【楽曲解説】シューベルト:弦楽五重奏曲

Franz Peter Schubert
フランツ・ペーター・シューベルト(1797~1828)


Streichquintett C-Dur, D 956 (Op. post. 163)
弦楽五重奏曲 ハ長調 D 956(作品163)



 1827年から翌28年にかけて、シューベルトは室内楽の大作を集中的に作りました(ピアノ三重奏曲第1番 D898、ピアノ三重奏曲第2番 D929、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 D934)。1828年3月26日には、彼の生涯において最初で最後となった自作のみのコンサート、いわば作曲家としてのリサイタルが開かれ、そこで弦楽四重奏曲(第15番の第1楽章と考えられています)などと一緒にピアノ三重奏曲第2番が演奏されています。健康状態こそ悪かったものの、歌曲の作曲家、シューベルティアーデ(仲間内のサロン)の作曲家といった枠を超えるべく、シューベルトはその名声を着々と高めていました。こうした室内楽の試みの集大成であり、結果としてシューベルト最後の室内楽曲となったのが、その早すぎる死の2ヶ月前に完成した弦楽五重奏曲です。
 弦楽四重奏+αの編成である弦楽五重奏曲は、ヴィオラを2本使用したモーツァルトの6曲が名高く、ロマン派以降もブラームスやドヴォルザークなどがこの編成で名曲を残しています。しかしながらチェロを2本使用した編成には、ルイジ・ボッケリーニ(1743~1805)の100曲を超える作品群があるものの、目ぼしい楽曲となるとこのシューベルトの作品が唯一無二の存在です(19世紀末のロシアでボロディン、タネーエフ、グラズノフが作っていますが、いずれも彼らを代表する作品とはみなされていません)。ボッケリーニには自身が優れたチェロ奏者だったという事情がありましたが、シューベルトがこの編成を採用した理由については一切知られていません。
 シューベルトの他の作品と同様に、ソナタ形式の第1楽章、三部形式の第2楽章、スケルツォの第3楽章、ロンド形式の第4楽章という典型的な古典派の楽曲構成をとっていますが、同じ旋律を執拗に反復しつつ、転調や楽器および伴奏音型の変化によって繊細な陰影を織りなしたり、主要動機の組み合わせではなく、新たな旋律を導入することで展開部を構成するなどの、シューベルト独自の手法が用いられています。これらは、「未完成」や「ザ・グレート」などの交響曲、あるいは「ロザムンデ」や「死と乙女」、第15番などの弦楽四重奏曲といったシューベルト晩年の創作を通して確立された手法で、それゆえに全体の規模は長大になっていますが、多彩な詩的情緒に満ちた「天国的な長さ」はシューベルトのみならずロマン派音楽の真骨頂です。

シュペーテ弦楽四重奏団 特別公演~アダルベルト・スコチッチ氏を迎えて~(2015年11月22日)

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【楽曲解説】ブラームス:弦楽六重奏曲第1番

Johannes Brahms
ヨハネス・ブラームス(1833~1897)


Sextett Nr. 1 B-dur für 2 Violinen, 2 Violen und 2 Violoncelli, Op. 18
弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 作品18



 ブラームスがベートーヴェンを崇拝するあまり、最初の交響曲を発表するまでに20年以上もの歳月をかけたことは有名ですが、それは弦楽四重奏曲においても同様でした。40歳になってようやく最初の弦楽四重奏曲が発表されましたが、それ以前に20曲にも及ぶ習作を破棄したとも伝えられています。とはいえ、卓越したピアニストであったブラームスが最初に手にした楽器はヴァイオリンとチェロだったこともあり、これらの楽器と深い関連を持つ室内楽は彼にとって決して苦手なジャンルではなく、むしろ創作の原点とも言えるものでした。
 現存する最初期の作品のほとんどがピアノ曲と歌曲ですが、22歳の時にシューマンの「マンフレッド」序曲を聴いて交響曲の構想を練り始めたブラームスは、2曲のセレナードによって管弦楽の可能性を探究し始めます。同時期に書かれたピアノ協奏曲第1番 作品15がいかにも交響曲的な重厚な風格を持つのに対し、当初は室内楽編成で書かれた第1番 作品11、そしてヴァイオリンを欠く変則的な編成をとる第2番 作品16と、2曲のセレナードで追求されたのは室内楽的な明晰さの中に中低弦を活かした独自の柔らかくも厚みのある響きでした。こうした試みの集大成が、1860年に作曲された弦楽六重奏曲第1番 作品18です。奇しくもベートーヴェンの初期弦楽四重奏曲集と同じ作品番号を持つ本作品は、室内楽分野におけるブラームス最初の成功作であると同時に、交響曲作家ブラームスの原点でもあります。
 ソナタ形式の第1楽章、変奏曲形式の第2楽章、スケルツォの第3楽章、ロンド形式の第4楽章と楽曲構成面ではオーソドックスな古典派の様式を踏襲しつつ、瑞々しくも深い陰影を伴ったロマンティックな旋律が全編に渡って流麗に紡がれていく様は、新古典派と呼ばれることもあるブラームスの面目躍如たるものがあります。ルイ・マル監督の映画「恋人たち」(1958)に用いられたことでも有名な第2楽章は、作曲後すぐにピアノ独奏用に編曲され(「主題と変奏」作品18b)、誕生日の記念としてクララ・シューマンに贈られています。

シュペーテ弦楽四重奏団 特別公演~アダルベルト・スコチッチ氏を迎えて~(2015年11月22日)

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【楽曲解説】シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ

Jean Sibelius
ジャン・シベリウス(1865~1957)


Andante festivo (1922)
アンダンテ・フェスティーヴォ(1922年)



 今年生誕150年を迎えたシベリウスは91年に及ぶ長寿を全うしましたが、1925年に交響詩「タピオラ」作品112を発表して以降、亡くなるまでの30年間に発表された主要な作品はなく、創作活動は継続していたと伝えられるものの、事実上の隠居状態にありました。「祝祭アンダンテ」と訳されることもあるこの作品は、1922年12月28日に行われた、合板の工場であるサイナトサロ製作所の25周年記念式典のために依頼されたもので、交響曲第6番 作品104と同時期の、作曲家シベリウスとしては最晩年の小品です。式典時の初演はアマチュアの弦楽四重奏団によって行われ、総譜は当日配布された記念誌に収録されました。その後、シベリウスの親族の結婚式でこの曲が演奏されたことなどをきっかけに、コントラバスとティンパニを追加した弦楽合奏用に編曲され(楽器編成以外にも、終止音型の変更などがなされています)、自らが指揮する演奏会でしばしば取り上げるようになりました。1939年1月1日にアメリカでも生中継されたフィンランド放送交響楽団との放送録音は、現存する唯一のシベリウスの自作自演です。
 冒頭で提示される雄大で澄んだ主題はト長調で始まりますが、途中で教会旋法なども交えながら多彩な陰影をつけつつ、最後はアーメン終止で締めくくられます。「祝祭」という言葉に反して、敬虔で荘重な雰囲気を持った、シベリウスの魅力が凝縮された逸品です。

シュペーテ弦楽四重奏団 特別公演~アダルベルト・スコチッチ氏を迎えて~(2015年11月22日)

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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