社会主義リアリズム三昧

  • アレーンスキイ:交響曲第1番、組曲第1番 セローフ、イヴァーノフ/モスクワ放送SO (EMI ASD 3642 [LP])
  • フレーンニコフ:バレエ「軽騎兵のバラード」(組曲) フェドセーエフ/モスクワ放送SO (eurodisc 206 406-425 [LP])
  • カバレーフスキイ:カンタータ「わが祖国」、カンタータ「明日の歌 春と平和」、歌曲(学生時代、おやすみ、幸せ) キタエーンコ、カバレーフスキイ/モスクワPO 児童合唱団“春” (Melodiya C10 22421 000 [LP])
  • アルテュニャーン:トランペット協奏曲、クリューコフ:トランペットと管弦楽のための協奏的詩曲、ヴァーインベルク:トランペット協奏曲 ドクシーツェル (Tp) ロジデーストヴェンスキイ、ジュライティス/ボリショイ劇場O (Melodiya C10 02273 009 1968 [LP])
  • My Boundless Motherland(ドゥナエーフスキイ:祖国の歌、ホールミノフ:レーニンの歌、トゥリコフ:我ら、共産主義者、バスネル:労働者階級は行進する、ショスタコーヴィチ:E.ドルマトーフスキイの詩による4つの歌曲より「祖国は聞いている」、フレーンケリ:ロシアの曠野、ロシア民謡:カリーンカ、ノーヴィコフ:星に向かって、ロシア民謡:雪の山で、ポノマレーンコ:その歌は何処で聴けるの、ロシア民謡:行商人) (Melodiya 33CM-03745-6 [LP])
  • ディレーツキイ:Solemn Song「 Glorify the name of the Lord」、クレスチヤーニン:Befittingly、カラーシニコフ:12声部のコンツェルト「ヘルヴィームの歌」、ベレゾーフスキイ:Do not reject me in my old age、ボルトニャーンスキイ:ヘルヴィームの歌第7番、コンツェルト第24番「I lift up my eyes to the hills」、ヴェーデリ:コンツェルト第3番「How long, O Lord, how long wilt thou forget me?」 ユルローフ/ロシア共和国合唱団 (EMI ASD 3102 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番、ボロディーン:弦楽四重奏曲第2番 ブルガリアQ (Harmonia Mundi HMO 34.709 [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.からの、11月到着分。ここ数ヶ月、何かとばたばたしていたせいか、LPに針を落とすのは久し振りのような気がする。

アレーンスキイの甘美な音楽は、グラズノーフと並んで僕の愛好するところだが、交響曲第1番も期待に違わぬ憂愁の旋律美に満ちた素敵な作品である。セローフのやや直情的な演奏も、作品の若々しい魅力を率直に伝えてくれる。カップリングの組曲第1番も同様だが、イヴァーノフに剛毅でスケールの大きな演奏を期待していただけに、よくまとまった普通の演奏ではあるものの、どこか肩透かしをくらった感じ。もちろん悪くはないのだが、この曲に関してはスヴェトラーノフ盤の方が良い。


フレーンニコフの「軽騎兵のバラード」は、スヴェトラーノフお得意のアンコール・ピースでもある「アダージョ」しか聴いたことがなかった。できれば全曲盤が欲しいところではあったが、この組曲(編者は分からなかった)も20曲が抜粋されているので、とりあえずは良しとしよう。誰もが口ずさめるような分かりやすく平易な旋律に、大仰で華やかなオーケストレイション、程よく民族臭が散りばめられた和声とリズムなど、まさに「社会主義リアリズム」の極致と言っても構わないだろう。こういう曲をやらせたら、フェドセーエフは天下一品だ。


カバレーフスキイの児童合唱用の作品集も、「社会主義リアリズム」のお手本のようなアルバムだ。2曲のカンタータは、一聴しただけでは明確に区別できないほど曲調や構成などがよく似ている。音楽史上にその名を轟かせるような作品ではないが、ソ連音楽のある時代の特徴が凝集した作品と言うことはできるだろう。カバレーフスキイ自身が伴奏をした3つの歌曲は、映画音楽や劇音楽などからの抜粋なのか、元から児童合唱用に作曲されたものなのか定かではないが、伴奏のオーケストレイションも含めていずれも魅力的な小品である。


ドクシーツェルが独奏を務めた現代ソ連トランペット協奏曲集は、彼のアルバムがいつもそうであるように、ドクシーツェルの圧倒的な名技を堪能すべき内容。有名なアルテュニャーンの協奏曲は言うまでもなく、クリューコフの幾分地味な作品でも、ドクシーツェルの華麗な音楽が惜しげもなく繰り広げられる。とはいえ、このアルバムのメインはヴァーインベルクの協奏曲だろう。ショスタコーヴィチ風の瞑想から民族色が暴発し続ける狂喜乱舞まで、ヴァーインベルグの音楽の諸相を適切に音化しつつも、その全てをドクシーツェル色に染めてしまう音楽性と個性の強烈さが素晴らしい。


恐らくはソ連時代の愛国歌集と思われるアルバムが、リストの中にあった。そこにショスタコーヴィチの名前が挙がっていたので、既に架蔵済みの音源である可能性が高いと思いつつもオーダーしてみた。届いた現物を確認してみると、「My Boundless Motherland(広大なる我が祖国)」というタイトルで、アエロフロート社50周年を記念して制作・頒布されたアルバムであった。雰囲気から察するに国外からの旅行者を対象としているようだが、搭乗者全員に無償で渡されたのか、それとも機内販売のような形で希望者だけが購入したものなのかは判然としない。それはともかく、ソ連大衆歌曲の粋を集めた内容は、単なるお土産の域を超えている。イヴァーン・ペトローフの雄大極まりない「祖国の歌」の名唱に、「リェエーニィイーン」の甘美な連呼が次第に理性を蝕んでいく「レーニンの歌」と続く最初の2曲で、ソ連大衆歌曲の世界が畳みかけるように聴き手の心身を縛り付けてしまう。残念ながら目当てのショスタコーヴィチは、ガガーリンが宇宙で歌ったとされる「祖国は聞いている」の有名な録音で、予想通りの結末であったが、いかにもな愛国歌が並べられたA面の威力は相当なものである。一方のB面は、映画音楽などの大衆歌謡と古典的なロシア民謡とが交互に並べられた構成。とりわけ憂愁のロシア情緒が惜しげもなく垂れ流される歌謡曲は、抗い難いほど魅力的だ。映画「小悪魔たちの大冒険」(1969年)の挿入歌「ロシアの曠野」のグリャーェフ、「星に向かって」のズィーキナ、「その歌は何処で聴けるの」のヴォローネツといった、当時のソ連で人気のあった歌手達の雰囲気豊かな歌唱も素晴らしい。音源の選択が実に絶妙なアルバムだ。



映画「小悪魔たちの大冒険」より
Новые приключения неуловимых
フレーンケリ:ロシアの曠野
グリャーェフ(歌)
ノーヴィコフ:星に向かって
ズィーキナ(歌)
ポノマレーンコ:その歌は何処で聴けるの
ヴォローネツ(歌)


濃厚なロシアの香りを堪能した後のクールダウンに、17~8世紀のロシア聖歌集というのは、期せずして良い選択となった。ボルトニャーンスキイ以外は今まで名前しか知らなかった作曲家ばかりで、各々の個性を明確に把握するには至らないものの、資料として十分に価値がある。ただ、ユルローフ/ロシア共和国合唱団の演奏が楽曲の時代様式をどれほど踏まえているかには疑問が残る。もちろん、いわゆるヒーリング・ミュージック風の聴き易さに文句を言うつもりはない。


ブルガリアQのショスタコーヴィチは、ディモフQ名義の架蔵済みLP(Columbia OS-2901-HA)と同一音源。技術的な怪しさはあるものの、それほど悪くない演奏である。

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : USSR大衆歌曲 作曲家_Arensky,A.S. 作曲家_Khrennikov,T.N. 作曲家_Kabalevsky,D.B. 作曲家_Weinberg,M. 演奏家_Dokschitzer,T.A. その他_正教会

【YouTube】Timofei Dokschitzer Trumpet Collection

気の赴くままにYouTubeをさまよっていると、ポーストニコヴァとロジデーストヴェンスキイの夫婦共演によるショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番の映像を見つけた。ただし、投稿者はあくまでも“ドクシーツェルの”演奏としてこの映像を投稿しているようだ。実は全く同じ顔ぶれによる録音も、ドクシーツェルをフィーチャーしたアルバム(Melodiya C10 28215 004 [LP])に収録されている(舞台上に数多くのマイクが林立していることを考えると、このライヴ録音と映像とは同一の演奏の可能性が高い)。

演奏はポーストニコワの個性が色濃く投影した、ロシア風の鈍重さが特徴的なもの。ドクシーツェルの華麗な名技が、そこに類稀なる輝かしさを与えている。ロジデーストヴェンスキイの手堅いサポートもあって、二つの異質な個性が合奏協奏曲の枠の中にうまく収まっている。

第1~2(1)楽章第2(2)~4楽章
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
ポーストニコヴァ (Pf)、ドクシーツェル (Tp)、ロジデーストヴェンスキイ/パリO

このピアノ協奏曲の映像には、「Timofei Dokschitzer Trumpet Collection 9 & 10」というタイトルが付けられている。当然ながら1~8も投稿されているので、以下にまとめておく。
【No. 1】
ハチャトゥリャーン:「スパルターク」第3組曲より「エジプトの乙女の踊り」
メンデルスゾーン:無言歌第45番 Op. 102-3「タランテラ」
Сырба(不詳)
ハチャトゥリャーン:「スパルターク」第3組曲より「市場」
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
【No. 2】
ラフマニノフ:ヴォカリーズ
A. ルビンシテーイン:ヘ調のメロディ
サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン
【No. 3】
シチェドリーン:アルベニス風に
ショスタコーヴィチ:3つの幻想的な舞曲
クライスラー:愛の喜び
クライスラー:愛の悲しみ
クライスラー:美しきロスマリン
【No. 4】
ショパン:24の前奏曲より第4番
フィビフ:詩曲
ドクシーツェルの語り
ミャスコーフスキイ:「黄ばんだページ」より
リームスキイ=コールサコフ:歌劇「皇帝サルタンの物語」より「熊蜂の飛行」
【No. 5】
ドビュッシー:レントより遅く
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
ドクシーツェルの語り
アルテュニャーン:トランペット協奏曲より第3楽章
V. ペトローフ:湖畔にて
【No. 6】
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第8番前奏曲
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第17番前奏曲
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第22番前奏曲
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第12番前奏曲
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第20番前奏曲
J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻より第9番前奏曲
【No. 7】
J. S. バッハ:コラール「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV659
J. S. バッハ:コラール「われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ」BWV639
J. S. バッハ:前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539より前奏曲
ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第4番より第3楽章
【No. 8】
カッチーニ(ヴァヴィロフ):アヴェ・マリア

No. 1No. 2
No. 3No. 4
No. 5No. 6
No. 7No. 8

金管四重奏に始まり、ピアノ伴奏、オルガン伴奏、ヴァイオリン・アンサンブルとの共演、声楽とオルガンとの共演など、質量ともに充実の動画である。まずは、これほどの貴重なコレクション(の一部?)を惜し気もなく公開してくれたことを、投稿者に感謝したい。

トランペットの技術的なことは分からないが、まさにこれぞロシアのトランペットという桁外れに力強くも甘美極まりない響きには、圧倒的な存在感と説得力がある。

ピアノ伴奏の小品集(他楽器用の作品の編曲物)も悪くはないのだが、No. 6以降に収められたバッハの前奏曲集やヘンデルが、トランペットという楽器の本来的な魅力を放っているように思われる。現代の基準からするとロマンチックに過ぎる演奏には様式上の問題があるものの、たとえばヘンデルに聴かれる濃厚なロマンには、多くの聴き手が本能的に惹きつけられるに違いない。路線は多少違うが、No. 5に収められているV. ペトローフの「湖畔にて」も印象的だ。どういう由来の曲なのかは知らないが、題名通り、湖の畔に立ってトランペットを吹くドクシーツェルの姿が、曲の安っぽい昼メロのような雰囲気を助長していてたまらない。

こうしたドクシーツェルの特質は、バロックを“騙った”「カッチーニのアヴェ・マリア」に凝集されている。単なるオブリガートの枠をはみ出してアルヒーポヴァと対等に渡り合うドクシーツェルのトランペットは、この楽器の最良の規範と言って構わないだろう。

ドクシーツェルについては「風のクラシック」というブログが詳しい。当然ながら、これらの映像についてもエントリーがある。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_Dokschitzer,T.A.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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