とりとめのない買い物録

  • ショスタコーヴィチ:交響曲第6番、チャイコーフスキイ:交響曲第6番 M. ヤンソンス/バイエルン放送SO (BR Klassik 900123)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第10番 ハイティンク/ロンドンPO (London Philharmonic Orchestra LPO-0034)
  • ロシア・ソ連の作曲家によるピアノ音楽のアンソロジー第1集(ミャスコーフスキイ:ピアノ・ソナタ第3番、ハチャトゥリャーン:トッカータ、ショスタコーヴィチ:24の前奏曲、フレーンニコフ:5つの小品、3つの小品)ファヴォリン、ムンドヤンツ、コロベイニコフ、フレーンニコフJr (Pf) (Melodiya MEL CD 10 01963)
  • ライヴ・フロム・ザ・ルガーノ・フェスティヴァル2013(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番、チェロ・ソナタ第2番、レスピーギ:ヴァイオリン・ソナタ、リスト:悲しみのゴンドラ、ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ、ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ(遺作)、ドビュッシー:小組曲、オッフェンバック(グリグオーリ編):パリの喜び、サン=サーンス:動物の謝肉祭) アルゲリッチ、ピエモンテージ、J. マルグリス、モンテーロ、マルトン、トマッシ、グリグオーリ、ステッラ、ジルベルシュテイン (Pf) R. カピュソン、A. マルグリス、バラーノフ、M. グートマン (Vn) チェン (Va) マイスキー、G. カピュソン、ドブリュ (Vc) ファゴーネ (Cb) ルッツ (Fl) ジュフレーディ (Cl) ディ・トラパニ (Perc) スダーン/スイス・イタリア語放送O (Warner 0825646312207)
  • ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 75周年記念ボックスセット第3巻 1983-2007(ベートーヴェン:交響曲第9番、R. シュトラウス:歌劇「カプリッチョ」~第13場、モーツァルト:レクイエムより、ミサ曲 c-moll「大ミサ曲」より、シューベルト:スターバト・マーテル g-moll、ブルックナー:テ・デウム、ショスタコーヴィチ:交響曲第1&5番、交響曲第14番) ポップ (S) マレイ (MS) ロルフ・ジョンソン (T) パーペ (B) ロンドン・フィルハーモニーcho ロット (S) M. ジョージ (B) イーグレン (S) レンメルト (A) ヴァン・デル・ヴェルト (T) ムフ (B) リンツ・モーツァルトcho モノガローヴァ (S) レイフェルクス (Br) テンシュテット、ヴェルザー=メスト、マズア、ユロフスキ/ロンドンPO (London Philharmonic Orchestra LPO-0099)
HMV ONLINEから荷物が届いた。いずれも旧譜ばかり。

M. ヤンソンスのライヴ録音は、まさに横綱相撲といった感じの堂々たる演奏。いずれの楽章も落ち着いたテンポでじっくりと表現されており、豊かな内容を持った音楽に仕上がっている。とはいえ、かつての「巨匠」然とした演奏とは異なり、終始淀みのない音楽の流れが特徴的で、味わい深くも颯爽とした感情の起伏がこれらの曲目に相応しい。熱狂的ではないが、高揚感のある熱い演奏である。

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ハイティンクの第10交響曲といえば、コンセルトヘボウ管とのライヴ録音(Q Disc 97014)が凄まじい演奏だったが、このロンドンPOとのライヴ録音はその1年後のものである。全編に漲る熱気と壮大な構成感は、この録音でも同様で、オーケストラの響きや技術的な精度こそ若干劣るものの、Q Disc盤が現時点では入手難であることを考えると、強く推薦するに値する。ハイティンクの真価を存分に味わうことのできる一枚である。

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Melodiyaレーベルの「ロシア&ソヴィエトの作曲家によるピアノ音楽のアンソロジー」というシリーズの第1巻には、ソ連音楽界の第1世代の作曲家の作品群が集められている。世界初録音となるフレーンニコフの作品以外は、既に評価の確立した有名曲ばかり。若手演奏家達による、丁寧に弾き込まれた勢いのある演奏が楽しい。

全30巻を予定している本シリーズには、やはり「知られざる作曲家」「知られざる作品」こそを期待したいところで、実際、そのような路線のリリースが続いているようだが、その点ではこの第1集の目玉はフレーンニコフ作品ということになるのだろう。しかしながら、彼の初期作品ということもあって、ショスタコーヴィチやミャスコーフスキイの亜流のように聴こえる箇所も多く、それほど興味を惹かれることはなかった。

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アルゲリッチが中心となって開催されているルガーノ音楽祭のライヴ録音は、毎年コンスタントにリリースされ続けており、その豪華な顔ぶれだけでなく、意欲的で面白い収録曲の多彩さでも注目に値するアルバムであり続けている。私はショスタコーヴィチ作品が収録されている年の物のみ購入しているのだが、2013年盤は未入手だったのでオーダー。

G. カピュソンによるショスタコーヴィチのチェロ・ソナタは、非常に均整のとれた美演。気負いのない寛いだ雰囲気が心地よく、また作品に相応しい。単なる伴奏に留まらない存在感をもったピアノも悪くない。現代の範たる演奏と言ってよいだろう。

その他の収録曲も全て、同様の高い水準のものばかり。R. カピュソンの弾くレスピーギのヴァイオリン・ソナタは、初めて聴いた曲ということもあって、とりわけ印象に残ったが、年齢を全く感じさせないアルゲリッチはもちろんのこと、それ以外の奏者も皆立派な演奏を繰り広げており、内容の詰まったアルバムである。

ただ、このルガーノ音楽祭、存続が危ぶまれる情勢とのこと(こちらの記事参照のこと)。アルゲリッチを聴くという意味ではヴェルビエ音楽祭などもあるのだが、せっかくのイベントがつまらない理由で立ち消えにならないことを願う。

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ロンドンPOの75周年記念ボックスは、同団の自主制作盤4枚を紙箱に納めたもの。この第3集をオーダーしたのは、ショスタコーヴィチの交響曲が2枚含まれていたからで、マズア盤は既に単独で架蔵済み(2005年5月20日のエントリー)だったのだが、ユロフスキの第14番が目についたからである。ところが、何とも間抜けなことに、これもまた既に架蔵済みであった。2012年8月1日のエントリーを見ると、「ロンドン・フィルPOのBOXセットに収録されていたことは分かったが、単独でリリースされていた形跡がほとんど見当たらない。余程売れなかったのだろうか、かなりネガティヴな意味でのレア・アイテムなのかもしれない。」ということで、全く印象に残らなかったのだろう。本ブログの本来の目的である「備忘」が全く達成されていない。もっとも、今回改めて聴き直し、そこまで悪い演奏ではないような気もした。

結局、初めて耳にすることになったのは、テンシュテット指揮の「第九」と、ヴェルザー=メスト指揮の宗教曲集の2枚。後者は面白い選曲ではあるが、端正で美しいものの、それ以上の感情表現に不足し(宗教曲とはいえ)、全体に物足りなかった。テンシュテットのベートーヴェンは、同じ顔合わせのマーラーなどと同様、金管楽器と打楽器が刺激的かつ切実に響く。今では聴くことのなくなった往年の演奏スタイルによるベートーヴェンを、懐かしみつつ堪能した。

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tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

未聴LPを消化(2)

  • フォーレ:ピアノ四重奏曲第2番 フランセ (Pf) パスキエ・トリオ (Ducretet Thomson LPG 8004 [10"mono])
  • ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番、ブラームス:ピアノ三重奏曲第2番 オデオン三重奏団 (Impression 64 725 [LP])
  • カバレーフスキイ:ラジオのための音楽「ドン・キホーテ」 シェルマン/モスクワ劇場 (MK D 11099-11102(a) [10"mono])
  • 大祖国戦争の歌(モスクワの戦い25周年記念):(アレクサーンドロフ:聖なる戦い、ソロヴィヨフ=セドーイ:波止場の夕べ、フレーンニコフ:北には良い町がある、ブラーンテル:前線の森の中で、ソロヴィヨフ=セドーイ:陽のあたる野原で、前線にも春が来た、ノーヴィコフ:ヴァーシャ・ヴァシリョーク、リストフ:壕舎にて、タバチニコフ:一服しよう、ショスタコーヴィチ:「勝利の春」より「ランタンの歌」) アレクサーンドロフ・アンサンブル ティムチェンコ シュリジェンコ ブンチコフ (Melodiya 33D-15329-30 [10"mono])
1月8日のエントリーの続き。同じく全てArs Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.にて購入。

作曲家のフランセがピアノを弾いたフォーレは、音色の妙を味わうには録音が古過ぎる。しかし、溌剌とした、それでいてロマン的情緒が溢れ出すようなリズムの奔流は十分に聴き取ることができ、またそうしたフランセのピアノこそが本盤の魅力であろう。熱に浮かされたようなパスキエ・トリオの没入ぶりも素晴らしい。特に偶数楽章が唯一無比の仕上がりと感嘆した。


オデオン三重奏団のアルバムは、いかにもドイツ正統派の演奏。派手ではないながらも堅実な技巧とアンサンブル、そして、内に相当の熱量を溜め込みながらも安易に激情に流されない節度が、いささか前時代的な雰囲気を漂わせつつも耳に心地よい。こういうショスタコーヴィチも悪くはないが、やはりブラームスの方がしっくりくる。


正確なところははっきりと分からないのだが、カバレーフスキイが音楽を担当した「ドン・キホーテ」のラジオドラマの全曲と思われる2枚組も入手。 恐らく台詞も全て収録されているのだろうと推察するが、いかんせん対訳はおろか解説の類が一切ないために確定的なことは何も言えない。有名な「ドン・キホーテのロマンス」に限らず、いずれも賑やかで楽しく、かつメロディアスな、社会主義リアリズム的にお手本のような音楽。歌手(俳優と言うべきか)と楽団に色濃い田舎劇場の風情も、実に楽しい。


大祖国戦争のモスクワ戦から25年を記念したアルバムは、有名な大衆歌、軍歌を集めたオムニバス盤である。収録音源のほぼ全てが楽曲も演奏も非常に有名なものばかりで、私の手元にも同じ音源の別フォーマットが複数あったりする。ただし、ショスタコーヴィチの舞台作品「勝利の春」の一曲、「ランタンの歌」の独唱+オーケストラ版唯一の録音(オラトリオ「わが祖国」に含まれているものを除く)が収録されており、他の形での入手が現時点では困難な音源と思われることから、この一点において貴重なアルバムと言うことができるだろう。恐らくオーケストラのアレンジにショスタコーヴィチ自身は関与していないように思うが、雰囲気満点の心踊る演奏である。

なお、昨年末、アレクサーンドロフ・アンサンブルを襲った悲劇については、文字通り言葉も無く、今なお喪失感を免れずにいる。彼らの唯一無比の個性的な音楽世界の伝統が、これからも絶えることなく引き継がれていくことを強く祈念するとともに、心ならずも被害に遭われた方々に衷心より哀悼の意を表します。

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genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. USSR大衆歌曲.

未聴LPを消化

  • シャポーリン:歌劇「デカブリースト」 メーリク=パシャーエフ/ボリショイ劇場O他 (Ultraphone ULP 123/126 [LP])
  • スヴィリードフ:「ペテルブルグの歌」より第2曲「Как прощались, страстно клялись」、「ブロークの詩による3つの歌」、「私の父は農夫」より第2曲「В сердце светит Русь」、「ロシアの歌」、「A. プロコーフィエフの詩による6つの歌」より第5曲「Девчонка пела золотая」、チャイコーフスキイ:カンタータ「モスクワ」よりWarrior's Arioso、ムーソルグスキイ:歌劇「ボリース・ゴドゥノーフ」よりマリーナのアリア、歌劇「ホヴァーンシチナ」よりマールファのアリア、サン=サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」よりデリラのアリア、ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」よりエーボリ公女のアリア オブラスツォーヴァ (MS) スヴィリードフ (Pf) エールムレル、ディミトリアディ/ボリショイ劇場O (Melodiya 33 C10-11346-C10-12308 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番、バルトーク:ルーマニア民俗舞曲、カステレード:弦楽オーケストラのための前奏曲とフーガ メルレ (Pf) シェルバウム (Tp) クエンツ/パリ・ポール・クエンツ室内O (Club National du Disque P.94 [LP])
  • ヘンデル:合奏協奏曲 Op.6-1、モーツァルト:ディヴェルティメント KV136、バルトーク:ルーマニア民俗舞曲、パラチェ:弦楽のための音楽、ルホットカ:スケルツォ=アレグロ、ショスタコーヴィチ:弦楽八重奏のための2つの小品よりスケルツォ ザグレブ・ゾリステン (Südwestfunk SWF 131 [LP])
  • チャイコーフスキイ:弦楽セレナード、ショスタコーヴィチ(バルシャイ編):室内交響曲 ラフレフスキイ/新アメリカ室内O (Obligat ob. 01.109 [LP])
  • チャイコーフスキイ:「祝福あれ、森よ」Op.47-5、グリーンカ:「疑惑」、ダルゴムィーシスキイ:「老伍長」、ラフマニノフ:「小作農奴」Op.34-11、ショスタコーヴィチ:「プーシキンの詩による4つのモノローグ」より「絶望の日」、ムーソルグスキイ:「死の歌と踊り」、「蚤の歌」 ギウセレフ (B) ムッセフ (Pf) (Balkanton BKA 11951 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:「ユダヤの民族詩より」より第3曲「子守歌」、プーランク:「8つのポーランドの歌」より第8曲「湖」、ドヴォルザーク:「聖書の歌」より第3、8曲、バルトーク:「5つの歌」より第1曲「三粒の秋の涙」、ムーソルグスキイ:夜 ウイッカム (S) ラスキエ (Pf) (私家盤 FW 53.19.32 [LP])
  • メキシコ合衆国国歌、ショスタコーヴィチ:祝典序曲、ネリベル:ヒューストン協奏曲、リームスキイ=コールサコフ:スペイン奇想曲、メキシコ民謡メドレー、ドヴォルザーク:交響曲第8番 ランツ、ネリベル/ヒューストン全市SO (Silver Crest HL-111767A [LP])
  • モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より第4楽章、ホフステッター(伝ハイドン):弦楽四重奏曲「セレナード」より第2楽章、ロカテッリ:「ヴァイオリンの技法」より、ブラームス:交響曲第3番より第3楽章、ビゼー:歌劇「カルメン」よりハバネラ、ショスタコーヴィチ:映画音楽「馬あぶ」よりロマンス、モーツァルト:交響曲第40番より第1楽章、ボッケリーニ:弦楽五重奏曲 Op.11-5より第3楽章、シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」より、ヴァン・ダイク:ベルディナリー ステンベルグ (Fl) ファン・ホフ/管弦楽団 (Philips 822 667-1 [LP])
  • ミャスコースキイ:交響曲第21番 ラフリン/ソヴィエト国立SO (Апрелевский завод 10903-10911 [10"78 rpm.])
LPプレイヤーの不調を半年近く放置していたせいで、未聴の音盤が溜まってしまった。先日、重い腰を上げてようやく修理してもらい、年末年始は専ら未聴盤の消化に勤しむことに。以下、全てArs Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.にて購入。

シャポーリンの代表作である歌劇「デカブリースト」は、あらすじ等が書かれた解説もなく、A. トルストイの原作『パウリーネ・ガイベル』も読んだことはないために、デカブリーストの乱に関する話なのだろうと推測する以外に劇の内容は全くわからないまま、単に音楽だけを聴かざるを得なかった。

元々はデカブリーストの乱100周年の1925年に着手されたものの、全曲の完成・初演は1953年とかなりの時間がかかった背景には、そもそもが政治的な題材であることに加え、その間にプラウダ批判、ジダーノフ批判といった音楽分野に対する思想統制事件が起こったことも少なからず影響しているのだろう。『ロシア音楽事典』(カワイ出版, 2006)によると「19世紀初めの軍歌や学生歌が引用される他、様々な社会階層が音楽で描き分けられる。」とのことで、社会主義リアリズムの典型的な音楽作品であると同時に、その最良の成果でもあるように感じられる。現在では「兵士の合唱」(第2幕第3場」がアレクサーンドロフ・アンサンブル(いわゆる赤軍合唱団)のレパートリー(B. アレクサーンドロフ編)に入っている以外に全曲が取り上げられることはないが、気分が鼓舞されるような壮麗な音楽と、親しみやすく哀愁に満ちたロシア風のメロディとのバランスが良く、完全に忘れ去ってしまうには惜しい作品である。

(恐らく)唯一の全曲盤である本盤は、野趣溢れる響きと盛り上がりに血沸き肉躍る、“ソ連”を堪能させてくれる秀演といってよいだろう。


オブラスツォーヴァのアルバムは、A面のスヴィリードフ作品集目当てだったが、B面のアリア集も出色の内容で、嬉しい誤算。また、チャイコーフスキイのカンタータ「モスクワ」については、皇帝の戴冠式のために作られた作品ということもあってソ連時代には歌詞が改竄されたのだが(「1812年」と同様)、本盤では、まさにその改竄版で歌われている。B面を通してオーケストラの音量レベルが小さすぎるのが残念だが、彼女の鋭く、それでいて甘い歌い回しの魅力を存分に味わうことができる。

スヴィリードフの作品については、今さら何かを言う必要はない。いずれの曲も見事な歌唱で、スヴィリードフの真髄が表現され尽くされていると言っても過言ではない、決定的なライヴ録音である。


クエンツ室内Oの弦楽合奏曲集は、もちろんショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番目的で注文したもの。しかしながら、トランペットの不安定さが許容範囲を超えていて、残念ながら全く楽しむことができなかった。ピアノは平凡ながらも、手堅い演奏。弦楽合奏についてはアンサンブルの精度などに時代を感じる部分もあるが、無難にまとめられていて印象は悪くない。カステレードの作品は、バルトークに通じる近代的な和声感を持ちつつも全体として穏健な擬古典的な雰囲気の音楽。決して悪くはないのだが、私にはあまりピンと来なかった。


ザグレブ・ゾリステンのアルバムもまた同じく弦楽合奏曲集だが、やはり同じく今となっては古いタイプのアンサンブルながら、こちらは垢抜けなくも朗々と気持ちの良い歌がとても心地よい。B面のバルトークなど東欧の近現代作品でもA面のヘンデルやモーツァルトと同じアプローチが採られているが、わりと穏健な曲ばかりであるせいか、特に違和感はない。ショスタコーヴィチではさすがにアンサンブルの甘さが気にならなくもないが、一体感のある盛り上がりがそれを補って余りある。


これらに対して、ロシアの弦楽合奏曲集としては極めて王道の2曲が収められているラフレフスキイ率いる新アメリカ室内Oのアルバムでは、現代を予感させる洗練されたアンサンブルが展開されている。表面的な甘さに耽溺しないチャイコーフスキイや緻密に組み立てられたショスタコーヴィチは、当時(1987年)としては先駆的な演奏だったのだろうと思われる。ただ、団体の個性と言えなくもないが、低弦の響きに薄さが感じられるのは残念。これらの曲に対しては、やはり心を底から揺さぶるような厚い響きを求めたくなる。


ギウセレフのロシア歌曲集は、ロマンス色の強いA面とムーソルグスキイ作品のB面、どちらも選曲がなかなか素敵。特にA面は、どこか軽いテイストを感じさせるギウセレフの歌との相性が良く、万人受けする音楽に仕上がっている。しかしながら、「死の歌と踊り」のように深く沈潜した音楽世界を表出するには物足りない。これは、ピアノの表現力も一因であろう。


同じ歌曲でも、「中央ヨーロッパの音楽」と題されたアルバムは、いかにも素人くさい不安定極まりない歌唱で、全く楽しめなかった。フレデリク・ウイッカムという歌手のことは全くわからないが、プライヴェート盤(45回転の12インチ)の装丁などを見ても商業的な背景があるようには思えず、それでいて選曲は妙に凝っているのが不思議。


注文カタログを「Shostakoivch」で検索すると未知の音盤がヒットした。それがヒューストン市の学生選抜オーケストラが1967年にメキシコ・ツアーをした時の記念アルバム。収録日などのデータははっきりしていないが、曲の終わりの処理からすると拍手を無理やりフェードアウトしているようなので、恐らくは当日のライヴ録音なのだろう。率直に言って、時代も国も違う、縁もゆかりもない聴き手にとっては、演奏技術のみならず音楽的な水準においても一般的な聴取に耐えるものではない。

ただ一点、この公演のためにネリベルが作曲した作品がネリベル自身の指揮で収録されていることは、ネリベル愛好家には関心があるかもしれない。この公演についてネリベル自身がコメントしているインタビューの邦訳が、このサイトにあるので、参考まで。


ポール・モーリアと共演した「天使のメヌエット」などで知られるフルート奏者ベルディーン・ステンベルグのアルバムは、自身に捧げられた「ベルディナリー」という曲をタイトルにしたもの。いわゆるイージーリスニングの類で、ショスタコーヴィチの「馬あぶ」のロマンス(のアレンジ)が収められているがゆえに入手したものの、ほとんど興味を惹かれない内容であった。ちなみに、本盤のジャケットでは「馬あぶ」のロマンスは、イギリスで放送されたTVドラマ「Reilly, Ace of Spies」の主題曲としてクレジットされている。


ラーフリン指揮のミャスコースキイの交響曲第21番は、SP盤。興味はあるものの、手元に再生環境はないので、いつか機会があるまでとりあえず棚の中。

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ショスタコーヴィチの作品便覧(第1巻)


  • Дигонская, О., Копытова, Г., Дмитрий Шостакович. Нотографический справочник. Вып. 1, Композитор, Санкт-Петербург, 2016.
ショスタコーヴィチの作品リストといえばHulmeの労作、というのが常識であったが、著者逝去に伴って第4版(2010年)が最後となってしまい、新たな発見の反映は望むべくもない……と思っていたところに、新たな作品便覧の登場。しかも、DSCH社の出版物でも著名な、一次資料に通暁している研究者のディゴーンスカヤ女史の手によるとなれば、これはもう書架に陳列するのがファンの務めというものだろう。

全部で3巻が予定されているようだが、第1巻は交響曲第4番までの情報が収録されている。各曲について、以下の項目が整理されている:
  • 曲名・作曲時期・作曲地・献呈・楽章構成・楽器編成・演奏時間
  • 公開試奏
  • 初演
  • 自筆譜
  • 出版譜
  • 引用・流用
  • 備考
  • DSCH社のレンタル譜
Hulmeのカタログとは異なってディスコグラフィはないが、現代ではもはや全ての音盤を網羅することなど不可能であり、また、さして意味を持たないことを考えると、そのことは何らマイナスではない。

逆に注目すべきは、各種の引用や流用について整理されていることだろう。ここに示されているものが全てではないだろうし、“たまたま”似ているフレーズも含まれているのだろうが、研究目的のみならず、一般の鑑賞においても示唆に富む情報である。

作品番号の確定した楽曲に加えて、これまでに知られていなかった未出版の作品や習作、実現に至らなかったプロジェクトなどを含む80曲のリストは、研究者、演奏家、愛好家といった、ショスタコーヴィチの音楽に関心のある全ての人達にとって極めて刺激的である。

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ゲールギエフによるショスタコーヴィチの「映像」全集(買い物録その4)

  • ショスタコーヴィチ:交響曲&協奏曲全集、ドキュメンタリー『ドミートリィ・ショスタコーヴィチ:いくつもの顔を持つ男』 ディジョーエヴァ (S) ペトレンコ (B) レーピン、バーエワ (Vn) カプソン、ブルネロ (Vc) トリフォノフ、マツーエフ (Pf) マルティノフ (Tp) ゲールギエフ/マリイーンスキイ歌劇場O (Arthaus 107552 [Blu-ray])
6月16日18日7月19日のエントリーの続き。一連の買い物の主目的は、このBDボックスであった。ショスタコーヴィチ・ファンならば必携のセットと思いつつも、今頃になってようやく入手。今回はセール価格での購入だったが、基本的には高価な(とはいえ、1990年前後にCDでリリースされた交響曲全集などに比べれば十分に安価ではある)セットということもあってか、世間ではいまだにそれほど話題になっていないように感じられるのは少々寂しい。

映像の視聴は、音盤を聴くのとは異なり、基本的に他の作業と並行することができないため、この分量を全て踏破するのに随分と時間がかかってしまった。私は日々の通勤にかかる時間が長いため、タブレット等で視聴できれば非常にありがたいのだが、タブレット用にリッピングすることは違法行為なので、我慢せざるを得ない。正規に購入しているにも関わらず、こうした不便さを強いられることには忸怩たるものがあるが、致し方ないのでしょうね。

さて、このセットでは、全ての楽曲についてゲールギエフが簡単な(2分程度)解説を行っている。かれこれ20年ほど前のドキュメンタリー「戦争シンフォニー~ショスタコーヴィチの反抗~」では、ショスタコーヴィチの音楽を彼の生きた時代/社会体制と結びつけて解釈し、実際にそのような雰囲気を強く漂わせた演奏を聴かせていたゲールギエフであるが、ここでは驚くほど“純音楽的な”見地で各曲を語っているのが面白い。ショスタコーヴィチという作曲家の受容のあり方が時代と共に変わっていることの証左であろうし、ゲールギエフの音楽観が歳を重ねると共に音楽の諸相を重層的に消化したがゆえに単純な形に結実してきた、ということなのかもしれない。「スターリン」という名のインパクトが、もはや現代では生々しい存在感を失っていることも、また事実であろう。

約2年に渡る8回のコンサート(すべてパリのサル・プレイエル・ホール)で、交響曲15曲と協奏曲6曲の全てを演奏し、映像収録を行うという、あらゆる面でのコストが極めて大きいこの狂気じみたプロジェクトは、やはり狂気じみたバイタリティーの持ち主であるゲールギエフにしか成し得ないことだろう。だからまず何よりも、その成果であるこのBDセット自体に対して最大限の敬意を払いたい。その上で、当然ながら、収録された21曲全てが極上の出来ということではない。弦楽器のピッチの不揃いなど、オーケストラの基本的な状態が万全でないものもあるし、当初の設定がいまひとつなのか、流れの構築に失敗した結果なのかはわからないが、テンポの停滞が気になる曲もある。また、これはゲールギエフの特質なのかもしれないが、聴かせどころの爆発力と、そこに至る全体設計の巧みさは卓越しているものの、全曲を通じて緊張感が持続することが少なく、どうしても気の緩む瞬間が存在してしまうのも気になる。

一方で、オーケストラの威力を存分に活かした、時に扇情的な、時に威圧的な音の洪水は魅力的。ヴァイオリン協奏曲第1番の第3楽章などが良い例だが、突如スイッチが入ったかのように舞台上が音楽に完全に没頭した瞬間の凄まじさも格別である。

60分弱のドキュメンタリー(監督:ライナー・モーリッツ)は、基本的に本セットの演奏映像と上述したゲールギエフによる各曲の解説(でカットされている部分を含む)との組み合わせに、既にリリースされている他の映像作品から演奏風景(ボロディーンQの第8番と第15番だけは、初見であった)やインタビューを+αした構成。最晩年のショスタコーヴィチの映像が使われているのは嬉しいが、いかにもなアメリカ英語が被されているのには心の底からがっかりする。「Many Faces」に迫る内容はなく、ごく常識的に交響曲を中心に編年体でショスタコーヴィチの生涯をなぞっただけである。本セットのプロモーション映像と考えるのがよいのだろう。

歌詞も含めて、全てに日本語字幕あり。録音・録画の品質も非常に優れているし、装丁も価格に見合ったもの。ただし、箱からBDケースを取り出しづらいという難点がある。またハードカバーの解説書は、装丁に比して内容はありきたり。

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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