北朝鮮国立交響楽団の「レニングラード」

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  • ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 キム/北朝鮮国立SO (KMC SSO-C-115)
  • Riley,J.,Dmitri Shostakovich: A Life in Film,I.B.Tauris,London,2005.
  • アードイン,J.・亀山郁夫訳:ゲルギエフとサンクトペテルブルグの奇蹟,音楽之友社,2006.
1週間ほど前、僕のサイトを見たという人からメールをもらった。“very surprising CD of Shostakovich”を見つけたとのこと。北朝鮮製のCDで、東京のある店で入手可能だという。そのメールに記されていたURLをチェックすると、確かに在庫があった。こういうご時勢なので、正直なところ色々なことが頭をよぎったりもしたが(工作員からのメールか?妻子がいるのに通販はやばいよな?かの国の外貨獲得に貢献するのもちょっと…ぃゃ…冗談ですけどね)、こういう“キワモノ”をスルーできない哀しい性。あまりにも都合よく東京で仕事があったので、合間をぬってゲットしてきました。

特に迷うことなく到着して店内に入ったものの、目的のCDがどこにあるのか分からず、店員さんにメモを見せて取り出してもらう。「これですね?」……読めやしねぇ……ショスタコーヴィチ蒐集のために、これからはハングルも勉強しなきゃならないのか…と困惑していると、親切にも「レニングラードですけど」と店員さんが助け舟。ということで、何事もなくあっさりと入手できた次第。このCD、『国立交響楽団第15集「外国音楽集1」』というタイトルになっていて、録音年は不明だがマルPは主体94年(2005年)、レーベルはKMC(Kwangmyong(光明) Music Company)である。ライナーは二つ折りの一枚紙で解説の類は一切なく、牡丹峰 (モランボン)劇場とオーケストラの写真、それにオーケストラの簡単な説明(朝鮮語と英語)のみ。写真を見る限りでは、かなりの大編成である。

さて、演奏は…先入観抜きに、どこか奇妙なもの。使用楽譜のせいなのか細かい音の違いがあったりするものの、テンポ設定や解釈自体はごく普通の演奏。問題は、全体の響きである。ゴリゴリとささくれ立って突き刺さるような弦楽器の音色はあまり良い楽器を使っていないのかもしれないが、それでいて音程やヴィヴラートが気持ち悪いほど揃い過ぎている。それが、異様に電子的なエコーをかけられて響いているので、どうにも違和感がある。管楽器も音をはずすようなことはないが、まるでシンセサイザーのような音色。しかも、音量的に盛り上がることがあっても、音楽そのものは徹底して冷ややかなまま。こんなアルバムに必要以上の手間をかけているとも思えないので、普通に何度かのテイクを編集しているだけなのだろうが、とても人間が演奏しているようには思えない。まぁ、話のネタとしては十分に楽しませてもらいましたが(^^)

ショスタコーヴィチ全作品解読』の執筆作業中は、収拾がつかなくなったら困るので、ショスタコーヴィチ関係の新刊書籍を新規に買い込むことはしなかった。無事に出版に至ったので、前から気になっていた本をいくつか米Amazonで購入。まず、Rileyの映画本を読了。ショスタコーヴィチが関わった映画の全てについて、そのあらすじとソ連映画史における位置付け、そしてショスタコーヴィチの音楽の内容を丁寧にまとめた好著である。学術的な分析の類はないが、111ページ(本文のみ)という分量ながらも概説のレベルを超えた詳細な記述は圧巻。『全作品解読』にも要修正箇所が見つかったので、ここに書き留めておくことにする。もし版を重ねることがあれば、その際に訂正したい。
  • 組曲「忘れがたい1919年」の第5曲「美しきゴーリキイへの猛攻撃」という表題について:
    ヒュームのカタログにある「The Assault on Beautiful Gorky」という英語からそのまま訳出していたが、本書pp. 73~74の記述によると「Штурм Краснаы Горки」を「Штурм Прекрасное Горкий」と誤読したことに起因する誤訳らしい。本書では「The Assault on the Red Hill」という訳が与えられている。ただし、「Красная Горка」は確かに直訳すれば「赤い丘」ということになるのだが、実際に「クラースナヤ・ゴールカ」という町名が存在するので、ここは「クラースナヤ・ゴールカの猛攻」と訳すのが適当だと思われる。ちなみに、この町がどこにあるのかをロシア地理雑学・都市データサイトで調べてみると、ニジニ・ノヴゴロド州のヴォロダルスク地区にあるとのことだが、僕が持っている2004年発行の地図帳『Атлас России』ではバシコルトスタン共和国(旧バシキール自治ソビエト社会主義共和国)の首都ウーファ近くの町しか索引に載っていない。映画のことを考えると、ニジニ・ノヴゴロド州の町だと思うのだが、詳しい方がいらっしゃいましたら教えてください。
  • DSCH社の新全集の第32巻で初出版が予告されている映画「戦争屋」の「ドイツ行進曲」について:
    この映画は1940年代末に、アルンシタムが取組んだものの脚本段階で頓挫したとのこと(本文p. 68)。それを手がかりにネットで検索してみるとNew York Timesのサイトがヒット。「Arnshtam's successful career took a major hit in 1950 with his unfinished production,The Warmongers,said to be one of the most vicious anti-American films of the Cold War.」ということなので、ショスタコーヴィチが「ドイツ行進曲」を作曲したのも「1940年代末~1950年」で間違いなさそう。
もう一冊は、ショスタコーヴィチ関連文献というわけではないのだが、ゲールギエフとマリインスキイ(旧キーロフ)劇場の歴史を扱った本を、書店の店頭で購入。約450ページの大著だが、わりと面白くて一気に読んでしまった。ゲールギエフがキーロフ劇場のポストに着任してからの出来事を中心に、劇場の歴史を辿っていく構成。ショスタコーヴィチ関連の記述は、ゲールギエフが振った「ムツェンスク郡のマクベス夫人」についてのみ。面白かったのは、訳者あとがきの中で、亀山氏がゲールギエフにインタビューした際の一節:「この交響曲(第4番)は、あくまでも人間についての交響曲であって、体制についての交響曲ではない。人間について、つまり人間の悲劇をめぐる交響曲なのです(本書pp. 407~408)」。『音楽の友』誌12月号にはロストロポーヴィチのインタビューが掲載されていたが、そこでもロストロポーヴィチがショスタコーヴィチの交響曲第8番のことを「心象風景」という言葉を使って似たようなニュアンスで語っていた。両者ともに、体制との関わりでショスタコーヴィチ作品を語ることも少なくなかっただけに、ちょっと新鮮な感じがした。彼らがごく自然にこのような発言をしているのを見ると、ショスタコーヴィチ受容も新たな段階に来たように思える。

Dmitri Shostakovich: A Life in Film (The Kinofiles Filmmaker's Companions)Dmitri Shostakovich: A Life in Film (The Kinofiles Filmmaker's Companions)
(2005/02/05)
John Riley

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ゲルギエフとサンクトペテルブルグの奇蹟―マリインスキー劇場のサバイバルと挑戦ゲルギエフとサンクトペテルブルグの奇蹟―マリインスキー劇場のサバイバルと挑戦
(2005/12/01)
ジョン アードイン

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久しぶりの音盤屋

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  • J. S. バッハ(ベルナー版):音楽の捧げ物 ケーゲル/ライプツィヒ放送SO (Weitblick SSS0060-2)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 スヴェトラーノフ/ロンドンSO (BBC BBCL 4189-2)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第1&9番 マタチッチ/NHK SO (Altus ALT129)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第13番 アレクサーシキン (B) テミルカーノフ/サンクト・ペテルブルグPO、サンクト・ペテルブルグ放送男声Cho、サンクト・ペテルブルグ連合男声Cho (RCA BVCC-34144)
少し早く職場を出ることができたので、久しぶりにTower Records難波店へ。この「覚え書き」を辿ってみると、どうやら2~3月以来になる。音盤屋自体にも7月以降、足を運んでいない。いくら通販が便利だからといって、こんなことではいけないなぁ…と思う。

今回のお目当ては、ケーゲルの「音楽の捧げ物」。新譜として出てから若干時間は経ってしまったが、あちこちで高評価を目にしていただけに、兎にも角にも入手しておきたかった。この作品には楽曲の順番や楽器編成などをどうするかという問題があるようだが、このアルバムで採用されているのは、原曲とデッサウ、ウェーベルンの編曲を組み合わせて、ベルナーが配列した版である。「ヘルマン・ベルナーによる新版」とクレジットされているが、おそらくはほとんど知られていない版だと思う。楽曲の順番は以下の通り:
3声のリチェルカーレ
王の主題による各種のカノン
ヴァイオリンのための2声のカノン:同度で
2声のカノン(蟹のカノン)
2声の反行カノン
上方5度のフーガ・カノニカ
王の主題による無限カノン
トリオ・ソナタ
王の主題による各種のカノン(デッサウ編)
2声の反行の拡大カノン
無限カノン(デッサウ編)
王の主題による各種のカノン(デッサウ編)
2声の1全音上昇カノン(螺旋カノン)
尋ねよ、さらば見いださん(謎のカノン)(デッサウ編)
2声のカノン
4声のカノン
6声のリチェルカーレ(ウェーベルン編)
ケーゲルが、管弦楽編曲分以外の楽曲に対して、どの程度関与しているのかはよく分からない。冒頭の「3声のリチェルカーレ」では、バッハがフリードリヒ大王の前で実際に演奏したジルバーマン作のフォルテピアノを復元して用いているが、これがケーゲルのアイディアなのか、あるいは録音の企画側の発案なのかも分からない。さらには、なぜこの録音が長らくお蔵入りしていたのかも分からない。

このように謎だらけのアルバムではあるが、内容はとんでもなく素晴らしい。現在の古楽研究を踏まえたものとは異なる“オールド・スタイル”だが、奇を衒うことのない真摯な演奏は、技術的な問題を越えて、感覚的にしっくりとくる。デッサウ編曲の5曲も違和感は全くなく、むしろ現代人にとっては馴染みのある音といえるだろう。ウェーベルンの編曲も拍子抜けするほど淡々とした演奏だが、逆にこれぞ王道とでもいうような荘厳な音楽になっている。実に良い演奏である。

スヴェトラーノフには、交響曲第8番のMelodiya録音はない。主兵のソヴィエト国立SOではないものの、BBCレーベルから初出のライブ録音(1979年)がリリースされたので、買わない訳にはいかない。ということで、わりと期待して聴き始めたのだが、正直なところ肩透かしを食らった気分。オーケストラの精度は低く、録音状態も優れないということもあるが、それ以上にスヴェトラーノフの解釈がしっくりとこない。端的に言えば、抒情的に過ぎる。この作品には、“形式主義者”ショスタコーヴィチの面目躍如たる荘厳な造形美があるが、この演奏ではそれを感じることができない。緊張感や音楽的な意志の力強さは十分に伝わってくるが、にもかかわらず音楽のあちこちに隙間が空いているように聴こえてならない。中では、第4楽章の雰囲気と訴求力が印象的であった。

マタチッチのショスタコーヴィチというのは、想像したこともなかった。これがなかなか正統的でありながらも剛毅な男らしさに満ちたなかなかの佳演。適切なテンポで、節度のある調和のとれた響きが繰り広げられる。第1番の第4楽章などの弱奏部では絶妙の響きも引き出していて、マタチッチの凄さを再認識させられる。第9番終楽章コーダの追い込みも格好良い。ただ、オーケストラには技術的に苦しい部分も少なくない(特に第9番)。

テミルカーノフの「バービイ・ヤール」は、新譜とは言っても10年前(1996年)のライヴ録音。音楽がどうにも上滑りしている感が強く、聴き手に訴えかける切実さに欠ける。ライヴゆえの瑕はともかくとして、音響自体はそれなりに壮麗なだけに、一層空虚な印象が強い。不自然に速いテンポ設定にも大いに疑問が残る。ちなみに国内盤を購入したのだが、一柳氏の対訳が秀逸で、これは思わぬ収穫。とはいえ、この演奏内容では対訳だけに2520円を払うことになり、コストパフォーマンスが良いとは言えないのだが。

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genre : 音楽

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読書の晩秋…ぃゃ…初冬

  • ツイピン,G.・清水純子訳:ソビエトの名ピアニスト―ソフロニツキーからキーシンまで―,国際文化出版社,1992.
  • 山口玲子:巌本真理 生きる意味,新潮社,1984.
  • オストロフスキー,N.・横田瑞穂・日野守人訳:鋼鐵はいかに鍛えられたか(上・下),青木文庫,青木書店,1953.
  • ゾールカヤ,N.・扇 千恵訳:ソヴェート映画史 七つの時代,ロシア映画社,2001.
  • ゴリン,N.・斎藤充正訳:ピアソラ自身を語る,河出書房新社,2006.
大学生協で、古本市をやっていた。アテもなく棚を眺めていたら、音楽関係で面白そうな本が何冊か並んでいたので、適当に選んで購入。

ツイピンの本は、元々1982年に刊行されたもの。原著では26名が取り上げられているが、邦訳では日本での知名度を考慮して21名に絞っているとのこと。省略された5名がどのような顔ぶれだったのか、気になるところ。ケレル、ヴラセンコ、マリーニン以外は多少なりとも聴いたことのある奏者ばかりなので、演奏を思い浮かべながら楽しく読むことができた。各人の演奏様式についての的確な評だけではなく、H. ネイガウスをはじめとする名教師達の指導ぶりについても十分に紙数が割かれていて、大変興味深い。

巌本真理の評伝も、こういう機会がなければ読むことはないだろうと、迷わず確保。著者が音楽畑のライターではないこともあって、ヴァイオリン奏者としての演奏歴や評価に関する記述には、正直なところ物足りなさが残った。とはいえ、本書の焦点は彼女の人間性がどのように形成され、どのような人生を送ったのかを描くことにあるのだから、そうした不満はお門違いというものだろう。

ニコラーイ・アレクセーェヴィチ・オストロフスキイ(1904~1936)の自伝的小説『鋼鐵はいかに鍛えられたか』は、ロシアの国内戦当時、清く正しく戦い、傷つき、そして生きる事を描いた愛国的作品として彼の代表作として広く知られているもの。名前はよく聞くが実際に読んだことはなかったので、購入。年末年始にでもゆっくり読んでみたい。そういえば、エレンブルグの「雪どけ」もまだ第2部を読んでいなかった……

「ソヴェート映画史」は、発刊時にチェックしていたものの、何となく買いそびれたままになっていた。HPのWant List(実態は僕の防備録)にもずっと載せていたので、結構多くの方から入手方法について情報を頂いていたにもかかわらず、ようやくこの度Amazonのマーケットプレイスで購入。まず、読み物として大変面白いことに感心した。ショスタコーヴィチが音楽を担当した映画はわずかしか取り上げられていないが、社会主義体制下での映画界の成果が流れるような筆致で見事に描かれている。特に紙数を割いている作品などは、是非観てみたいという欲求を抑えきれない。巻末には、1927年以降に日本で公開されたソヴィエト映画がリストアップされているのも嬉しい。

ゴリンのピアソラ本も、ようやく入手。通勤電車の中で読んでいたのだが、あまりの面白さに3日ほどで一気に読了。ピアソラの音楽、とりわけ自身が演奏した数々のアルバムを聴いたことがある人ならば、惜し気もなく披露されている数々のエピソードや、ピアソラ自身の言葉に息をつく間もないはずだ。作品やアンサンブルに対する評価も、至極納得のいくものばかりで、ファン必読の一冊である。

ソヴェート映画史―七つの時代ソヴェート映画史―七つの時代
(2001/03)
ネーヤ・ゾールカヤ扇 千恵

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ピアソラ自身を語るピアソラ自身を語る
(2006/07/11)
ナタリオ・ゴリン

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genre : 音楽

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HMV(通販)でお買い物(9月分)

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  • ショスタコーヴィチ:交響曲第11番 プレトニョフ/ロシア・ナショナルO (PentaTone Classics PTC 5186 076[SACD])
  • ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1&2番、ロマンス(組曲「馬あぶ」より) ホープ (Vn) M. ショスタコーヴィチ/BBC SO (Warner 2564 62546-2)
  • J. S. バッハ:2台のクラヴィーアのための協奏曲第1番、モーツァルト:ピアノ協奏曲第10番、ショスタコーヴィチ:コンチェルティーノ A. ウゴールスキイ、D. ウゴールスカヤ (Pf) ツァルネツキ/プフォルツハイム南西ドイツCO (ebs ebs 6125)
  • ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ、ジャズ組曲第1番(M. グラズマン編)、アウエルバッハ:孤独の組曲、ヴァイオリン・ソナタ第2番「9月11日」 V. グラズマン (Vn) ヨッフェ (Pf) (BIS BIS-CD-1592)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第9番、A. ダヴィデンコの2つの合唱曲「第10里程標」と「街はざわめき」のオーケストレイション、ピアノ協奏曲第1番、映画音楽「コルジーンキナの出来事」 T. ポリャーンスカヤ、アダモヴィチ (Pf) ゴンチャロフ (Tp) V. ポリャーンスキイ/ロシア・ステートSO&シンフォニック・カペラ (Chandos CHAN 10378)
  • 石田一志・コスチルキン,A.・タラソヴァ,E.(編):露和・和露音楽用語小辞典―くらしき作陽大学ロシア音楽センター版,朔北社,2006,110p.
HMVでオーダーし、9月中に届いていたにもかかわらず、二ヶ月以上も未聴のまま積んでいた音盤を、ようやく消化。

プレトニョフの第11番は、整然としていながらも高揚感に満ちた、なかなかの佳演。優れた録音も影響しているのだろうが、輝かしく力強い響きがとても美しい。ライヴ録音ゆえにノーミスではないが、鑑賞に難を感じるような大きな瑕はない。ただ、緊張感に多少ムラがあり、幾分冗長さを感じる箇所があるのは惜しい。

ホープの協奏曲集は、マクシーム率いる野性味たっぷりのオーケストラがまさに血沸き肉踊る雰囲気を醸し出していて楽しい。独奏はやや線が細く、それゆえに音楽に隙間が空いてしまう瞬間があるのが残念。もっとも、弱奏部での音色の使い分けには結構凝っているので、特に第2番では独特の効果を発揮している部分もある。「馬あぶ」のロマンスは、肩の力が程よく抜けた音楽には雰囲気があるものの、オーケストラのアンサンブルはわりといい加減。そこまで力を抜かなくても… 逆に独奏は音色の使い分けに随分と凝っている。なお、Warnerのサイトでダウンロードできる特典は、同じ独奏者による「J. S. バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番 BWV1041より第2楽章」の音楽ファイル(WMA形式)。たぶん弾き振り(ヨーロッパCO、Kristian Bezuidenhout (cemb))なのだろうが、作品の美しさが素直に表出されていて心地好い。

ウゴールスキイ父娘による2台ピアノのアルバムにショスタコーヴィチ作品が収録されているのを、遅ればせながら発見。しっかりとしたタッチで丁寧に弾かれた、堂々たるスケールを持つ秀演。硬質で輝きのある音色も素敵である。バッハとモーツァルトも演奏の傾向は同じなのだが、こちらは今一つ冴えない。平凡なオーケストラの影響もあるのだろうか。最近の録音なのに、録音状態はあまり良くない。

グラズマンのアルバムは、名盤である。ショスタコーヴィチのソナタの冒頭から、艶やかで深みのある、それでいて若々しさも感じさせるヴァイオリンの響きが実に素晴らしい。全体の構成に対するバランス感覚も秀逸で、表現の幅も非常に広い。ピアノとのアンサンブルも全く問題ない。この作品のファースト・チョイスとして薦めるに値する。ジャズ組曲はグラズマンの実父の編曲だが、これがなかなか面白い。清潔でありながらも雰囲気豊かな演奏も素晴らしい。とはいえ、このアルバムの目玉はアウエルバッハの2曲だろう。特に、2001年9月11日の同時多発テロに深い衝撃を受けて作曲されたソナタは、鮮烈なメッセージ性を持った作品である。初めて聴いた曲である上に、アウエルバッハという作曲家のこともよく知らないので断言はできないが、グラズマンはこの作品の諸相を見事に音化することに成功していると思う。「孤独の組曲」も同様。とにかく、聴き終えた後しばらく、聴き辛くはないが、心地好くはない音楽の強い印象が持続する。

ポリャーンスキイのショスタコーヴィチ・シリーズ、久しぶりの新譜(といっても、今年の初めにリリースされたものですが(^^;)は、交響曲第9番と雑多な小品(?)のカップリング。N. ヤルヴィの第9番も似たようなカップリングだったので、これはChandos側の趣味なのだろうか。アルバムとしてのまとまりはともかく、演奏内容は極めて傑出している。まず、第9番の正統的で立派な解釈が素晴らしい。この作品が有する喜劇/悲劇の二面性をことさらに強調することなく、交響曲としての構成の中で十分に描き出している。ロシア臭の強いオーケストラの響きも見事。「ダヴィデンコの2つの合唱曲」は、CD初登場のレパートリーという点において、本アルバムの目玉と言えるだろう。わりとあっさりした流れの良い音楽作りではあるが、適度にアクの強いオーケストラと合唱の響きがそれに一層の魅力を与えている。単なる資料的価値以上のものがある。ピアノ協奏曲でも、オーケストラの魅力は十分に発揮されている。往年の名手ゴンチャロフの音色も健在。解釈も真摯なものだが、独奏に華やかさや際立つ魅力があまり感じられないのが惜しい。「コルジーンキナの出来事」も素敵な音楽。肩の力が抜けた軽やかさと気の利いた多彩さが、作品の魅力を十分に伝えてくれる。

読書の秋…はとうに過ぎてしまったが、何冊か本を買い込んだついでに、この夏に出版されたばかりの「露和・和露音楽用語小辞典」を購入。ページ数を考えると決して安くはないが、手元においておきたい一冊である。
露和・和露音楽用語小辞典―くらしき作陽大学ロシア音楽センター版露和・和露音楽用語小辞典―くらしき作陽大学ロシア音楽センター版
(2006/08)
石田 一志、

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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