SP盤まとめ聴き
- ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番 グラズノフQ (USSR LRK 2191 [10" 78rpm])
- ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番 ヨークQ (Royale 580/1 [12" 78rpm])
- ショスタコーヴィチ:3つの幻想的な舞曲、J. S. バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 ロスチナ、ニコラーエヴァ (Pf) (Supraphon H 24258 [10" 78rpm])
- カバレーフスキイ:ソナチネ、ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より第14番 コーエン (Pf) (Columbia DX 1066 [10" 78rpm])
- アレクサンドロフ:ソヴィエト社会主義共和国連邦国歌、ショスタコーヴィチ:映画音楽「呼応計画」より「呼応計画の歌」 ロブソン (B) リヒター/キーノートO他 (Keynote K 1200 [10" 78rpm])
全く期待もしていなかった音質については、普通の復刻盤CDと比べても遜色のないもので正直びっくり。ざっと見てもそれほど盤面状態が良いわけでもないのに、針音などのノイズはともかく楽器の音がしっかりと再生されているのには驚いた。SP盤の魅力を語っている人達の言葉が決して誇張ではないのだと認識を新たにした次第。
さて、念願叶って聴くことのできた音楽の内容について。グラズノフQのショスタコーヴィチの第1番は、ヒュームのカタログにも載っていない初演団体による録音。録音年などはわからないが、聴き辛いような音ではない。おっとりとした音楽は少々古めかしいが、まろやかな音色の美しさに気がつくと引き込まれている。技術的にはベートーヴェンQにも劣るだろうが、この響きの魅力はなかなかのもの。全体にテンポは遅いが、これは初演団体とはいえショスタコーヴィチの意図を完全に反映しているとはいえないような気がする。
同じ曲を今度はヨークQで。ヒュームによると1950年代前半の録音のようだが、盤の状態のせいかノイズが多く、音も全体に痩せ気味。引き締まった、新古典主義的な演奏。技術的な不満は感じないが(第4楽章は結構危なっかしいが)、もう少し音楽に潤いがあっても良いと思う。第3楽章の主部を繰り返しているのは、そういう楽譜があったのか、演奏者が独自に補ったのか、録音エンジニアが勘違いしたのか、よくわからない。
ロスチナの「3つの幻想的な舞曲」は、乾いた音の響きやセンスの良い表情付けなど、非常に雰囲気の優れた秀演(作品1と表記されている)。もちろんカップリング(というより、こちらがメインなのだろうが)のニコラーエヴァのバッハも素晴らしい演奏。
ピアノのことはよく知らないのだが、ハリエット・コーエンという女流ピアニストは、非常に著名なよう。カバレーフスキイでの清潔で活力に満ちた、気品のある音楽を聴くと、そうした評価も確かに納得できる。ショスタコーヴィチでも、作品の持つ暗い情念を端正な佇まいで描き出している。なかなか素敵な演奏。
7月25日付の本欄でも紹介したロブソンのアルバムは、PerlレーベルからCD化されていた模様。ソ連国歌も呼応計画の歌も英語歌詞による歌唱で、オーケストラ伴奏は独自のもの。合唱はあまり明瞭にとらえられていない。若々しく深い声はロブソンならでは。
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N響アワー二題
- N響アワー「世界を舞台に活躍する日本人演奏家」 庄司紗矢香、竹澤恭子 (Vn) デュトワ、準・メルクル/NHK交響楽団 (録画 [NHK-ETV(2005.10.9)])
- N響アワー「池辺晋一郎の音楽百科 よみがえった変奏形式パッサカリア」 NHK交響楽団 (録画 [NHK-ETV(2005.10.16)])
さて、新聞のテレビ欄を眺めていたらN響アワーでショスタコーヴィチをやるとのこと。翌10日が娘の運動会だったので、当日はとりあえず予約録画だけしてさっさと寝てしまった。一週間近く経ってようやく観てみたところ、既にBS-2で放映されて録画もしていた庄司紗矢香の独奏、デュトワの指揮による第1468回N響定期公演(2002年9月18日:サントリーホール)の映像だった(第2楽章は省略)。確かな技術、柄の大きな音楽など、18~19歳(当時)という年齢も考えるとただただ驚くしかない。デュトワの伴奏も独特の色彩を見事に引き出しつつも、禁欲的な音楽世界を的確に捉えていて見事。ただ、この庄司紗矢香にしろ樫本大進にしろ、そしてヴェンゲーロフにしろ、ブロン門下生特有の粘っこい歌いまわしと音色は僕の好みではない。レーピンは別だけど。
一方、竹澤恭子の映像は、スコットランド幻想曲から第1、4楽章(2001年1月17日:サントリーホール)。少々わざとらしさを感じるものの(見た目のせいか?)、冒頭の弱音の聴かせ方はなかなか。音色も彼女の方が僕の好み。ただ、オーケストラがいかにも伴奏で済ませている様子が気に入らない。
引き続いて、16日放送のN響アワー。こちらも“パッサカリア”がテーマということで、間違いなくショスタコーヴィチの交響曲第8番が流れるだろうと予測して録画。もちろん、予想は的中。番組で取り上げられた演奏は以下の通り:
- ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲よりフィナーレ
2003年11月27日:NHKホール ローター・ツァグロゼク - ブラームス:交響曲第4番より第4楽章
2004年10月3日:NHKホール ネルロ・サンティ - ウェーベルン:パッサカリア
2005年2月23日:サントリーホール ジャナンドレア・ノセダ - ショスタコーヴィチ:交響曲第8番より第4楽章
2005年9月30日:NHKホール ヴラディーミル・アシケナージ - ヒンデミット:バレエ音楽「気高い幻想」より「パッサカリア」
1995年11月11日:NHKホール ヴォルフガング・サヴァリッシュ - ウォルトン:組曲「ヘンリー五世」よりパッサカリア「フォルスタッフの死」
1986年1月22日:NHKホール ピンカス・スタインバーグ
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キタエンコのショスタコーヴィチ4
- ショスタコーヴィチ:交響曲全集 キタエンコ/ケルン・ギュルツェニヒ管他 (Capriccio 71 029 [SACD])
第13番は、徹底的に作品の美しさを描き出した異色の演奏と言ってよいだろう。これは、少なからずバスのコチニアンの明るく若々しい声質がもたらした影響だが、決して悪くはない。オーケストラも全体に透明感のある響きが貫かれていて、ともすれば作品の内容が持つ圧倒的な力の影であまり意識せずに聴き過ごしてしまうような、響きの密やかな美しさが十分に引き出されている。もちろん、合唱も含めて音の力に不足することはなく、バランスのとれた秀演である。
一方、第14番は少々印象に乏しい。落ち着いたテンポ設定が、しばしば単なる安全運転に感じられてしまう。速ければ良いわけではないが、この作品にはもう少し鬼気迫るものが欲しい。バスのコチニアンは安定した技術に基づく丁寧な歌唱で健闘しているが、ソプラノのシャグチには物足りなさが残る。
第15番も端正で美しい仕上がりに感心するが、これといった特徴に欠ける印象の薄い演奏。全体を貫く緊張感や弱奏部の表現力に不足するために、個々のモノローグが断片化してしまって作品全体の劇性が必ずしも適切に表出しきれていないことがその理由かもしれない。
全集である以上、作品毎に出来不出来の差があるのは当然だが、全15曲がいずれも非常に高い水準で仕上がっていることに感心した。ショスタコーヴィチの交響曲全集は、NAXOSのスロヴァーク盤を除いてはいずれもそれぞれに存在価値のあるものばかりだが、録音の優秀さも考慮すると、バルシャイやN. ヤルヴィを凌ぎ、ハイティンクに匹敵するのではないかと思う。
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アンサンブル・アデルのショーソン
- ショーソン:果てしない歌、チェロとピアノのための小品、妻への讃歌、魅惑と魔法の森、ピアノ、ヴァイオリンと弦楽四重奏のための協奏曲 フィンク (MS) アンサンブル・アデル (Accord 476 742 7)
- MIDNIGHT ADAGIOS (Decca 475 004-2)
新譜の棚で、アンサンブル・アデルのショーソン作品集を発見。1999年頃に出ていた盤の再発のようだが、当時は全くノーチェックだった。斉諧生さんの音盤狂日録2000年10月14日付の記事で、この盤に触れられていたが迂闊にも見逃していたようだ。弦楽器の弱さはこの団体の他の録音と共通する欠点だが、本盤でもアデルの明快な情念に貫かれたピアノが音楽をリードしていることでその欠点はあまり気にならない。歌曲の軽やかに漂う雰囲気は、特に素敵。しかし、さすがにコンセールでは弦楽器の力不足が気になってしまう。第1楽章はやや散漫な出来だし、第2楽章はとりたてて不満を述べるような内容ではないものの、第3楽章の盛り上がりも迫力に欠ける。第4楽章では大団円に向かう内的な燃焼度があまり感じられないのが残念。もっとも、全体を通しての雰囲気は決して悪いわけではないので、録音ではなくライヴで聴くべき団体なのかもしれない。
先日Tower Records梅田店で買い物をした際、店内の商品検索端末に目が留まり、色々といじっていると、記憶の片隅にあったイ・サロニスティが演奏したショスタコーヴィチ作品というのが見つかった。早速注文し、入荷したとの連絡を受けて引き取りに出向いたのだが内容を見てがっかり。「MIDNIGHT ADAGIOS」と題されたオムニバス盤の収録曲は以下の通り:
- 【Disc 1】
- モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジークより第2楽章 マリナー/アカデミー室内O(1971)
- ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番より第1楽章 アシケナージ(Pf)(1979)
- エルガー(Mondvay編):夜の歌 イ・サロニスティ(1989)
- フォーレ:パヴァーヌ デュトワ/モントリオールSO & Cho.(1988)
- ボロディン:弦楽四重奏曲第2番より第2楽章 ボロディンQ(1962)
- ブラームス(ロブレス編):5つの歌より「子守歌」 ロブレス(Hp)(1979)
- クライスラー:ロマンティックな子守歌 ベル(Vn) コーカー(Pf)(1996)
- ドヴォルザーク:歌劇「ルサルカ」より「白銀の月よ」 ローレンガー(S) パタネー/サンタ・チェチーリア国立アカデミーO(1966)
- ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番より第2楽章 アシケナージ(Pf)/クリーヴランドO(1988)
- J. S. バッハ:チェロ・ソナタ第3番より第2楽章(抜粋) シュタルケル(Vc) シェベック(Pf)(1963)
- ビゼー:「カルメン」組曲第1番より間奏曲 デュトワ/モントリオールSO(1988)
- ヴィヴァルディ:ギター協奏曲 ニ長調より第2楽章 フェルナンデス(G) マルコム/イギリス室内O(1987)
- ヴォーン=ウィリアムズ:「富める人とラザロ」の5つの異版(抜粋) マリナー/アカデミー室内O(1972)
- ショパン:夜想曲第2番 アシケナージ(Pf)(1983)
- カントルーブ:民謡曲集「オーヴェルニュの歌」より「バイレロ」 キリ・テ・カナワ(S) テイト/イギリス室内O(1983)
- サティ(ドビュッシー編):ジムノペティ第1番 デュトワ/モントリオールSO(1989)
- ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番より第1楽章 アシケナージ(Pf)(1979)
- 【Disc 2】
- J. S. バッハ:管弦楽組曲第3番より「アリア」 マリナー/アカデミー室内O(1971)
- ドビュッシー:ベルガマスク組曲より「月の光」 ロジェ(Pf)(1978)
- マスネ:タイスの瞑想曲 ケネディ(Vn) ボニング/ナショナルPO(1984)
- モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番より第2楽章 アシケナージ(Pf)/フィルハーモニアO(1979)
- シューベルト:弦楽五重奏曲より第2楽章(抜粋) タカーチQ ペレーニ(Vc)(1993)
- ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番より第2楽章 ベル(Vn) マリナー/アカデミー室内O(1988)
- マルチェロ:オーボエ協奏曲 ニ短調より第2楽章 ホリガー(Ob) イ・ムジチ(1987)
- ドヴォルザーク:弦楽セレナードより第4楽章 ホグウッド/ロンドンPO(1988)
- ロドリーゴ:アランフェス協奏曲より第2楽章 ロメロ(G) マリナー/アカデミー室内O(1994)
- リスト:コンソレーション第3番 ガレスピー(Pf)(1977)
- ラフマニノフ:組曲第1番「幻想的絵画」より第2曲「夜と愛と」 アシケナージ & プレヴィン(Pf)(1975)
- ショスタコーヴィチ:映画音楽「馬あぶ」より「ロマンス」 シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウO(1999)
- オッフェンバック:歌劇「ホフマン物語」より「舟歌」 ボニング/スイス・ロマンドO(1972)
- ドビュッシー:ベルガマスク組曲より「月の光」 ロジェ(Pf)(1978)
ショスタコーヴィチ三題
- ムーソルグスキイ:歌劇「ホヴァーンシチナ」より前奏曲(リームスキイ=コールサコフ編)、死の歌と踊り(ショスタコーヴィチ編)、展覧会の絵(ラヴェル編) レイフェルカス (Br) テミルカーノフ/ロイヤルPO (RCA 82876-59423-2)
- ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第2番、ヴァイオリン協奏曲第1番 ロストロポーヴィチ (Vc) L. コーガン (Vn) スヴェトラーノフ/ソヴィエト国立SO (Dreamlife DLVC-1150 [DVD])
- ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ、ヴィオラ・ソナタ クニャーゼフ (Vc) ヴォスクレセンスキー (Pf) (Exton OVCL-00202)
今回の最大の収穫は、長らく探していたが廃盤で見つからなかったレイフェルカス&テミルカーノフの「死の歌と踊り」を見つけたこと。RCAの“Classic Library”というシリーズの一枚として復刻された模様。一聴して、とにかくレイフェルカスの張りのある美声に惹きつけられる。もちろん表面的な美観に終始せず、ムーソルグスキイ独特のロシア魂が力強く歌い上げられていることは言うまでもない。しなやかでありながら厳しい響きを奏でているオーケストラも立派。極めて完成度の高い名演である。それにしても、本当に素晴らしい曲だ。カップリングの2曲もなかなか秀逸。特に「展覧会の絵」はスケールが大きく、それでいて流麗な流れに貫かれた格調高い美演。ロシア情緒やエグさのある咆哮にも不足することなく、この曲の一二を争う名盤だと思う。
Dreamlifeのスヴェトラーノフ・シリーズ、9月発売分は2曲の協奏曲である。特にチェロ協奏曲第2番は初演ライヴの演奏であり、第3楽章のクライマックスの一部だけショスタコーヴィチの伝記映画などで目にしていただけに、まさに待望のお宝映像である。残念ながら、たとえば第2楽章冒頭の数小節分が欠落しているなどのキズは少なくないのだが、この映像の持つ歴史的な価値と演奏自体の素晴らしさの前では、細かにそうした指摘をするのは無粋というものだろう。リズム構造が複雑な作品だけにスヴェトラーノフもいつも以上にかっちりとした棒を振っているが、第3楽章の頂点などでは全身で音楽の強さを表現し、オーケストラから莫大なエネルギーを引き出しているのに感心した。これは、ヴァイオリン協奏曲第1番でも同じ。こちらは先月発売の交響曲第5番(8月31日付本欄)と同じショスタコーヴィチ生誕70年記念演奏会のライヴ。スネギリョーフのティンパニを初めとして、ソヴィエト国立響の魅力全開といった趣の演奏が繰り広げられている。スヴェトラーノフが第3楽章などで非常に細かく音楽の表情に関する指示を出している様もしっかりと捉えられていて、とても興味深い。二人のソリストについては、改めて述べることは何もない。両者ともに異様なまでのテンションの高さで聴き手を圧倒する。曲良し、演奏良し、画質・音質のみ悪し。
クニャーゼフというチェリストの名は知っていたし、ショスタコーヴィチ作品の録音も二つあることもチェックしていたのだが、国内盤でリリースされているとなるとどうしても後回しになってしまい(入手しやすさと価格の高さゆえ)、今回ようやく遅ればせながらチェロ・ソナタとヴィオラ・ソナタとをカップリングしたアルバムを確保した。男臭く、時に軋むチェロの音色が素敵。技術的には彼より巧い奏者は少なからずいるだろうが、この音の魅力はなかなかのもの。ヴォスクレセンスキイの重いピアノともども、手応えのあるロシアン・サウンドを堪能することができる。チェロ・ソナタは、ゆったりとしたテンポが心地よく、伸びやかな抒情が素敵。偶数楽章ではさらなるキレが欲しい気もするが、これは好みの問題だろう。ヴィオラ・ソナタは、チェロで演奏したものの中では最も優れた部類に入る内容。遅めのテンポが表面的な重々しさに留まることなく、複雑怪奇な内容に対する真正面からの取組みの結果であることがよく伝わってくる。ヴォスクレセンスキイのサポートも見事。確かに旋律線の変更などに伴う違和感がないわけではないが、それを超えて聴き手に訴えかける何かがある演奏である。
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キタエンコのショスタコーヴィチ3
- ショスタコーヴィチ:交響曲全集 キタエンコ/ケルン・ギュルツェニヒ管他 (Capriccio 71 029 [SACD])
第10番は、重厚なテンポ設定と各声部をしっかりと鳴らしきった格調高い仕上がりが、とても立派。だが逆に、音楽の推進力という点では物足りなさを感じる。後半の二つの楽章が落ち着いた良い出来。
この全集をここまで聴いてきた中で、最も優れた演奏だと感じたのは第11番。落ち着いたテンポ設定が単なる鈍重さに陥ることなく、スコアの行間に込められた想いを丹念に紐解いているような印象を与える。全曲を通して緊張感が持続し、過度に描写的になることを避けた節度ある音楽作りが素晴らしい。もちろん、第2楽章などでの音のエネルギーにも不足することはなく、非常にバランスのとれた名演である。
第12番も、第11番に匹敵する秀演。どちらかといえばきびきびとした速めのテンポで、堅実に響きを紡いでいく演奏スタイルは、作品によく合っている。全体に節度を持った抑制がなされていて、やみくもな暴発で聴き手を圧倒することはないが、逆に第2楽章のような部分でしっかりと聴かせてくれているのが立派。
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未聴LP(9月分)
- ショスタコーヴィチ:交響曲第9番、弦楽四重奏曲第8番 クレンツ/ポーランド放送SO ボロディンQ (Eterna 8 20 305 [LP])
- シューマン:ピアノ三重奏曲第1番、ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 ベートーヴェン三重奏団 (Harmonia Mundi Deutsche DMR 2010 A [LP])
- ルイエ:トリオ・ソナタ ロ短調、アーノルド:ピアノ三重奏曲ニ短調、ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番 リリック三重奏団 (Everest SDBR 4234 [LP])
- 題名のない音楽会21 40周年記念企画 ロシア・オペラ界の王子~ディミトリー・ホロストフスキー(9月18日放送分)
- 題名のない音楽会21 40周年記念企画 徹底解剖!千住明・ロシア音楽の魅力(9月25日放送分)
クレンツ指揮の交響曲第9番は、どこかドイツ風の響きがする弦楽器を中心とした手堅いアンサンブルがなかなかの演奏。中庸なテンポ設定ながらも、楽曲中のポイントをしっかりとおさえた音楽作りは納得できる。木管は悪くないのだが、金管には不満が残る。全体的に音程の精度も今ひとつなので、手放しに賞賛できないのが少々残念。カップリングの弦楽四重奏曲第8番は、数多くあるボロディンQによる同曲の録音中、おそらく一番最初のものだと思われる。これは1961年の録音だが、翌1962年には立て続けにMercury盤、Decca盤が録音され、BBC Legends盤のライヴ収録も行われていることを考えると、1960年の世界初演後すぐにこの作品に取り組んだボロディンQ初期の解釈を知るという意味で非常に興味深い録音だということができるだろう。解釈の基本は後年の録音と共通しているが、本盤は少しテンポが速く、後の録音と比較すると表面的に感じられる感情表現が物足りない。また、音楽的な振幅も巨大さを感じさせるには至っていない。とはいえ、もちろん技術的には十分に磨き上げられているし、解釈そのものの素晴らしさは改めて言うまでもない。
ベートーヴェン三重奏団というドイツの団体によるシューマンとショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲集だが、両曲ともに堅実な演奏技術と真摯な解釈が光る立派な演奏。シューマンではもう少し湿った抒情を求めたくなる部分もあったが、このどちらかといえば乾いた歌い口がショスタコーヴィチでは功を奏している。
同じく三重奏曲をもう一枚。リリック三重奏団による1963年の録音。力感溢れる硬派な音作りが作品によく合っている。デュナーミクの幅に比べると表現の幅に物足りなさを感じなくもないが、まずは模範的な仕上がりということができるだろう。カップリングのルイエもアーノルドも、どちらも初めて聴く作曲家だが、洒落た作品で楽しめた。モダン楽器のピアノ三重奏によるトリオソナタというのは最近ではめったに耳にする機会がない分、新鮮な気持ちで聴くことができた。淡々とした演奏も雰囲気が良い。一方のアーノルドは作品自体が渋いせいかもしれないが、演奏・作品ともにあまり印象に残らなかった。
題名のない音楽会21ではここのところ“40周年記念企画”と題して有名アーティストを色々と呼んでいるようだが、たまたま目に留まったロシア関係2回分を録画しておいた。フヴォロストーフスキイの特集は、選曲がいまひとつぱっとしないものの、貫禄の歌唱でそれなりに満足。演奏曲目は以下の通り:
- ヘンデル:オンブラ・マイ・フ
フヴォロストーフスキイ (Br) オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - チャイコーフスキイ:歌劇「エフゲニー・オネーギン」より「人生を家庭のわくだけに」
フヴォロストーフスキイ (Br) オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - トロイカ
フヴォロストーフスキイ (Br) Style of Five オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - Little Bell
フヴォロストーフスキイ (Br) Style of Five オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - 君に告げてよ
フヴォロストーフスキイ (Br) Style of Five オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - マリウ愛の言葉を
フヴォロストーフスキイ (Br) Style of Five オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団
一方、「徹底解剖!千住明・ロシア音楽の魅力」の方は、看板に偽りあり過ぎでがっかり。民族楽器の紹介はなかなか貴重だったと思うが、いくらなんでもこの内容で“ロシア音楽の魅力”は解剖できないだろう。
- ポーリュシカ・ポーレ(ドラマ「青の時代」)
オリガ アナスターシャ・チェボタリョーヴァ (Vn) 千住明 (Pf) オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - チャイコーフスキイ:ワルツ・スケルツォ
アナスターシャ・チェボタリョーヴァ (Vn) オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - 民族楽器の紹介(ドムラ、バラライカ、グスリ、バヤン)
Style of Five - エセーニンの思い出に
Style of Five - 風吹き来たらず
オリガ Style of Five オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団 - 千住明:ピアノ協奏曲「宿命」第1楽章より抜粋(ドラマ「砂の器」)
羽田健太郎 (Pf) オルベリアン/モスクワ室内管弦楽団
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