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中古盤3題

  • ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ シャフラーン (Vc) ムシニアン (Pf) (Supraphon LPM 304 [10"mono])
  • ショスタコーヴィチ(オストランダー編):4つの前奏曲、デュボア:トロンボーンとピアノのための組曲、ロバートソン:朗詠と5つの省察、マルチェッロ(ベーコン編):ソナタ、フラッケンポール:ショスタコーヴィチの行進曲による変奏曲 R. クライダー (Tb) J. クライダー (Pf) (Lyric Trombone LT-1002 [LP])
  • テレマン:組曲「ドン・キホーテのブルレスケ」、パーセル:「妖精の女王」からの組曲第1&2番、ハイドン:ディヴェルティメント「エコー」 ベッチャー/ウィーン・ゾリステン(amadeo AVRS 130.020 St [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.から3枚が届く。

シャフラーンが弾いたショスタコーヴィチのチェロ・ソナタは、1940年代のショスタコーヴィチとの共演盤に始まって全部で4種類の録音があるが、このムシニアン盤は2回目の録音である。どこか鼻の詰まったようなシャフラーンの音色は私の苦手とするところだが、本盤では余裕のある柔らかで幅の広い音色であり、それがたとえ録音状態に起因するものだとしても、大変好ましく聴くことができた。全体的にゆったりとした音楽に仕上がっているのは、シャフラーンの全ての録音に共通する特徴であり、本盤でも前衛的な鋭さよりも前時代からの連続を感じさせる暗いロマンが前面に押し出されている。


「The Lyric Trombone Vol. II」と銘打たれたアルバムは、ディスク番号などの体裁からすると恐らくプライヴェート盤に近いものではないかと思われる。現代作品が中心に収録されているが、正直なところ、唯一のクラシカルな作品であるマルチェッロのソナタが最も充実した作品である。私の目当てであったショスタコーヴィチの前奏曲は、トロンボーンの演奏技術に関してはそのまろやかな音色も含めて非常に優れているものの、原曲の旋律線を随所で変更している編曲には残念ながら違和感が強い。最後に収録されている「ショスタコーヴィチの行進曲による変奏曲」は、「子供のノート」の第1曲を主題とする変奏曲。まさかのチョイスで、面白かった。


今回もまた、ウィーン・ゾリステンの録音を1枚入手。本当はもう1枚が本命(モーツァルトのセレナーデ集)だったのだが、そちらは残念ながら入手叶わず。本アルバムの3曲は全て初めて聴いた。中期バロックのパーセル、後期バロックのテレマン、初期古典派のハイドンという構成だが、いずれも当時既に複数のレコード録音があった楽曲であり、この団体ならではの演奏を聴かせようとする意欲に満ちている。弦楽合奏としての技術水準はモスクワ室内管などに匹敵する最高峰であり、現代の学究的な古楽演奏からすると古臭い解釈には違いないだろうが、隅々まで音楽の息吹に満たされた「ウィーン」の名に恥じないアンサンブルは、本盤においても健在である。最後のハイドンだけは作品自体が退屈……と思ったら、疑作とのことらしい。

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昭和30年代のライヴ録音

  • ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ、ショスタコーヴィチ:交響曲第15番 ノット/ユンゲ・ドイチェPO(Ensemble Modern EMCD-039)
  • ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番、交響曲第5番、ショスタコーヴィチ:交響曲第1番 シルヴェストリ/NHK SO(NHK CD KKC-2135)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第5、9番 クルツ/NHK SO(NHK CD KKC-2148)
  • J. S. バッハ:半音階的幻想曲とフーガ、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番、ショパン:マズルカ第25、51番、ラフマニノフ:13の前奏曲より第10、5、12曲、ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より第10、22、24曲、ハチャトゥリャーン:トッカータ オボーリン (Pf)(NHK CD KKC 2084)
  • ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番、ブロークの詩による7つの歌曲 メルニチェンコ (S) マンゴーヴァ (Pf) プリシェペンコ (Vn) クリンゲル (Vc) (Fuga Libera FUG525)
アリアCDから、数回に渡ってオーダーした音盤が届いた。今回の入荷分は、全てショスタコーヴィチ絡み。

東京交響楽団の音楽監督も務めるジョナサン・ノットによる近現代の管弦楽作品集は、精緻でありながらも豊かな表現力を有する、ユース・オーケストラの範疇を超えたアンサンブルに感心した。ショスタコーヴィチでは、端正に紡がれる音楽は隅々まで明晰であるにも関わらず、生気を失ったような独自の世界観は十分に表出され、一方で決して無機質に陥らない音楽的な活力も一貫して感じられる。聴き応えのある秀演である。凛とした佇まいを保ちつつも情熱的なラヴェルも、印象的。


2月23日のエントリーで紹介した、昨年末に放送された『N響 伝説の名演奏~リクエスト特集~』で独特の指揮姿が印象的だったシルヴェストリの、別日のライブ録音。熱に浮かされたようなベートーヴェンは、(現在の水準と比較して)オーケストラの技術的な物足りなさや痩せた音色といった欠点を意識させることのない、ホールの盛り上がりも当然な熱演である。ショスタコーヴィチ の第1番がメインというのも不思議な感じはするが、「運命」の興奮をそのままに若きショスタコーヴィチの清新な情熱を描き出した、充実した聴き応えのある演奏。録音状態はあまり良くないが、一聴の価値はある。


上述のシルヴェストリ盤と同じ「N響ライヴ・シリーズ2018」から、クルツがショスタコーヴィチの2曲を振ったアルバムもオーダー。シルヴェストリ盤の2年前のライヴだが、低音が随分と痩せた録音が残念。第5番の冒頭は低弦がまるでピアノで奏しているかのように聴こえてしまう。第4楽章コーダの金管楽器の乱れ方も許容範囲を超えていて、真摯な意欲に満ちた演奏ではあるものの、率直に言って不満が残る仕上がりである。第9番の方は、録音状態こそ違いはないが、技術的には取り立てて問題視するほどの箇所はほぼない。こうなると、クルツならではの生き生きとしたリズムの妙が聴こえてきて楽しい。


1964年のシルヴェストリ盤と1962年のクルツ盤との間、1963年に同じく東京で収録されたオボーリンの録音(NHKのセッション録音とのこと)は、「NHK名演奏家幻のライヴ・シリーズ」からの一枚。打鍵の力強さ、濃厚なロマンティシズムに満ちた語り口、見通しの良い構成力といった、往年のロシア(ソ連)流儀のピアノの魅力が凝縮されている。バッハなどは完全に“旧き良き時代”のロマンティックな解釈だし、圧倒的な巧さを感じさせつつも、どこか鈍重で地味な演奏スタイルというのも、現代の聴き手には受けが悪いかもしれない。それでもなお、整髪料のきつい匂いが漂うようなおじさんの確信に満ちた音楽は、濃密で幻想的な雰囲気に聴き手を誘ってくれる。ショスタコーヴィチの小品も、作曲家の新奇性よりもロシアン・ピアニズムの文脈で奏でられているのが面白い。


2017年6月12のエントリーでショスタコーヴィチのピアノ独奏曲のアルバムを紹介した若手ピアニスト、マンゴーヴァによる、ショスタコーヴィチのピアノ入り室内楽曲集は、先のソロ・アルバムに劣らず素晴らしい内容である。ヴァイオリンとチェロ、そしてソプラノの演奏家も国際的な知名度が高いとは言い難い若手ばかりだが、音楽的にも技術的にも極めて高い水準のアンサンブルを披露している。狂乱も沈鬱も決して上滑りすることなく、端正な造形と精緻で音楽的な処理の積み重ねの上に、スケールの大きな音楽が構築されている。あらゆる点において模範的な演奏と言ってよい。

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中古屋で安物買い

  • ショスタコーヴィチ:交響曲第4番 タバコフ/ブルガリア国立放送SO(Gega New GD 380)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ティルソン=トーマス/サンフランシスコSO(San Francisco Symphony SFS 0035)
  • ショスタコーヴィチ:歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」よりパッサカリア(第2幕)、交響曲第10番 ネルソンス/ボストンSO(DG 479 5059)
  • ショスタコーヴィチ:映画音楽「馬あぶ」、映画音楽「呼応計画」より フィッツ=ジェラルド/ラインラント=プファルツ州立PO 他(Naxos 8.573747)
  • シベリウス:ヴァイオリン協奏曲、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 潮田益子 (Vn) 小澤征爾/日本PO(Cento classics CAPO-2009)
  • ブリテン:弦楽四重奏曲 ニ長調(1931)、シンプル・シンフォニー、弦楽四重奏曲第1番 ブリテンQ(Collins 11152)
  • グリーンカ:弦楽四重奏曲、シューベルト:弦楽四重奏曲第8番、ヒンデミット:ミニマックス ウルブリヒトQ、ハンツシュクQ、ベルリン・シュターツオーパーQ(Pilz 44 2083-2)
  • 「ハッピー・バースデイ」(シニートケ(ドレズニン編):ポルカ、ハイドリッヒ:「ハッピー・バースデイ」変奏曲、カヒーゼ:「ブリッツ」幻想曲、ギス/セルヴェ:「ゴッド・セイヴ・ザ・キング」の旋律による華麗にして協奏的な変奏曲、チャイコーフスキイ:サマーリンの栄誉のための悲歌「感謝のしるし」、ボーア:マックモーツァルトのアイネ・クライネ・ブリヒト・ムーンリヒト・ニヒト・ムジーク、ワックスマン:「蛍の光」変奏曲、クプコヴィチ:スーヴェニア) クレーメル (Vn) クレメラータ・バルティカ(Nonesuch WPCR-19068)
  • 「南国のバラ」 ウィーン・ビーダーマイヤー・アンサンブル(Denon 33CO-2587)
  • 「わが人生は愛と喜び」 ウィーン・ビーダーマイヤー・アンサンブル(Denon COCO-7052)
所用で土曜日の昼間に梅田へ出向いたが、運よくフリーの時間ができたので、いつもは閉店間際に駆け込んでばかりのディスクユニオン 大阪クラシック館へ。残念ながら掘り出し物には巡り会えなかったが、店の隅々まで一通りチェックできたのは楽しかった。今回は徹底して価格重視。10枚で6千円ちょっとというのは、まあまあの成果ではなかろうか。

さて、まずは交響曲の棚から。タバコフ/ブルガリア国立放送響によるショスタコーヴィチの全集シリーズはもうかなりの数がリリースされているが、第4番はその第1弾であった。煌びやかなサウンドや精緻なアンサンブルには不足するものの、洗練されていない野暮ったい音には懐かしい温もりがあり、第4番の持つ前衛性よりは第5番に繋がるわかりやすいチープな音楽素材の面白さが前面に出ているように聴こえる。


サンフランシスコ響が展開しているクラシック音楽の啓蒙プロジェクト「KEEPING SCORE」にてショスタコーヴィチの第5番が取り上げられた際のライヴ録音は、いささか軽く弾き飛ばしている感がなくもないが、十分に贅沢でまろやかな響きと余裕のあるアンサンブルは、1世紀前の作品の演奏としてはそう悪くもない。

なお、このプロジェクトについては、潮 博恵氏のサイトが詳しい。ショスタコーヴィチ編の具体的な内容も詳述されている。


ネルソンスによるショスタコーヴィチの交響曲全曲プロジェクトの第1弾となった第10番は、最良の意味において“普通”の演奏。テンポ設定をはじめとする解釈は極めてオーソドックスで、端正なアンサンブルで紡がれる美しい響きには無理が一切なく、それでいて楽曲が有する壮麗さが余すところなく表出されている。凄絶な思い入れの類とは無縁だが、作曲時から半世紀以上も経ち、同時代を生きた演奏家達の大半が鬼籍に入った現代の演奏として規範となり得る仕上がりといってよいだろう。カップリングのパッサカリアも、独特の騒々しさが壮麗さに昇華された聴き応えのある演奏。


7月17日のエントリーで「馬あぶ」組曲を紹介したばかりだが、本アルバムは映画のために書かれたスコアの全てを収録した「全曲版」である。DSCH社の新全集第138巻に基づいている。基本的に資料的価値の方が勝るアルバムであり、全てを通して鑑賞するのはいささか退屈な瞬間もあるものの、各曲の旋律的な美しさや楽しさを十分に味わうに不足しない、よく整った演奏である。「呼応計画」も、地味ではあるが耳馴染みの旋律が節度を持ちつつ楽しく歌われる様が心地好い。


実家にあった河出書房新社の世界音楽大全集の第10巻は「リスト/パガニーニ」だったが、そこに収録されていたトレチャコフによるパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番は私が中高生だった頃のヘビーローテーションだった。その余白に収められていた潮田益子が弾いたカプリース第11番もまた凛とした気品のある演奏で、彼女の名と共に今なお私の深い部分に記憶されている。シベリウスとブルッフという名曲を収めたこのアルバムは、第3回チャイコーフスキイ国際コンクール(1966)で第2位を獲得した後に企画された純国産の録音である。当時の協奏曲の録音では珍しいほど力の入ったオーケストラの“伴奏”はいかにも小澤らしく、それとがっぷり四つに組んだ潮田の若々しさが爽やかな演奏である。技術的な精度という点では、彼女の教え子の世代に当たる現代の演奏家達に劣るのは否めないし、腕力が不足しているかのような音圧の物足りなさなど、否定的な点もあるものの、底光りのする深い音色の美しさには何とも魅力がある。


ブリテンQによるブリテンの弦楽四重奏曲集は、かつて学生時代に第2番と第3番を収録した方を入手していて、第1番の方は未入手のまま特に探してもいなかったのだが、ふと目に付いたので確保。この2枚はBrilliantレーベルでまとめて再発されているので、とりたてて貴重な音源というわけではないが、端正でありながらも若々しい力感に満ちた演奏は、決して有名とまではいえないブリテンの弦楽四重奏の魅力を伝えてくれる。シンプル・シンフォニーも、編成の物足りなさを感じさせるどころか、まるで弦楽四重奏のために書かれた作品のように響く。


旧東ドイツの演奏家による音源を多数リリースしていた廉価盤レーベルPilzの弦楽四重奏曲集も、目に付いてしまったので確保。3つの団体による3曲が収録されているが、どの団体も初めて聴く上に、収録曲もマイナー曲ばかりという不思議なアルバム。やや生真面目な雰囲気で奏でられる渋い響きはどの演奏にも共通しており、いずれも驚くような名演ではないが、弦楽四重奏を聴く愉しみを十分に満たしてくれる。


クレーメルとクレメラータ・バルティカが、気の利いたパロディ音楽を集めた『ハッピー・バースデイ』というアルバムは、何となく買いそびれたままになっていた一枚。というのも、アルバムのタイトルになっているハイドリッヒの「ハッピー・バースデイ変奏曲」は、クレーメルがこの曲を取り上げる10年ほど前に、大学のサークルの先輩が楽譜を仕入れてきて何度も遊んだ思い出の曲だから。徹底してクレーメル節で奏でられるモーツァルトの「不協和音」第2楽章のパロディなど、こうじゃない感が強すぎて、クレーメルの極めて個性的で鋭利な鮮烈さに感心しつつも心からは楽しめない。とはいえ、収録曲はどれも面白く、それでいて単なるキワモノに陥らないクレーメルの傑出した音楽性と自在な名技は、まさに異端の才能である。


ウィンナ・ワルツはちょっとしたアンコール・ピースとしてレパートリーに入れておきたいものの、同工異曲とまでは言わないものの、どの曲を選ぶかが悩ましい。元来マイナー志向の私としては、ヨハン・シュトラウス2世よりもランナーや父ヨハン、弟ヨーゼフの辺りを狙いたいところだが、ちょうどそういう選曲のアルバムがあったので、資料として確保。ウィーン・フィルの団員によるウィーン・ビーダーマイヤー・アンサンブルの2枚だが、ランナーと父ヨハン、そして彼らの師匠パーマーの作品が中心に収録されている。ウィンナ・ワルツの黎明期を彷彿とさせるような選曲が愉しい。演奏自体に特筆すべき点はないが、この種のアルバムにそれを求めるのは野暮というものだろう。

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NHK交響楽団第1911回定期公演

  • イツァーク~天才バイオリニストの歩み~ (2017 録画 [NHK ETV(2019.7.5)])
  • ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ヴァーインベルグ:交響曲第12番「ショスタコーヴィチの思い出に」 グルズマン (Vn) 下野竜也/NHK SO (2019.4.24 録画 [NHK ETV(2019.7.14)])
近年、その活動を耳にすることがなかったパールマンだが、ドキュランドへようこそで紹介されたアメリカのドキュメンタリーでごく最近の姿を見ることができた。てっきり年齢的な衰えで活動を縮小しているのだとばかり思い込んでいたが、演奏の鮮やかさに衰えは全く感じられなかった。そもそも彼は1945年生まれなので、まだ後期高齢者ですらない。

さて、このドキュメンタリーでは複数のテーマ(「ユダヤ人」「妻トビー」「障がい」「演奏家としてのキャリア」「近年の活動」)が扱われているが、それぞれに興味深い映像が盛り込まれており、たった45分の番組にもかかわらず極めて充実した内容となっている。楽器の表板の裏にヒトラーの名が書かれている場面などはかなりの衝撃ではあったが、私は専ら近年の演奏に目を奪われた。ヴァイオリニストに限らず、単一の楽器には物足りなくなって指揮者に転向する名奏者は少なくないが、パールマンは徹底してヴァイオリン一筋であるところが、私の好むところである。彼の演奏姿からは、いまだにヴァイオリンを弾く愉しさや悦びが溢れ出している。冒頭でアメリカ国歌を楽しそうに弾くパールマンを観ると、あぁヴァイオリンっていいな、と改めて思う。


NHK交響楽団第1911回定期公演は、その素晴らしいプログラムで私の知人も数多く足を運んだようだが(そのわりに、客席には空きが目立ったらしい……)、その様子がクラシック音楽館で放送された。この種の番組にマニアックな深い情報を求めるものではないが、とはいえ、明らかにマニアックな意図を持って組まれたプログラムを放送するのだから、もう少し深入りした解説があってもよかったように思う。少なくとも下野氏には語るだけの知識や思い入れがあっただろう。たとえば、ヴァイオリン協奏曲の第3楽章の作曲直前にヴァーインベルグの義父であったミホエリスの殺害事件があったこと、そしてそれはジダーノフ批判の時期であったことなど、互いの壮年期にそういう時代を共に過ごしたことを念頭において、あの交響曲を聴けば、どこかとりとめのない印象にも聴き手それぞれが意味付けをできたようにも思う。

交響曲の演奏は、非常に手堅く、隅々まで明晰に処理された立派なもの。分裂した躁鬱の表現にはもっと極端さがあってもよいとは思うが、実演はおろか録音でも聴かれることの稀な作品のライヴとして、不満は全くない。ヴァイオリン協奏曲の方は、まるで譜面台にかじりついているかのような独奏からは何も感じることができず(協奏曲の独奏で楽譜を見ること自体に違和感があるわけではない)、オーケストラも悪い意味での安全運転に終始した、ただただ凡庸な演奏。

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長年探していたCD

  • アレーンスキイ:歌劇「ラファエロ」、ショスタコーヴィチ:組曲「馬あぶ」より スミルノフ/モスクワ放送SO & cho.他、ソヴィエト国立映画省O(Marans)
  • グラズノーフ/ソコローフ/リャードフ:ポルカ「金曜日」(「金曜日の曲集」より)、リームスキイ=コールサコフ他:ロシアの主題による変奏曲、グラズノーフ/リャードフ/リームスキイ=コールサコフ:命名祝日四重奏曲、リームスキイ=コールサコフ/リャードフ/ボロディーン/グラズノーフ:「B-la-F」の名による弦楽四重奏曲 ショスタコーヴィチQ(Olympia OCD575)
ブログや音盤批評系の書籍などでその存在を知ったものの、おそらくは初期の販売数が少なかったためにその後入手できずにいる音盤は少なくない。2012年5月11日のエントリーで触れたヴィクトル・スミルノフという指揮者のMARANSレーベルのCDはそんな一枚であったが、つい先日、米amazonで中古盤が出品されているのを見つけてようやく入手が叶った。と言っても、この音源自体はSpotifyのリストなどにあるので、メディアに拘らずとにかく聴くというだけならばそう難しくないと思われる。

ジャケット等から判断するに、指揮者の子供が自主制作に近い形でCD化したものなのだろう。ディスクの品番は記載されていないし、そもそも「МАРАНС」というレーベル自体を見かけたことがない。何らかの事情でその存在が忘れ去られた指揮者なのだろうが、本盤に収録されているアレーンスキイの歌劇は、LPが中古市場で流通している(2012年5月11日のエントリー)。

「馬あぶ」の方は、おそらく完全初出音源と思われる。アトヴミャーンによる組曲(全12曲)から9曲が抜粋され、曲順が入れ替えられている。組曲版の全曲録音は既に複数あるので、このことがマイナス・ポイントとなることはないだろう。いや、この演奏を聴いた後では、残る3曲も(長さも内容もそれほど重要な曲ではないが)録音して欲しかった!と思うことはあるかもしれない。録音状態はすぐれないし、オーケストラは技術的にめっぽう荒い。しかしそうした欠点は、隅々まで甘美で悲劇的な情感と力感に満ちた、大柄で壮大な音楽の前では問題にすらならない。どこか肩の力が抜けた感じで始まる第1曲「序曲」が数小節進んだ時には、もうこの演奏の虜である。ショスタコーヴィチというより、ロシア音楽を代表する映画音楽を聴いた、とでも言いたくなるような充足感が得られる。現時点では、E. ハチャトゥリャーンの全曲盤を抜いて、本盤を決定盤としてよいだろう。


もう1点、ベリャーエフ・グループの作曲家達が仲間内で合作した弦楽四重奏曲集のアルバムも、ふと思い出してAmazonで検索したところ、安くはなかったが、中古屋巡りのルーティーンに入れて気長に探すのも面倒なので、勢いでオーダー。

このアルバムは、率直に言って、史料的な意味合いが強い。ショスタコーヴィチQによる演奏は手堅くもロシア情緒に満ちた立派なもので、これらの作品を知る上でとりあえずは、本盤が手元にあれば十分だ。リームスキイ=コールサコフ、グラズノーフ、リャードフの3人は、収録曲のほぼ全てにおいて参加しているが、いずれも力作ではあるものの、小品なのか弦楽四重奏曲(の1つの楽章)なのか、中途半端な感は否めない。「ロシアの主題による変奏曲」は、いかにもやる気のないスクリャービンの変奏を含む10の変奏から成るものの、作曲家が全て異なる割りには変奏の多彩さには欠ける。唯一、ボロディーンによる「B-la-F」四重奏曲の第3楽章「スペイン風セレナード」だけが、本盤の中で傑出した名曲である。



ちなみに、「ロシアの主題による変奏曲」の主題は、ロシア民謡なのかリームスキイ=コールサコフの創作なのかが解説によってまちまちだが、正しくは「Надоели ночи надоскучили」というニジニ・ノヴゴロド地方のロシア民謡である。

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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