二〇〇九年の終わりに

  • オーウェル, G.・高橋和久訳:一九八四年[新訳版], ハヤカワepi文庫, 2009.
2年以上前になるが、I. マクドナルドの『新ショスタコーヴィチ(改訂版)』を読んだことがある(2007年6月6日の記事)。その本の中で、オーウェルの『一九八四年』が持ち出されていたのが印象に残り、一度読んでみようと思って書店をのぞいたのだが、残念ながらどこも在庫切れ。その後も折に触れてチェックしていたのだが、探し当てることができないままに月日が経ってしまった。先日、何かでこの小説の新訳版が出版されたことを知り、喜び勇んで書店へ向かったのだった。

念願かなってようやく読むことができたこの本、わが日本の近未来そのもののように思えてならず、3日ほどで一気に読み切ってしまった。当時のソ連などを念頭に置いた設定がなされているが、『動物農場』のような直截的な風刺性はなく、それゆえに作品に漂う重苦しい空気感が皮膚にまとわりつくような気もする。

ショスタコーヴィチが生きた時代や社会には深く興味を持ってきたし、その延長でオーウェルが描いた世界に思いを馳せたりもする。しかし、まさかそれが我が身の現実となろうとは、想像だにしなかった。あと数年で本厄という歳にもなれば、酒を飲みながら政治談議をすることもある。しかし、酔っ払いの口から出まかせとは異なり、いくら見ている人が少ないとは言っても、ブログという場でその類の意見表明をするには、色んな意味で僕にはまだ準備ができていない。だから、ここで僕がこの本を読んで何を思ったかを、具体的に記すことはしない。

来る二〇一〇年が、せめて心穏やかに日々を過ごせるような年であるよう、なけなしの希望を振り絞って願いつつ、本年最後のエントリーとしたい。

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theme : つぶやき
genre : 小説・文学

【YouTube】ショスタコーヴィチ:交響曲第12番(ドゥダメル/ヴァスケス指揮)

11月26日の記事以来、しばらく集中的にYouTubeにアップされているショスタコーヴィチ作品の動画を紹介してきたが、今回で一段落をつけたい。最後に紹介するのは、“ベネズエラのショスタコーヴィチ”2種である。といっても、演奏されている楽曲は同じ。

「エル・システマ(El Sistema)」とは、貧困層の青少年を音楽教育を通じて健全に成長させようという教育プログラムである。ベネズエラは、これを国家的なプロジェクトとして推し進めている。そこで教育を受けた若者達の中から特に優秀な奏者を選抜したユース・オーケストラが、その水準の高さで世界的に注目されている。以下に紹介する2種の演奏はどちらも、このプログラムで教育を受けた指揮者と、ユース・オーケストラによるものである。

まずは、既にベネズエラを代表する音楽家と言ってもよいだろう、ドゥダメルの指揮によるテレサ・カレーニョ・ユースSOの演奏から。ドゥダメル/シモン・ボリバル・ユースOについては、2009年5月2日の記事でショスタコーヴィチの交響曲第10番の動画を紹介したことがある。ここで演奏しているオーケストラ、同じユース・オーケストラと言っても、実は高校生の選抜オーケストラとのこと。ちなみにテレサ・カレーニョとは、ベネズエラ出身の女流ピアニストらしく、彼女の母方の遠い親戚には、シモン・ボリバル(ラテン・アメリカ独立の指導者)がいるらしい(詳しくは中南米ピアノ音楽研究所というHP内のテレサ・カレーニョの項を参照されたい)

さてこの演奏、技術的な問題が多々あることはもちろん事実だが、純粋すぎるほどの音楽への献身ぶりが極めて印象的で、その燃焼度は凡百の演奏の及ぶところではない。映像を見てまず驚くのはオーケストラの人数で、教育目的であることを考えればスコア通りの編成でないことは理解できるものの、ショスタコーヴィチで倍管編成というのは、十分にインパクトがある。もっとも、個々の使用楽器の水準はまちまちで、人数に比例した音量、あるいは音圧があるわけではない。ただ、これだけの人数が揃って音楽に没頭しているのだから、それが音楽に反映しないわけがない。この演奏をショスタコーヴィチの交響曲第12番の正統的な解釈であるとか、代表的な名演だと言うつもりはないが、少なくとも僕にとっては、この交響曲を初めて“良い曲”だと思わせてくれた演奏と言うことはできる。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第2楽章(1)第2楽章(2)
第3楽章第4楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番
ドゥダメル/テレサ・カレーニョ・ユースSO(2009年7月10日)


一方、彼らの“兄貴分”の演奏は、指揮者の資質のせいか、はたまたオーケストラの共感の度合いに差があったのか、上述の演奏に共通する性格ははっきりと聴き取れるものの、随分と常識的なおとなしい仕上がりとなっている。こうなると、技術的なアラが気になったり、散漫になりがちな音楽の運びに不満が募ってしまう。もっとも、これは聴いた順番が悪かったのかもしれないが。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第2楽章(1)第2楽章(2)
第3楽章第4楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番
C. ヴァスケス/シモン・ボリバル・ユースO

theme : クラシック
genre : 音楽

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ライヴ・イン・トーキョー1988

  • ミルバ&アストル・ピアソラ ライヴ・イン・トーキョー1988 (B.J.L DDCB-13012/13)
このアルバムは凄い。凄いとしか言い様がない。音楽でしか表現し得ない感情、感覚の諸相が、このわずかCD2枚の中に凝縮されている。

ピアソラ4度目の来日公演におけるライヴ録音だが、その一部分は、1997年12月7日の『芸術劇場 ピアソラのすべて』(NHK教育)で放映されたのを観たことがある。この番組を録画したVHSは今でも僕の宝物だが、まさかその公演の全曲目がCDとしてリリースされるとは想像だにしていなかった。音源を発掘し、世に出すにあたっては関係者の並々ならぬ苦労があったようだが、関係各位に心の底から感謝したい。

それにしても、このアルバムは凄い。このわずか2ヶ月後にはピアソラの心臓手術のために、五重奏団が解散されてしまう。ピアソラの音楽人生を振り返るならば、この日本公演をピアソラの集大成、あるいは到達点と捉えることも可能であるし、事実、このアルバムに収録された演奏は、そう称するに相応しい境地に達している。ミルバとの公演は1984年に収録されたCDとVHSで楽しんできたし、それらも演奏家達の真価を知らしめるに十分な名盤であったのだが、このアルバムはそれを軽く凌駕する、ピアソラが遺した全録音の中でも一二を争う超名盤である。

今からピアソラを聴こうとするならば、迷わずこの『ライヴ・イン・トーキョー1988』から聴くべきである。凄い、本当に凄いアルバムである。

HMVジャパン


このアルバムの圧倒的な印象の前では、すぐにピアソラ以外の音楽を聴く気にはなれない。YouTubeにもピアソラ関連の動画が少なからずアップされているが、初演者でもあるクロノスQによる「Four for Tango」の動画が2種類あったので紹介しておきたい。どちらもテレビ番組の類のための収録だと思われるが、確かなところは不明。演奏内容に大差はないが、あえて言えば左側の演奏の方が生々しい熱気が感じられる点で僕の好み。もちろん、右側のどこか醒めた雰囲気も悪くない。

ピアソラ:タンゴのための4人
クロノスQ

theme : ワールド・ミュージック
genre : 音楽

tag : Tango_Piazzolla,A.

【YouTube】ショスタコーヴィチ:交響曲第6番(ビシュコフ/キタエーンコ指揮)

YouTubeには、ショスタコーヴィチの交響曲第6番の全曲映像が2種ある。どちらもショスタコーヴィチの交響曲を得意のレパートリーとしている指揮者だけに、質の高い演奏が繰り広げられており、一聴の価値がある。

まずは、ビシュコフ/ケルンWDR SOの演奏から。このコンビのショスタコーヴィチは、CD以外にも第7番の来日公演の映像や、2009年5月6日の記事で紹介した第5番の動画(現在は、削除されている)で観たことがあり、視覚的にはそれらと特に異なる印象はない。ただ、管楽器のソロなどでその奏者だけがクローズアップ(?)される演出については、少々わざとらしい気がして煩わしい。ビシュコフにしては割と洗練された味わいがあり、音楽のしなやかさが際立っているのが面白い。第2楽章だけは焦点が定まらない感じで惜しいが、両端楽章は雄弁でありながらも落ち着いた音楽が繰り広げられている。管楽器(特にホルン)の音色が堅いものの、オーケストラは水準以上の内容で健闘している。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第2楽章第3楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第6番
ビシュコフ/ケルンWDR SO(2006年 ケルン・フィルハーモニー)


もう一つは、交響曲全集も録音しているキタエーンコの指揮による演奏。録音と同様の大柄な演奏だが、オーケストラの陽性の音色が影響してか、嫌みのないスケールの大きさを感じさせて好ましい。第3楽章などは鈍重になりかねないテンポ設定ではあるが、オーケストラの持つ自然に湧き立つような賑やかさがそれを補って余りある。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第2楽章第3楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第6番
キタエーンコ/ミラノ・スカラ座O

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

【YouTube】ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番(ラムスマ独奏)

つい最近になってYouTubeにアップされた動画から、オランダの女流ヴァイオリニスト、シモーネ・ラムスマによる、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を。

彼女は1985年生まれとのことで、この映像がいつ収録されたのかは定かでないが、まだ20代前半であることは間違いない。テンペラメントのある、気持ちの良い音楽を奏でる演奏家だというのが第一印象。総じて模範的で立派な演奏である。技術面の課題は十分にクリアされているし、楽器も良いものを使っているようで、とても良い音がしている。ただ、若さゆえか勢い任せになる部分が少なくなく、第2楽章などは、少々肌理が粗いように感じられるのが惜しい。

オーケストラは、安定感のある立派な演奏である。2009年7月29日の記事で紹介したS. ハチャトゥリャーンが独奏した同曲のバックと同じ組み合わせでもある。第3楽章でのファゴットの切々とした歌などは、特筆に値する。余計なことだが、ズヴェーデンの頭がたまに乱反射するのは、目に優しくない。

第1楽章(1)第1楽章(2)~第2楽章
第3楽章(1)第3楽章(2)
第4楽章
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ラムスマ (Vn)、ズヴェーデン/オランダ放送PO

theme : クラシック
genre : 音楽

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【YouTube】ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲(コーペリマンQ)他

12月17日の記事に続き、コーペリマンQの動画を。

先に紹介したヴァーインベルグの五重奏曲と同様に、コーペリマンの娘がピアノを担当したショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲の動画を発見。つい最近の演奏会の模様である。この演奏だけをとって評価してしまうのは危険だが、さすがのコーペリマンにも老いが忍び寄っているのか、技術的な綻びが散見される。ライヴなのでそう目くじらを立てるほどのものではないが、彼の演奏スタイルを考えると、やはりどうしても気になってしまう。演奏自体は、おそらく何度となく弾いてきたのだろう、全員が楽曲を手中におさめたという自信と貫禄に満ちたもの。

第1楽章第2楽章
第3~4楽章第5楽章
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲
コーペリマンQ、E. コーペリマン (Pf)(2009年11月18日 ハーレム・フィルハーモニー小ホール)


この約4年前に演奏された、コーペリマン父娘によるショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタという音源もYouTubeにアップされていた。ただし映像はなく、音声のみ(演奏者のポートレートが映像代わりに編集されている)。こちらは、コーペリマンの凄味を堪能することができる。娘のピアノも堅実で力感のある、なかなかのもの。同じ顔合わせで、正規録音が実現するといいのに。

第1楽章第2楽章~第3楽章(1)
第3楽章(2)
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ
M. コーペリマン (Vn)、E. コーペリマン (Pf)(2005年2月1日 イーストマン音楽院キルボーン・ホール)

theme : クラシック
genre : 音楽

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【YouTube】ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番/ヴァーインベルグ:ピアノ五重奏曲(コーペリマンQ)

12月11日の記事で紹介したボロディーンQのDVDは大変素晴らしく、その後、ショスタコーヴィチの2曲だけはiPodにも入れて楽しんでいる。リアルタイムでその新譜や実演に触れていたこの四重奏団は、今なお演奏活動を続けているが、しかし、Vaのシェバリーンが引退し、1st Vnのコーペリマンも交代、そしてVcのベルリーンスキイが亡くなった今、マン引退後のジュリアードQのように全くの別団体になってしまったと考えるべきだろう。

DVDで観た若きコーペリマンの名技に圧倒的な感銘を受けて、その思い出を求めるようにYouTubeを彷徨っていたら、現在コーペリマンが結成しているコーペリマンQの最近のライヴ映像がいくつかアップされていた。どうやらこの四重奏団、あるいはコーペリマンのファンか関係者が動画をアップしているようで、少なくない映像を視聴できるようになっている。今日は、2008年3月12日にキプロスで行われた演奏会の映像から2曲を紹介したい(当日、どの順に演奏されたかはわからない)。

まずは、先のDVDにも収録されていた得意のレパートリー、ショスタコーヴィチの第8番である。あの硬質で澄んだ音色はそのままながらも、ボロディーンQ時代の精密機械みたいな印象はなく、余裕と大きさを感じさせるところに、成熟したコーペリマンの境地が聴き取れるように思える。一方で全体のアンサンブルには、よく言えば余裕、悪く言えばルーズさが感じられる。しっとりとした味わいはあるものの、突き刺さるような慟哭には欠ける。

Part 1(第1楽章~第3楽章(1))Part 2(第3楽章(2)~第4楽章(1))
Part 3(第4楽章(2)~第5楽章)
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番
コーペリマンQ(2008年3月12日 キプロス)


もう1曲は、ヴァーインベルグのピアノ五重奏曲。ショスタコーヴィチの圧倒的な影響下にあると言われるヴァーインベルグだが、1944年に書かれたこの作品にも、1940年に書かれたショスタコーヴィチの同編成の作品の影響を聴きとることができる。もっとも、ユダヤの調子が強く感じられるせいか、全曲の気分はむしろ、ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番と共通する。ミャスコーフスキイのように調性が崩れかかった、うねりのような音が連なる舞曲調の音楽が、いかにもヴァーインベルグらしく、若書きの作品ながらも完成度の高さを感じさせる。

コーペリマンの娘エリザヴェータがピアノを担当したコーペリマンQの演奏は、いささか立派すぎるような気もしなくはないが、音楽的にも技術的にも申し分のないもの。

第1楽章第2楽章
第3楽章第4楽章(1)
第4楽章(2)~第5楽章
ヴァーインベルグ:ピアノ五重奏曲
コーペリマンQ、E. コーペリマン (Pf)(2008年3月12日 キプロス)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 作曲家_Weinberg,M.

【YouTube】ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番(D. オーイストラフ独奏)

12月11日の記事で紹介したD. オーイストラフによるショスタコーヴィチの協奏曲が、膨らみまくった期待を満たしてくれるものではなかったので、リベンジを。YouTubeにアップされている映像は、おそらく『アート・オブ・ヴァイオリン』と『太陽への窓』の中に収録された断片の出典なのだろう(これを書いている時点では、きちんと確認していない)。

オーケストラには鈍重さが感じられるし、オーイストラフだってノーミスではない。しかし、先のCDでは削ぎ落とされていた猛烈な緊張感と巨大な存在感が、この動画には満ち満ちている。目先の鋭さや鮮やかさが聴き手を弾きつけるのではなく、地の底から湧いてくるかのような重量感たっぷりの音楽が、空間も、そして聴き手の心をも否応なしに支配してしまう。これぞ、オーイストラフの真骨頂。

第1楽章(1)第1楽章(2)~第2楽章(1)
第2楽章(2)~第3楽章(1)第3楽章(2)
第4楽章
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
D. オーイストラフ (Vn)、フリッケ/シュターツカペレ・ベルリン


本ブログでもこれまでに少なくない数の動画を紹介してきたが、YouTubeニコニコ動画といった動画共有サービスのサイトにアップされているショスタコーヴィチ関連の動画は結構な数になる。ファイル容量の関係で1曲が数個のファイルに分割されていることがほとんどで、それらを探し当てるのに手間取っては、せっかくの鑑賞の興をそぐことにもなりかねない。自分用のブックマークがてら、それらを一覧にしてショスタコーヴィチのHPのコンテンツに追加してみた。

このリストを作成しながら見つけた動画を、オマケに。ヴェンゲーロフとジルベルシテインの二重奏である。動画には「8つの前奏曲」とタイトルがつけられているが、ツィガーノフの編曲は10曲のセットである。最初の第2番と第6番の2曲が欠落しているだけで、残りは曲順も「10の前奏曲」と一致する。動画の開始部分の雰囲気からみても、当日は10曲が演奏されたのではないかと推測する。両者ともに無類の名手であるから、この手の小品の鮮やかさは実に見事である。

ただ、こうしてD. オーイストラフとヴェンゲーロフとを並べてみると、ヴァイオリン演奏の流儀も、たかだか数十年の間に随分と変わったものだと改めて思う。

第12、13、17、18、19曲第21、22、20曲
ショスタコーヴィチ(ツィガーノフ編):10の前奏曲より
ヴェンゲーロフ (Vn)、ジルベルシテイン (Pf)(2006年 モスクワ)

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genre : 音楽

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【YouTube】ショスタコーヴィチ(バルシャーイ編):室内交響曲(イサカージェ指揮)

12月10日の記事で紹介したドキュメンタリーの中で、柳澤先生はアルバニア人とセルビア人とが混在するアンサンブルを作ろうと奔走していた。そのさらに上をいくのが、スロヴェニア、クロアチア、セルビア、コソヴォ、ボスニア、モンテネグロ、マケドニアという旧ユーゴスラビア諸国およびドイツの学生を集めた、このアンサンブル。“南東ヨーロッパ”という呼び方には馴染みがなかったが、なるほど言われてみればその通りである。指揮は、グルジア出身のヴァイオリニストであるリアナ・イサカージェ。彼女が同曲を指揮した録音については2008年1月16日の記事で紹介したこともある。
彼女がこの曲を得意にしていること、奏者達が各々の潜在能力を存分に発揮していること、そもそも曲自体が大傑作であること……などなど、色んな要因があるのだろうが、とにかくこの演奏は聴き手の胸を抉るように打つ。いくら綺麗事を言っても、この種の演奏会が政治的な意味合いを持つことは否定できない。様々な理想や思いを持って集った若者達がそのような場で奏でるのに、ショスタコーヴィチのこの作品ほど相応しい音楽はないだろう。

第2楽章が終わり、第3楽章にアタッカで入ろうとするまさにその時、教会の鐘の音が聞こえてくる。まるで、朝比奈隆の“ザンクトフローリアンの鐘”みたいだが、それとは全く異なる、この悲痛極まりない鎮魂の音色は非常に印象的だ。

Part 1(第1楽章~第2楽章)Part 2(第3楽章~第4楽章(1))
Part 3(第4楽章(2)~第5楽章)
ショスタコーヴィチ(バルシャーイ編):室内交響曲
イサカージェ/Young Euro Classic South Eastern Europe


こういう音楽の後には何も聴きたくなくなってしまうが、ここはあえて思い切り雰囲気を変えつつも、東欧つながりで、マズアが指揮したショスタコーヴィチの交響曲第1番を。よく整えられた流麗な演奏で、とても耳に心地好い(否定的な意味では決してない)。

第1楽章第2楽章
第3楽章第4楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第1番
マズア/ロンドンSO

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genre : 音楽

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ボロディーンQのDVD

  • モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番 D. オーイストラフ (Vn) ムラヴィーンスキイ/レニングラードPO (Orfeo C 736 081 B)
  • チャイコーフスキイ:弦楽四重奏曲第1&2番、ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3&8番 ボロディーンQ (medici arts 2072298 [DVD])
11月27日および12月4日の続き。今回の注文で最も楽しみにしていたのが、この2枚である。

しかし、オーイストラフのライヴ録音は、残念ながら期待したほどのものではなかった。とにかくメリハリのないぼやけた音で、どう聴いても生彩を欠いた演奏のようにしか聴こえない。ウィーン楽友協会ホールでの収録だが、ホールの音響というよりは、録音あるいはマスタリング上の問題なのだろう。ただ、その朦朧とした音像の向こう側では、集中度の高い、洗練されたアンサンブルが繰り広げられていることだけは、かろうじて聴きとることができる。端正に整えられつつも余計な力みのないニュアンスに富んだ(ように想像できる)モーツァルトも素敵だし、難曲であることを微塵も感じさせない鮮やかなショスタコーヴィチも余人をもって代え難い高みに達している。それだけに、一切の“凄み”を削ぎ落としてしまったかのようなこの録音が、残念でならない。

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一方、ボロディーンQのDVDは、期待に違わぬ素晴らしい内容であった。普通にCD等で聴いているだけでは退屈極まりない作品であるチャイコーフスキイの2曲(特に第2番)ですら、全てが理にかなった演奏技術を目の当たりにしているだけで、あっという間に曲が終わってしまう。ショスタコーヴィチに至っては、何をかいわんや。弦楽四重奏を愛する人なら、一度は観ておきたい映像作品である。もっとも、この凄絶な音楽の前では一瞬たりとも気を抜くことができないので、BGM感覚で観るわけにはいかないが。

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戦場に音楽の架け橋を:柳澤寿男先生のこと

  • 戦場に音楽の架け橋を~指揮者 柳澤寿男 コソボの挑戦~ (録画 [BS Japan(2009.11.21)])

かぶとやま交響楽団の第27回および第29回定期演奏会に客演していただいたのをきっかけに、親交を持たせていただいている柳澤先生のドキュメンタリーを観た。BSジャパンの番組HPを見ると、どうやら今回は再放送だったようだが、普段BSやCSのドキュメンタリー系の番組はほとんどチェックしていないだけに、放送予定を見つけて録画できたのは奇跡といってよいかもしれない。

柳澤先生を初めて知ったのは、上述した演奏会で一緒に演奏させていただいた時のこと。それまでは、存在すら知らなかった。その後、岡谷市のカノラータ・オーケストラの第1回定期演奏会(2002年10月5日)にエキストラとして呼ばれて弾いたこともあり、これら計3回が柳澤先生の棒で演奏した全てである。

アマチュアというのは身勝手なもので、自分はロクに弾けもしないくせに、呼んだ指揮者には遠慮会釈なくケチをつけたりする。その是非はさておき、練習から本番に至るまで、さしたる不満を抱かずに演奏できることは、やはりそうめったにあるものではない。柳澤先生とは、そのめったにない経験をすることができた。僕は、本番よりも練習の密度の濃さの方をより強く求めるのだが、柳澤先生の練習はまさに僕が求める細かさで、しかも妥協がない。一つ一つの約束事を徹底し、丁寧に確認しながら積み上げていく音楽作りの過程も、まさに自分自身が目標としているもので、毎回の練習が本当に楽しかった。もちろん、そういうやり方に不満を持つ奏者がいたこともまた事実で、それこそがオーケストラの難しさなのだろう。

練習後に酒を飲んだり、何の前触れもなく電話がかかってきたりしたこともあったが、いつでも、僕は先生のバイタリティに圧倒されていた。先生がバルカンでポストを得て旅立って行った時、ありきたりの(それを否定するつもりは毛頭ない)キャリアを積み重ねるのよりは、ずっと先生らしいと思った。その後、年賀状以外はすっかり無沙汰していたが、異国の文化を全身で受け止め、忙しくも充実した日々を送っているのだろうと、勝手に想像していた。

旧ユーゴスラビアの悲劇については、それなりに関心もあったので、ある程度の知識は持っていたつもりだった。しかし、それはやはりただの知識でしかなく、たとえば、国立のオーケストラといいながら、奏者が弾いている楽器が粗悪なもの――日本ではアマチュアでももうちょっとマシな楽器を持っている――しか揃っていないという、その生活水準に愕然とする。劣悪な生活環境、一触即発の治安……ただ生きていくだけでも過酷な中で、音楽をやり続けるということの凄まじさ。画面に映し出された柳澤先生の生き様は、実は僕より1歳だけ年下な彼が、僕にとっては紛れもなく“先生”なのだということを、この上ないほど力強く物語っていた。

先生のより一層のご活躍と、何よりも安全とご健康を祈念したい。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_柳澤寿男

【YouTube】ショスタコーヴィチ(スタセーヴィチ編):弦楽とティンパニのための室内交響曲(コチャノフスキイ指揮)

レニングラード封鎖解除62周年記念演奏会での演奏。コチャノフスキイの動画を紹介するのは、交響曲第9番弦楽八重奏のための2つの小品に続く3曲目ということになる。自身のプロモーションにインターネットを活用している演奏家なのだろう。

他の2曲にも共通するのだが、一見手堅くまとめられてはいるものの、棒のコントロールが細部にまで利いていないのが少し気になる。また、重厚な迫力が表出されている一方で、静謐感には欠ける。要するに、奏者優位で演奏がなされているということなのだろう。まだまだ若い指揮者なので、さらなる研鑽を期待したい。

この動画の聴きどころは、有名なバルシャーイ編曲ではなく、弦楽合奏にティンパニが付加されたスタセーヴィチの編曲が採用されているところ。ティンパニの生々しい打込みは、作品が持つ悲痛な叫びに一層の真実味を与えるようにも聴こえる。ただ、映像の中にティンパニは一切入っていないので、“聴き”どころではあっても“見”どころでないのは残念。

Part 1(第1楽章~第3楽章(1))Part 2(第3楽章(2)~第5楽章(1))
Part 3(第5楽章(2))
ショスタコーヴィチ(スタセーヴィチ編):弦楽とティンパニのための室内交響曲
コチャノフスキイ/サンクト・ペテルブルク・カメラータ(2006年1月26日 State Hermitage Theatre)


おまけ、と言うには豪華だが、最後にロシア・ナショナルOの15周年記念演奏会からの一コマを。アンコールなのか、それともガラ・コンサートのような感じなのかは映像から判断できないものの、リラックスした雰囲気で存分にオーケストラの底力を見せつけるような演奏が楽しい。「タンゴ」では弦楽器の不揃いが気にならなくもないが、管楽器は実に見事である。

ショスタコーヴィチ:組曲「ボルト」より第2曲「ポルカ」、第4曲「タンゴ」
プレトニョフ/ロシア・ナショナルO(2005年10月26日 モスクワ音楽院大ホール)

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genre : 音楽

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【YouTube】ショスタコーヴィチの歌曲

ショスタコーヴィチが遺した数多くの作品の中でも、歌曲だけは、少なくとも我が国での演奏頻度は低いままである。実演はおろか、映像を見ることもない。だから、YouTubeにアップされているいくつかの動画は、どれも全曲でないのが残念ではあるものの、大変貴重なものばかりである。

中でも、L. ハリトーノフが歌った作品98からの2曲は、極めて素晴らしい。美しく張りのある声、伸びやかで表情豊かな歌心、全曲でないことが本当に残念でならない。やや芝居がかってはいるが、ピアノ伴奏も見事。

3. 絶望の日4. 喜びの日
ショスタコーヴィチ:ドルマトーフスキイの詩による5つの歌曲より
Leonid Kharitonov (Br) (1974年)


声の美しさという点では、レイフェールクスも負けてはいない。演奏会のアンコールと思われるが、演奏を云々するにはさすがに短すぎるものの、貫禄の歌唱であることは確かだ。

ショスタコーヴィチ:雑誌「クロコディール」の詩による5つの歌曲より第2曲「かなわぬ願い」
レイフェールクス (Br)、スキギン (Pf)(2007年 モスクワ音楽院)


動画の登録者が歌手本人名義(実際に作業をしているのが誰かはわからないが)になっているのが、Lilia Linchukというメゾ・ソプラノ歌手による「スペインの歌」。譜面台上の楽譜から想像するに、演奏会では全曲が歌われたのだと思われるが、今のところ最初の3曲だけがアップされている。ピアニストの身のこなしが好きではないが、歌唱そのものは素直で好感が持てるもの。

1. さようならグラナダ!2. 星くず
3. 最初の出会い
ショスタコーヴィチ:スペインの歌
Lilia Linchuk (MS)(2006年1月26日 State Hermitage Theatre)


Natalya Kraevskyというソプラノ歌手の名も初めて知ったが、彼女の公式サイトからもリンクを張られている動画なので、これもまた、おそらくは演奏家本人の承諾の下に撮影されたものなのだろう。声も容姿も、まぁ美しいといってよいのだろうが、少なくともこの曲に関していえば、あまりその魅力を感じ取ることはできなかった。起承転結のはっきりした曲なのだが、そうしたメリハリに欠如しているために、歌そのものが印象に残らない。

ショスタコーヴィチ:「風刺」より第4曲「思いちがい」
Natalya Kraevsky (S)


「ラヨーク」の映像もあったが、これは率直に言って、期待はずれ。全曲を一人で歌っているのだが、いくら声色を使い分けようと、登場人物のキャラクターが明確にならないのでは、この作品の面白みは表現されない。もっとも、映像の品質が優れないことなどから察するに、純粋に音楽的な側面、あるいはショスタコーヴィチ作品の解釈といった側面からこの演奏を評価することが妥当なのかどうかには、議論の余地があるだろう。

Part 1Part 2
ショスタコーヴィチ:反形式主義的ラヨーク
P. Kutyin (Br)、I. レーベジェフ (Pf) 他(2006年10月12日 モスクワ)

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genre : 音楽

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【YouTube】ショスタコーヴィチ:交響曲第1番(ゲールギエフ指揮)

ゲールギエフによるショスタコーヴィチの交響曲はYouTubeにも随分とアップされていて、全曲があるものについては本ブログでも紹介してきた。今回見つけた第1番のライヴ映像は、12月4日の記事で紹介した録音に先立つこと2年前の演奏である。

マリイーンスキイOとの録音に比べると表現の洗練に不足し、音楽の流れに生硬さも感じられるのが惜しい。表面的で深みはあまりないが、自然に聴き手を引き込むエネルギッシュな音楽の運びはさすが。

第1楽章第2楽章
第3楽章第4楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第1番
ゲールギエフ/ロンドンSO(2006年 バービカン・センター)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_Gergiev,V.A.

【YouTube】ショスタコーヴィチ:交響曲第8番(ロストロポーヴィチ指揮)

ショスタコーヴィチの誕生日に行われた生誕100年記念演奏会にて、最晩年のロストロポーヴィチが指揮した交響曲第8番の映像を、YouTubeで見つけた。

いやはや、これは凄まじい演奏である。ほとんど常軌を逸していると言ってよいかもしれない。僕は、ショスタコーヴィチ作品に関する限りは、押しつけがましい思い入れが溢れ出したベタつくような雰囲気の演奏解釈を、基本的には好まない。この演奏は、まさにその路線の極致……なのだが、とてもそんな常識的な好き嫌いの範疇には収まり得ないほどの圧倒的な説得力をもって聴き手に迫り来る。こんな音楽を前にして、何かを語ろうとするのは愚の骨頂だろう。

指揮者ロストロポーヴィチの渾身の名演、一人でも多くの人がより良い条件で鑑賞できるよう、願わくば、一刻も早く商品化してもらいたいものだ。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第1楽章(3)~第2楽章(1)第2楽章(2)~第3楽章(1)
第3楽章(2)~第4楽章(1)第4楽章(2)~第5楽章(1)
第5楽章(2)
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番
ロストロポーヴィチ/ロシア国立SO(2006年9月25日 モスクワ音楽院大ホール)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_Rostropovich,M.L.

ショスタコーヴィチの交響曲三題(ペトレンコ、ロストロポーヴィチ、ゲールギエフ)

  • ショスタコーヴィチ:交響曲第11番 ペトレンコ/ロイヤル・リヴァプールPO (Naxos 8.572082)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第5&14番 ヴィシネーフスカヤ (S) レシェティン (B) ロストロポーヴィチ/ナショナルSO、モスクワCO (Venezia CDVE 04283)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第1&15番 ゲールギエフ/マリイーンスキイO (Mariinsky MAR0502 [SACD])
11月27日の記事の続き。ショスタコーヴィチの新譜といえば、やはり圧倒的に交響曲がその大部分を占めているが、どこか食傷気味であることも否めず、発売と同時に喜び勇んで入手することがめっきりと減った。今回注文した3枚は、いずれも新譜というには時間の経った、やや今さら感の強いものばかり。

まずは、Naxosレーベルで新たに始まったショスタコーヴィチの交響曲全曲録音の第1弾である。現在のカタログにもスロヴァークによる全集はあるが、その質は非常に低く、価格と入手しやすさ以外にセールスポイントがなかっただけに、この企画は歓迎したいところ。指揮には近年売り出し中の若手、ペトレンコが起用されている。この第11番は、壮麗な佇まいと丁寧な仕上げに好感が持てる演奏である。第1楽章は少々彫りが浅いものの、第2楽章や第3楽章の盛り上げは模範的かつ相応の魅力を持っている。ただし、第4楽章は中途半端な出来であるのが惜しい。「単なる革命賛美の交響曲ではない」というお題目に捕らわれ過ぎたのだろう、楽曲が本来持っている暴力的な推進力が必要以上に削がれてしまい、音楽作品としての魅力や説得力が損なわれている。残曲が非常に強調された最後の鐘の意図はよくわかるが、録音でしか実現できないようなことをやるのには、疑問が残る。

HMVジャパン


ロストロポーヴィチ指揮の交響曲第5番には、スタジオ盤(2種類)とライヴ盤(1種類)、そしてライヴ映像(1種類)の計4種類の演奏がリリースされている。このVenezia盤は、そのいずれとも異なる初出の音源である。10月30日の記事で紹介した書籍の中でも触れられている、1990年のソ連への里帰り公演のライヴであり、歴史的な価値の高い録音と言えるだろう。しかしながら、極限まで高められた集中力で、普段以上にのめり込んだロストロポーヴィチの音楽を音化したナショナルSOの凄絶な演奏は、単なるドキュメントとしての価値だけではなく、純粋に鑑賞用の音楽としても極上の価値を有している。とにかく、全ての音がロストロポーヴィチの体躯のような質量を持ち、全身全霊を傾けた音圧で聴衆の耳に襲い掛かってくる。僕個人は、我を忘れた没入型の熱演というものをあまり好まないが、そうした好き嫌いを超えるだけの力が、この音楽にはある。ロストロポーヴィチによる終楽章コーダの解釈は、いわゆる『証言』的な暗さを前面に押し出したものだが、この録音には“勝利”の晴れやかさも感じられるところも、この演奏会におけるロストロポーヴィチの心境を反映しているようで、大変興味深い。

ボーナス・ディスクは、交響曲第14番のライヴ録音である。こちらは、かつてRevelationレーベルからリリースされてものと同一の音源である。客席のノイズが少なくないのが気になるとはいえ、演奏自体は鬼気迫る圧倒的なもの。歌手もオーケストラも、信じられないくらい巧い。

HMVジャパン


ゲールギエフによるショスタコーヴィチの交響曲シリーズは、第4~9番(Philips)のセットがリリースされて以降、続編の気配がなかったのだが、マリイーンスキイOの自主レーベルで録音が継続されることになったようだ。リリースされてからずいぶんと時間が経ってしまったが、ようやく入手した。これまでの録音にはあまり感心しなかったのだが、今回の2曲は、しなやかに流れつつも彫りの深い表現力を持った、いかにもゲールギエフらしい快演である。妙な小細工を排した正攻法で推進力のある音楽作りが、作品の美質を十分に描き出している。オーケストラも非常に巧く、特に第1番の方は、いわゆる“スタンダード”となり得る演奏だろう。一方、第15番では、どこか人工臭のする響きが、表現の迫真性をわずかながら削いでいるようにも感じる。

HMVジャパン

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

【YouTube】ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第14番(フィッツウィリアムQ)

フィッツウィリアムQの名は、“西側初”の弦楽四重奏曲全集でショスタコーヴィチ好きにはお馴染みだが、わが国でその録音以外の活動が積極的に紹介されたことは、ほとんどないように思う。全集録音から30年ほどを経て、当時と同じ内声と、当時とは異なる外声の組み合わせで演奏された、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第14番の映像をYouTubeで見つけた。商品化されることを前提とした映像作品なので、いつか入手可能になることを願うが、案外、英国などでは既に発売済みだったりするのかもしれない。

この作品には、視覚的にそれとわかるような特殊奏法やアンサンブルの難所があるわけではないので、映像ならではの醍醐味は、特別感じられない。しかし、演奏そのものが非常に素晴らしく、純粋に音楽を聴くためだけに推薦できる動画であることを、強調しておきたい。丁寧に紡がれた響きのテクスチャは、その薄さにもかかわらず、空間を圧倒的に支配する。猛烈な盛り上がりや甘美な抒情も、決して度を超すことはなく、上品な味わいを保ちつつも思索に耽っているような独特の雰囲気を見事に表出している。

この作品を同団体が西側初演した時のエピソードなどをヴィオラ奏者のアラン・ジョージが語ったインタビュー(?)映像も、自慢話っぽいのが鼻につかなくもないが、興味深い。

第1楽章第2楽章
第3楽章アラン・ジョージ (Va) のコメント
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第14番
フィッツウィリアムQ(2002年)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_FitzwilliamQuartet

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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