【楽曲解説】フォーレ:弦楽四重奏曲

Gabriel Fauré
ガブリエル・フォーレ(1845~1924)


Quatuor à cordes en mi mineur, opus 121
弦楽四重奏曲 ホ短調 作品121



 フォーレの室内楽作品はいずれもピアノが入った編成を採っており、弦楽器のみによる作品はこの弦楽四重奏曲が唯一です。死の前年に第2楽章から着手し、続いて第1楽章を仕上げたところで、体調の悪化のために作曲は中断します。翌年の夏、保養地にて終楽章に取組みますが、完成のわずか1週間後にフォーレは肺炎を起こし、2か月後にはその生涯を閉じることになります。名実ともにフォーレ最後の作品です。初演は作曲家の死後、1925年6月12日にジャック・ティボーらによって行われました。
 晩年のフォーレは重度の聴覚障害を患っていて、難聴に加えて音程が狂って聴こえる症状に悩まされていました。全体が中音域に集まっているのは、こうした肉体的な要因に起因するものと思われます。ベートーヴェンと同様に内なる声に耳を傾けた結果、難聴という表面的な現象を超えて、フォーレはベートーヴェンに通じる「崇高な単純さ」(V. ジャンケレヴィッチ)を獲得しました。その到達点が、この弦楽四重奏曲です。3つの楽章全てがソナタ形式に基づいていますが、展開部や再現部の扱いはかなり自由で、しかも簡素なものです。一方で、厳格な対位法と自在で複雑な転調が織りなす独特の曖昧さによって、高雅な透明感を保ちつつも人間的な情感の揺らぎが豊かに表出されています。第1楽章には、若き日の作品(未完)であるヴァイオリン協奏曲(作品14)の主題が流用されています(第1主題・第2主題とも)。第2楽章は、本作品の白眉です。第3楽章は、「表現に富んだ高尚なスタイル」の前2楽章に対して「いわゆる『スケルツォ』のような、軽快で楽しい気分を強調すべき」と、フォーレ自身が語っています。ピアノ三重奏曲(作品120)の終楽章と同じ三連符の動機をはじめとする「威厳に満ちたリズム」(V. ジャンケレヴィッチ)で、フォーレはその人生に軽やかに、そして安らかに別れを告げたのです。

シュペーテ弦楽四重奏団 第7回公演(2017年4月22, 29日)

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Fauré,G. 演奏活動_DasSpäteQuartett

カプソン兄弟と児玉 桃のピアノ三重奏

  • ルノー&ゴーティエ・カプソン with 児玉 桃 室内楽演奏会(フォーレ:ピアノ三重奏曲、ショーソン:ピアノ三重奏曲) R. カプソン (Vn) G. カプソン (Vc) 児玉 桃 (Pf) (2008.12.11 録画 [NHK BS-hi (2009.9.28)])
  • ルノー&ゴーティエ・カプソン、児玉 桃 室内楽演奏会(ラヴェル:ピアノ三重奏曲) R. カプソン (Vn) G. カプソン (Vc) 児玉 桃 (Pf) (2008.12.11 録画 [NHK BS-hi (2009.10.16)])
  • ジャン・ギアン・ケラス、エマニュエル・パユ、マリー・ピエール・ラングラメ 室内楽演奏会(ジョリヴェ:クリスマス・パストラル、カーター:エンチャンテッド・プレリュード) ケラス (Vc) パユ (Fl) ラングラメ (Pf) (2008.11.24 録画 [NHK BS-hi (2009.10.16)])
  • ハイビジョン特集 ロシア芸術 自由への道標 ~アシュケナージ“独裁者と芸術家たち”から (録画 [NHK BS-hi (2009.10.9)])
9月は、随分と好みに合う演奏会がテレビで放送されていたのだが、10月に入ってからの放送予定には、とりたてて興味を惹かれるものがほとんど見当たらないのが少し寂しい。

9月末に録画したカプソン兄弟を中心とするピアノ三重奏では2曲が放送されたが、10月に入ってから同日の演奏で残る1曲(アンコールは除く)が放送された。当日はフォーレ→ラヴェル→ショーソンの順で演奏され、アンコールにはショーソンの第2楽章が演奏されたとのこと。このメンバーでの演奏活動も活発に行われているらしく、単なる商業的な顔合わせではないようだ。ただ、少なくとも今回の3曲を聴く限り、カプソン兄弟の大柄で勢いのある音楽と、児玉の端正な音楽との間には微妙な乖離があるように感じた。アンサンブルの完成度ではラヴェルが立派だったが、面白かったのはショーソン。いかにも後期ロマン派といった風情の収拾のつかない音楽だが、カプソン兄弟の時に奔放なまでの演奏は有無を言わさぬ説得力に満ちている。逆に、フォーレは単に弾き飛ばしたようにすら感じられるほどあっさりした演奏で、僕は気に入らなかった。

パユ他の演奏会は、カプソン兄弟のラヴェルと同時に放送されたもの。楽器編成も作品自体にもあまり関心はなかったのだが、たまには守備範囲外の響きも心地好いものだ。名手達の演奏は、これらの作品の美しさを伝えるに十分なもの。

閑話休題。少し前のことになるが、知人とメール交換している中で、5年前に放送されたドキュメンタリー番組が再放送されることを教えてもらった。もちろん、VHSで録画はしてあったのだが、一応DVD-Rにもしておこうかと録画したついでに、久し振りに視聴してみた。5年も経つと僕自身の興味や知識にも若干の広がりがあったとみえて、前に観た時にはほとんど印象に残っていなかったシチェドリーンの作品の美しさにはっとしたり、音楽以外の部分を面白く観たりなど、それなりに楽しんだ。アシケナージの書斎(?)にずらっと並んだ全42巻の旧選集を羨ましく眺めたのは、5年前と同じだったが。こういうドキュメンタリーや新譜が次々と出たショスタコーヴィチ没後30年&生誕100年というのは、ささやかながらも一大イベントだったのだと、今さらながらに改めて思う。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Chausson,E. 作曲家_Ravel,M. 作曲家_Fauré,G.

未聴LP(6月分?)

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  • ロフグレン(グスタフソン編):Älvsborgsの歌、ショスタコーヴィチ(ハンスバーガー編):組曲「ボルト」より第2曲、ボルツォーニ(グスタフソン編):メヌエット、O. リンドベリ(グスタフソン編):古いfäbodの讃美歌、チャンス:朝鮮民謡の主題による変奏曲、P. Öjebo(グスタフソン編):民謡狂詩曲 グスタフソン/ボフォルス・バンド (Opus 3 79-03 [LP])
  • ムーソルグスキイ:禿山の一夜(リームスキイ=コールサコフ&レイボヴィツ編)、展覧会の絵(ラヴェル編)、サン=サーンス:交響詩「死の舞踏」 レイボヴィツ/ロイヤルPO、パリ・コンセール・サンフォニーク協会O (Quintessence PMC-7059 [LP])
  • グラズノーフ:弦楽五重奏曲 コヴァレフ(Vc) ショスタコーヴィチQ (Melodiya C10-16733-4 [LP])
  • ミャスコーフスキイ:弦楽四重奏曲第2&3番 タネーエフQ (Melodiya C10-18361-2 [LP])
  • ミャスコーフスキイ:弦楽四重奏曲第6&9番 タネーエフQ (Melodiya C10-19855 009 [LP])
  • ジャンケレヴィッチ,V.・大谷千正・小林 緑・遠山菜穂美・宮川文子・稲垣孝子(訳):フォーレ 言葉では言い表し得ないもの……,新評論,451p.,2006.
#aArs Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.|http://www.mikrokosmos.com/a#から、今月の頭に注文したものが、もう届いた。ここのところ、ショスタコーヴィチ作品の収穫がほとんどないのは寂しいが、こういう機会に未知の作品に手を出してみるのも、そう悪くはない。

ショスタコーヴィチ作品を収録したボフォルス・バンドのアルバムは、当該作品のみがOpus 3レーベルのサンプル盤(Opus 3 79-00 [LP])に収録されたものを架蔵済みではあったが、他に注文したい盤も見当たらなかったので、オリジナル盤を持っておくのも悪くないだろうと注文したもの。珍しい作品が大半を占めているので資料的価値はそれなりにあるのだろうが、技術水準がずいぶんと低いため、一般的な鑑賞にはお薦めできない。

ずいぶん昔のことになるが、許光俊氏が『音楽現代』誌で連載していた「奇想のカデンツァ」の中で紹介していた、レイボヴィツ指揮の「禿山の一夜」を発見。特別好きな作品でもなかったので、積極的に探すこともなかったのだが、せっかくの機会なので確保する。スコアを見てきちんと検証したわけではないが、編曲者としてリームスキイ=コールサコフ版の名前がクレジットされているものの、レイボヴィツによる再編集と言って構わないのではないだろうか。なんといっても、ウィンドマシンの使用が最大の特徴だろう。爆裂度ではチェクナヴォリャーン盤などの方がはるかに上だが、本盤に聴かれる異様なまでのおどろおどろしさは、他の追随を許さない。「展覧会の絵」と「死の舞踏」は、これに比べると常識的な音楽。もちろん悪くはないが、この演奏でなければ…というセールス・ポイントに欠ける。

グラズノーフの室内楽は、まだ未開拓の領域。シューベルトと同じ編成の弦楽五重奏曲があることも、今回初めて知った次第。25歳頃の若きグラズノーフによる作品だが、品の良い旋律美に惹かれる箇所は少なくないものの、全体のまとまりには欠ける感は否めない。初期のショスタコーヴィチQ(第2Vnが現在のピシュチュギンではなく、まだバラショフの頃)は、堅実かつ清潔な抒情を湛えた素敵な音楽を聴かせている。

ミャスコーフスキイの弦楽四重奏曲は、他に2枚ほどカタログに出ていたのだが、僕が確保できたのは残念ながらこの2枚だけ。全13曲中、これで8曲を聴いたことになる。最後期の作品はまだ聴いていないので、包括的にこれらの作品群を語ることはできないが、ミャスコーフスキイ特有の渋い甘さは、弦楽四重奏という分野にもはっきりと刻印されている。ただ、初期の作品では、4本の弦楽器から色彩感を引き出すことに成功していないため、作品の晦渋さだけが前面に出てしまう傾向にあるといえるだろう。今回聴いた第3番は抒情性が若干強いという点で、作品33の4曲の中では最も聴きやすい作品であった(もっとも、第4番だけは作曲年代が他の3曲とは異なっているので、むしろ第5番以降の作品と並べて論ずるべきかもしれない)。交響曲第20番の前に書かれた第6番は、たとえば交響曲第17番のような暗い甘美さを漂わせた魅力的な作品。終楽章に若干の弱さを感じたが、第4番までとは作品の完成度が全く違う。作曲年を辿ると第4番と第5番の間に数年のブランクがあり、第5番の約1年後に第6番が完成していることから、第5番で飛躍的に進歩したのではないかとも思われるが、肝心の第5番は未聴なので、この点についてはいつか確認したいと思う。第9番は、音楽的な内容と作曲技法的の両面において、今までに聴いた8曲の中で最も充実した作品であった。豊かな響きと、感傷的でありながらも深く心に訴えかけてくる旋律が、とても印象的。タネーエフQの演奏は、手堅く洗練された立派なもの。

最後に本を一冊。昨年の11月くらいに買ったまま、何となく読みそびれていたジャンケレヴィッチの大著を、ようやく読了。フォーレを(本格的に)知ったのは、大学に入ってすぐのこと。サークルの先輩達に、「フォーレ、聴いたことないの?是非聴くべきやで!」と言われて、早速EMIの室内楽全集を買ったのがきっかけだった。2回生になる春休み、パスキエ兄弟他によるピアノ四重奏曲第2番の実演に狂おしいほど昂奮したことも、懐かしい想い出。ステージで演奏したことがあるのはピアノ三重奏曲だけだが、実際に練習を始めると、とにかく和声の移ろいが面白く、それを丹念に辿っていくことに夢中になったものだ。本書の第1部「ガブリエル・フォーレの歌曲」は、その時の興奮を思い出させてくれる。こういう緻密な分析を勉強していたなら、当時もさらに充実した時間を過ごすことができたのかもしれない。実は、第2部「ガブリエル・フォーレのピアノ音楽と室内楽についての考察」というのが目当てで本書を購入したのだが、室内楽は事実上ピアノ四重奏曲第2番の1曲しか扱われていなかったのが、ちょっとだけ残念。第3部「曖昧さ、魂の安らぎ、そしてフォーレの作品の持つ魅力について」は、非常に面白かったが、同時に大変難解でもあった。また、改めてフォーレの音盤でもかけながら、ゆっくりと読み直してみたいと思う。評伝的な内容を求めるならば薦められないが、フォーレの音楽に対する愛情を一層深めてくれる名著といえるだろう。

音楽から沈黙へ フォーレ―言葉では言い表し得ないもの…音楽から沈黙へ フォーレ―言葉では言い表し得ないもの…
(2006/09)
ウラディミール ジャンケレヴィッチ

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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