【楽曲解説】ハイドン:弦楽四重奏曲第41番

Franz Joseph Haydn
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)


Streichquartett Nr. 41 G-dur, Op. 33-5 (Hob.III-41)
弦楽四重奏曲第41番 ト長調 作品33-5(Hob.III-41)



 ハイドンの「ロシア四重奏曲」(1781)は、前作「太陽四重奏曲」作品20(1772)からおよそ10年を経て50歳を目前にしたハイドンが世に問うた、新たな工夫に満ちた6曲から成る曲集です。その5曲目である第41番は、彼の弦楽四重奏曲の中で初めて冒頭に序奏部が置かれた作品です。初版時は曲集の1曲目にこの作品が配置されていたことと関係があるのかもしれません。19世紀の英国では、この序奏がお辞儀の仕草を想起させることから「ご機嫌いかが」「挨拶」などの副題が付けられました。
 この軽妙で簡潔な序奏で始まる第1楽章は、序奏の動機が楽章全体に渡って活用され、序奏のエコーで閉じられます。第2楽章は、一転して短調の物悲しく美しい旋律を第1ヴァイオリンが連綿と歌い上げる歌謡楽章。グルック(1714~87)のオペラのアリアを思わせる、抒情的かつ劇的な音楽です。スケルツォの名に相応しい諧謔味を湛えたリズムの工夫が愉しい第3楽章に続き、シチリアーナの主題による変奏曲で全曲が終えられます。バロック期に大流行した舞曲であるシチリアーナを終楽章に採用したのは、同じく古い形式であったフーガを「太陽四重奏曲」中の3曲で終楽章に用いたことと呼応するのかもしれません。一聴してすぐにお気づきになられると思いますが、この主題を短調に変えて同じく変奏曲に仕立てたものが、モーツァルトの第15番ニ短調KV421の終楽章です。「ロシア四重奏曲」と「ハイドン・セット」とを結ぶ、ハイドンとモーツァルトとの親交を窺わせる楽章と言ってもよいでしょう。
 なお、「ロシア四重奏曲」という呼称は、この曲集がロシア大公(エカチェリーナ2世の息子で、後のロマノフ朝第9代皇帝パーヴェル1世)に献呈されたことに由来します。ベートーヴェンの「ラズモフスキー四重奏曲」とは異なり、音楽面でロシアに関係する要素はありません。


シュペーテ弦楽四重奏団 第8回公演(2018年4月14, 22日)

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【楽曲解説】ハイドン:弦楽四重奏曲第39番「鳥」

Franz Joseph Haydn
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)


Streichquartett Nr. 39 C-dur Op. 33-3 (Hob.III-39) „Vogelquartett“
弦楽四重奏曲第39番 ハ長調 作品33-3(Hob.III-39)「鳥」



 弦楽四重奏曲の分野でも多作家であったハイドンの凄さは、いずれの曲集においても工夫を凝らして新機軸を打ち出していることにあります。モーツァルトが「ハイドン・セット」を作曲するきっかけとなった曲集「ロシア四重奏曲」(1781)は、精緻な主題労作の技法と、第2楽章にスケルツォを導入した4楽章制という点で、同時代の音楽家達に大きな影響をもたらしました。
 この曲集の中でもとりわけ名高い本作は、第2楽章トリオで2台のヴァイオリンが奏でる装飾音が鳥のさえずりのように聴こえることから「鳥」の愛称で親しまれています。随所に印象的な音型が現れる、軽やかでハイドンらしい機知に富んだ作品です。


シュペーテ弦楽四重奏団 第5回公演(2015年4月18, 25日)

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【楽曲解説】ハイドン:弦楽四重奏曲第72番

Franz Joseph Haydn
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)


Streichquartett Nr. 72 C-dur Op. 74-1 (Hob.III-72)
弦楽四重奏曲第72番 ハ長調 作品74-1(Hob.III-72)



 還暦を迎えたハイドンがロンドンでの公開演奏を念頭に作曲した、「アポーニー四重奏曲」(1793)の1曲です。この曲集はいずれも短い序奏の後に楽曲が始まりますが、これはマナーが良くなかった当時のロンドンの聴衆の注意を喚起することが目的だったと言われています。またこの曲の第1楽章では、展開部と結尾部の前にごく短い楽節が挿入されていて、ソナタ形式の構成が聴いて分かるように工夫されています。これも、ロンドンの聴衆に対する啓発の意図があったのでしょう。

 副題がつけられていないこともあり、決して演奏頻度の高い曲ではありませんが、第1楽章のシンフォニックで豊かな響きやスケルツォと紙一重のメヌエットなど、意欲的かつ完成度の高い華やかな作品です。

シュペーテ弦楽四重奏団 第4回公演(2014年4月12, 26日)

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【楽曲解説】ハイドン:弦楽四重奏曲第83番/老人

Franz Joseph Haydn
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)


Streichquartett Nr. 83 f-moll Op. 103 (Hob.III-83) / Der Greis Hob.XXVc-5
弦楽四重奏曲第83番 ニ短調 作品103(Hob.III-83)/老人 Hob.XXVc-5



 晩年のハイドンは、2曲のオラトリオ「天地創造」と「四季」に取り組みました。しかし、これらの仕事は成功をおさめたにも関わらず、ハイドンの心身を消耗し尽くしてしまいます。自分の精神が音符や音楽にかかりきりになることが、最大の苦痛だとまで言ったほどでした。1801年に「四季」の初演を終えた後、1803年になってようやく、1799年に2曲が完成していた作品77の弦楽四重奏曲の続編に着手します。文字通り最後の力を振り絞って緩徐楽章とメヌエットを書き上げたハイドンは、両端楽章も書こうと努力し続けていたようですが、ついに1806年、全曲の完成を断念し、この2つの楽章のみを出版社に渡しました。没するまでにまだ数年ありましたが、これが彼の仕上げた最後の作品となりました。

 ハイドンはこの曲を出版するにあたり、自分の名刺と称することもあった「老人」(1796)という歌の一節を印刷するように依頼しました。美しくも苦渋に満ちた、音楽に別れを告げる音楽です。本日は、この曲も続けて演奏します:「わが力は萎え、私は老い衰えた/ユーモアとワインのみに生かされて/わが力は萎え、私は老い衰えた/頬の赤みも消え、死が戸口に立っている/怖れることなく扉を開こう/天に感謝!/心地よい楽の音はわが人生」

シュペーテ弦楽四重奏団 第3回公演(2013年4月13, 20日)

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【楽曲解説】ハイドン:弦楽四重奏曲第73番

Franz Joseph Haydn
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)


Streichquartett Nr. 73 F-dur Op. 74-2 (Hob.III-73)
弦楽四重奏曲第73番 ヘ長調 作品74-2(Hob.III-73)



 1790年末、30年の長きに渡ったエステルハージ家への宮仕えから解放されたハイドンは、ヴァイオリニストでもあった興行師ヨハン・ペーター・ザーロモン(1745~1815)の招聘に応じて新天地ロンドンへと旅立ちます。産業革命に沸き立つ大都市は、58歳の作曲家に新たな創作の意欲をもたらしました。

 その後一旦ウィーンに帰郷し、二度目の渡英を翌年に控えた1792年、ハイドンは作品71(3曲)と74(3曲)の弦楽四重奏曲を作曲しました。被献呈者の名をとって「アポーニー四重奏曲」と呼ばれるこの曲集は、大陸とは違って一般市民が中心であったロンドンの聴衆を念頭において作られています。フォルテの短い序奏は、演奏が始まってもなかなか静かにならない聴衆の注意を引くことを意図しています。主として第1ヴァイオリンに要求される技巧的なパッセージも、聴衆受けのする派手なものです。また、ロマン派に通じる濃い口の抒情と、年甲斐もなく全編に漲る活力は、大ホールでの演奏に相応しい骨太で大柄なものです。第2楽章と第4楽章は、それぞれ「アンダンテ・グラツィオーソ」「アレグロ」として編曲され、「ソナチネアルバム」第1巻に収録されていますので、旋律に聴き覚えのある方も少なくないかもしれません。

シュペーテ弦楽四重奏団 第2回公演(2012年4月14, 21日)

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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