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ルドルフ・バルシャイを讃えて

  • ツィンツァーゼ:チェロ協奏曲第2番(5つのエピソードによる)、ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第2番 ホルヌング (Vc) ポーガ/ベルリン・ドイツSO(myrios MYR023)
  • ショスタコーヴィチ:ロシアとキルギスの民謡による序曲、ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描、ピアソラ:タンガーソ、バーバー:管弦楽のためのエッセイ第2番 レオン/ボフスラフ・マルティヌー PO(Centaur CRC2799)
  • ブリテン:ラクリメ-ダウランドの歌曲の投影、ロックバーク:ヴィオラ・ソナタ、ペルト:鏡の中の鏡、ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ ミンクラー (Va) ジョンソン (Pf)(Centaur CRC3049)
  • ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ ボンド (Pf)(Centaur CRC2896/2897)
  • ルドルフ・バルシャイ(1924-2010)を讃えて(ica ICAB5136)
アリアCDから、いつもより大きな箱が届いた。

珍しく新譜を一枚。ドイツの若手チェリスト、ホルヌングによる、1966年に作曲された2曲のチェロ協奏曲を収録したアルバムである。極めて高い精度のテクニックをもって隅々まで明晰に解釈された、いかにも現代的な精緻さを有した演奏と言えるだろう。ショスタコーヴィチの陰鬱でありながらも諧謔を感じさせる繰り言のような独特の雰囲気は、いささか平準化されてしまったようにも思えるが、より普遍的な聴きやすさという点では決して悪くはない。グルジアの作曲家ツィンツァーゼの協奏曲は、ショスタコーヴィチに比べるとはるかに生気の感じられる暗さであるが、こちらの方が、少なくとも現時点のホルヌングにはより合っているように思われる。


Centaurレーベルのセールから、ショスタコーヴィチ作品を収録した未架蔵の3枚をオーダー。

まずは、レオン/ボフスラフ・マルティヌー・フィルによる管弦楽集。このオーケストラを聴くのは初めて。本盤に関する限りは、技術的には中の上、といった感じだろうか。ドビュッシーとバーバーは、その音楽語法に馴染みがある故か、表現の振幅も大きく、聴き映えのする面白い演奏に仕上がっている。ショスタコーヴィチも馴染みという点では同じように思われるのだが、民謡主題の歌いまわしに加えて主部に入ってからのリズムのノリに不満が残る。さらにピアソラ作品ではタンゴ的要素が全く表出できておらず、ピアソラの愛好家には全く受け入れられないだろう。


ミンクラーというヴィオラ奏者の名は初めて知ったが、わりとオーソドックスな選曲の現代ヴィオラ曲集は、現在のヴィオラ界の技術水準の高さを象徴するような、充実の一枚。ヴァイオリンと同様の明晰な響きと、ヴィオラならではの深く暗い響きとがごく自然に両立している。どの曲も模範的な解釈だが、ピアノにややロマンティックな傾向がある。透明ながらも薄っすらと色付いた美しさは、ショスタコーヴィチでは好みが分かれるかもしれないが、ブリテンや、とりわけペルトでは堪らない。


ボンドというピアニストも初めて聴くが、“中庸”という言葉の最良の意味を体現したような音楽に、寛いだ心地好さを覚えた。取り立てて突き抜けた要素はない代わりに、全24曲を通して聴いても妙な疲労を感じることがない。この曲集が苦手な聴き手にはお薦め。


さて、今回の大きな箱の正体は、バルシャーイの没後5周年BOX(20枚組)であった。収録内容は、以下の通り:
【Disc1】
  1. シューマン:おとぎの絵本(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  2. プロコーフィエフ(バルシャーイ編):バレエ「ロメオとジュリエット」(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  3. フォーサイス:ケルトの歌(バルシャーイ (Va) ストゥチェフスキイ (Pf))
  4. ショパン(バルシャーイ編):練習曲第14番(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  5. グリーグ(バルシャーイ編):抒情小曲集第3集より「春に寄す」 (バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  6. ラヴェル(ボリソーフスキイ編):亡き王女のためのパヴァーヌ(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  7. ドビュッシー:フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ(コルニーフ (Fl) バルシャーイ (Va) エルデリ (Hp))
  8. ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
  9. ドビュッシー:「小組曲」より「小舟にて」(バルシャーイ (Va) シュライブマン (Pf))
【Disc2】
  1. J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番(バルシャーイ (Va))
  2. ヒンデミット:無伴奏ヴィオラのためのソナタ Op. 25-1 (バルシャーイ (Va))
  3. ヒンデミット:葬送音楽(バルシャーイ (Va) モスクワ室内O)
  4. カサドシュ(伝ヘンデル)(バルシャーイ編):ヴィオラ協奏曲(バルシャーイ (Va) モスクワ室内O)
【Disc3】
  1. ブーニン:ヴィオラ・ソナタ(バルシャーイ (Va) ニコラーエヴァ (Pf))
  2. クリュコフ:ヴィオラ・ソナタ(バルシャーイ (Va) ニコラーエヴァ (Pf))
  3. ゴルトシュタイン(伝ハンドキシン):ヴィオラ協奏曲(バルシャーイ (Va) モスクワ室内O)
  4. ブーニン:ヴィオラ協奏曲(バルシャーイ (Va) アノーソフ/ソヴィエト国立SO)
【Disc4】
  1. ベートーヴェン:弦楽三重奏曲第1番(L. コーガン (Vn) バルシャーイ (Va) ロストロポーヴィチ (Vc))
  2. ベートーヴェン:弦楽三重奏曲第3番(L. コーガン (Vn) バルシャーイ (Va) ロストロポーヴィチ (Vc))
【Disc5】
  1. フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番(ギレリス (Pf) L. コーガン (Vn) バルシャーイ (Va) ロストロポーヴィチ (Vc))
  2. ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲(ショスタコーヴィチ (Pf) モスクワ・フィルハーモニーQ)
【Disc6】
  1. ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番(モスクワ・フィルハーモニーQ)
  2. ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番(チャイコーフスキイQ)
  3. ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第4番(チャイコーフスキイQ)
【Disc7】
  1. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番(チャイコーフスキイQ)
  2. チャイコーフスキイ:弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」(L. コーガン、ギレリス (Vn)、バルシャーイ、タラルヤン (Va)、クヌシェヴィツキイ、ロストロポーヴィチ (Vc))
【Disc8】
  1. ボッケリーニ:交響曲 Es-dur, Op.35-2 (G.510)(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. ヴィヴァルディ:ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 B-dur, RV.547(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. ヴィヴァルディ:4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲 h-moll, Op.3-10 (RV.580)(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集「四季」(バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc9】
  1. アルビノーニ:弦楽オーケストラのための協奏曲 B-dur, Op.5-1(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. アルビノーニ:弦楽オーケストラのための協奏曲 D-dur, Op.5-3(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. タルティーニ:チェロ協奏曲 A-dur(ロストロポーヴィチ (Vc)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 g-moll, RV.319(L. コーガン (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  5. J. S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番(L. コーガン (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  6. J. S. バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲(L. コーガン、ギレリス (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc10】
  1. J. S. バッハ:ブランデンブルク協奏曲第4番(コルニーフ、ツァイデル (Fl)、D. オーイストラフ (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. J. S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番(D. オーイストラフ (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. J. S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番(D. オーイストラフ (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. モーツァルト:交響曲第40番(バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc11】
  1. モーツァルト:ディヴェルティメント KV136(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. モーツァルト:協奏交響曲(D. オーイストラフ (Vn)、バルシャーイ (Va)、モスクワ室内O)
  3. モーツァルト:ロンド C-dur, KV201(D. オーイストラフ (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. モーツァルト:交響曲第29番(バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc12】
  1. モーツァルト:交響曲第10番(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番(L. コーガン (Vn)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番(ギレリス (Pf)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. モーツァルト:ロンド D-dur, KV382(バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc13】
  1. ハイドン:交響曲第49番「受難」(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. ハイドン:ピアノ協奏曲第11番(ギレリス (Pf)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. ハイドン:交響曲第104番「ロンドン」(バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc14】
  1. シューベルト:交響曲第5番(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. ショスタコーヴィチ:交響曲第14番(ドルハーノヴァ (S)、ネステレーンコ (B)、バルシャーイ/モスクワ室内O)
【Disc15】
  1. ロクシーン:交響曲第5番「シェイクスピアのソネット」(アレン (Br)、バルシャーイ/ボーンマスSO)
  2. ロクシーン:交響曲第4番「シンフォニア・ストレッタ」(バルシャーイ/ドイツ・ナショナル・ユースO)
  3. ロクシーン:ゲーテの「ファウスト」からの3つの情景(プロキーナ (S)、バルシャーイ/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー・アンサンブル・レゾナンス他)
【Disc16】
  1. マルチヌー:ディヴェルティメント(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. バルトーク:ディヴェルティメント(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. ストラヴィーンスキイ:弦楽のための協奏曲(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  4. ストラヴィーンスキイ:バレエ音楽「ミューズをつかさどるアポロ」(バルシャーイ/台北国立SO)
【Disc17】
  1. パーセル:弦楽のための2つのファンタジー(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. ブリテン:シンプル・シンフォニー(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  3. ティペット:2重弦楽オーケストラのための協奏曲(バルシャーイ/バース祝祭室内O)
  4. ティペット:歌劇「真夏の結婚」より「典礼舞曲」(バルシャーイ/ボーンマスSO)
【Disc18】
  1. モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」(バルシャーイ/モスクワ室内O)
  2. ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」(バルシャーイ/東京都SO)
  3. マーラー:さすらう若者の歌(アレン (Br)、バルシャーイ/ケルンWDR SO)
【Disc19】
  1. マーラー(バルシャーイ補筆):交響曲第10番(バルシャーイ/東京都SO)
【Disc20:『マエストロ・バルシャイへの挨拶』】
  1. ボロディーン(バルシャーイ編):弦楽四重奏曲第2番(NSO弦楽アンサンブル)
  2. チャイコーフスキイ(バルシャーイ編):弦楽四重奏曲第1番(NSO弦楽アンサンブル)
  3. ショスタコーヴィチ(バルシャーイ編):弦楽四重奏曲第8番(NSO弦楽アンサンブル)

ヴィオラ奏者、弦楽四重奏をはじめとする室内楽奏者、モスクワ室内管の設立者、指揮者、編曲者……といった、音楽家バルシャーイの全貌を存分に味わうことのできるBOXである。全てCD初出音源とのことであるが、たとえばヴィヴァルディの「四季」がRevelation盤の演奏と同一か否かなどは精査していないため、この宣伝文句を鵜呑みにすることはできないが、既出音源あるいは架蔵済音源と重複があったとしても、これだけまとまった形で整理されているメリットは計り知れない。また、バルシャーイの遺族が制作に協力しているとはいえ、ライヴ録音を偽装したスタジオ録音が含まれている可能性も否定できず、ディスコグラフィを整備するのならばYedang盤などの既出音源とデータ照合をする必要があるだろう。

それにしても、膨大なレパートリーである。データは古いがバルシャーイのディスコグラフィとして公開されているリストを見ると、これでもその全てとは言い難いことに驚かされる。

ヴィオラ奏者としてのバルシャーイはボリソーフスキイに師事しているものの、その精確で洗練された響きは、ボリソーフスキイの孫弟子となるバシメートを彷彿とさせる現代的なものである。贅沢をいえば、D. オーイストラフ/モスクワPOと共演したベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」も聴きたかったところ。

室内楽奏者としては、何よりもギレリスやL. コーガン、ロストロポーヴィチなどの豪華共演陣に圧倒されるが、その存在感たるや、ヴィオラ奏者が目指すべき最高峰とでも言いたくなる。また、モスクワ・フィルハーモニーQ(後のボロディーンQ)やチャイコーフスキイQといった録音自体が稀少な弦楽四重奏団の若々しくも鮮やかな演奏も素晴らしい。

しかし、バルシャーイといえば何よりもまずモスクワ室内管である。本ブログでも何度も記してきたことだが、私のクラシック音楽の原体験は「世界大音楽全集」(河出書房新社)であった。とりわけ、ヴィヴァルディやバッハ、そしてモーツァルトの巻は、文字通り“擦り減るまで”聴いたため、私にとっては(良くも悪くも)デフォルトの演奏である。現代の耳で聴くと必ずしも技術的に完璧ではないのだが、それでいて怜悧な完璧さを体現したようなアンサンブルの凄味は今なお他の追随を許さない境地である。ただ、完璧=冷たい、というわけでは決してなく、バロック音楽にせよモーツァルトやハイドンにせよ、かなり濃厚なロマンを感じさせるところに時代も感じさせられる。モーツァルトの交響曲は音の強度と鋭さが卓越しているので、今となってはさすがにこれをデフォルトとは言い難いものの、ヴィヴァルディとバッハについては、やはり彼らの演奏が私の奥深い部分に刷り込まれているようだ。こうなると色々思い出してきて、子供の頃、特に好きだった「弦楽のための協奏曲 G-dur, RV.151『アラ・ルスティカ』」や「フルート、ヴァイオリンとチェンバロのための三重協奏曲 a-moll, BWV1044」も聴きたくなった。中古LPでも探してみようかな。

モスクワ室内管との録音について付言しておきたいのは、協奏曲の“伴奏”の素晴らしさである。いかにもお仕事的な緩さを感じさせる演奏が少なくなかった当時において、これだけ手抜きをせず緻密に仕上げられた伴奏は、異端とすら言えるだろう。

1977年に亡命した後の指揮者としての活動は、残念ながら音盤という形での記録には恵まれていないだけに、CD4枚分以上の量が収録されているこのBOXの存在はありがたい。身贔屓ではないが、東京都響とのドヴォルザークとマーラーは、普通に傑出した秀演である。バルシャーイ最晩年に良好な関係にあった台北国立響も、立派な水準の演奏を聴かせている。

Disc20は、編曲者としてのバルシャーイに焦点を当てたもので、有名弦楽四重奏曲の弦楽合奏用編曲を、NSO弦楽アンサンブル(NSO=National Symphony Orchestra=台北国立響)がバルシャーイを偲んで指揮者なしで演奏した際のライヴ録音である。演奏の精度は他の収録演奏に比して格段に落ちるのが、残念。

最後に、収録されているショスタコーヴィチ作品の演奏について、まとめて言及しておきたい。ショスタコーヴィチ本人と共演したピアノ五重奏曲は、もしかしたらVogue Archives Soviétiques 651023というCD(現物未確認;弦楽四重奏曲第8番とのカップリング)に収録されているものと同一かもしれないが、現時点では確認する術がない。録音状態は聴き辛くはないものの、音の細かいニュアンスまでは捉えきれておらず、歴史的録音と割り切っていてももどかしさは残る。ただ、演奏は極めて素晴らしい。ショスタコーヴィチの状態もよほど良かったのか、終始端正に整ったピアノであり、若きボロディーンQと抒情的で清らかな美しさが際立つ音楽を聴かせている。演奏のみを評価するのであれば、全録音中のベストに挙げてもよい。ピアノ五重奏曲と同日の録音である弦楽四重奏曲第1番は、ボロディーンQが得意としたレパートリーであるだけに、後年の録音と比較するとセールスポイントに欠ける。もちろん、技術的には十分に洗練されている上に、素直で伸びやかな音楽には清新な魅力があることは言うまでもない。交響曲第14番は、収録日からするにショスタコーヴィチ65歳の誕生日を記念する演奏会でのライヴ録音と思われる。初演時のライヴ録音やスタジオ録音に聴かれる鋭い緊張感の代わりに、どこか泰然とした風格を感じさせる音楽になっている点で、1975年の東京ライヴ(Tokyo FM TFMC-0038)により近い演奏である。これは、ドルハーノヴァの声質が甲高い鋭さではなく、暗く深いものであることも影響しているのかもしれない。ネステレーンコはいささか青臭い気取りを感じさせるものの、安定した立派な歌唱である。NSO弦楽アンサンブルによる室内交響曲は、技術面での粗さが気になる上に、音楽的な踏み込みも甘く、凡庸な演奏。

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_Barshai,R.B.

年末の中古市にて

  • モーツァルト:ディヴェルティメント第1~3番 スピヴァコフ/モスクワ・ヴィルトゥオージ (Victor VIC-28116 [LP])
  • テレマン:組曲 ハ長調、3つのオーボエ、3つのヴァイオリンと通奏低音のための協奏曲 変ロ長調、オーボエ協奏曲 ヘ短調 バルシャーイ/モスクワCO (EMI ALP 2084 [LP])
  • プロコーフィエフ:バレエ「石の花」 ロジデーストヴェンスキイ/ボリショイ劇場O (Victor VIC-4018~19 [LP])
  • ストラヴィーンスキイ(ドゥシキン編):田園曲、ストラヴィーンスキイ:兵士の物語、シュトックハウゼン:「十二宮」より(水瓶座、魚座、牡牛座、蟹座、獅子座、射手座、水瓶座)、シニートケ:ヴァイオリン協奏曲第3番 クレーメル (Vn) ベルリン・フィルハーモニーOの首席奏者達 (King K28C-164 [LP])
  • R. シュトラウス:クレメンス・ブレンターノの詩による6つの歌、プフィッツナー:歌曲集(マルクに寄せて、子守歌、すっぱ抜き、菩提樹の葉陰で、私とあなた、そのかみの日) モーザー (S) ヴェルバ (Pf) (EMI EAC-80075 [LP])
年末は専ら自宅の大掃除に明け暮れていたのだが、一日だけ街に出る用事があったので、年末恒例となっている「中古&廃盤レコード・CDカウントダウンセール」を覗きに、阪神百貨店へと立ち寄ってみた。

掃除で疲れていたこともあって、文字通り覗くだけで済まそうと思っていたのだが、思いの外に混雑していた会場の熱気にあてられて、ついついエサ箱を順にチェックし始めてしまった。時間もあまりなかったので、たまたま割り込むことのできた名曲堂阪急東通店の出品物に限定してエサ箱を漁ること小一時間。5枚のLPをレジへ。

モスクワ・ヴィルトゥオージのモーツァルトは、嫌味なまでに磨き上げられた完璧なアンサンブルの妙を堪能できる一枚。スピヴァコーフ独特の癖のある節回しも、ここでは特に気にならない。ピリオド奏法に影響される前の、旧き佳きモダン流儀の歌が心地よい。LPの帯には「深々とした情感、心ゆくまでの歌。完璧な反復によって曲想を的確にとらえ深くほりさげた、美しくチャーミングな名演。」という煽り文句があったので、間違いなく宇野巧芳氏の解説だと思いきや、意外にも壱岐邦雄氏であった。形容詞の選択に加えて、繰り返しを楽譜通り行う“だけ”で楽曲の真正な解釈になるかのようなこのコピーは、やはり旧き佳き時代の遺物と言ってよいだろう。


この種のアンサンブルといえば、やはりバルシャーイ/モスクワ室内管が僕にとって永遠のスタンダードである。彼らのテレマンは初めて聴いたが、壮麗でありながらも引き締まった響きを通して、幾分泥臭いロマンの萌芽が立ち上ってくるような、期待通りの素晴らしい演奏である。これもまた、旧き佳き時代の遺産である。


プロコーフィエフ晩年の傑作「石の花」は、恥ずかしながら今まで全曲を聴いたことがなかった。輝かしい響きに彩られた美しい旋律の数々は、まさに天才的な音楽としか形容のしようがない。ロジデーストヴェンスキイの演奏には、不満のあろうはずもない。


イニシャルが「S」の作曲家を集めたクレーメルのアルバム(別にそういう意図があったとは思わないが)には、絶頂期のクレーメルの至芸が惜しげもなく詰め込まれている。「兵士の物語」における変幻自在の表現力など、未だにこれを超える才能は現れていないと言ってよいのではないだろうか。シニートケの協奏曲には初演者であるカガーンの見事な録音もあるが、内省的なカガーンの音楽に比べて、時にきらびやかなアピール力を持つクレーメルの音楽の方が、シニートケという作曲家を世に出す上で大きな力を持ったのは、至極当然のことであろう。


R. シュトラウスとプフィッツナーの歌曲集は、聴いたことのない作品ばかりが収録されていることに惹かれて確保したもの。手堅くまとめられた地味な歌唱であるが、濃厚なロマンの香りがじっくりと全身に沁み入るような空気感が心地よい。とりわけプフィッツナーの渋い美しさは、癖になる。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Prokofiev,S.S. 作曲家_Stravinsky,I.F. 作曲家_Schnittke,A.G. 作曲家_Pfitzner,H. 演奏家_Barshai,R.B.

バルシャーイのヴィオラ小品集/フォミーン:喜歌劇「替馬所の御者達」

  • N. ティトーフ(ボリソーフスキイ編):ロマンス、ブラーホフ(ボリソーフスキイ編):カンツォネッタ、ヴェルストーフスキイ(ボリソーフスキイ編):2つの主題による変奏曲、J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より「シャコンヌ」 バルシャーイ (Va) デデューヒン、ヤンポーリスキイ (Pf) (Melodiya D-2396-7 [10"mono])
  • フォミーン:喜歌劇「替馬所の御者達」 チェルヌシェーンコ/レニングラード音楽院O他 (Melodiya C10 19625 009 [LP])
11月頭にArs Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.へ注文した品が届いた。その中から、まずは2枚を聴いてみた。

バルシャーイのヴィオラ小品集は、僕にとっては期せずして彼の追悼盤のようになってしまった。バルシャーイがヴィオラ奏者として活躍していた時代の録音なのだろう(原盤はSP?)、録音状態はかなり悪い。だが、バルシャーイのヴィオラにはそれを補って余りある甘美な美しさがある。A面の3曲は、グリーンカ登場以前の作曲家達による小品を、ベートーヴェンQの初代ヴィオラ奏者ボリソーフスキイが編曲したもの。いずれも歌謡性に富んだ、仄かに感傷的で平明な旋律に胸を打たれる。バルシャーイの演奏は、これらの魅力を完璧に引き出していると言ってよい。モスクワ室内Oを指揮した時に聴かれる透徹した機能美とは異なり、臆面もなく青臭い感傷を歌いあげるような弾き方に、20世紀中頃のロシア人演奏家に共通する時代の香りを感じる。「シャコンヌ」には、こうしたバルシャーイの美質が存分に発揮されている。現代でこういう演奏をする人は(プロでは)皆無に等しいだろうが、このどこか人懐っこい多彩な表情が持つ説得力は今でも色褪せてはいない。

なお、A面2曲目の作曲者としてクレジットされているP. ブラーホフは、兄のピョートル・ペトローヴィチなのか、弟のパーヴェル・ペトローヴィチなのか、イニシャルだけでは分からない。



フォミーンの代表作である「替馬所の御者達」(全1幕)は、対訳はおろか解説の類が一切なく、男性によるナレーションが話の筋などを補っているようだが、LP1枚、計40分弱の録音がオリジナルの形をどれほど伝えているのかは分からない。いかにも宮廷音楽風の序曲から始まるが、2曲目の合唱が始まると突如としてロシア風の感傷的な節回しが現れる。18世紀西ヨーロッパの音楽の枠組みにありながら、ロシア国民楽派の萌芽とでも言うべき音調が盛り込まれている点で、大変興味深い作品である。

tag : 演奏家_Barshai,R.B. 作曲家_Fomin,E.I.

バルシャーイの10枚組BOX(Brilliant)


  • ルドルフ・バルシャーイ・エディション バルシャーイ/モスクワCO他 (Brilliant 9010)

3月22日の記事で紹介した買い物の残り。発売されてから既に一年近く経っているが、僕にとってバルシャーイ/モスクワCOの演奏は子供の頃の刷り込みであり(1997年8月25日の記事)、彼らの多彩なレパートリーをまとめて聴くことのできるこのセットを無視することは、どうしてもできない。

収録曲は、以下の通り:
【CD 1】
J. S. バッハ(バルシャーイ編):フーガの技法(1969.6.19)
【CD 2】
J. S. バッハ(バルシャーイ編):フーガの技法(1969.6.19)
グルック:バレエ組曲「ドン・ファン」より「ピチカート」(1965.1.20)
ラモー:協奏曲第6番(1956.9.23)
ラモー:ガヴォット(コルニェエフ (Fl) 1956.9.25)
リュリ:メヌエットとアリオーソ(1956.9.23)
マレ:3つの小品(1956.10.2)
パーセル:幻想曲第8&12番(1959.11.27)
【CD 3】
ハイドン:トランペット協奏曲 変ホ長調(ドクシーツェル (Tp) 1961.12.21)
ハイドン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調(モレイラ=リマ (Pf) 1974.6.28)
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」(1973.8.9)
【CD 4】
モーツァルト:交響曲第29番(1963.10.14)
モーツァルト:ディヴェルティメント第17番(1968.4.9)
【CD 5】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調(1968.4.10)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番(リル (Pf) 1970.7.1)
ベートーヴェン:交響曲第8番(1967.12.13)
【CD 6】
ドビュッシー:「子供の領分」より「小さな羊飼い」(1956.9.25)
プーランク:「6人組のアルバム」より第5曲「ワルツ」(1956.9.25)
ヒンデミット:「愛好家および音楽仲間が歌い、演奏する音楽」より第3曲「クープファルツからきた狩人」(1959.11.27)
マルティヌー:ディヴェルティメント(1959.11.27)
バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント(1960.12.3)
バルトーク(ヴェイネル編):子供のために(1962.3.3)
ブリテン:シンプル・シンフォニー(1962.3.3)
【CD 7】
ショスタコーヴィチ:交響曲第14番(ヴィシネーフスカヤ (S) レシェティーン (B) 1969.10.6)
ヴァーインベルク:シンフォニエッタ第2番(1967.3.7)
【CD 8】
ショスタコーヴィチ(バルシャーイ編):弦楽のための交響曲 Op.118a(1967.3.7)
ショスタコーヴィチ:前奏曲とフーガより第20&8番(1960.11.22)
ラーツ:弦楽のための協奏曲(1963.10.14)
B. チャイコーフスキイ:室内交響曲(1967.10.27)
【CD 9】
プロコーフィエフ(バルシャーイ編):束の間の幻影(1967.3.7)
プロコーフィエフ:子供の音楽より「おとぎ話」(1959.11.27)
メエロビッチ:室内管弦楽のためのセレナーデ(1967.3.7)
K. ハチャトゥリャーン:チェロ・ソナタより「アリア」(1967.3.7)
ロクシン:交響曲第7番(グリゴーリエヴァ (A) 1974)
【CD 10】
ブーニン:交響曲第5番(モスクワPO 1968~70)
ブーニン:室内管弦楽のための協奏曲(1962.3.29)
ストラヴィーンスキイ:弦楽のための協奏曲 ニ調(1960.11.22)
ストラヴィーンスキイ:ダンバートン・オークス(録音:1962.3.25)
Classic CaféというサイトのBarshai Discographyを見ると既発音源も多く含まれているようで、例によって、ライヴ録音とされていても収録年月日などのデータがどこまで正しいのかはわからない。以下、ディスク順に。

【CD 1】彼らの「フーガの技法」は、既にYedang盤を架蔵していたが、透徹したアンサンブルの見事さが際立つものの、全体としてはやや退屈さが否めないという感想は、今回改めて聴き直しても変わらなかった。“バルシャーイ編曲”とクレジットされているが、この曲集の内容と性格を考えるならば、そのことに大きな意味は見出せない。「2台のクラヴィアのためのフーガ」は省略されているが、これは純粋に編成上の理由だろう。なお、Yedang盤では1枚に収録されていたが、ここでは最後の一部が2枚目に分割されている。対位法第12と第13の正立形と倒立形とが別のトラックに分割されているため、トラック数も異なっている。さらに、最後の「5度の対位法による12度のカノン」と「3つの主題によるフーガ」の演奏順がBrilliant盤とYedang盤とでは逆になっているが、恐らくは未完のフーガが最後になる方が正しいように思えるものの、確たるところは分からない。

【CD 2】「フーガの技法」の結尾部分に続き、バロック期の作品が収録されている。いずれもモスクワCOが結成されてから間もない1956年の録音で、驚嘆すべきアンサンブルの質をもって彼らがデビューしたことを証明する貴重な記録といえるだろう。今となっては“正しくない”演奏様式なのだろうが、息遣いに至るまで徹底して整えられた人工美は、バロック音楽に相応しいようにも思われる。ただ、バルシャーイと奏者の両者の意識が技術的な完璧さに集中しているように感じられ、音楽に愉悦感がないのが惜しい。

【CD 3】ハイドンの3曲が収録されているが、残念ながら堅実であるという以上の特徴を感じ取ることはできない。中では、ドクシーツェルのトランペットが華麗な情感に溢れていて、すこぶる魅力的。もっとも、ロシア臭のきついハイドンなので、好き嫌いは分かれるだろう。

【CD 4】モーツァルトも、音楽の香りに乏しいのが惜しい。特に団体の技術の高さをこれでもかと見せつけるような交響曲第29番は、嫌みですらある。もっとも、スピヴァコーフ/モスクワ・ヴィルトゥオージも同種の曲で似たような演奏を聴かせることがあり、弦楽器奏者が思い通りになる手兵を得ると、ついついやってしまう音楽の傾向なのかもしれない。

【CD 5】モーツァルトのディベルティメントは、結成から10年以上を経て最盛期にあったこのコンビの凄味を端的に示している。弦楽四重奏以上に緊密なアンサンブルと言ってもよい。僕にとっては、カラヤン/ベルリンPOの怪演と並んで絶対にはずせない演奏である。悪趣味過ぎますかね?ベートーヴェンの2曲は、CD3とCD4のハイドンやモーツァルトに比べると演奏内容が格段に豊か。

【CD 6】編曲作品を含む小品を集めた1枚。こういう“軽い”曲でも精緻極まりない仕上げを追求しているのが、このコンビの魅力でもある。鋭利な刃物で一気に切り裂くような音のアタックゆえに、どの曲も同じように聴こえてしまうのは否めないが、減点材料にはならない。

【CD 7】ショスタコーヴィチの交響曲第14番は、Russian Disc盤などで知られている既発音源。ライヴゆえの瑕はあるが、冷徹な狂気の奔流に圧倒される名演。初めて聴いたヴァーインベルグのシンフォニエッタ第2番は、少々印象が薄いものの、とても美しい音楽。常に濁った情念の渦が感じられるのは、いかにもヴァーインベルグらしい。

【CD 8】バルシャーイが編曲したショスタコーヴィチ作品の初出音源が含まれた、このセットの中で最も楽しみにしていた1枚。その期待は十分に満たされた。特に弦楽四重奏曲第10番の編曲は、背筋に寒気が走るような怜悧さと濃密なロシア風の情感とが高い次元で共存する、非の打ちどころがない名演である。第8番と違って第10番にはこれといった録音がなかったので、この録音が現時点での決定盤となろう。24の前奏曲とフーガからの編曲も抒情的な雰囲気が豊かな演奏だが、編成ゆえか少々ロマンティックに過ぎるようにも感じる。ラーツ作品で惜しげもなく繰り出される圧倒的な名技と、ボリース・チャイコーフスキイ作品の多彩な響きや表情を見事に描き分ける音楽性の高さも驚異的である。

【CD 9】現代ソ連音楽集といった風情のこの1枚も楽しみにしていたが、肝心の作品がそれほど面白くなかったというのが正直なところ。中では、ロクシン作品が印象に残った。何度か聴き込めば、また違った風景が見えてきそうな気もする。ロクシンについて、詳しくはこちら

【CD 10】ブーニンの2曲は、ヴァーインベルグからユダヤ風の民族臭を抜いたような感じ。ショスタコーヴィチの影響があからさまだが、これはこれで十分楽しめる。ただ、どちらもバルシャーイ/モスクワCOのコンビで聴く必然性は、あまり感じられない。演奏そのものは、隅々まで引き締められた立派なもの。興味深かったのは、ストラヴィーンスキイの「ダンバートン・オークス」。この曲は、かぶとやま交響楽団の第29回定期演奏会で弾いたことがあるが、苦戦の末に、どこかゴツゴツした肌触りの演奏に仕上がった記憶がある。それは自分達の演奏技術の低さに起因するものでもあるが、いくつかの録音を聴いても似たような印象を受けたこともあり、そういう曲なんだと思っていた。ところがバルシャーイ/モスクワCOの演奏は、このイメージとは全く異なる、柔らかく滑らかで、鼻歌のようなお洒落さを感じさせるもの。最上の解釈、と言ってしまうにはまだ抵抗があるものの、このセットの中で最も衝撃を受けた演奏とは言える。

HMVジャパン

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_Barshai,R.B. 作曲家_Shostakovich,D.D.

ソヴィエトの「四季」

仲間内では周知のことなのだが、僕は旧ソ連の演奏家に目がない。理由は簡単。ショスタコーヴィチの音楽にハマったからだ。そりゃ、初演時の録音とか、定評ある演奏とか片っ端から集めていたら、いやでも旧ソ連の人達の演奏を聴くことになりますわな。

ところが、どうもそれだけではないことに気がついた。実は、小さい頃家で聴いていたレコードというのが河出書房からでていた名曲全集の類だったのだが、そこに収められている演奏というのが旧ソ連製のものばかり。ベートーヴェンのエロイカなんかイワノフの演奏でっせ。あ、いや別に我が家が思想的にどうだったということはありませんよ、念のため。しかし、聴いている曲はごくごく普通の“名曲”なのに、演奏がひと癖もふた癖もあるものだったとは…。許光俊氏風にいえば、まさに“邪悪”な音楽的環境だった訳ですね(^^;。そりゃ、趣味も悪くなるわ。

さてその名曲全集の第1巻というのがヴィヴァルディ。LP2枚組なのだが、「四季」以外は比較的マイナーな協奏曲ばかりというマニアックな選曲。演奏はバルシャイ指揮のモスクワ室内管弦楽団。僕がヴァイオリンを始めた頃、そう幼稚園の頃から数年の間は、このLPが愛聴盤だった。本当にすり減るまで聴きました。だから僕にとって「四季」のリファレンスはこの演奏ということになる。何ということだ!しかし、残念ながらCD化はされていないようで、大学に入って京都に来てからはこの演奏を聴いたことがなかった。

それが、たまたま土曜日に梅田のタワーレコードをうろついている時に見つかったのだ。
  • Vivaldi: ‘The Seasons’ Op. 8、Double Concerto for Two Horns、Double Concerto for Two Oboes
    Rudolf Barshai/Moscow Chamber Orchestra (REVELATION, RV10043)
正確に言うと、この演奏はライヴで放送用音源か何かをCD化したものだと思われ、僕の聴いていた録音とは違うようだ。でも、聴いた印象はほとんど同一のもの。そりゃ、正確無比を売り物にしていた彼らの演奏だから、ライブだからといって大きく変わることもないだろうが。

いやあ、しかしこの演奏は“濃い”。ロシア式の奏法で音のすみずみまでしっかりとヴィヴラートをかけた上に、リズムもテンポも何もかもぴったりと揃っているものだから、ただでさえロマンチックな演奏の傾向が増強されている。古楽器派の人にはまったくもって許し難い演奏だと思う。でも、何か良いのですよね。僕の持っている「四季」のCDは、パールマン、ズッカーマン、シュバルヴェ、ムター、クレーメル、ヴィオンディそれにスターン・ズッカーマン・ミンツ・パールマンが1曲ずつ弾いているやつで、皆それぞれ個性的だし、ある意味で“イタリア的”な演奏は一つもないとさえ言えるのだが、その中でもこのバルシャイ盤はひときわ異彩を放っている。

それにしても、なぜこの演奏がこんなにもしっくりくるのだろうか?北海道生まれの僕とモスクワっ子の彼らとの季節に対する感覚が似通っているからなのでしょうかねぇ。とりあえず、“今さら「四季」なんて”という人達にはお薦めです。ヴィオンディ盤並の衝撃があるかも(^^)。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_Barshai,R.B.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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