『東方正教会(文庫クセジュ)』/『続クラシック迷宮図書館(片山杜秀の本 4)』

  • クレマン, O.・冷牟田修二・白石治朗子(訳):東方正教会, 文庫クセジュ, 白水社, 1977.
  • 片山杜秀:続クラシック迷宮図書館(片山杜秀の本 4), アルテスパブリッシング, 2010.
ショスタコーヴィチに始まってソ連時代の音楽、そしてロシア音楽に興味を持ち、傾倒してきたわけだが、ふと振り返ってみると、ロシアの歴史や文化について何も知らないことに、今更ながら気づいた。大学受験は日本史だったこともあり、世界史に触れたのは高校3年の1年間だけ。それも、どこをやったのかすら記憶にないほどで、事実上、履修していないのに等しい。我ながら、どうして赤点じゃなかったのか、不思議で仕方ない。

ロシア音楽に限らず、西洋のクラシック音楽をより深く知ろうと思えば、こうした歴史や文化に関する知識がどうしても必要となる。それは、思想や主義の背景を理解するだけではなく、歌劇などの題材や、宗教音楽の構成など、数多くの音楽作品に関わってくることだ。J. S. バッハの作品に心理的な距離を感じたりするのは、たぶん、こうした自分の無教養に対するコンプレックスの裏返しなのだと思う。

そんなわけで、近年は気が向けば、意識的にその種の書物を読むようにしている。何がきっかけだったか忘れてしまったが、「正教って、何が違うの?」と思ったついでに、Amazonで一冊購入してみた。原著は1965年に出版されていることもあり、ブレジネフ以降のソ連・ロシアの状況を窺い知ることはできないが、古代ローマから中世に至る歴史や、キリスト教の考え方について(あくまでも正教会の立場から見たものではあるが)簡潔にまとめられた好著であった。正直なところ、聖書をまともに読んだことすらなく、信仰心のない異教徒にとっては退屈に感じられる部分も少なくないが、自分の頭の中では色んな線が一つに繋がったような感覚もあって、なかなか刺激的な経験をした。しばらく時間をおいて、同種の本をもう何冊か読んでみたい気もしている。



2月23日の記事で紹介した、片山杜秀氏の書評本の続刊が店頭に並んでいた。内容は先に刊行されているものと変わるところはない。僕自身が実際に読んだものはおろか、本屋などで見かけた記憶がある本は、ごく少数しか取り上げられていない。著者と嗜好が全く異なることもその一因なのだろうが、だからこそ、一冊を読み通すほどの興味を持てない文献の要点を、おそらくは文献そのものよりも面白く語ってくれるこの本は、僕にとって価値がある。

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theme : 読んだ本。
genre : 本・雑誌

【録画】メタ・フォーQ演奏会

  • メタ・フォー弦楽四重奏団演奏会(バルトーク:弦楽四重奏曲第5番、シベリウス:弦楽四重奏曲「親しい声」より第4&5楽章、アラコティラ:イ・ユスリン) メタ・フォーQ (2010.3.4 録画 [NHK BS-hi(2010.4.14)])
根がマメなタイプではないので、どうしても情報通にはなれない。弦楽四重奏を愛好することにかけては、そんじょそこらの人に負ける気はしないのだが、様々な団体の動向を網羅的にチェックするようなことは、どうにも苦手だ。

そんなわけで、メタ・フォーQという団体も、今回の放送で初めて知った次第。バルトークの第5番を映像で観たことがなかったので、観てすぐに消去すればいいや、といった軽い気分で録画してみた。

メタ・フォーQは2001年に設立され、2004年のショスタコーヴィチ国際弦楽四重奏コンクールに優勝し、ショスタコーヴィチ作品の演奏に対する特別賞を受賞。さらに2007年には、ヨーゼフ・ハイドン国際室内楽コンクールでも優勝したという錚々たるキャリアを誇る。チェロ以外の3人は立ったままで、しかも対向配置をとっている辺りに、彼らのちょっとしたこだわりを感じる。ただ、あくまでも僕の趣味から言えば、オーケストラのような大編成と異なり、弦楽四重奏では対向配置を採る積極的なメリットはあまり感じられない。また、立って演奏するのも、独奏ならともかく3人が熱演するとなると、少々目にうるさい。

こうした視覚面はさておき、演奏そのものは大変立派な内容で感心した。まず、技術水準が非常に高く、終始安心して聴き通すことができる。バルトークの6曲中、最も演奏上の難易度が高いと思われる第5番を、これほどまでに清潔に弾き切っていることは、それだけで特筆すべきだろう。表現意欲も旺盛で、それでいて上品さを失わないのも好ましい。新進気鋭の団体らしく、楽曲の隅々まで徹底的に詰めていることが随所に窺えるが、シベリウスに関しては、色々やろうとし過ぎて逆に何となくいびつになってしまったようにも思えたのが惜しい。

ティモ・アラコティラ(1959~)という作曲家は民俗音楽に軸足を置いている人のようだが、アンコールで演奏された「イ・ユスリン」という曲も、独特の雰囲気があって楽しめた。

60分の放送時間の制約の中で、当日のプログラムから“お国もの”ということでシベリウスを抜粋にしてでも放送しようとしたのだろうが、彼らの経歴を考えるならば、時間的にもショスタコーヴィチの第7番の方が良かったのではないかと思う。機会があれば放送してもらいたいものだ。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Bartók,B.

バルシャーイの10枚組BOX(Brilliant)


  • ルドルフ・バルシャーイ・エディション バルシャーイ/モスクワCO他 (Brilliant 9010)

3月22日の記事で紹介した買い物の残り。発売されてから既に一年近く経っているが、僕にとってバルシャーイ/モスクワCOの演奏は子供の頃の刷り込みであり(1997年8月25日の記事)、彼らの多彩なレパートリーをまとめて聴くことのできるこのセットを無視することは、どうしてもできない。

収録曲は、以下の通り:
【CD 1】
J. S. バッハ(バルシャーイ編):フーガの技法(1969.6.19)
【CD 2】
J. S. バッハ(バルシャーイ編):フーガの技法(1969.6.19)
グルック:バレエ組曲「ドン・ファン」より「ピチカート」(1965.1.20)
ラモー:協奏曲第6番(1956.9.23)
ラモー:ガヴォット(コルニェエフ (Fl) 1956.9.25)
リュリ:メヌエットとアリオーソ(1956.9.23)
マレ:3つの小品(1956.10.2)
パーセル:幻想曲第8&12番(1959.11.27)
【CD 3】
ハイドン:トランペット協奏曲 変ホ長調(ドクシーツェル (Tp) 1961.12.21)
ハイドン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調(モレイラ=リマ (Pf) 1974.6.28)
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」(1973.8.9)
【CD 4】
モーツァルト:交響曲第29番(1963.10.14)
モーツァルト:ディヴェルティメント第17番(1968.4.9)
【CD 5】
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調(1968.4.10)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番(リル (Pf) 1970.7.1)
ベートーヴェン:交響曲第8番(1967.12.13)
【CD 6】
ドビュッシー:「子供の領分」より「小さな羊飼い」(1956.9.25)
プーランク:「6人組のアルバム」より第5曲「ワルツ」(1956.9.25)
ヒンデミット:「愛好家および音楽仲間が歌い、演奏する音楽」より第3曲「クープファルツからきた狩人」(1959.11.27)
マルティヌー:ディヴェルティメント(1959.11.27)
バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント(1960.12.3)
バルトーク(ヴェイネル編):子供のために(1962.3.3)
ブリテン:シンプル・シンフォニー(1962.3.3)
【CD 7】
ショスタコーヴィチ:交響曲第14番(ヴィシネーフスカヤ (S) レシェティーン (B) 1969.10.6)
ヴァーインベルク:シンフォニエッタ第2番(1967.3.7)
【CD 8】
ショスタコーヴィチ(バルシャーイ編):弦楽のための交響曲 Op.118a(1967.3.7)
ショスタコーヴィチ:前奏曲とフーガより第20&8番(1960.11.22)
ラーツ:弦楽のための協奏曲(1963.10.14)
B. チャイコーフスキイ:室内交響曲(1967.10.27)
【CD 9】
プロコーフィエフ(バルシャーイ編):束の間の幻影(1967.3.7)
プロコーフィエフ:子供の音楽より「おとぎ話」(1959.11.27)
メエロビッチ:室内管弦楽のためのセレナーデ(1967.3.7)
K. ハチャトゥリャーン:チェロ・ソナタより「アリア」(1967.3.7)
ロクシン:交響曲第7番(グリゴーリエヴァ (A) 1974)
【CD 10】
ブーニン:交響曲第5番(モスクワPO 1968~70)
ブーニン:室内管弦楽のための協奏曲(1962.3.29)
ストラヴィーンスキイ:弦楽のための協奏曲 ニ調(1960.11.22)
ストラヴィーンスキイ:ダンバートン・オークス(録音:1962.3.25)
Classic CaféというサイトのBarshai Discographyを見ると既発音源も多く含まれているようで、例によって、ライヴ録音とされていても収録年月日などのデータがどこまで正しいのかはわからない。以下、ディスク順に。

【CD 1】彼らの「フーガの技法」は、既にYedang盤を架蔵していたが、透徹したアンサンブルの見事さが際立つものの、全体としてはやや退屈さが否めないという感想は、今回改めて聴き直しても変わらなかった。“バルシャーイ編曲”とクレジットされているが、この曲集の内容と性格を考えるならば、そのことに大きな意味は見出せない。「2台のクラヴィアのためのフーガ」は省略されているが、これは純粋に編成上の理由だろう。なお、Yedang盤では1枚に収録されていたが、ここでは最後の一部が2枚目に分割されている。対位法第12と第13の正立形と倒立形とが別のトラックに分割されているため、トラック数も異なっている。さらに、最後の「5度の対位法による12度のカノン」と「3つの主題によるフーガ」の演奏順がBrilliant盤とYedang盤とでは逆になっているが、恐らくは未完のフーガが最後になる方が正しいように思えるものの、確たるところは分からない。

【CD 2】「フーガの技法」の結尾部分に続き、バロック期の作品が収録されている。いずれもモスクワCOが結成されてから間もない1956年の録音で、驚嘆すべきアンサンブルの質をもって彼らがデビューしたことを証明する貴重な記録といえるだろう。今となっては“正しくない”演奏様式なのだろうが、息遣いに至るまで徹底して整えられた人工美は、バロック音楽に相応しいようにも思われる。ただ、バルシャーイと奏者の両者の意識が技術的な完璧さに集中しているように感じられ、音楽に愉悦感がないのが惜しい。

【CD 3】ハイドンの3曲が収録されているが、残念ながら堅実であるという以上の特徴を感じ取ることはできない。中では、ドクシーツェルのトランペットが華麗な情感に溢れていて、すこぶる魅力的。もっとも、ロシア臭のきついハイドンなので、好き嫌いは分かれるだろう。

【CD 4】モーツァルトも、音楽の香りに乏しいのが惜しい。特に団体の技術の高さをこれでもかと見せつけるような交響曲第29番は、嫌みですらある。もっとも、スピヴァコーフ/モスクワ・ヴィルトゥオージも同種の曲で似たような演奏を聴かせることがあり、弦楽器奏者が思い通りになる手兵を得ると、ついついやってしまう音楽の傾向なのかもしれない。

【CD 5】モーツァルトのディベルティメントは、結成から10年以上を経て最盛期にあったこのコンビの凄味を端的に示している。弦楽四重奏以上に緊密なアンサンブルと言ってもよい。僕にとっては、カラヤン/ベルリンPOの怪演と並んで絶対にはずせない演奏である。悪趣味過ぎますかね?ベートーヴェンの2曲は、CD3とCD4のハイドンやモーツァルトに比べると演奏内容が格段に豊か。

【CD 6】編曲作品を含む小品を集めた1枚。こういう“軽い”曲でも精緻極まりない仕上げを追求しているのが、このコンビの魅力でもある。鋭利な刃物で一気に切り裂くような音のアタックゆえに、どの曲も同じように聴こえてしまうのは否めないが、減点材料にはならない。

【CD 7】ショスタコーヴィチの交響曲第14番は、Russian Disc盤などで知られている既発音源。ライヴゆえの瑕はあるが、冷徹な狂気の奔流に圧倒される名演。初めて聴いたヴァーインベルグのシンフォニエッタ第2番は、少々印象が薄いものの、とても美しい音楽。常に濁った情念の渦が感じられるのは、いかにもヴァーインベルグらしい。

【CD 8】バルシャーイが編曲したショスタコーヴィチ作品の初出音源が含まれた、このセットの中で最も楽しみにしていた1枚。その期待は十分に満たされた。特に弦楽四重奏曲第10番の編曲は、背筋に寒気が走るような怜悧さと濃密なロシア風の情感とが高い次元で共存する、非の打ちどころがない名演である。第8番と違って第10番にはこれといった録音がなかったので、この録音が現時点での決定盤となろう。24の前奏曲とフーガからの編曲も抒情的な雰囲気が豊かな演奏だが、編成ゆえか少々ロマンティックに過ぎるようにも感じる。ラーツ作品で惜しげもなく繰り出される圧倒的な名技と、ボリース・チャイコーフスキイ作品の多彩な響きや表情を見事に描き分ける音楽性の高さも驚異的である。

【CD 9】現代ソ連音楽集といった風情のこの1枚も楽しみにしていたが、肝心の作品がそれほど面白くなかったというのが正直なところ。中では、ロクシン作品が印象に残った。何度か聴き込めば、また違った風景が見えてきそうな気もする。ロクシンについて、詳しくはこちら

【CD 10】ブーニンの2曲は、ヴァーインベルグからユダヤ風の民族臭を抜いたような感じ。ショスタコーヴィチの影響があからさまだが、これはこれで十分楽しめる。ただ、どちらもバルシャーイ/モスクワCOのコンビで聴く必然性は、あまり感じられない。演奏そのものは、隅々まで引き締められた立派なもの。興味深かったのは、ストラヴィーンスキイの「ダンバートン・オークス」。この曲は、かぶとやま交響楽団の第29回定期演奏会で弾いたことがあるが、苦戦の末に、どこかゴツゴツした肌触りの演奏に仕上がった記憶がある。それは自分達の演奏技術の低さに起因するものでもあるが、いくつかの録音を聴いても似たような印象を受けたこともあり、そういう曲なんだと思っていた。ところがバルシャーイ/モスクワCOの演奏は、このイメージとは全く異なる、柔らかく滑らかで、鼻歌のようなお洒落さを感じさせるもの。最上の解釈、と言ってしまうにはまだ抵抗があるものの、このセットの中で最も衝撃を受けた演奏とは言える。

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_Barshai,R.B. 作曲家_Shostakovich,D.D.

【YouTube】グバイドゥーリナの協奏曲

YouTubeでシニートケ作品をチェックしている内に、グバイドゥーリナの名が引っかかった。シニートケ同様、気にはしているものの、体系立てて聴くには至っていない作曲家の一人なので、こうして気軽に視聴できる機会があるのは嬉しい限り。

1996年に作曲されたヴィオラ協奏曲は、シニートケの作品と同様に、ヴィオラにとっては宝物とでも言うべき名作であろう。恐らくはショスタコーヴィチを暗示するD-Esのモチーフから始まる単一楽章の作品は、断片的でありながらも訴求性の強いモノローグが、薄くも広がりのある響きの中で展開される、どこかショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタを連想させるものである。

バシメートの独奏は、貫禄としか言いようのない、素晴らしいもの。作品の真価が余すところなく表出されている。

(1)(2)
(3)(4)
グバイドゥーリナ:ヴィオラ協奏曲
バシメート (Vc)、ビシュコフ/ケルンWDR SO(ケルン・フィルハーモニー)


ヴィオラ協奏曲の約20年前、グバイドゥーリナ壮年期の1975年に作曲されたファゴット協奏曲も、YouTubeで視聴することができる。低音楽器だけの特徴的な編成ではあるが、その豊饒な色彩感は特筆すべきもの。音大生による演奏のようだが、作品をしっかりと把握した手堅い仕上がりに感心した。

第1楽章(1)第1楽章(2)~第2楽章
第3楽章第4楽章~第5楽章
グバイドゥーリナ:ファゴット協奏曲
M. Matushek (Fg)、G. Charette(指揮)
(2008年10月12日 オバーリン音楽院ワーナー・ホール)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Gubaidulina,S.A.

【YouTube】シニートケ:電子楽器のアンサンブルのための協奏曲

シニートケ初期(1960年頃)の未完に終わった作品の動画が、YouTubeにアップされていた。

当時のソ連で電子楽器をクラシック音楽に用いることは、それだけで“前衛”だったと思われるが、作品自体は特に電子楽器の可能性を追求しているようには感じられず、数ある楽器の組み合わせの一つとしてこの編成が選択されただけなのだろう。シニートケの旋律線はテルミンなどによく合うので、シニートケにとってはごく自然なことだったのかもしれない。

もっとも、音楽自体は散漫でとりとめのない、平凡なもの。部分的に面白い箇所はあるものの、これでは未完に終わったのも仕方がないと納得する。終結の中途半端さから推測するに、この演奏は現存するスコアに忠実なのだろうが、実演にあたってイヴァーシキンが何らかの手を入れている可能性も否定はできない。

第1楽章第2楽章
第3楽章
シニートケ:電子楽器のアンサンブルのための協奏曲
イヴァーシキン(指揮)(2009年11月22日 サウス・バンク・センター)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Schnittke,A.G.

オストラヴァ音楽院室内管弦楽団の弦楽合奏作品集


  • ヘンデル:合奏協奏曲 Op. 6-4、モーツァルト:ディヴェルティメント KV 136、ショスタコーヴィチ(スタニェク編):24の前奏曲とフーガより第24番、クレイチー:小組曲 スタニェク/オストラヴァ音楽院CO (panton 8111 0231 [LP])
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 スロヴァーク/スロヴァキアPO (Opus 9110 0523 [LP])
随分と間が空いてしまったが、3月8日の記事の続き。

弦楽合奏曲を集めたアルバムで演奏しているオストラヴァ音楽院室内管弦楽団というのは、ライナーノーツを斜め読みした限りでは、17歳以下の学生が中心の団体のようだ。これがなかなか好感度の高い演奏で、ちょっとした掘り出し物。言うまでもなく、技術的にも音楽的にも、とりたてて傑出している訳ではない。だが、みずみずしい音色は下手なプロの団体よりはずっと魅力的だし、丹念に仕上げられた音楽は平凡ではあるが素直で耳に心地よい。ヘンデルなどは、若者が感情移入しやすいのか、切々とした歌が実に立派。“弦の国”チェコの面目躍如たるものがある。

A面が古典でB面が現代曲というのは、いかにもこの編成のアルバムにありがちな組み合わせだが、ちょっと凝った選曲なのが嬉しい。ショスタコーヴィチは、有名なバルシャイ編の室内交響曲ではなく、24の前奏曲とフーガの第24曲を指揮者が編曲したものである。フーガには若干の違和感がなくもないが、前奏曲は編曲も演奏も優れている。ショスタコーヴィチとほぼ同年齢のクレイチーというチェコの作曲家については、初めてその名を知ったが、洒落た小品といった風情で、なかなか愉しい作品であった。

スロヴァークが指揮したショスタコーヴィチの交響曲全集(Naxos)は、今となっては価格面においても利点はなく、コレクターでなければ敢えて手を出す必要性が全くないセットだが、その中でも第5番は比較的良好な演奏であった。スロヴァークにとっては旧録となるOpus盤も、端正ながらも熱気を孕んだ気持ちの良い演奏である。オーケストラは技術的にも音楽的にも洗練されていないが、不思議とこの曲ではあまり気にならない。このコンビは同時期に第10番も録音しているので、機会があればそちらも聴いてみたいところだ。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

『スターリン・ジョーク』


  • 平井吉夫(編):スターリン・ジョーク, 河出文庫, 河出書房新社, 1990.
3月の下旬、所用で神戸・三宮に出向くことがあった。交通の連絡が思いの外スムーズで、予定していた時間より30分ほど早めに駅に到着してしまった。こういう微妙な時間を潰すには、本屋が最適だ。神戸でのんびり買い物することはないので、とりたてて行きつけの店はない。センター街を歩いていれば何かあるだろうと、勘に任せて歩いていると、古本屋が目に入った。店頭のワゴンに並べられていた文庫本を雑に眺めていていたら、目に留まったのがスターリンの顔が描かれた赤い表紙のこの本。こういうのを“縁”というのだろう。たった200円で大満足。

類書は他にもあるが、この本は徹底して政治的なアネクドートに集中していること、そして「あとがき」にある編者の秀逸な考察の2点において、抜きんでている。特に、「よくできたジョークは普遍的」という言葉が印象に残った。なるほど、たとえば次のアネクドートなどは、2009年9月以降の日本のものとしか思えない:

ある女が、法廷で言い張った。自分はたしかに三度結婚したが、ずっと処女であった……。
裁判官が理由をたずねた。
「最初の夫はインポテンツでした。二番目の夫はホモ、三番目は党幹部だったんですもの」
「なんだって?」と判事がたずねる。
「党幹部よ!彼ったら、いつだって約束するだけ、そうなの、約束するだけ……」

(p. 24)

スピーチのネタに困ることは、しばらくなさそうだ。

theme : 読んだ本。
genre : 本・雑誌

【YouTube】ショスタコーヴィチ:交響曲第5番(ドゥダメル指揮)

ドゥダメルが指揮したショスタコーヴィチの交響曲の映像は、第10番(2009年5月2日の記事)、第12番(2009年12月26日の記事)に続いて、この第5番が3つ目となる。ただし、ベネズエラのユース・オーケストラとの共演だった前出の2曲とは異なり、これはイスラエルPOに客演した時のものである。

野外コンサートのライヴ収録ということもあり、演奏者にとっては不利な条件だったのだろう、技術的にそれほど巧い演奏には聴こえない。また、手兵(?)のユース・オーケストラとは性格が全く違う“大人の”オーケストラだけに、暴走せんばかりの熱狂も、あまり感じられない。

しかし、このように落ち着いた演奏で聴くと、ドゥダメルの抒情的で流れの良い音楽作りの特徴が、逆にはっきりするようにも思われる。ショスタコーヴィチにしてはあっけらかんとした明るい響きに違和感が残るものの、第3楽章の、いわば純音楽的な美しさは非常に立派なもの。

第1楽章(1)第1楽章(2)
第2楽章第3楽章(1)
第3楽章(2)第4楽章
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
ドゥダメル/イスラエルPO(2006年 Spoleto)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

【YouTube】シニートケの室内楽曲など

フィラーモニカQの名は、初めて耳にした。彼らのHPを見ると、1985年に結成されたとあるから、ベテランと呼んでも差し障りはないだろう。ショスタコーヴィチの四重奏曲も第3番と第4番の録音をリリースしているようだが、不覚にも全く知らなかった。

シニートケの第1番は純粋に響きの可能性を追求しているような作品だけに、技術的に清潔な演奏でなければ聴くに堪えないと思われるが、フィラーモニカQはこの複雑で至難なスコアを見事なアンサンブルで弾きこなしている。一方で、若いエネルギーを叩きつけるような燃焼度にも不足せず、まずは模範的な演奏と言ってよいだろう。欲を言えば、デュナーミクの扱いに一層の精緻さを求めたいような気もする(たとえばmffのクレッシェンドなど)。

第1楽章第2~3楽章
シニートケ:弦楽四重奏曲第1番 フィラーモニカQ


シニートケの作品には異稿?(他編成への編曲)があるものも多いが、弦楽三重奏曲も後にピアノ三重奏曲に編曲され、むしろそちらが有名になっているような感がある。僕もピアノ三重奏曲は2種類の演奏を架蔵している一方で、弦楽三重奏曲はこの映像で初めて聴いた次第。響きの美しさという点では、僕はこの編成の方が好み。深く清らかで、それでいて情念の渦巻くようなシニートケの円熟した音楽世界を、腕達者の3人が鮮やかに描き出している。

シニートケ:弦楽三重奏曲
モロツ(Vn)、ウソフ (Va)、グートマン (Vc) (2009年12月1日 モスクワ音楽院大ホール)


『シュニトケとの対話』(春秋社, 2002)の中に、『ドクトル・ジバゴ』の「ジバゴの詩編」による歌曲の話題がある。シニートケはこの小説そのものに対してそれほど共感していないようだが、巻末の「ジバゴの詩編」だけは極めて高く評価している。「マグダラのマリア」という歌曲は、音楽がパステルナークの詩の水準に達していないと判断して、初演当日になって初演を撤回したものらしい。作曲者本人の判断は尊重されるべきだが、下の動画で視聴した限りでは、峻厳な美しさが印象的な佳品だと思う。少なくとも、埋もれさせておくには惜しい。

シニートケ:「マグダラのマリア」
E. Kichigina (S)、M. Haba (Pf) (2009年11月7日 モスクワ音楽院ラフマニノフ・ホール)


3月17日の記事以来、YouTubeで視聴することができるシニートケ作品の動画の中から気になったものを6回に渡って紹介してきたが、ひとまずこれで一段落とする。最後は、少し軽い感じの作品で楽しく終わってみたい。

1978年にモスクワのタガンカ劇場で上演された「検察官物語」(ゴーゴリを扱った劇)にシニートケが作曲した劇付随音楽を、ロジデーストヴェンスキイが8曲から成る組曲に編曲した「ゴーゴリ組曲」は、シニートケの作品の中でもわりと知名度が高いものの一つだろう。2台ピアノ用の編曲を誰がいつ行ったのかは知らないが、この編成での演奏頻度も決して低くはない。ゴーゴリの作品に関連のある曲名も楽しいが、引用?パロディ?だらけの音楽が、耳慣れた節が頻出することもあって素直に面白い。わが国でシニートケが紹介され始めた当初は“多様式主義”の一例として紹介されていたような気もするが(記憶違いかもしれない)、そうではなく、どちらかといえばショスタコーヴィチが映画音楽などで行っていた引用の延長上にあるように思える。

下の動画は、少々指回りに怪しい部分もあるが、まずは堅実な演奏と言ってよいだろう。ただ、生真面目な雰囲気が強く、作品の面白さを堪能するには至らないのが残念。もっとも、この編成では致し方のないところかもしれないが。

1.「序曲」・2.「チチコフの幼年時代」・3.「肖像」4.「外套」・5.「フェルディナンドVIII世」
6.「舞踏会」・7.「遺言」
シニートケ:修正主義者の物語
セレジェンコ、ダシャク (Pf)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Schnittke,A.G.

【YouTube】シニートケ:室内オーケストラのための音楽/ピアノと弦楽のための協奏曲

1965年の東ドイツ訪問の際に初演された「室内オーケストラのための音楽」について、シニートケは『シュニトケとの対話』(春秋社, 2002)の中で、ごく簡単に「僕はすぐにそれを不良品として排除しました」とだけコメントしている。ウェーベルン風の凝縮された音楽だが、よくある現代作品といった風情で、個性的な要素には欠ける。“不良品”とまでは思わないが、シニートケ自身が満足できなかったとしても不思議ではない。

イヴァーシキンによる演奏は、作曲者に対する尊敬の念が感じられる誠実なもの。

シニートケ:室内オーケストラのための音楽
イヴァーシキン/Studio for New Music ensemble (2009年11月7日 モスクワ音楽院ラフマニノフ・ホール)


ピアノと弦楽のための協奏曲は、傑作が目白押しの1970年代後半の作品群の中でも、ひときわ美しい、そして演奏頻度も高い、名作である。クライマックスへと向かう息の長い盛り上がりは暴力的な狂気を感じさせるが、その狂気の怖いまでの美しさがとても印象的だ。

この作品を得意にしているリュビツカヤは、巨匠ソンデーツキスの名サポートを受けて、持てる表現力を存分に発揮している。聴き手を音楽に縛り付けてしまうような、とても立派な演奏である。

シニートケ:ピアノと弦楽のための協奏曲
リュビツカヤ (Pf)、ソンデーツキス/モスクワ音楽院SO (2009年12月1日 モスクワ音楽院大ホール)

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Schnittke,A.G.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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