【楽曲解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第12番「四重奏曲断章」

Franz Peter Schubert
フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)


Streichquartett Nr. 12 c-moll, D 703 „Quartettsatz“
弦楽四重奏曲第12番 ハ短調 D 703「四重奏曲断章」



 シューベルトが弦楽四重奏曲第11番ホ長調D 353を書いた1816年は、彼が職業作曲家を自身の進路として自覚するに至った年です。この年以降、後にシューベルティアーデと呼ばれることになる友人達の集いの始まりや、自作の初の公開演奏、歌劇をはじめとする劇場作品への取組みなど、それまでとは一線を画す創作活動が展開されていくことになります。それはまた同時に、世間の評価との闘いの始まりでもありました。その結果、1819~23年頃のシューベルトは、特に器楽曲の分野において大きなスランプに陥ってしまいます。この第12番は、まさにこうした苦悩の最中の1820年に着手されました。
 第2楽章を41小節書いたところで放棄されてしまったために「断章」の名で呼ばれるこの作品は、緊迫感の漲る悲劇的な性格と、徹底して旋律的な動機、再現部を第2主題で開始するアーチ型の楽曲構造など、シューベルトの個性が存分に発揮されているだけでなく、古典派の枠を超えてロマン派の到来を告げる完成度の高い新しさを有しています。ベートーヴェンの第12番 作品127が1825年の作曲であることを考えると、この作品の斬新さは明らかでしょう。第1楽章しか完成されなかったことは、変イ長調で書かれた第2楽章の断片の美しさゆえにつくづく残念ですが、しかしこの単一楽章はシューベルト後期の独創的な音楽世界の嚆矢とするに相応しい充実した名曲です。


シュペーテ弦楽四重奏団 第8回公演(2018年4月14, 22日)

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年末の中古レコード・セールにて

  • シューベルト:弦楽四重奏曲第14番、第12番「四重奏曲断章」(未完の第2楽章付き) ジュリアードQ (CBS/SONY 30DC 799)
  • シューベルト:弦楽四重奏曲第14&4番 東京Q (RCA BVCC-29)
  • シューベルト:弦楽四重奏曲第15番 東京Q (RCA BVCC-7)
  • パガニーニ:チェントーネ・ディ・ソナタ第1番、ヴァイオリンとギターのためのソナタ Op.3-6、協奏的ソナタ、カンタービレ、ジュリアーニ:ヴァイオリンとギターのためのソナタ パールマン (Vn) J. ウィリアムズ (G) (CBS MK 34508)
2017年末もまた、家の大掃除を一段落させてから阪神百貨店の「中古&廃盤レコード・CDカウントダウンセール」へ。年を追う毎に掃除の肉体的負担が大きくなってきて、音盤漁りの意欲が極端に減少してきている。今回も、CDのみをざっと眺める程度で終了。結果として、シューベルトの弦楽四重奏曲が3枚と偏った選択になってしまった。

まずはジュリアードQによる「死と乙女」。いわゆる名盤の類だと思うが、かつては“即物的”とか“鋭利”など形容されることの多かった彼らの演奏スタイルが、実は随所でかなり自由なルバートも厭わない、非常にロマンティックなものであることの典型的な録音である。録音上の響きのせいもあって硬派な印象に違いはないが、いかにも往年の演奏といった感じ。本盤を手に取った最大の理由は、「断章」の第2楽章が収録されていること。ベーレンライター版の総譜などで見ることのできるこの未完の断片は、実際に音で聴いてみると想像以上に美しく薫り高い音楽であった。文字通り途中で作曲が止められているために、実演で取り上げるには終止の処理がどうしようもないのが、少し残念。


ウンジャンが第1Vnを務めた第3期の東京Qが、この団体の絶頂期であったことに疑いの余地はない。1980年代末に彼らが録音したシューベルトの3枚も名盤の誉れ高いものだが、私は第13&9番の1枚しか架蔵していなかった(大学2回生の時に、ロザムンデの第1楽章を演奏した時に購入したと記憶している)。「死と乙女」と第15番の2枚が揃っていたので、この機会に確保。“巧さ”が前面に押し出されているわけではなく、むしろ、たとえば第15番の第1Vnなどにはもたつきが感じられる箇所すらあるのだが、この極めて音楽的な一体感、音楽のどの一瞬からもどこのパートからも同じ歌が溢れ出てくる、最良の意味での均質さは、幾多の歴史的な名四重奏団の中でも一際傑出した完成度である。演奏頻度の低い第4番が、この水準で録音されていることも貴重だ(現在入手容易な「後期弦楽四重奏曲集」と題された2枚組には収録されていない)。


シューベルトのみ、というのも物足りなく、若きパールマンによるギターとの二重奏曲集が運良く目についたので、これも確保。中学生か高校生の頃、NHK FMのパガニーニ特集をエアチェックしたことがあり、「協奏的ソナタ」のこの演奏もカセットテープに収めて聴いていたことを懐かしく思い出した。ヴァイオリンもギターも、とにかく綺麗な音がしている。甘美な歌とヴィルトゥオージックな華やかさとが見事に両立した、これらの楽曲の理想的な演奏と言ってよいだろう。

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【楽曲解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第15番

Franz Peter Schubert
フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)


Streichquartett Nr. 15 G-dur, D 887 (Op. post. 161)
弦楽四重奏曲第15番 ト長調 D 887(作品161)



 シューベルトが残した15曲の弦楽四重奏曲は、いずれも特定のパトロンからの依頼によるものではありません。ほぼ同時に没したとはいえ、明らかにベートーヴェン(1770~1827)の次の世代であったシューベルトの作曲家としてのあり方が、このことにも象徴されているといえるでしょう。特に第12番以降の後期作品は、出版や公開演奏の機会とは関係なく、シューベルト自身の純粋な音楽的欲求から書かれたと考えられています。
 1824年に第13番「ロザムンデ」と第14番「死と乙女」の2曲の弦楽四重奏曲を書き上げたシューベルトは、おそらく交響曲第8番「ザ・グレート」D944(1825~6)のことと思われる「大きな交響曲」への準備として、弦楽四重奏曲をさらにもう一つ構想します。それが、1826年にわずか10日で書かれた第15番です。第1楽章だけは1928年に公開演奏されましたが、全曲の初演はシューベルトの死後、1850年になってようやくヘルメスベルガー四重奏団によって成し遂げられることになります。
 古典派の楽章構成を型通りに踏襲しつつも独創的な転調を駆使した詩的情緒あふれる音楽は、シューベルトならではのものです。しかし、この作品では歌謡性に満ちた旋律美は後退し、全曲を通じて鳴り続けるトレモロをはじめとする限られた動機の自在な組み合わせによって、濃密なロマンの香り漂う劇的な音楽が緻密に構成されているのが特徴です。また、執拗に反復される同じ音型に転調と楽器や伴奏音型の変化を加えることで繊細な色合いを織りなす手法は、後期ロマン派をも予感させる、時代を先取りしたシューベルトの新境地です。極めて長大な作品ですが、緊張感のある起伏と陰影に富んだ力感が漲る、シューベルト畢生の大作です。

シュペーテ弦楽四重奏団 第6回公演(2016年4月16, 23日)

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【楽曲解説】シューベルト:弦楽五重奏曲

Franz Peter Schubert
フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)


Streichquintett C-Dur, D 956 (Op. post. 163)
弦楽五重奏曲 ハ長調 D 956(作品163)



 1827年から翌28年にかけて、シューベルトは室内楽の大作を集中的に作りました(ピアノ三重奏曲第1番 D898、ピアノ三重奏曲第2番 D929、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 D934)。1828年3月26日には、彼の生涯において最初で最後となった自作のみのコンサート、いわば作曲家としてのリサイタルが開かれ、そこで弦楽四重奏曲(第15番の第1楽章と考えられています)などと一緒にピアノ三重奏曲第2番が演奏されています。健康状態こそ悪かったものの、歌曲の作曲家、シューベルティアーデ(仲間内のサロン)の作曲家といった枠を超えるべく、シューベルトはその名声を着々と高めていました。こうした室内楽の試みの集大成であり、結果としてシューベルト最後の室内楽曲となったのが、その早すぎる死の2ヶ月前に完成した弦楽五重奏曲です。
 弦楽四重奏+αの編成である弦楽五重奏曲は、ヴィオラを2本使用したモーツァルトの6曲が名高く、ロマン派以降もブラームスやドヴォルザークなどがこの編成で名曲を残しています。しかしながらチェロを2本使用した編成には、ルイジ・ボッケリーニ(1743~1805)の100曲を超える作品群があるものの、目ぼしい楽曲となるとこのシューベルトの作品が唯一無二の存在です(19世紀末のロシアでボロディン、タネーエフ、グラズノフが作っていますが、いずれも彼らを代表する作品とはみなされていません)。ボッケリーニには自身が優れたチェロ奏者だったという事情がありましたが、シューベルトがこの編成を採用した理由については一切知られていません。
 シューベルトの他の作品と同様に、ソナタ形式の第1楽章、三部形式の第2楽章、スケルツォの第3楽章、ロンド形式の第4楽章という典型的な古典派の楽曲構成をとっていますが、同じ旋律を執拗に反復しつつ、転調や楽器および伴奏音型の変化によって繊細な陰影を織りなしたり、主要動機の組み合わせではなく、新たな旋律を導入することで展開部を構成するなどの、シューベルト独自の手法が用いられています。これらは、「未完成」や「ザ・グレート」などの交響曲、あるいは「ロザムンデ」や「死と乙女」、第15番などの弦楽四重奏曲といったシューベルト晩年の創作を通して確立された手法で、それゆえに全体の規模は長大になっていますが、多彩な詩的情緒に満ちた「天国的な長さ」はシューベルトのみならずロマン派音楽の真骨頂です。

シュペーテ弦楽四重奏団 特別公演~アダルベルト・スコチッチ氏を迎えて~(2015年11月22日)

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【楽曲解説】シューベルト:弦楽四重奏曲第13番

Franz Peter Schubert
フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)


Streichquartett Nr. 13 a-moll Op. 29 (D.804)
弦楽四重奏曲第13番 イ短調 作品29(D.804)



 シューベルトの弦楽四重奏曲は、番号付きで呼ばれているものに限っても15曲ありますが、その半分近くは彼が10代の頃の作品で、自宅での集いで演奏されることを念頭に置いた、いわゆる家庭音楽の類です。31歳で訪れた早過ぎる死の4年前、27歳の時に作曲された第13番は、彼の弦楽四重奏曲の中で唯一プロの団体(シュパンツィヒQ)によって初演された作品です。第2楽章の主題に劇音楽「キプロスの女王ロザムンデ」D.797から第3幕の間奏曲が流用されていることから、「ロザムンデ」の愛称で親しまれています。

 この曲が書かれた1824年はベートーヴェンが第12番の作曲に没頭していた年でもありますが、古典的な楽曲形式の枠組みを逸脱しようとしたベートーヴェンとは異なり、シューベルトはあくまでも型通りの展開の中で旋律の可能性を追究し、独自の陰影を持った劇的でロマンティックな音楽を作り上げています。

シュペーテ弦楽四重奏団 第2回公演(2012年4月14, 21日)

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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