グラズノーフ:弦楽四重奏曲第5番/オフシャニコ=クリコフスキイ:交響曲第21番/ヴァーインベルグ:セレナード

  • グラズノーフ:弦楽四重奏曲第5番、エレジー、ベリャーエフ四重奏曲(終楽章) ショスタコーヴィチQ (Melodiya C 10-06663-64 [LP])
  • オフシャニコ=クリコフスキイ(ゴリトシュテイン):交響曲第21番、ヴァーインベルグ:セレナード ムラヴィーンスキイ/レニングラードPO、ガーウク/モスクワ放送SO (Westminster XWN 18191 [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.からの7月到着分の内、まずは2枚を聴いた。

ショスタコーヴィチQによるグラズノーフの弦楽四重奏曲全集は、第5番を含むこの1枚で蒐集完了。全7曲の弦楽四重奏曲だけではなく、グラズノーフの全作品を通しても最高傑作の一つに挙げられる曲だけに、ようやく聴くことができて嬉しい。第5番だけならばCD化もされているのだが、カップリングの小品も全て聴きたかったので、LPを探し続けている内に時間が経ってしまった。

期待以上に美しく充実した音楽に、すっかり魅了された。同時期の交響曲第5番や「ライモーンダ」のような歌謡的な綺麗さはそれほど感じられないが、弦楽四重奏ならではの線的な旋律線の絡みが雄大で情感豊かな表情を織りなしているのが、たまらなく素晴らしい。グラズノーフが陥りがちな組曲的な散漫さもなく、全曲を通して間然とするところがない。創作のほとんどが器楽作品に集中しているグラズノーフの、まさに最高傑作と呼ばれるに相応しい作品である。併録の小品は、共にベリャーエフにゆかりのある作品だが、さすがにこの傑作の後では聴き劣りがするものの、特に「エレジー」は慎ましくも忘れ難い瞬間が少なくない佳曲である。



19世紀ウクライナの大地主ニコラーイ・オフシャニコ=クリコフスキイが、自身の所有する農奴オーケストラを寄贈したオデッサ劇場のために作曲した交響曲第21番は、実のところ、ウクライナの作曲家ミハイル・エマヌィロヴィチ・ゴリトシテインがその由来までをも捏造した“偽作”である。「1809年作曲」であるとの設定と、ト短調という調性とから、モーツァルトの交響曲第25番や第40番を彷彿とさせる箇所が随所に聴かれる。ゴリトシテインの意図はさておき、単なるパロディではない、しっかりと作られた作品であることには違いない。ムラヴィーンスキイの整然とした演奏は、この珍品を後世に伝えるに十分なもの。

ヴァーインベルグのセレナードは、モルダビア狂詩曲などと同じ作品番号が与えられた作品。民族的な音調を持った作品群をひとまとめにしたようにも思えるが、この辺りの詳しい事情については、残念ながらよく分からなかった。第1楽章こそ穏やかだが、すぐにテンションの高い騒ぎが始まる辺り、いかにもヴァーインベルグらしい。こういう熱狂をはらんだ音の奔流こそが、ショスタコーヴィチの劣化コピーと揶揄されることもあるヴァーインベルグの、ショスタコーヴィチとは異なる個性の一つである。他に録音が存在するかどうか分からないが、少なくとも今よりは広く知られてもよい佳曲である。

スポンサーサイト

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Glazunov,A.K. 作曲家_Weinberg,M.

ショスタコーヴィチ“指揮”の交響曲第10番

colosseum-crlp173.jpg
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第10番、カバレーフスキイ:「コラ・ブリュニオン」序曲 D. ショスタコーヴィチ/ナショナルPO カバレーフスキイ/ボリショイ劇場O (Colosseum CRLP 173 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1番、プロコーフィエフ:組曲「ロミオとジュリエット」第2番 ガーウク/ソヴィエト国立SO、ムラヴィーンスキイ/レニングラードPO (Vanguard VRS 6004 [LP])
  • モーツァルト:歌劇「魔笛」より、ヴェルディ:「ドン・カルロ」より、モーツァルト:交響曲第41番、ショスタコーヴィチ第1番 ムント/ゲルゼンキルヒェン市O (Stadt Gelsenkirchen F 666 493-4 [LP])
  • カバレーフスキイ:ソナチネ第1番、ハチャトゥリャーン:トッカータ、ショスタコーヴィチ:3つの幻想的な舞曲、プロコーフィエフ:子供のための音楽 セビョク (Pf) (Erato EFM 42074 [10"mono])
  • カバレーフスキイ:ソナチネ第1番、ロシア民謡による舞曲風変奏曲、ウクライナ民謡による7つの陽気な変奏曲、30の子供のための小品より(「いたずら」(Op. 27-13)、「芝の上のおどり」(Op. 27-17)、「みじかいお話」(Op. 27-20)、「トッカティーナ」(Op. 27-12))、24の子供のためのやさしい小品より(「Clowns」(39-20))、6つの前奏曲とフーガより第1、3曲、スロヴァキア民謡による変奏曲、4つのロンド カバレーフスキイ (Pf) (Melodiya 33 D 5892-93 [10"mono])
  • グラズノーフ:弦楽四重奏曲第1、2番 ショスタコーヴィチQ (Melodiya C 10-16753-4 [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.からの5月到着分。

“ショスタコーヴィチ指揮”の交響曲第10番は、もちろん表記が間違っていて、実際はムラヴィーンスキイ指揮の1954年録音。単純なデータ上のミスとは考えづらいので、恐らくは故意に捏造したものだろう。この、ある意味で有名な盤が未架蔵のままだったので、カタログで見かけた以上はコレクターとして注文しないわけにはいかない。演奏は、恣意的なテンポ変化などが気になるが、全体に引き締まった緊張感が一貫していて、なかなか優れたもの。カバレーフスキイ作品の方は、ロシア色の強い、古臭いながらもどこか惹かれる響きが楽しいが、演奏解釈はごく平凡。録音状態は、どちらも悪い。

ガーウクが指揮したバレエ組曲第1番は、現在広く知られているアトヴミャーン編のものではなく、ショスタコーヴィチ自身が選曲したもの。したがって、楽曲構成が異なる(各曲のオーケストレイションの詳細などは、わからない)。軽い作品の楽しい演奏……とは少し異なる、抒情と現代風の鋭利さとの間を不器用に漂うような音楽が面白い。特にワルツのリズム感が古風で、他の演奏では聴かれない独自の魅力がある。録音が古いこともあってダイナミックレンジが狭く、音楽の流れが平板に聴こえてしまうのは残念。「ロミオとジュリエット」の第2組曲は、1954年のよく知られた録音である。もちろん立派な演奏だが、録音状態も含めて、同じムラヴィーンスキイでも後年の録音には劣る部分が少なくない。

ウーヴェ・ムントという名前には、京都市交響楽団の第10代常任指揮者(1999~2001)や、NHK響への客演などを通して馴染みがあるものの、演奏解釈上にこれといった特徴はないという印象。ムントがかつて常任を務めていたゲルゼンキルヒェン市Oのアルバムは、オペラ2曲のDisc-1、交響曲2曲のDisc-2という構成になっているが、ともに地味ながらも堅実な演奏に仕上がっている。モーツァルトの2曲は、いかにも南ドイツといった風情の響きが素敵。ただ、ヴェルディでは歌手の水準に、ショスタコーヴィチではソロの技術的な水準に不満が残る。

ソヴィエトの作曲家による軽くて気の利いたピアノ小品集というのは、結構数が多い。セビョク盤もそういうアルバムの一つで、ジャケット写真の雰囲気から察するに、子供向けの作品を集めたアルバムという企画意図があったのだろう。もっとも、ハチャトゥリャーンとショスタコーヴィチの作品は、作曲家が若い頃に書いたという以外に“子供”の要素はないのだが。それよりも、ジャケットの表記では「ハチャトゥリャーンの作品13の1」となっていて、カバレーフスキイの名が完全に抜け落ちているのは、問題だろう。1960年代当時の西側での知名度を象徴しているのだろうか。演奏自体は可もなく不可もなくといったところか。肩の力が抜けた、良い意味での気軽で明朗な音楽は、純粋に楽しい。

セビョク盤では作曲家として認知されていなかったカバレーフスキイだが、彼が子供のために書いた作品を自演したアルバムも入手できた。カバレーフスキイはゴリデンヴェーイゼル門下のピアニストでもあり、演奏家としても卓越した腕を持っていた。複数の曲集から数曲ずつ抜粋されたものの寄せ集め的な構成には、正直言ってきちんとした企画意図があるとは思えないが、取り上げられた作品はいずれも平易ながらも変化と味わいのある上質の教材といったものばかり。カバレーフスキイの演奏は十分に鮮やかではあるが、いかにも弾き飛ばしている感じで、彼の誠実ではない人柄が偲ばれる……と言ったら、悪意があり過ぎだろうか?

グラズノーフの弦楽四重奏曲は、今回で第2番を聴くことができたので、残すは傑作(と言われている)第5番だけとなった。ショスタコーヴィチQの録音はCD化されているのだが、LPのカップリング曲に興味があるので、どうしてもLPで入手したいところ。まぁ、それはさておき、CDで既に持っていた第1番と同様、第2番も素直で伸びやかな抒情がとても心地好い。垢抜けたロシア臭とでも言ったら良いだろうか、グラズノーフ独特の品の良い旋律が、やや散漫で冗長な構成の中に展開されていく。

何気なくネットで動画を漁っていたら、昔のニュース映画のBGMにショスタコーヴィチのバレエ組曲第1番の第1曲が使われている(4分30秒辺りから)ものを発見。ニュースの内容といい、朝日ニュースであることといい、あぁ…ショスタコーヴィチは左翼音楽だったのか……みたいな、妙な感慨を抱いてしまう。この時代にこの曲の音源が日本に入っていたというのも、それはそれで興味深いのだが。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 作曲家_Kabalevsky,D.B. 作曲家_Glazunov,A.K.

バルビローリ、ボレイコ…・HMV(1月分)

piazzolla.jpg
  • ベートーヴェン:交響曲第5番、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 バルビローリ/ハレO (BBC BBCL 4193-2)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第4番、組曲「ムツェンスク郡のマクベス夫人」 ボレイコ/SWRシュトゥットガルト放送SO (hänssler CD 93.193)
  • グラズノーフ:ピアノ作品全集第4巻(3つの小品、黒鍵の舟歌、2つの即興曲、牧歌、勝利の行進曲、ヴォルガの舟歌、宗教的旋法で、パ・ド・カラクテール、ピアノ・ソナタ第2番) クームズ (Pf)他 (Hyperion CDH55223)
  • Live at the BBC 1989 ピアソラ六重奏団 (Intuition INT 3226-2)
  • 再生のシンフォニー 日比谷公会堂のショスタコーヴィチ NHK BS-hi 2008.2.10
  • サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団演奏会(リャードフ:交響詩「キキーモラ」、チャイコーフスキイ:ピアノ協奏曲第1番、ショスタコーヴィチ:森の歌) ヴィルサラーゼ (Pf) テミルカーノフ/サンクトペテルブルクPO NHK教育 2008.2.18
HMVから届いた4枚の内、2枚はショスタコーヴィチ生誕100年時の新譜。今さら……という気もするのだが、リリースが集中していたがゆえに買いそびれている盤が多く、こうやって気が向いた時に買い集めておかないと。

まずは、バルビローリのショスタコーヴィチ、ということでそれなりに話題になったアルバム。存分に心を込めて歌い切った演奏は、バルビローリの本領発揮といったところ。全体の高揚感もなかなかで、聴きやすい音楽に仕上がっている。が、良くも悪くもまろやかな響きが支配的で、ショスタコーヴィチの鋭い痛みや風刺といった側面が埋没させられていることも否めない。第3楽章など、とても美しい瞬間はあるものの、あくまでもバルビローリを聴くべき演奏と言えるだろう。録音状態は、あまり優れない。ベートーヴェンからは、特筆すべき印象は受けなかった。

もう一枚は、ボレイコの“プラウダ批判”アルバム。オーケストラの特性でもあるのか、落ち着いた渋い音色と、端正に整えられたアンサンブルが印象的。音量的には、鳴らすべきところで鳴らしているのだが、全体のテンションはむしろ地に足がついた雰囲気と言うべきだろう。響きのせいもあって、ショスタコーヴィチの鋭さよりも、マーラーのロマンティシズム(こう表現して良いのかはわからないが)を強く想起させるような仕上がりになっているのが面白い。「ムツェンスク郡のマクベス夫人」組曲は、T. ザンデルリンク盤(DG)に続く2枚目だが、“世界初録音”と表記されている。この録音が初演ライヴなのかどうかは、よくわからない。演奏内容は、交響曲第4番と同様だが、こちらは、よりショスタコーヴィチ臭が強いだけに、よくまとまった演奏という段階に留まってしまった感も否めない。

グラズノーフのピアノ独奏曲全集、ようやく最終巻を入手。資料的にどこまで網羅し切っているのか、詳しいことまではわからないが、作品番号順にグラズノーフの楽曲を追っている程度の僕にとっては、これだけの曲数を、この演奏水準でまとめてくれているだけで、文句のつけようがない。音楽としては、ピアノ・ソナタ第2番が収録曲中で一頭抜きん出た内容ではあるが、編曲物を含む他の収録曲も、グラズノーフらしい魅力が散りばめられている。

ピアソラ最晩年の六重奏団は、ガンディーニのピアノが(その素晴らしさは認めつつも)好みでないせいか、そう頻繁に聴くことはない。僕がピアソラに開眼し出した頃は、六重奏団のアルバムといえばプグリエーセとの『Finally Together』と『現実との57分間』の2枚に止めを刺すというのが定説で、その後間もなくリリースされたこの『Live at the BBC』は『現実との57分間』と収録曲の一部が重複していることもあって、ついつい買いそびれていた一枚である。「ミケランジェロ'70」以外は、どれも六重奏団での録音が残されている曲ばかりであり、際立って個性的なアルバムだとは思えないが、それでも貴重な記録には違いない。

録画したまま放っていた2つの番組を処理(?)する。一つ目は、昨年末のショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクトから第4番。このプロジェクト、全てを聴くことは最初からあきらめていたものの、どれか一回くらいは聴きに行きたいと考えていたのだが、結局時間を作ることができずに断念。ネットで好意的な評を見かける度に悔しい思いをしていたので、録画とはいえ、これで少しは無念が晴らされるだろうと思って観たのだが……。井上氏らしいケレン味に満ちた、ライヴならではの演奏はとても楽しく、刺激的ではあるが、録音には不向きな日比谷公会堂のデッドな響きもあって、楽器を掻き毟るように演奏している弦楽器奏者の映像と、聴こえてくる音との間にギャップがあり過ぎて、素直に音楽に没入できなかった。脳内で色々と補正する限り、必ずしも僕の好みの解釈あるいは響きではないものの、演奏者と同じ空間にいたならば間違いなく興奮せずにはいられなかっただろうと思えるだけに、却って実演に足を運べなかった悔しさが募る結果になってしまった。もっとも、井上氏自身がそういう演奏・音楽を志向しているのだから、当然といえば当然なのだが。井上道義オフィシャルサイトを見ると、全公演の記録がCDでリリースされそうな気配ではあるが、今回のようなフラストレーションがたまりそうな予感がして悩ましい。まぁ、発売されれば買うに決まってますがね(^^;

もう一つは、テミルカーノフ/サンクト・ペテルブルクPOの日本公演(2006年)。テレビの番組表では「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 他」としか記されてなかったので、以前にBSで放映された「森の歌」だったらよかったのに……と思いつつも、とりあえず録画しておいて大正解。実はお目当ての演奏会だったというオチ。もっとも、演奏そのものは、率直に言ってそれほど印象深いものではなかった。ヴィルサラーゼのピアノは素晴らしかったが、オーケストラからはこれといったオーラが感じられないままに終始する。アンサンブルやピッチの不揃いといったライヴゆえの瑕はともかく、テミルカーノフの指揮からも(本来の彼なら持っているはずの)音楽的な制御力が伝わってこない。「森の歌」をこういうメンバーによる実演の映像で観ることができる意義は確かにあるのだけれど、この内容ではやっぱり物足りない。ちなみに、ニコニコ動画にこの「森の歌」全曲がアップされているので、紹介しておきます。




theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 作曲家_Glazunov,A.K. Tango_Piazzolla,A.

グラズノーフ:バレエ「四季」他

dsc_0026.jpg
  • ショスタコーヴィチ:スペインの歌 スロボドスカヤ (S) ニュートン (Pf) (Decca CEP 5500 [7"45rpm])
  • ショスタコーヴィチ(ツィガーノフ編):24の前奏曲より、フォーレ:ロマンス、サン=サーンス:ワルツ形式のエチュード、シェドリーン:アルベニス風に シフムルザェヴァ (Vn) ムンチャン (Pf) (Melodiya 33 C 10-10993-4 [LP])
  • ソヴィエトの作曲家による序曲集(グリエール:祝典序曲、プロコーフィエフ:ヘブライの主題による序曲、ブダシキン:祝典序曲、ショスタコーヴィチ:祝典序曲、ボイコ:祝典行進曲、シェドリーン:祝典序曲) スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立SO (Melodiya C10 21717 004 [LP])
  • グラズノーフ:バレエ「四季」 ハイキン/モスクワ放送SO (Melodiya C 0787-788 [LP])
  • フレーンニコフ:映画音楽「真実の友人たち」、劇音楽「遠い昔」 オソフスキイ/管弦楽団他 (Melodiya D 5520-5521 [10"mono])
  • チェコの現代ピアノ作品集(フィシェル:ピアノ・ソナタ第4番、ライネル:3つの小品、コホウテク:インヴェンション、イシュトヴァン:The Odyssey of a Child of Lidice、ヴォストルジャーク:3つのエッセイ、ピニョス:3つの小品) クヴァピル (Pf) (panton 11 0302 [LP])
  • 悲劇のロシア ドストエフスキーからショスタコーヴィチへ,NHK 知るを楽しむ この人この世界 (NHK教育テレビ)
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.から荷物が届いた。

45回転のレコードなんて久しぶりということもあり、まずはショスタコーヴィチの「スペインの歌」から針を落としてみた。……が、残念なことに、これはハズレの一枚。技術的な次元で聴き苦しい歌唱である。声質そのものは、さして魅力的ではないものの悪くもないといった感じだが、音程の悪さと歌い回しの不安定さが気になって、音楽を味わうに至らない。

シフムルザェヴァという、舌を噛みそうな名前のヴァイオリニストは、初めて聴いた。モスクワ音楽院ではツィガーノフに師事していたようで、師匠が編曲したショスタコーヴィチの前奏曲という選曲も、それに由来するところがあるのかもしれない。ツィガーノフが編曲した19曲全てを収録した録音はあまり多くないのだが、この演奏は「これさえあれば充分」と言って良いほどの非常に高い水準に達している。骨太でありながらも正確な音程で鋭利に響き渡るロシア流派の優等生的なヴァイオリン演奏は、端正で衒いのないフレージングと相まって文字通り模範的なものである。華やかではないが、噛みしめるに足る味わいを持った秀演といえるだろう。

「ソヴィエトの作曲家による序曲集」というアルバムは、それまでに録音されたもののオムニバスではあるのだが、スヴェトラーノフとソヴィエト国立SO以外の何者も模倣すらしようのない極めつけの世界が凝縮された至高の一枚。作品・演奏のどちらにも、重厚で泥臭く、それでいてぎらついた華麗な雰囲気が満ちているのがたまらない。収録されている6曲全てが、文句なしの名演である。

グラズノーフの作品中、わりとポピュラーなものの一つであるバレエ「四季」は、恥ずかしながら今まで聴いたことがなかった。もしかしたら、何かのカップリングで一部は耳にしたことがあるのかもしれないが、少なくとも記憶の片隅にすら残っていない。もっとも、それはこの作品を毛嫌いしていたわけではなく、食指が伸びるような録音がなかったというのがその理由。今回のハイキン盤は純ロシア製の演奏なので、最初に聴いてみるには良いだろうと注文してみた次第。録音の古さは否めないものの、演奏の雰囲気は抜群で、細かいアンサンブルの乱れや技術的な洗練不足なども、一種の懐かしさとして受け入れてしまいたくなるような魅力に満ちている。また作品自体も、品のあるロシア情緒とでも形容できるグラズノーフらしさが存分に発揮されていて、旋律、和声、リズム、オーケストレイションなど、いずれの要素をとっても極めて上質な内容を持っていて素晴らしい。

フレーンニコフの映画音楽と劇音楽の抜粋(?)を収録した一枚は、歌謡曲的な聴きやすさには不足しないものの、これといった面白さには欠ける。

最後の1枚は、またまた注文したのと違う盤。返品も面倒だし、たまには守備範囲外の音楽を聴いてみるのも良いだろうとは思いつつ、こうしたミスの頻度がちょっと高くなってきているのは気にならなくもない。で、今回の“間違い”盤は、1970年前後のチェコの現代音楽を集めたアルバムである。6人の作曲家全てが初めて聴く人ばかりで、文字通り、とりあえず聴いてみる、しかない状態。ピアノ独奏曲ということもあってか、案外聴きやすい作品が多く、どこか気品のある音楽世界を楽しむことができた。桐朋学園大学音楽学部のサイト内にある「チェコ・スロヴァキア 作曲家紹介」というページで、フィシェル、ライネル、ヴォストルジャークの3人については簡単な情報を得ることができる。

NHKの教養番組「知るを楽しむ」の枠で、亀山郁夫氏が講師を務める「悲劇のロシア」(全8回)というシリーズが始まっている。先日「カラマーゾフの兄弟」を読み終わり、今度は「悪霊」を読みたいと思っていたところなので、最後の1回がショスタコーヴィチであることを抜きにして、毎週興味深く観ている。ソフトな語り口の達者さは相変わらずで、この種のテレビ番組としてはなかなかの出来ではないだろうか。ただ、ドストエーフスキイの現代的意義を、9.11のテロなんかと結びつけるのは強引に過ぎるような気もする。もっとも、番組編集の都合もあるのだろう、講師が提示した問題点が十分に論じられることなく、番組のまとめに入ってしまうことが少なくないのも、こうした印象に拍車をかけているのは否めない。僕自身はこうした解釈や読み方を積極的に支持しないが、面白いのは確かだ。どうせなら、テキストを先に読んでおいた方がよいだろう。

この人この世界 2008年2-3月 (2008) (NHK知るを楽しむ/月)この人この世界 2008年2-3月 (2008) (NHK知るを楽しむ/月)
(2008/01)
亀山 郁夫

商品詳細を見る

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_Svetlanov,E.F. 作曲家_Glazunov,A.K. 作曲家_Khrennikov,T.N.

年末年始のまとめ聴き2(グラズノーフ他)

mel-33d01616768.jpg
  • ショスタコーヴィチ:室内交響曲、ナシーゼ:ヴィオリンとチェロのための二重協奏曲 L. イサカージェ (Vn) E. イサカージェ (Vc) L. イサカージェ/グルジア室内O (Melodiya C10 24855 005 [LP])
  • グラズノーフ:ピアノ協奏曲第1番、演奏会用ワルツ第1&2番 リヒテル (Pf) コンドラーシン/モスクワ・ユースPO サモスード/モスクワ放送SO (Monarch MWL 321 [LP])
  • グラズノーフ:弦楽四重奏曲第6番 ショスタコーヴィチQ (Melodiya C10-17201-2 [LP])
  • グラズノーフ:弦楽四重奏曲第7番 ショスタコーヴィチQ (Melodiya C10-17179-80 [LP])
  • 「金曜日の曲集」第1集 リームスキイ=コールサコフQ (Melodiya 33 D 016167-68 [LP])
  • ファヂェーエフ,A.・黒田辰男訳:若き親衛隊(全5冊),青木文庫,1953.
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.から、1月到着予定の商品が12月中に届いた。

リアナ・イサカージェは、グルジア出身のヴァイオリニスト/指揮者である。ショスタコーヴィチの室内交響曲は、全体にゆったりとしたテンポで、陰鬱な雰囲気をじっくりと表出した佳演。第3楽章などは遅すぎて音楽の推進力に不足する感は否めないが、第1、4、5楽章といった緩徐楽章は立派な仕上がりである。グルジアの作曲家ナシーゼの作品は、難解な部分がない聴きやすい音楽だが、あまり新鮮味はない。イサカージェの凛としたヴァイオリンが印象的だった。

グラズノーフのピアノ協奏曲第1番は、同曲に並々ならぬ思い入れを寄せていたリヒテルによる演奏(ジャケットには、スタニスラフ・リヒターと表記されている)。CD化もされている有名な音源だが、僕は作品、演奏共に初めて聴いた。1950年代前半という録音年を考えれば仕方のないことではあるが、録音が悪すぎて、特に弱奏部のニュアンスなどはよく聴き取れない。そのせいか、甘く切なく盛り上がる部分での、リヒテルの強靭なタッチばかりが印象に残る。グラズノーフ後期の大作だが、霊感の枯渇が顕著な作品も少なくない中、円熟した作曲技法と瑞々しい旋律の美しさとがギリギリ共存した、なかなか魅力的な作品だと思う。機会があれば、他の演奏にもあたってみたいところ。

同じくグラズノーフの弦楽四重奏曲は、最晩年の第6番と第7番。これで、番号付きでは第2番と第5番を残すだけとなった。で、第6番だが、正直よくわからない。中間楽章がそれなりの魅力を持っているのと、妙に肥大した両端楽章で収拾がついていないところはいかにもグラズノーフらしいのだが、肝心の楽想から新鮮さが失われている(単に暗いとか明るいとかいう次元ではなく)。

それに比べると、第7番は「過ぎ去りし日々へのオマージュ」という副題に相応しい、どこか吹っ切れたような透明な明るさが漂う作品。全体にはっきりとしない冗長さは付き纏うものの、他の四重奏曲と比べれば、手堅いまとまりが感じられなくもない。気分的に連続している第1楽章と第2楽章では、いかにも最晩年の作品らしい澄んだ悟りと諦観が不思議と印象に残る。それに対して後半の楽章はやや平凡か。作品番号は第6番と続いているが、作曲時期には10年ほどの開きがあり、この間にグラズノーフはソ連から亡命している。

昨年11月5日付の本欄で少し触れた「金曜日の曲集」。その第1集がリストにあったので早速注文した。後で、同じ演奏が第2集と合わせてCD化されていることを知り、ちょっと損した気分(^^; 第1集の収録曲は以下の通り:
  1. 前奏曲とフーガ(グラズノーフ)
  2. セレナード(アルツィブーシェフ)
  3. ポルカ(N. A. ソコローフ、グラズノーフ、リャードフ)
  4. メヌエット(ヴィートル)
  5. カノン(N. A. ソコローフ)
  6. 子守歌(ドステン=ザッケン)
  7. マズルカ(リャードフ)
  8. サラバンド(ブルメンフェーリド)
  9. スケルツォ(N. A. ソコローフ)
この曲集の成り立ちを考えれば玉石混合なのは当然だが、どの曲も旋律自体は普通に綺麗なので、仲間内で四重奏を楽しむ時には腕慣らしに丁度良い作品集だろう。演奏会でのアンコールピースには……ちょっと軽過ぎるかな。リームスキイ=コールサコフQは初めて聴く団体だが、少々野暮ったいものの、手堅い演奏をしている。ただ、録音のせいか音がきついのが少し耳障り。

昨年末、「若き親衛隊」全5冊を、とある方から譲っていただいた。年末年始を使って一気に読了。これは、1947年の批判を受けて1951年に改作した方の邦訳であるが、各巻末には初版との相違点が詳細に記されているので、敢えて初版を入手しなくても大体のことは分かるようになっていて有難い。また、第5巻では訳者による長文の解説もあるので、ファヂェーエフという作家の概略、そして「若き親衛隊」の改作にまつわる諸々の事柄も、この一冊(というより、一セットと言うべきか)があれば十分理解できる。

ショスタコーヴィチが音楽を担当した映画は初版に基づいたものだが、改作の焦点は「若き親衛隊」が組織され、活動していく過程における党の教育的指導的役割を強調するところにあったことを考えると、少なくとも現代の日本にいる我々にとっては、(いささか乱暴ではあるが)それほど大きな違いはないとも言える。それよりも、どうにも救いようのない話に、新年早々暗い気持ちになってしまった(^^; 主要な登場人物である少年少女達が純粋で高潔な者として描かれているだけに、否応無しに(もっとも本人達にとっては“進んで”なのだが)地下活動に巻き込まれていく様、そしてその活動が悲惨な最期を迎える様は、全体主義そして戦争の狂気以外の何物でもない。さらに、こうした悲劇に対してすら、リアリズムの名の下に偉大な党の正当性を刻印せずにはいられなかったソ連共産党の異常さには、ひたすら暗澹たる思いだけが残る。

【1945年版】
若き親衛隊〈上巻〉 (1952年)若き親衛隊〈上巻〉 (1952年)
(1952)
ファジェーエフ

商品詳細を見る
若き親衛隊〈下巻〉 (1952年)若き親衛隊〈下巻〉 (1952年)
(1952)
ファジェーエフ

商品詳細を見る
【1951年版】
若き親衛隊〈第1〉 (1953年) (青木文庫〈第99〉)若き親衛隊〈第1〉 (1953年) (青木文庫〈第99〉)
(1953)
ア・ファヂェーエフ

商品詳細を見る
若き親衛隊〈第2〉 (1953年) (青木文庫〈第111〉)若き親衛隊〈第2〉 (1953年) (青木文庫〈第111〉)
(1953)
ア・ファヂェーエフ

商品詳細を見る
若き親衛隊〈第3〉 (1953年) (青木文庫〈第130〉)若き親衛隊〈第3〉 (1953年) (青木文庫〈第130〉)
(1953)
ア・ファヂェーエフ

商品詳細を見る
若き親衛隊〈第4〉 (1953年) (青木文庫)若き親衛隊〈第4〉 (1953年) (青木文庫)
(1953)
ア・ファヂェーエフ

商品詳細を見る
若き親衛隊〈第5〉 (1954年) (青木文庫)若き親衛隊〈第5〉 (1954年) (青木文庫)
(1954)
ア・ファヂェーエフ

商品詳細を見る

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 作曲家_Glazunov,A.K.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最新記事
カテゴリ
タグツリー
★ トップ(最新記事)
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
人気記事ランキング
RSSリンクの表示
リンク
音盤検索
HMV検索
検索する

音楽関係のブログ(リンク・更新状況)
PopUp WikipediaⅡ
記事中の気になるキーワードをマウスで選択してください。Wikipediaからの検索結果がポップアップ表示されます。
Wikipedia
developed by 遊ぶブログ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター