ゲールギエフによるショスタコーヴィチの「映像」全集(買い物録その4)

  • ショスタコーヴィチ:交響曲&協奏曲全集、ドキュメンタリー『ドミートリィ・ショスタコーヴィチ:いくつもの顔を持つ男』 ディジョーエヴァ (S) ペトレンコ (B) レーピン、バーエワ (Vn) カプソン、ブルネロ (Vc) トリフォノフ、マツーエフ (Pf) マルティノフ (Tp) ゲールギエフ/マリイーンスキイ歌劇場O (Arthaus 107552 [Blu-ray])
6月16日18日7月19日のエントリーの続き。一連の買い物の主目的は、このBDボックスであった。ショスタコーヴィチ・ファンならば必携のセットと思いつつも、今頃になってようやく入手。今回はセール価格での購入だったが、基本的には高価な(とはいえ、1990年前後にCDでリリースされた交響曲全集などに比べれば十分に安価ではある)セットということもあってか、世間ではいまだにそれほど話題になっていないように感じられるのは少々寂しい。

映像の視聴は、音盤を聴くのとは異なり、基本的に他の作業と並行することができないため、この分量を全て踏破するのに随分と時間がかかってしまった。私は日々の通勤にかかる時間が長いため、タブレット等で視聴できれば非常にありがたいのだが、タブレット用にリッピングすることは違法行為なので、我慢せざるを得ない。正規に購入しているにも関わらず、こうした不便さを強いられることには忸怩たるものがあるが、致し方ないのでしょうね。

さて、このセットでは、全ての楽曲についてゲールギエフが簡単な(2分程度)解説を行っている。かれこれ20年ほど前のドキュメンタリー「戦争シンフォニー~ショスタコーヴィチの反抗~」では、ショスタコーヴィチの音楽を彼の生きた時代/社会体制と結びつけて解釈し、実際にそのような雰囲気を強く漂わせた演奏を聴かせていたゲールギエフであるが、ここでは驚くほど“純音楽的な”見地で各曲を語っているのが面白い。ショスタコーヴィチという作曲家の受容のあり方が時代と共に変わっていることの証左であろうし、ゲールギエフの音楽観が歳を重ねると共に音楽の諸相を重層的に消化したがゆえに単純な形に結実してきた、ということなのかもしれない。「スターリン」という名のインパクトが、もはや現代では生々しい存在感を失っていることも、また事実であろう。

約2年に渡る8回のコンサート(すべてパリのサル・プレイエル・ホール)で、交響曲15曲と協奏曲6曲の全てを演奏し、映像収録を行うという、あらゆる面でのコストが極めて大きいこの狂気じみたプロジェクトは、やはり狂気じみたバイタリティーの持ち主であるゲールギエフにしか成し得ないことだろう。だからまず何よりも、その成果であるこのBDセット自体に対して最大限の敬意を払いたい。その上で、当然ながら、収録された21曲全てが極上の出来ということではない。弦楽器のピッチの不揃いなど、オーケストラの基本的な状態が万全でないものもあるし、当初の設定がいまひとつなのか、流れの構築に失敗した結果なのかはわからないが、テンポの停滞が気になる曲もある。また、これはゲールギエフの特質なのかもしれないが、聴かせどころの爆発力と、そこに至る全体設計の巧みさは卓越しているものの、全曲を通じて緊張感が持続することが少なく、どうしても気の緩む瞬間が存在してしまうのも気になる。

一方で、オーケストラの威力を存分に活かした、時に扇情的な、時に威圧的な音の洪水は魅力的。ヴァイオリン協奏曲第1番の第3楽章などが良い例だが、突如スイッチが入ったかのように舞台上が音楽に完全に没頭した瞬間の凄まじさも格別である。

60分弱のドキュメンタリー(監督:ライナー・モーリッツ)は、基本的に本セットの演奏映像と上述したゲールギエフによる各曲の解説(でカットされている部分を含む)との組み合わせに、既にリリースされている他の映像作品から演奏風景(ボロディーンQの第8番と第15番だけは、初見であった)やインタビューを+αした構成。最晩年のショスタコーヴィチの映像が使われているのは嬉しいが、いかにもなアメリカ英語が被されているのには心の底からがっかりする。「Many Faces」に迫る内容はなく、ごく常識的に交響曲を中心に編年体でショスタコーヴィチの生涯をなぞっただけである。本セットのプロモーション映像と考えるのがよいのだろう。

歌詞も含めて、全てに日本語字幕あり。録音・録画の品質も非常に優れているし、装丁も価格に見合ったもの。ただし、箱からBDケースを取り出しづらいという難点がある。またハードカバーの解説書は、装丁に比して内容はありきたり。

HMVジャパン
スポンサーサイト

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

セール品4題

  • モーツァルト:弦楽四重奏曲第20~23番 クイケンQ (Denon COCO-73249→50)
  • チャイコーフスキイ:交響曲第5番、ショスタコーヴィチ:祝典序曲 ソヒエフ/トゥールーズ・キャピトル国立O (Naive V5252)
  • ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1&2番 庄司紗矢香 (Vn) リス/ウラルPO (Mirare MIR166)
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ロジデーストヴェンスキイ/ロンドンPO (London Philharmonic Orchestra LPO-0069)
またまた、HMV ONLINEからの案内メールに釣られて買い物。きちんとリサーチすればもっとお得に入手できる可能性もあるのだが、関心のある音盤全てにそれをすることは事実上不可能なので、手軽さを優先してしまう。今回の4枚は、全て1,000円台前半という価格で縛って選択したもの。

クイケンQのハイドンは揃ったので、次はモーツァルトを。単に慣れの問題かもしれないが、ハイドンに比べるとモーツァルトの弦楽四重奏曲にはピリオド楽器でなければならないという必然性はあまり感じられなかった。とはいえ、楽器の特性がはっきりとしているせいか、「プロシャ王」の3曲の響きの特異性が際立つのは面白い。また、和声の繊細な移ろいにハッとさせられる瞬間も少なくない。快活な高揚感のあるクイケンQの演奏は、いつもながら立派なもの。

HMVジャパン


ソヒエフのチャイコーフスキイの第5番は、N響に客演した際の演奏でも聴いたことがあるが(2014年3月6日のエントリー)、録音時期が近いこともあって解釈等に違いはないものの、手兵との演奏だけあってその音楽の特徴がより明確に示されているように思う。スマートな演奏で、卓越したリズム感に導かれる淀みのない音楽の流れの中に、刺激的な咆哮や甘美な歌が効果的に散りばめられた、有無を言わさず聴き手を熱狂させる仕上がりである。現代風に洗練されたカラヤン、といった雰囲気で、とにかく格好良い。

このアルバムの目当ては、言うまでもなくショスタコーヴィチの祝典序曲。上述した特長が全て活かされる小品だけに、あらゆる点で理想的な演奏である。敢えて不満を言うならば、オーケストラの響きにロシア色が感じられないことくらいか。これも私個人の趣味の問題で、演奏の価値を損なうものではない。

HMVジャパン


庄司紗矢香によるショスタコーヴィチの協奏曲は、端的に言えば“地味”な印象。それはオーケストラの音色が大きく影響しているのだろうが、編成からも分かるようにスコア自体が志向している響きを理想的に音化していると捉えるべきだろう。この演奏方針であれば第2番の方がより良い仕上がりだろうと想像したが、呟きのような音の連なりの中に微妙な散漫さが感じられ、音楽の密度という点では第1番の方が優れている。テンポ設定などの基本的な解釈は両曲ともごく模範的で、奏者の威力を見せ付けるような豪華絢爛ささえ求めなければ、楽曲の真正な姿を聴かせてくれる立派な演奏として広く推薦に値する。

HMVジャパン


ロジデーストヴェンスキイの第8番は、ソ連文化省SOとの全集録音と同時期に行われたロンドンでのライヴ録音。オーケストラこそ違うものの、演奏解釈に違いはない。ただ、主として録音のせいだろうが、異様に暴力的な音の洪水が印象的だった全集録音が嘘のように、全体としては常識的な響きに収まっている。こちらの方が聴きやすいのは確かだが、ロジデーストヴェンスキイの名に期待する聴き手にとっては肩透かしだろう。

HMVジャパン

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

カレンダー
07 | 2016/08 | 10
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新記事
カテゴリ
タグツリー
★ トップ(最新記事)
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
人気記事ランキング
RSSリンクの表示
リンク
音盤検索
HMV検索
検索する

音楽関係のブログ(リンク・更新状況)
PopUp WikipediaⅡ
記事中の気になるキーワードをマウスで選択してください。Wikipediaからの検索結果がポップアップ表示されます。
Wikipedia
developed by 遊ぶブログ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター