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ABQの揺籃期

  • ショスタコーヴィチ:交響詩「ステパーン・ラージンの処刑」、交響曲第2番 ハナーク (B) スロヴァーク/スロヴァキアPO & cho. (Supraphon SUA ST 50958 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:「ミケランジェロの詩による組曲」より第1、4、5、10、11曲、交響曲第1番 ノヴァーク (B) クリメシュ (Pf) コウト/チェコPO (Panton 11 0604 H [LP])
  • ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガより第24番、弦楽四重奏曲第6~8番 ダフォフ/トルブーヒンCO (Balkanton BKA 12305/6 [LP])
  • ハイドン:交響曲第1番、J. C. バッハ:シンフォニエッタ ハ長調、L. モーツァルト:シンフォニア・ダ・カッチャ ト長調、J. シュターミッツ:マンハイム交響曲 ト長調 ベッチャー/ウィーン・ゾリステン (amadeo AVRS 6298 [LP])
  • モーツァルト:ピアノ協奏曲第14&12番 エンゲル (Pf) ベッチャー/ウィーン・ゾリステン (amadeo AVRS 6319 [LP])
  • メンデルスゾーン:弦楽のための交響曲第9番、八重奏曲 ウィーン・ゾリステン (Metronome 201.818 [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.から届いた荷物は、ショスタコーヴィチ関係が3枚に、4月25日のエントリーで触れたウィーン・ゾリステンのアルバムが3枚の、計6枚という内容。

スロヴァーク/スロヴァキア・フィルのアルバムは、「ステパーン・ラージンの処刑」はPraga盤CDで、交響曲第2番はOpus盤LPでどちらも架蔵済み。Praga盤は音質をかなりいじっているのか、「ラージン」は細部の印象が異なる箇所もあるものの、いずれにせよそれほどの演奏ではない。一方の交響曲第2番は洗練さに欠けるものの、聴き応えはある。


ショスタコーヴィチの最晩年の歌曲と最初期の交響曲とをカップリングしたアルバムは、歌曲がピアノ伴奏である上に抜粋であることなど、その企画意図はよくわからない。ミケランジェロ組曲は、あまり意味の感じられない抜粋の仕方であることを除けば、録音で取り上げられる機会のそれほど多くないピアノ伴奏版であるだけでなく、独唱も伴奏ピアノも地に足のついた存在感のある立派な歌唱であり、一聴の価値はある。交響曲は、颯爽とした切れ味には不足するものの、各楽章の特徴が模範的に描き分けられており、作品を十分に楽しむことができる。


ブルガリアの弦楽合奏団によるショスタコーヴィチ・アルバムは、全曲オリジナルの編曲による演奏のようだ。編曲者が一切記載されていないために詳細は不明だが、有名な第8番もバルシャーイ版とは異なる。第8番以外は必ずしも弦楽合奏の形態が相応しいとは言い切れない楽曲ではあるものの、熱のこもった共感が溢れ出すような勢いのある演奏で、技術的にはやや鈍重ながらも聴き手を惹き込む力を持った演奏である。


ウィーン・ゾリステンによる初期古典派のアルバムは、全編に渡って活力が漲り、生気のあるリズムと技術面の清潔さが何とも心地よい。1980年代前半のアルバン・ベルクQの音楽に通じるものがある。この響きの形成に、この団体の録音の多くで指揮をしているベッチャーがどのように関わっているのか、あるいは関わっていないのか、知りたいところではある。


エンゲルを独奏に迎えたモーツァルトのピアノ協奏曲集は、落ち着いた渋みを漂わせつつも清冽で上品な情緒を紡ぐエンゲルの独奏と、爽やかな活気を持った端正なオーケストラとの組み合わせが地味ながらも何とも魅力的である。第12番はこの30年近く後に、アルバン・ベルクQがブレンデルと共演して録音している。この選曲の背景に、ピヒラーの若き日の経験があった……のかもしれない。


メンデルスゾーンの作品集は指揮者の名前がクレジットされていないので、指揮者なしの演奏なのだろう(演奏者の名前は全てクレジットされている)。ピヒラーの弾く八重奏曲を期待していたのだが、残念ながら第1ヴァイオリンは別人。メッツェルとバイエルレは参加している。チェロが若干弱い感じはするものの、内声が充実した精度の高いアンサンブルで、ウィーン・ゾリステンという団体の底力、あるいはこの団体に参加していた演奏家達の水準の高さを感じ入らせてくれる演奏である。弦楽のための交響曲も、極めて室内楽的な演奏であり、ピヒラーが精力的にリードしている様子がそこはかとなく窺えるような音楽となっている。


ウィーン・ゾリステンには、モーツァルトのセレナードや、後期バロック~初期古典派の各種協奏曲などの録音がまだまだあるようだ。私自身が架蔵していないレパートリーがほとんどなので、目に付いたらぼちぼち買い集めていきたいと思う。
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いまさらながら、2010年代前半の注目盤

  • ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 ネルソンス/バーミンガム市SO (Orfeo C 852 121 A)
  • ヤナーチェク:弦楽四重奏曲第1&2番 アルカディアQ (Orchid Classics ORC100036)
  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集 ベルチャQ (Alpha ALPHA262)
アリアCDで、目に付くままにオーダーしたものがまとめて届いた。

近年とみに評価を高めている指揮者の一人であるネルソンスは、音楽監督を務めているボストン響とショスタコーヴィチの交響曲を録音するプロジェクトを2015年から進行中だが、この第7番はそれに先立つ2011年のライヴ録音。ネルソンスの演奏は、アラベラ・美歩・シュタインバッハーの独奏によるショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の録音で聴いたことがあるのみで、この音盤の印象が良くなかったため、世評が高くなってきてもなお触手が伸びなかった。

ところが、この第7番のライヴは、最良の意味においての現代的な演奏で、全楽章を通して非常に感じ入ってしまった。オーケストラの機能はそれほど高くないのだが、隅々まで目配りの行き届いたアンサンブルと、スコアを逸脱することなく、それでいて情感と熱量が十分に込められた音楽は、流麗かつ端正でありながらもスケールの大きなもの。両端楽章の心の底からの共感を窺わせる盛り上がりも素晴らしいが、中間の2つの楽章のニュアンスに満ちた音楽はこの演奏を際立たせており、特筆に値する。音楽の流れや佇まいを歪めることなく、ごく中庸で標準的なテンポを採りながらも、その内容の訴求力は群を抜いている。


ルーマニアの弦楽四重奏団であるアルカディアQのデビュー盤であるヤナーチェクの2曲は、これらの作品の決定盤と言いたくなるほどの完成度である。2014年の大阪国際室内楽コンクールで優勝する前の録音だが、2005年の結成後、既にいくつかの国際コンクールで華々しいキャリアを積んでおり、若々しさと同時に堂々とした貫禄も感じられる。

ヤナーチェクの“田舎臭さ”よりも、表現主義的な前衛的な響きが前面に押し出された演奏で、若きハーゲンQの録音を彷彿とさせるが、技術的な鮮やかさと完成度は比較にならないほど本盤の方が高い。時に暴力的なまでの刺激的な鋭い激しさが印象的だが、夢と不安が同居しているような弱奏部の雰囲気の表現力は圧倒的。スメタナQの秘技を尽くしたような老獪さとは対極にある演奏だが、晩年のヤナーチェクの精力に満ちた激しい若々しさを直截的に表出した、極めて印象的な名演である。


数度のメンバー交代を経て押しも押されぬ中堅団体となったベルチャQが、現在に至るメンバーになってから満を持してリリースしたベートーヴェンの全集は、知る人ぞ知るといった感じで、絶賛する人が少なくない割にその名が挙げられることがあまりなく、私もこれまで入手する機会がなかった。

ヴィブラートの抑制的な使用、弱音を活かした繊細な響き、洗練されたアンサンブル……といった現代の名団体に共通する長所を全て備えた、よく考え抜かれた演奏という印象である。初期から後期に至るまで、いずれの作品においても高い水準で仕上げられている。

しかし、あまりに弱音に拘り過ぎた結果、音楽の焦点がぼやけたり、過剰な緊張感が楽曲全体の集中力を削いだりする箇所が多いのは、私には受け入れられない。しかも、ほとんどのクレッシェンドの息が短く、急激に音量を増した結果のフォルテが悉く汚いのも気になる。たとえば第16番の第3楽章では、楽章全体が第2変奏のPiù lentoと同じ音量で、楽章の核となるこの変奏の印象が薄まっている上に、頂点のフォルテが鋭いだけで興を削いでいる。こうした弱音重視の意図はよく分かるのだが、やはり全体を俯瞰したデュナーミクのバランスが大切で、この全集に聴かれる極端な偏りは、むしろアンサンブル技術の誇示にしか聴こえない。

とはいえ、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を聴く愉しみは、十分に味わうことができた。多くの全集ではほぼ番号順に収録されているのに対し、本全集は1枚が1つの演奏会のような曲順で収録されているのも良い。

theme : クラシック
genre : 音楽

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【楽曲解説】ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番

Ludwig van Beethoven
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)


Streichquartett Nr. 16 F-dur, Op. 135
弦楽四重奏曲第16番 ヘ長調 作品135



 ベートーヴェン最後の弦楽四重奏曲となった第16番は、慢性的な内臓疾患に加えて甥カールの自殺未遂という事件もあり、心身共に破滅的な状況下で作曲されました。事件後に静養していたカールとグナイクセンドルフで過ごした2か月ほどの間に書き上げた後、わずか半年足らずで死を迎えることになります。この作品に対してしばしば用いられる「簡明さ」「軽さ」といった形容には、このような伝記的背景が強く投影されています。それはすなわち、第12~15番で示された人生の困難に対する巨大で強靭な意志と諦観との壮絶な葛藤を経て到達した「終着点」としての悟りの境地が、第16番に表れているとするものです。しかしながら、出版社とのやり取りの中で「“大きな作曲の構想”がたくさんある」と手紙に記していたベートーヴェンが、この時点で自身の創作活動の終わりを想定していたとは考えられません。むしろ、第1番 Op.18-1と第7番 Op.59-1という革新的な2つの曲集の嚆矢となった作品と同じヘ長調が採用されていることを踏まえると、第16番は新境地を拓いたベートーヴェンの新たな「始発点」と捉えるのが相応しいようにも思われます。
 やや小規模な展開部を持つソナタ形式の両端楽章にスケルツォと変奏曲が挟まれた4楽章の構成は、第12番以前の古典的な形式に回帰したように見えますが、全体の簡潔な佇まいとは裏腹に、様々な新機軸が随所に盛り込まれた、極めて精妙な作りになっています。第1楽章は軽やかな第1主題で開始されますが、断片的な動機によって形成された旋律は歌謡性とは程遠く、マーラーの交響曲第9番冒頭などと同種の旋律の残骸とでも呼ぶべきものです。開始早々現れるカデンツ(終止形)は再現部の始めと楽章の終わりでも繰り返され、まるで楽章が3度終わるかのような構成が、この楽章の断片的な印象を強めています。第2楽章に聴かれるリズムの狂騒(トリオ後半では同じ音型の反復が50小節近くに及ぶ)では、ベートーヴェンの偏執的な性向が抽象性へと昇華されています。第3楽章はベートーヴェンが得意とした変奏曲形式ですが、第2変奏「più lento」を中心とした三部形式と見做すこともできます。他の後期作品と同様、この緩徐楽章は全曲の核心です。終楽章の冒頭には「Der schwer gefaßte Entschluß(ようやくついた決心)」という見出しの下に、「Muss es sein?(そうあらねばならぬか?)」「Es muß sein!(そうあらねばならぬ)」という禅問答のようなテクストと、それぞれに対応したフレーズが記された譜表が付けられています。後者は、この作品の数ヶ月前に書かれた4声のカノンWoO 196の主題と同一です。この「Es muß sein!」音型は、第1楽章冒頭でヴィオラが奏でる動機の中にも組み込まれています。この謎めいた言葉の由来には様々な説や逸話がありますが、ベートーヴェンはこの第16番を皮切りに、後のロマン派を先取りした様々なモットーを持つ一連の曲集を構想していたのかもしれません。


シュペーテ弦楽四重奏団 第9回公演(2019年4月27, 29日)

theme : クラシック
genre : 音楽

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【楽曲解説】ヴォルフ:イタリアのセレナーデ

Hugo Wolf
フーゴ・ヴォルフ(1860~1903)


Serenade
イタリアのセレナーデ



 ブラームスの弦楽六重奏曲第1番が初演された年に生まれたヴォルフは、ドイツリート史上で最大の作曲家として広く知られていますが、完成に至った作品は少ないながら器楽曲も手掛けています。弦楽四重奏のための作品はわずか3曲のみですが、その最後を飾るこの曲は、ヴォルフの全作品中で最も親しまれているものの一つです。セレナーデとは本来、夜会などの機会において夜に演奏される音楽のことでしたが、19世紀になると夜のイメージをもった楽曲にこの名が付けられることが多くなりました。しかし「Sehr lebhaft(とても元気よく)」と記されたこの楽曲には、そのような雰囲気は微塵もありません。
 この曲を作曲した当時(1887)、ヴォルフは後にアイヒェンドルフ歌曲集としてまとめられる歌曲群に集中的に取り組んでいました。おそらくはその過程で読んだと思われるヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(1788~1857)の『Aus dem Leben eines Taugenichts』(『愉しき放浪児』として岩波文庫に邦訳あり)に着想を得て、この曲が作曲されました。1挺のヴァイオリンを片手に放浪の旅に出た“のらくろ者”の青年が、イタリアに向かう道中で美しい令嬢に恋をするが……といった物語ですが(軽いミステリー仕立てになっているので、ここではあらすじを記しません)、主人公のお気楽な放浪の情景を描いたのがこの作品です。つまり、「“イタリア”を目指して放浪する青年が、道中で“セレナーデ”を奏でる情景」というのが、「イタリアのセレナーデ」という表題の意味です。作曲時には単に「セレナーデ」と記されていましたが、初演後にヴォルフ自身が手紙の中で「イタリアのセレナーデ」と呼んで以来、これが曲名として広く使われることになりました。
 後に、この曲を第1楽章とした3楽章の作品にしようという試みがなされましたが、残念ながらスケッチ以上に発展することはありませんでした。弦楽合奏で演奏されることも多い作品ですが、ヴォルフ自身による小管弦楽のための編曲もあります(レーガーの編曲と言われることもありますが、レーガーはヴォルフの没後に総譜の校正をしただけです)。


シュペーテ弦楽四重奏団 第9回公演(2019年4月27, 29日)

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【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 17 B-dur, KV 458
弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 KV 458「狩」



 「ハイドン・セット」の前半(第14~16番)と後半(第17~19番)との間には、1年半近いブランクがあります。後半の3曲は、展開部とコーダの充実による大規模化、緩徐楽章の深い情感、対位法的な緻密さといった点で前半の3曲と区別され、これらの特徴はその最初の作品となった第17番にも明らかです。「狩」という愛称は、第1楽章の冒頭主題が狩猟時に用いる角笛の響きに似ていることから後世に付けられたものです。全曲の親しみやすい雰囲気や当時の聴衆の好みを意識したサービス精神に溢れた構成などから、「ハイドン・セット」の中で最もハイドン的な作品と言われています。
 「vivace assai(とても快活に)」という言葉の意味を余すところなく音楽で表現した第1楽章は、楽章全体を振り返り要約するような長大なコーダで閉じられます。第2楽章の優美なメヌエットを挟んで、モーツァルトの真面目で情熱的な特質が存分に発揮された深い感動を湛えた第3楽章が続きます。18世紀では「Adagio」という指示は速度よりも感情を表すものであり、それはモーツァルトにおいても同様でした。「ハイドン・セット」でアダージョが指定された緩徐楽章はこれが唯一で、「聖母マリアのためのリタニア」KV 195 (186d)の第5曲「Agnus Dei(神の子羊)」(この曲もAdagioと記されています)の動機が用いられています。ハイドン風の軽快さを持った第4楽章では、精緻な対位法が駆使された展開部の密度の高さが光りますが、同時にモーツァルトらしい疾走感が爽やかな余韻を残しつつ、全曲が締めくくられます。


シュペーテ弦楽四重奏団 第9回公演(2019年4月27, 29日)

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genre : 音楽

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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