【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第3番

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 3 G-dur, KV 156 (134b)
弦楽四重奏曲第3番 ト長調 KV 156 (134b)



 「あの子(ヴォルフガング)は今、退屈なので四重奏曲を書いています」(1772年10月28日)と父レオポルドが手紙に記しているように、3回目のイタリア旅行中であった16歳のモーツァルトが退屈しのぎに書いたとされる6曲の弦楽四重奏曲が、いわゆる「ミラノ四重奏曲」(第2~7番)です。いずれも「急・緩・急」の典型的なイタリア風の3楽章形式を採っていて、全体としては前古典派の雰囲気を色濃く残しています。当時はまだ四重奏=4人の奏者では必ずしもなく、各パートの人数は自由なものでした。しかし、この第3番でモーツァルトは初めてソロ編成、すなわち4人の奏者による演奏を指定しました。また、短調で書かれた中間楽章の暗く情熱的な感情表現は、時代を大きく先取りしたものです。なお、最初に書かれた中間楽章は父レオポルドによって「聴衆に合わない難しい曲」だとされ、書き直されました。本日演奏するのは、この「第2稿」です。


シュペーテ弦楽四重奏団 チャリティーコンサート2016(2016年10月22日)

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【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第23番

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 23 F-dur, KV 590
弦楽四重奏曲第23番 ヘ長調 KV 590



 いわゆる三大交響曲(第39~41番)を書き上げた翌年(1789年)、モーツァルトはベルリンに向けて旅立ちました。晩年のモーツァルトが深刻な経済的困窮の中にあったことはよく知られていますが、その打開を図るべく、演奏会の興行収入や新作の注文を得ると同時に、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世(1744~97)に謁見して名誉と名声を得ることが、このベルリン旅行の主たる目的でした。旅行後、モーツァルトは「王のために四重奏曲6曲を書いている」と手紙に記していますが、「プロイセン王のために」と明記された第21番(KV575)に続いて第22番(KV589)と第23番(KV590)を完成させたところで作業は中断してしまいました。このような経緯からこれら3曲の弦楽四重奏曲は「プロイセン(プロシア)王セット」と呼ばれていますが、結局王に献呈されることなく二束三文で出版社に売られてしまった(出版はモーツァルトの死後すぐ)こともあり、王からの依頼が本当にあったのかどうかについては疑問が残ります。
 「プロシア王セット」最大の特徴は、チェロに堪能であったヴィルヘルム2世を意図して、チェロ・パートに高い音域での独奏的な役割が与えられていることにあります。しかし、このセット最後の第23番ではこうした機会音楽的な要素は影を潜め、古典的で簡潔な構成の中にロマン派を予感させる陰影を湛えた、モーツァルト最晩年の様式が示されています。第1楽章冒頭やベートーヴェンのスケルツォを想起させる第3楽章のトリオ、第4楽章の展開部などの激しく情熱的な気分と、第3楽章や第4楽章の冒頭などの清澄かつ流麗な音の流れとの対比が織りなす複雑な情感は古典派の枠を逸脱したもので、天才モーツァルト最後の弦楽四重奏曲に相応しい音楽です。とりわけ、単一主題によるソナタ形式の第2楽章は、A. アインシュタインが「あらゆる室内楽文献のなかで最も感情の繊細な楽章の一つ」で「生への、至福と悲哀に満ちた告別」と美しい形容をしたことでも有名です。


シュペーテ弦楽四重奏団 第7回公演(2017年4月22, 29日)

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モーツァルトの不明?曲

  • モーツァルト:フルート四重奏曲第1~4番、前奏曲とフーガKV404aより第1曲、オーボエ四重奏曲より第3楽章、アダージョ(KV Anh.94/KV 580a) ランパル (Fl) 新パスキエ・トリオ (Philips 412 618-2)
  • モーツァルト:オーボエ四重奏曲、アダージョ(KV Anh.94/KV 580a)、ディヴェルティメント第11番 ホリガー (Ob/Ehr) バウマン、ガシアリーノ (Hr) オルランドQ フルデモンド (Cb) (Philips 412 618-2)
  • モーツァルト:セレナード第10番「グラン・パルティータ、アダージョ(KV 411/KV 484a)、アダージョ(KV Anh.94/KV 580a) ベルリン・フィルハーモニー管楽アンサンブル (Orfeo C 188 891 A)
この週末に、積年の疑問が解けた。といっても、モーツァルトのある作品の名前がようやく分かったというだけだし、そもそもモーツァルトに詳しい方々は星の数ほどいらっしゃるのでわざわざブログに書くほどの内容ではないのだが、「覚え書き」ということで。

ランパルと新パスキエ・トリオによるモーツァルトのフルート四重奏曲全曲のアルバム(1982年ライヴ)は、特にヴィオラのブルーノ・パスキエが大好きな奏者ということもあり、今なお、時々棚から出して聴くことがある。その最後に、おそらくは当日のアンコールで演奏されたものと思われる作品が収録されている。表記は「Adagio from Quartet in G Major KV 540」。当初は何の疑いもなく、そういう曲があるのだろうと思っていたのだが、ある時KV540は「アダージョ ロ短調」というピアノ曲だと知った。では、これは何なのだ?

ということで、「from Quartet」という言葉を頼りに色々探してみた(フルートという楽器にはこだわらなかった)のだが、全くわからない。伸びやかでとても美しい旋律なのだが、不思議なもので、素性がわからないというだけで落ち着いて聴く気にもなれない。

この曲を思い出しては、ネットでモーツァルトの作品一覧を眺めたり、YouTubeで色々と検索を試したりしたが、どうにもヒットせずに徒に時間だけが経った。このアルバムを購入したのは1999年なので、実に15年間かかったことになる。

週末、長年愛読している三省堂の『クラシック音楽作品名辞典』(手元にあるのは、学生時代に購入した初版)のページを徒然にめくっていると、「アダージョ ハ長調 KV580a (Anh.94)」という作品名が目に飛び込んできた。調性が違うのでダメ元で手持ちの音盤を探してみると、KV580aと表記されたホリガー&オルランドQ盤と、KV Anh.94と表記されたベルリン・フィルハーモニー管楽アンサンブル盤が出てきた。

前者はハ長調、後者はヘ長調、不明盤はト長調。調性はどれも異なるのだが、スピーカーから流れてきたのは、長年私を悩ませ続けてきた、あの伸びやかで美しい旋律。自分の家に2種類も、しかもどちらもランパル盤よりも前に購入していた音盤があったという、間抜け極まりないオチではあったが、購入から15年目にして初めて、ランパルの明るく華麗な演奏を楽しむことができた。

さて、この作品、一応4声部のために書かれているものの、全声部が完成しているのは最初の28小節のみで、残りは旋律のみ。しかも、旋律を奏する楽器がコーラングレと指定されているだけで、残りのパートは2Vn&Vc(ケッヘル旧版)、2Hr&Fg(第6版)、そして新全集ではCl&Bst.Hr.×3という編成になっているという。

ランパル盤はケッヘル旧版に準じて、コーラングレとフルートとの違いを考慮して移調して演奏したということなのだろう(ちなみに、新全集に収録されている楽譜は、記譜上はト長調になっている)。フルートの華やかな音色も、コーラングレの鄙びた音色も、どちらも捨て難いが、ベルリン・フィルハーモニー管楽アンサンブル盤に収録された新全集の編成は、温かくも深い陰影の味わいが非常に印象的。

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【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 14 G-dur KV 387
弦楽四重奏曲第14番 ト長調 KV 387



 ハイドンの「ロシア四重奏曲」作品33(1781)に影響を受けて書き始められた「ハイドン・セット」(全6曲)の第1曲目が、この第14番です。第1楽章の主題労作や終楽章にフーガを配置している(ハイドンが「太陽四重奏曲」作品20(1772)で既に試みています)ことなど、ハイドン・セットの中でも特にハイドンの影響が感じられる作品です。しかしながら、半音階を多用したモーツァルト独特の響きは、本日の1曲目であるハイドンの第72番の10年以上前(1782)に書かれているにもかかわらず、古典派の次の時代を予感させます。fpの対比が強調されていることも本作の特徴で、若々しい力感が印象的な傑作です。

シュペーテ弦楽四重奏団 第4回公演(2014年4月12, 26日)

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【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第19番

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 19 C-dur KV 465
弦楽四重奏曲第19番 ハ長調 KV 465



 冒頭の序奏部が半音進行を中心とした大胆な和声で満たされていることから、「不協和音」という愛称で親しまれているこの作品は、モーツァルトの「ハイドン・セット」を締めくくる6番目の曲です。あらゆる点においてウィーン古典派の弦楽四重奏曲の頂点に君臨する本作について、徒に言葉を費やす愚を犯すつもりはありません。この素晴らしい音楽を演奏できることの幸せと感謝を皆様と共有することができましたら、望外の喜びです。

シュペーテ弦楽四重奏団 第3回公演(2013年4月13, 20日)

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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