「死者の歌」の日本初演ライヴ

  • ショスタコーヴィチ:交響曲第14番 カスラシヴィリ (S) ネステレーンコ (B) バルシャーイ/モスクワCO (Tokyo FM TFMC-0038)
貴重な放送録音が、晴れてリリースの運びとなった。作曲家がまだ存命だった1975年(わずか3ヶ月後には没してしまうが)、初演から5年ほどしか経っていないショスタコーヴィチの新作が初演者の手によって日本で演奏されていたことを、実際の音で確かめることができるというだけで興奮してしまう。

演奏も、その期待に違わぬ素晴らしいもの。ライヴゆえの瑕は散見されるが、少なくとも僕はそれほど気にすることなく聴き通すことができた。バルシャーイの基本的な解釈は初演時から変わっていないものの、全体に角が取れて、いかにもレパートリー然とした余裕のある落ち着いた仕上がりには、好みが分かれるかもしれない。もちろん、モスクワCOの鋭利な響きと卓越したアンサンブルの精度は、全曲通じて堪能することができる。歌手は2人とも、当時はまだ若手だったこともあってか、安全運転に終始している感は否めないが、声そのものの魅力で無難にまとめている。

当日のプログラムがどのようなものだったのかは知らないが、既にレコードは発売されていたので、この曲を目当てに足を運んだ聴衆も、少なからずいたのだろう。「俺はこの曲を知っているぜ」と言わんばかりの、フライング拍手にはむしろ微笑ましさすら感じなくもない。せっかくの余韻を台無しにした罪は重いが、あの終わりを少しも味わうことなく、ひたすら拍手をいち早くすることだけを考えてこの演奏を聴いていたのだとすれば、あまりに哀れで、怒る気にはなれないのである。

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

ヤグリングのプロコーフィエフ&ボリース・チャイコーフスキイ

  • プロコーフィエフ:無伴奏チェロ・ソナタ、B. チャイコーフスキイ:無伴奏チェロ組曲、チェロ・ソナタ ヤグリング (Vc) グシャンスカヤ (Pf) (Melodiya 33 C 10-07669-70 [LP])
Ars Antiqua / Mikrokosmos Mail Order Co.からの5月到着分。今回は、1枚のみ。送料がちょっともったいない。

ヤグリングは、第4回チャイコーフスキイ国際コンクール(1970年)のチェロ部門第2位の実力者(この時の第1位はゲリンガス)。テンポが微妙に乱れたりするところもあったりして、必ずしも精確無比といった印象ではないが、技術的にも音楽的にも十分にコントロールの利いた好演である。

プロコーフィエフが最晩年に着手して未完のまま遺された作品に始まり、次の世代の人気作曲家ボリース・チャイコーフスキイの初期作品を並べた構成は、優れて統一感のある秀逸なもの。澄み切った抒情を湛えた平易な旋律が醸し出す幽玄の世界は、プロコーフィエフが到達した境地であると同時に、B. チャイコーフスキイの個性そのものでもある。ヤグリングの幾分泥臭い演奏は、B. チャイコーフスキイの若々しい情熱を等身大に描き出していて、作品の魅力を直截的に伝えてくれる。

いずれも演奏頻度の低い曲ばかりだが、単に曲の姿を知るという以上の音楽的な満足度の高い一枚である。

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Prokofiev,S.S. 作曲家_Tchaikovsky,B.A.

『バイエルの謎』(音楽之友社, 2012)

音楽ジャーナリスト渡辺和氏のブログ5月27日のエントリー)を見て、居ても立ってもいられずに書店へ足を運び、一気に貪り読んでしまった。

僕自身はピアノを習ったことがないので、本書の冒頭で触れられる「バイエル批判」は知っているものの、具体的に何がどのように批判されたのか、あるいは何がその批判に値するのかということは理解していない。もちろん、「バイエルの○○番」とピアノのお稽古の進捗状況とがリンクすることもない。にもかかわらず、この本の群を抜いた面白さには、ただひたすらに引き込まれた。

実は、大学に入って間もない頃、せっかくサークルのBOXにピアノがあるのだからと、部屋に転がっていた古ぼけたバイエルを開いて、ピアノを練習しかけたことがある。たぶん全音楽譜出版社のものだったと思うが、その時に「バイエルの原典版っていうのは、一体どこから出ているんだろう?」という疑問を抱いたことを記憶している。どうせなら権威ある楽譜で練習してみたいといった程度のことだったので、一向に上達しないピアノを触ることにも飽きて、いつの間にやらそんな疑問など忘れてしまった。本書は、この素朴な疑問から始まって、バイエルとはどのような人物だったのか、そもそも実在した人物なのか、と話が展開していく。

全ての謎が解き明かされた後で改めてバイエルを眺めてみると、あの“つまらない”教則本から様々な物語や情景が浮かび上がってきて、どの曲も魅力的に響いてくるような錯覚に襲われること、請け合いだ。

近年の音楽書の中でも出色の一冊です。お薦め。

theme : 最近読んだ本
genre : 本・雑誌

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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