り出されている。

 ここでブリテンが題名を借用したロッシーニの「ソワレ・ミュージカル(音楽の夜会)」は、1835年に纏められた彼の代表的歌曲集である。ブリテンは「ソワレ・ミュージカル」の他に、同じロッシーニの他の声楽作品を組み合わせて、5曲から成る組曲を構成した。ロッシーニの原曲はあくまでも素材であり、構成や雰囲気はブリテンによって自由に変更されている。各曲の標題とその原曲は以下の通り:

  1. 行進曲:歌劇「ウィリアム・テル」第3幕第16曲「兵士の踊り」
  2. カンツォネッタ:「ソワレ・ミュージカル」より第1曲「約束」
  3. チロレーゼ:「ソワレ・ミュージカル」より第6曲「アルプスの羊飼の娘」
  4. ボレロ:「ソワレ・ミュージカル」より第5曲「招待」
  5. タランテラ:3つの宗教的合唱曲より第3曲「愛」

 1938年には、この作品にバレエの振り付けが施された。ちなみに、第二次世界大戦中に渡米していたブリテンは、「ソワレ・ミュージカル」と併せて『ディヴェルティメント』というバレエ(振り付けはG. バランシン)にするため、1941年に姉妹作「マチネ・ミュージカル」作品24を作曲している。

 ブリテンはロッシーニのこの歌曲集が気に入っていたようで、彼の晩年にあたる1971年のオールドバラ音楽祭にて4曲の抜粋を自らピアノ伴奏をした録音も遺されている(BBC-BBCB 8001-2)。ブリテンの色彩感溢れるニュアンスに富んだピアノ演奏は、まさにこの作品で聴かれるオーケストレイションと同質のものである。

かぶとやま交響楽団 第26回定期演奏会(2002年2月16日)

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2008年最初の買い物は国内盤

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  • ハイドン:「太陽四重奏曲集」 ウルブリヒQ (Denon COCO-70733~34)
  • モーツァルト:ディヴェルティメント集 ウィーンPO木管グループ (Westminster UCCW-3052)
  • モーツァルト:クラリネット協奏曲、ファゴット協奏曲 ウラッハ (Cl) エールベルガー (Fg) ロジンスキ/ウィーン国立歌劇場O (Westminster UCCW-3034)
  • ブリテン:カンティクル第1~5番、ウィリアム・ブレイクの歌と箴言 ピアーズ (T) フィッシャー=ディースカウ (Br) ブリテン (Pf) 他 (Decca UCCD-3627)
  • ブリテン:キャロルの祭典、みどり児はお生まれになった、金曜日の午後、詩篇150番 ブリテン/コペンハーゲン少年Cho、イングリッシュ・オペラ・グループ少年Cho、パーリー・ダウンサイド・スクールCho 他 (Decca UCCD-3630)
  • ドストエフスキー,F.・亀山郁夫(訳):カラマーゾフの兄弟1~5,光文社古典新訳文庫,2006~2007.
  • クレーメル,G.・臼井伸二(訳):クレーメル青春譜,アルファベータ,2007.
2008年最初の買い物は、Tower Records難波店で。といっても、これといった目当てがあったわけではなく、廉価な国内盤でもあれば何か……といった程度の軽いひやかし気分。

ハイドンの弦楽四重奏曲は、一時期タートライQでコンプリートしようと試みたことがあったのだが、半分くらい揃えたものの、どうしても演奏内容に不満が残るので断念。その後、コダーイQやフェステティーチQにも手を出したものの、結局はアマデウスQ(作品51以降)に東京Qの作品50、ウェラーQの作品33といったセットでひとまずは用が足りていた(作品76は、何だかんだ言って、何種類か棚に並んでいるが)。自分で四重奏をする時も、作品33以降しか弾くことがなかったということも大きいが、作品9、17、20の3つのセットは今に至るまで未聴のまま。DENONのクレスト1000シリーズにて廉価で再発されているのを見かけて、ウルブリヒQの作品20を購入。古き佳き時代の香りがする、落ち着いた演奏に満足。全集を揃えようと再びタートライQなどに手を出さない限りは、とりあえずこの曲集はこの音盤で十分だろう。

高校時代に、リバールが独奏したヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番の復刻LPを聴いて以来、“幻のレーベル”ウェストミンスター・レーベルには一種独特の憧れみたいなものがあった。1991年春に、バリリQのベートーヴェン、ウィーン・コンツェルトハウスQのシューベルト、ハイドン、モーツァルト、ウラッハが主役の3枚などが一気にCD化された時には、喜び勇んで大学生協に予約注文したことを思い出す。この時の復刻CDの音質は、金属的で癇に障るようなものではあるが、それでも演奏そのものの素晴らしさ(とりわけバリリQ)は圧倒的で、夢中になって何度も繰り返し聴いたものだ。それから5年ほど後でリリースされた、新たに発見されたマスターテープによる復刻シリーズでは、たとえばバリリによるモーツァルトのヴァイオリン・ソナタなどの名盤もCD化され、僕にとってはずすことのできない曲あるいは演奏が含まれたアルバムは、ほぼ揃えていた。もっとも、まだまだ学生で“大人買い”ができる身分でなかったこともあり、そうしょっちゅう聴くことはないだろうなぁ……といった辺りのアルバムは買いそびれたままであった。ウエストミンスター ニュー・リマスタリング・シリーズという棚を見かけて、つい最近、ユニヴァーサル(DG)から再リリースが始まったことを知る。すぐに店頭から消えることはないだろうが、せっかくだし、第2集しか持っていなかったモーツァルトのディヴェルティメント集(第1集)と、気になっていながらもクラリネット協奏曲がダブるという理由で買いそびれていたエールベルガーによるファゴット協奏曲の2枚を購入。楽器演奏そのものは確かに古い流儀なのだが、自然な息遣いで奏でられる愉悦感に満ちた音楽は、今なお不朽の価値を持っているといえるだろう。なにより音色がたまらなく魅力的で、とりたてて有名曲と言うほどでもないこれらの小品については、わざわざこの演奏以外で聴く理由はない、とすら言ってしまいたくなる。

ブリテンの没後30周年記念シリーズも、特に日本語対訳が完備している声楽曲や歌曲を揃えたいと思っているものの、国内盤であるという気安さからか、ついつい買いそびれてしまっている。一部が値引きされていたので、ちょっとしたお得感もあって2枚を購入。カンティクル他の声楽曲集と児童合唱集、どちらもごく一部を除いて、初めて聴く作品ばかり。印象が強かったのはカンティクルの方。魂を奪われそうになるほど美しい。様式や詩の内容といった作品の真髄(?)にはまだ全くたどり着けそうにないが、単に音の羅列として聴くだけでも十分に美しい。時に淫靡さすら漂わせながら、どこまでも透明な響きに貫かれているのは、ブリテンの真骨頂なのだろう。ピアーズは改めて言うまでもないが、ディースカウの説教くささも作品によくハマっている。一方の児童合唱集は、比較的初期の作品が中心であることもあって、そこまでの圧倒的な印象はなかった。

昨年末から読み出した『カラマーゾフの兄弟』。何という面白さ!長編小説は基本的に好きではないのだが、そう言ってこの作品を今まで敬遠してきたことを後悔した。読み進むにつれて、ページをめくる速度が指数関数的に増していく。とにかく面白い。最もぶ厚い第4部は1日かからずに読んでしまった。これは、たぶん僕だけじゃないだろう。読み通さずに放っておけないほど面白い。もちろん、亀山先生の訳がこれに大きく寄与しているだろうことは、言うまでもない。

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
(2006/09/07)
ドストエフスキー

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カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)
(2006/11/09)
ドストエフスキー

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カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)
(2007/02/08)
ドストエフスキー

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カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)
(2007/07/12)
ドストエフスキー

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カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫) (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫) (光文社古典新訳文庫)
(2007/07/12)
ドストエフスキー

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カラマーゾフの兄弟カラマーゾフの兄弟
(2007/04/27)
ミハイル・ウリヤーノフマルク・プルードキン

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ふらっと立ち寄った書店で見つけたクレーメルの自伝。『小さなヴァイオリン』(リブロポート)には、正直なところ「こういう人とは友人になれないだろうなぁ…」といった感想を抱いただけに、その続編である本書を買うかどうかはちょっと躊躇した。ざっと内容を確認したところ、D. オーイストラフとの師弟関係やチャイコーフスキイ国際コンクールの優勝など、音楽家としての華々しいキャリアの初期に加え、亡命なのか海外在住なのか、複雑かつ奇妙なソ連との関係など、興味の尽きない話題が目白押しだったので、即購入決定。もっとも、この世代のソ連体制との絡みには、個人的にそれほどの関心はない。というのも、そこでは官僚主義との軋轢が主であり、ショスタコーヴィチらが生きた旧世代のそれとは似て非なるものだと考えるからだ。だから、本書でもそうした部分よりもむしろ、共演した演奏家や、シニートケを筆頭とする作曲家達に対する率直な見解が興味深い。コンドラーシンに対する「興奮はあるが感動はない」という評価など、なるほどこの指揮者のある側面を言い当てているように思う(言うまでもなく、僕自身はコンドラーシンのいくつかの演奏に繰り返し感動し続けているわけだが)。ロジデーストヴェンスキイに対する評価も、おそらくは妥当なものだろう。シニートケの「きよしこの夜」についての記述も面白い。我が国の若者達も、素直にそれを聴き取っているようだ(笑)<下の動画を参照

クレーメル青春譜クレーメル青春譜
(2008/01/15)
ギドン クレーメル

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ショスタコーヴィチ、スヴィリードフ、ブリテン・HMV(10月分)

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  • ショスタコーヴィチ:交響曲第4番 ビシュコフ/ケルン放送SO (Avie AV 2114)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第4番、歌劇「カテリーナ・イズマーイロヴァ」の5つの間奏曲、祝典序曲 ロジデーストヴェンスキイ/フィルハーモニアO、ロンドンSO (BBC BBCL 4220-2)
  • プロコーフィエフ:弦楽四重奏曲第2番、ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番、ガルィニン:ピアノ三重奏曲 エドリーナ (Pf) ボロディンQ (Melodiya MEL CD 10 00980)
  • ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番、コンチェルティーノ、ピアノ五重奏曲 アルゲリッチ、ジルベルシテイン (Pf) ナカリャコフ (Tp) カプソン、マルグリス (Vn) チェン (Va) マイスキー (Vc) ヴェデールニコフ/スイス・イタリア語放送O (EMI 50999 5 04504 2 8)
  • スヴィリードフ:ペテルブルグ、プーシキンの詩による6つの歌曲 フヴォロストーフスキイ (Br) アルカディエフ (Pf) (Delos DE 3311)
  • ブリテン:ミケランジェロの7つのソネット、ジョン・ダンの神聖なソネット、冬の言葉、ヘルダーリンの6つの言葉 ピアーズ (T) ブリテン (Pf) (Decca UCCD-3628)
  • グラズノーフ:ピアノ作品全集第2巻(3つの練習曲、2つの小品、3つの小品、夜想曲、ミニアチュア、やさしいソナタ、ソナチネ、2つのPrelude-Improvisations、主題と変奏) クームズ (Pf) (Hyperion CDH55222)
HMVから、10月注文分の商品が届く。

ビシュコフ/ケルン放送SOによるショスタコーヴィチ・シリーズは、現在のところ4枚がリリースされているが、架蔵しているのは2枚(第7、8番)のみ。今回は、とりあえず第4番をオーダーしてみた。既に聴いた2曲と同様、端正な音楽作りに好感が持てる。古典的とさえ言える構成感で全曲を仕上げているが、洗練された響きと相まって、いささか小粒にまとまり過ぎた感も否めない。この作品に対する聴き手の思い入れによって、評価は大きく分かれるだろう。

同じく第4番の西側初演の記録が、BBC Legendsからリリースされた。歴史的価値は非常に高いが、演奏精度が随分低く、純粋な鑑賞目的には適さないだろう。ロジデーストヴェンスキイの基本的な解釈は後年の録音とそれほど異ならないが、細部の表情付けの面白さは、この時点ではまだそれほどでない(オーケストラの技量も影響しているのだろうが)。巨大な新作の初演という熱気や興奮も感じられないわけではないが、実際の音としてきちんと響いてこないもどかしさが残る。「カテリーナ・イズマーイロヴァ」の5つの間奏曲は、この形での世界初演ライヴである(第3曲は省略)。既出音源だが、音質はやや自然な響きに改善されている。もっとも、キンキンした過去の盤の音質を好む向きもあるかもしれない。この演奏もオーケストラの演奏精度が低く、ロジデーストヴェンスキイの気合いが空回りしている感は否めない。一方、20年以上後の録音である祝典序曲は、大柄でありながらも整然とした余裕を感じさせる秀演である。力任せではないのに、華やかな響きはロジデーストヴェンスキイの真骨頂。

ボロディンQ団員によるショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲は、長らくLPで探していたものの、どうしても落札することができずに悔しい思いをしていたもの。MelodiyaレーベルからCD化されたことは、実に喜ばしい。緊密なアンサンブルと、粘り気を帯びた熱い抒情を湛えた内面的な演奏は、絶頂期の彼らならではのもの。巨大な力で圧倒するタイプの音楽ではないだけに、名ソリスト達による演奏とは全く異なった趣きがあるものの、聴き終えた後の手応えは十分。プロコーフィエフも貫禄の名演だが、初めて聴いたガルィニンのピアノ三重奏曲がとても美しい作品で非常に気に入った。

ルガーノで行なわれた「プロジェクト・アルゲリッチ」2006年(有名なルガーノ音楽祭とは別物)のライヴ録音は、ショスタコーヴィチ作品集。生誕100年を記念してショスタコーヴィチ作品を集中的に演奏したのだろう。これが実に素晴らしい内容。特にジルベルシテインとのコンチェルティーノは、この曲の決定盤と言っても良いだろう。確かな技術に裏付けされた音楽の自在な息遣いは、他の追随を許さない。輝かしい響きで奏でられる集中度の高い音楽は熱気に溢れ、風格さえ漂わせている。ピアノ協奏曲第1番は、アルゲリッチ2回目の録音となるが、一層の自由度を獲得した鮮烈な秀演である。速い楽章の奔放な音楽も立派だが、第2楽章の心に染み入るような味わいに、天才でなければ到達し得ない境地を聴くことができる。オーケストラはアルゲリッチに煽られつつも、よくつけている。ナカリャコフのトランペットも、非常に巧い。…のだが、アルゲリッチの熱さに比べると徹底して冷ややかな感触を持っているのが特徴で、そのアンバランスさが奇妙な印象を残す。個人的には、トランペットだけが浮いているようなこの雰囲気に違和感がある。ピアノ五重奏曲も同様にアルゲリッチ主導の音楽作り。大柄でありながらニュアンスに富んだ抒情的な演奏は、弦楽器奏者の寄与するところも大だろう。ただ、チェロ(マイスキー)の歌い回しは少々甘口に過ぎる。ヴァイオリンのR. カプソンの気品ある端正な音楽に救われている感じ。全体にアルゲリッチとカプソンの素晴らしさが際立つが、残念なのはヴィオラの弱さ。この音色では、特に第2楽章などは淡白に過ぎてつまらない。録音は極めて優秀。

何だかスヴィリードフ・マニアにでもなったような最近の購入状況だが、今回もまたスヴィリードフの歌曲を1枚入手。「プーシキンの詩による6つの歌曲」はお馴染みの名曲だが、歌曲集「ペテルブルグ」の方は独立した作品ではなく、ブロークの詩を用いて過去に書かれた歌曲を再編成したもののようだ(ピアニストのアルカディエフによる解説では、20年以上かけて仕上げられたことになっている)。ネステレーンコ盤(9月28日付の本欄で紹介)やヴェデールニコフ盤(11月5日付の本欄で紹介)と重複している曲もある。いずれも味わい深い逸品揃いで、今まで聴いてこなかったことを後悔するくらい。「酒場のカウンターに釘付けになり」や「ペテルブルグの歌」などは、特に印象的。フヴォロストーフスキイの歌唱には少し気取った雰囲気があり、スヴィリードフの素朴さとは異なる趣があるものの、美しい声と高度な表現力はさすが。

没後30周年の記念企画としてリリースされたDeccaのブリテン・シリーズ。国内盤かつ廉価ということもあって、ついつい購入の優先順位が落ちてしまう。日本語の対訳は持っておきたいので、歌曲やオペラは廃盤になってしまう前に手に入れておきたいところ。今回は、ピアーズとの歌曲集を購入。「ミケランジェロの7つのソネット」は、以前NHK教育で日本公演の映像が放映された際に聴いたことがあるが(抜粋)、その他は全て初めて聴く作品ばかり。国内初出(ヘルダーリンの6つの言葉)や国内初CD化(ジョン・ダンの神聖なソネット)の音源も含まれているとのことで、あまり広くは聴かれてこなかった作品群なのかもしれない。確かに地味ではあるが、何とも言えず透明で、それでいて不健康な妖気が漂う、ブリテンのエッセンスを凝縮したような音楽ばかりで、何か見てはいけない世界を見てしまったかのような名状し難い感覚に囚われる。ブリテンの音楽を、何でもかんでもピアーズとの関係と結びつけて解釈するつもりはないが、これらの歌曲を聴くと、嫌でもそうした連想をしてしまう。でも、とても魅力的な音楽だ。

10月5日付の本欄で紹介したグラズノーフのピアノ曲全集。今回は第2巻を購入。第1巻よりも濃密な雰囲気を持った作品が多く、古き佳きロシア(あくまでもイメージだが)を堪能できる。こういう小品ではグラズノーフの魅力が遺憾なく発揮されているので、思わず何度も繰り返して聴いてしまった。

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未聴LP(5月分)+追悼:坂井泉水さん(ZARD)

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  • サン=サーンス:「動物の謝肉祭」より「ピアニスト」、J. S. バッハ:主よ人の望みの喜びよ、民謡の万華鏡(母のない子、かわいいアウグスティン、Chopsticks、フレール・ジャック)、ワルツの歴史(シューベルト:ワルツ ハ長調、ショパン:ワルツ 嬰ハ短調、ブラームス:ワルツ ホ長調、シュトラウシアーナ(J. シュトラウス2世メドレー)、ラヴェル:「マ・メール・ロワ」より「パゴダの女王レドロネット」、ビゼー:「子供の遊び」より「ラッパと太鼓」、「シャボン玉」、ストラヴィーンスキイ:3つのやさしい小品、サティ:ジムノペディー第2番、ショスタコーヴィチ:組曲「黄金時代」よりポルカ ホワイトモア、ロウ (Pf) (RCA CAL-1050 [LP])
  • バラーキレフ:イスラメーイ、ドビュッシー:喜びの島、ブトリー:3つの小品、ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガより第24番 ブトリー (Pf) (MK D 4276-7 [10" mono])
  • スヴィリードフ:クールスクの歌、ロシアの詩人の詩による5つの合唱曲 コンドラーシン/モスクワPO ユルロフ・ロシアCho他 (Melodiya CM 01021-01944 [LP])
  • ブリテン:民謡編曲集(第1~6集より抜粋) ピアーズ(T) エリス(Hp) (Decca SXL 6793 [LP])
5月注文分に遅れること数日、4月注文分がArs Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.からいつも通りに届いた。

「More Major Classics for Minors」と題されたアルバムは、子供達がクラシック音楽に親しむきっかけとなるように企画されたもの。ラジオ番組のように、簡単な解説のナレーションが各曲の合間に入っている。全ての曲が完全な形で収められているわけではなく、編曲者の名前も表記されてはいないが、いずれも2台ピアノで演奏されている。この種のアルバムに対して純粋に芸術的な観点からのみで評価するのは筋違いというものだろう。企画の趣旨に相応しく、きれいな音楽が楽し気な雰囲気を漂わせて演奏されている。凝った選曲なのが、とても興味深い。

ブトリーという音楽家のことは寡聞にして知らなかったが、オーケストラ・アンサンブル金沢の最新アルバムでは自作の指揮もしているようで、近年はピアニストとしての活動からは遠ざかっているのかもしれない。1958年に録音されたこのピアノ小品集は、彼の若き日の思い出ということになるのだろうか。達者な技術で色彩感豊かな音楽が繰り広げられていて、録音状態を度外視すれば、なかなかの好演で楽しい。ショスタコーヴィチでは、崇高さというよりは人間的な色気を感じさせるところに、興味を惹かれる。ブトリー本人の作品も収録されているが、これは正直なところ、ピンと来なかった。

「クールスクの歌」は、スヴィリードフの代表作として名前をよく聞くが、実際に耳にしたことはなかった。コンドラーシン指揮ということでずいぶん期待したのだが、現時点では、まだ曲の魅力がよく掴めないでいる。随所にスヴィリードフらしい響きが聴こえてくるのだが、クールスクの民謡調の旋律線が肌に合わないのか、とにかく素直に入り込めない。それに比べて合唱曲の方は、ごく自然に心に沁みる。そう何種類も聴き比べできるような作品/作曲家ではないし、iPodにでも入れて、じっくりと時間をかけてチャレンジしてみよう。

今回入荷したものの中では、ブリテンの民謡編曲集が大当たり。ブリテン・ファンならお馴染みの名盤なのかもしれないし、CDでもリリースされているのかもしれないが、残念ながら僕はその辺りの情報を全く持ち合わせていない。ただとにかく、テノールとハープの響きに引き込まれてしまう。平易な旋律線を持った曲であることに加え、派手さや表面的な変化には乏しい編成なので、聴きながらウトウト…するかと思ったら、これがとんでもない。むしろ、妙に目が冴えて、聴覚が異様に研ぎ澄まされるような感じ。一体、ブリテンはどんな音世界に身を委ねていたのであろうか。

さて、最後に少し脱線。5月27日、ZARDの坂井泉水さんが不慮の事故でお亡くなりになった。大学4回生の時、研究室でいつも流れていたのがZARDの曲だった。芸術云々という次元の話ではなく、彼女の歌声は、楽しかったあの頃と不可分なだけに、ちょっとした感慨を抱いた次第。ヒット曲も多数あったが、僕が好きだったのは、栗林誠一郎が作曲した曲(たとえば、「ハイヒール脱ぎ捨てて」「もう探さない」「I still remember」「遠い星を数えて」などなど)。誤解を恐れずに言えば、要するに、ちょっと“ダサめ”の曲が好きだったんだなぁと思う。彼女自身も、格好つけて歌うと途端にダサくなるし。だから、2000年前後から作曲者を変えてみたり、趣向を変えてみたりし出した途端、僕はすっかり興味を失ってしまった。今でも、3枚目のアルバム「HOLD ME」が最高傑作だと思うし。軽やかに甘え成分を含みつつも、透明感のある彼女の声質は、今改めて聴いてみても、やっぱりいいなぁ。ライヴはどうだとか、歌唱力がどうだとか、そんな聴き方をするような音楽ではないような気がする。ひたすら好きだの嫌いだのといった歌詞(「切ない」って言葉が多いですねぇ)ばかりで、自分で口ずさむのはいくらなんでも憚られるが、ふとした時に埃を払いつつCDを取り出すのも悪くない。合掌。

ZARD '91~'01 PV Part I
「Good-bye My Loneliness」~「きっと忘れない」
ZARD '91~'01 PV Part II
「きっと忘れない」~「Don't you see!」
ZARD '91~'01 PV Part III
「Don't you see!」~「promised you」
「異邦人」
TAK MATSUMOTO featuring ZARD

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久しぶりのTower Records

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  • ブリテン:歌劇「カーリュー・リヴァー」 ブリテン/イギリス・オペラ・グループO他 (Decca UCCD-3650)
  • ブリテン:戦争レクイエム ブリテン/ロンドンSO他 (Decca UCCD-3633/4)
  • グラズノーフ:交響曲全集、幻想曲「海」 スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立SO (Venezia CDVE 04259)
  • チャイコーフスキイ国際コンクールの入賞者達(チェロ編)(Russian Disc RDCD 00378)
  • チャイコーフスキイ国際コンクールの入賞者達(ヴァイオリン編)(Russian Disc RDCD 00378)
気がついたら貯まったポイントカードの期限切れが迫っていたので、慌ててTower Records難波店へ。久しぶりの音盤店だったので30分以上店内をウロウロするも、今一つ集中力がなく、これといった収穫がなかったのは残念。

…と思っていたのだが、何気なく買った「カーリュー・リヴァー」の凄さに仰天。昨年は何と言っても“ショスタコーヴィチ生誕100年”だったが、“ブリテン没後30年”でもあったことも周知の事実。廉価な国内盤企画が昨年後半からリリースされていたのは知っていたので、「他に目ぼしい音盤もないし、何か買っておくか」といった軽い気持ちだったことを猛反省した。日本で見た「隅田川」云々とか、キリスト教的な救済がどうこうとかいった背景や思想的なことはさておき、全くもって尋常ではない美しさに衝撃を受けた。ブリテン作品を聴いたのは初めてではないし、名曲とされる作品のいくつかには強く惹かれてもいる。しかし、「カーリュー・リヴァー」から受けた衝撃は、それとは別次元。切り詰められた室内楽的編成から導き出される至高の響きは、たとえこの1曲しかなかったとしてもブリテンの名を不滅のものとするに足るだろう。

ブリテン作品の中でも特に好きな「戦争レクイエム」も、ケーゲル盤しか持っていなかったので、決定盤とされる自演盤を購入。これも、否の打ち所がない、圧倒的な名演。さすがに全作品のコンプリートや同曲異演を何種類も揃えるほどの熱意は(今のところ)ないが、ブリテンに関しては自作自演だけでもぼちぼち揃えてみようかな。

貯まったポイントの消化に選択したのは、スヴェトラーノフによるグラズノーフの交響曲全集。第5番(ムラヴィーンスキイ盤)しか聴いたことがなかったので、どちらかといえば資料的な興味から購入に踏み切った。演奏は、総じて素晴らしい。技術的には高い水準で安定しているし、音色や歌い口などは典型的なロシア流儀で嬉しい。ただ、作品そのものが微妙… 楽想や響きにはそれなりの魅力があるものの、冗長さは否めない。BGMとしては極上の部類と言えるだろうが。やはり有名になる曲には相応の理由があるもので、確かに第5番は図抜けて完成度が高い。特に第3楽章は彼の全交響曲の全楽章中の白眉。こういう曲をやらせたら、スヴェトラーノフの右に出る者はいない。

「チャイコーフスキイ国際コンクールの入賞者達」と題するCDが新譜コーナーに並んでいたので、収録曲をチェックしたところ、チェロ編にもヴァイオリン編にもショスタコーヴィチ作品があったので、とりあえず確保。収録曲は、以下の通り:
【チェロ編】
ブレヴァル:チェロ・ソナタより第1楽章 シャホフスカヤ(1962:第1位)
ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタより第1楽章 パルナス(1962:第2位)
ブキニーク:協奏的練習曲 ホミツェル(1962:第3位)
ポッパー:練習曲ト短調 ノラス(1966:第2位)
プロコーフィエフ:バレエ「石の花」よりワルツ マイスキー(1966:第6位)
ロカテッリ:チェロ・ソナタ ゲオルギアン(1966:第1位)
チャイコーフスキイ:夜想曲 グートマン(1962:第3位)
プロコーフィエフ:バレエ「シンデレラ」よりアダージョ ゲリンガス(1970:第1位)
ヴラーソフ:バラード ヤグリング(1970:第2位)
ヴラーソフ:演奏会用小品 モニゲッティ(1974:第2位)
【ヴァイオリン編】
チャイコーフスキイ:瞑想曲 アハロニャーン(1974:第1位)
ヴィエニャフスキ:創作主題による華麗なる変奏曲 スタドレル(1982:第1位)
チャイコーフスキイ:憂鬱なセレナード オレグ(1986:第1位)
パガニーニ:パイジェルロのアリア「ネル・コル・ピウ」(わが心はもはやうつろになりて)による序奏と変奏曲  ムローヴァ(1982:第1位)
ショスタコーヴィチ(ツィガノーフ編):5つの前奏曲 カーラー(1986:第1位)
ビゼー(サラサーテ編):カルメン幻想曲 諏訪内晶子(1990:第1位)
どの奏者も技術的には極上で、さすが名門コンクールと感心しきり。演奏曲目は、いかにもコンクールらしく技巧的な小品が目白押しで、僕にとっては普段あまり聴かない曲が並んでいるのも楽しかった。ただ、審査員のプロフィールのみの解説書や、特にチェロ編では優勝者でも収録されていない人がいるなど、アルバムの編集方針はよくわからない。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Britten,B. 作曲家_Glazunov,A.K.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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