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「スペイン交響曲」聴き比べ

  • モーツァルト:協奏交響曲、二重奏曲第2番 スーク (Vn) シュカンパ (Va) レーデル/チェコPO (Supraphon CO-3196)
  • ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ラロ:スペイン交響曲 フランチェスカッティ (Vn) バーンスタイン、ミトロプーロス/ニューヨークPO (Sony CSCR 8454)
  • ラロ:スペイン交響曲、フランク:ヴァイオリン・ソナタ、ドビュッシー(ハルトマン編):前奏曲集第1巻より「亜麻色の髪の乙女」「ミンストレル」、シューマン(アウアー編):「森の情景」より「予言の鳥」、ショスタコーヴィチ(グリュンズ編):バレエ「黄金時代」より「ポルカ」、J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番より前奏曲、ヴィエニャフスキ(クライスラー編):エチュード・カプリース第4番、タルティーニ(フランチェスカッティ編):コレッリの主題による変奏曲 フランチェスカッティ (Vn) R. カサドゥシュ、ランナー (Pf) クリュイタンス/コロンビアSO (Pearl GEMM CD 9250)
  • ラロ:スペイン交響曲、サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番、序奏とロンド・カプリチオーソ グリュミオー (Vn) ロザンタール/ラムルーO (Philips 17CD-64)
  • ラロ:スペイン交響曲、ショーソン:詩曲、ラヴェル:ツィガーヌ レーピン (Vn) ナガノ/ロンドンSO (Erato WPCS-22171)
仕事帰りに立ち寄った美容院の予約時間までの時間潰しに、ディスクユニオン 大阪クラシック館へ。今回は、いつもの室内楽の棚にピンと来る音盤が見当たらず、時間もあまりなかったので隣りの協奏曲の棚を物色。

モーツァルトの協奏交響曲(VnとVaのための)は、自分にとっての決定盤が未だに定まらない曲の一つだが、ブレイニンとシドロフ(アマデウスQ)、スークとカクシュカ(アルバン・ベルクQ)といった弦楽四重奏団のVa奏者が参加した録音を好んで聴くことが多いのは確か。気心の知れたアンサンブル仲間と言ってよいだろうスメタナQのシュカンパと組んだスークの旧盤も、この系列。癖の強いシュカンパの音が、この上なく美事にスークと同化している。現代の耳にはロマンティックに過ぎるオーケストラも、それでいて上品であり、全体にバランスの良い美演である。このコンビの美質が余すところなく発揮された二重奏曲は、さらに素晴らしい秀演。


ここのところ、息子が来年の発表会で弾く曲を考えているのだが、候補の一つがラロのスペイン交響曲。ところがこの曲、カップリングですら音盤を買った記憶がない。実家に有名協奏曲を収録した4枚組程度のLPボックス(メニューインが弾いたメンデルスゾーン、シフラが弾いたリストの第1番などが収録されていたように思う)があり、そこに収録されていた演奏が私の記憶の全て。ということで、1枚くらい持っていてもよいだろうと思い、世評の高いフランチェスカッティ盤を確保した次第。

ブラームスもラロもオーケストラのお仕事感しかないぞんざいな伴奏には不満が残るが、異様にギラついた、ポマードの匂いが漂ってきそうな輝かしいヴァイオリンの音色の魅力の前には些細な問題。細かな音程の甘さはあるのだが、この作品に聴き手が求める華麗さを具現化した理想的な演奏と言っても過言ではないだろう。ブラームスも悪くはないが、ミトロプーロス/ウィーンPOとの1958年のライヴ盤(Orfeo)の方がより瑞々しくて私の好み。


さて、上述したように、スペイン交響曲の音盤を所有している記憶は全くなかったのだが、実は1枚だけ架蔵していたことが判明。それもフランチェスカッティの独奏(伴奏指揮はクリュイタンス)というおまけ付き。収録曲を見ると明らかにショスタコーヴィチの小品目当てに入手した音盤ではあるが、よりによってメインの収録曲を忘れているとは……

先のミトロプーロス盤の12年前となる1945年の録音だが、技術的な精度はこのクリュイタンス盤の方が上。オーケストラの意欲もこちらの方が上なのだが、フランチェスカッティの美音を味わうには録音が古過ぎるのが残念。録音状態さえ気にしなければ、他の収録曲も含めて往年の演奏家ならではのテンションの高さを堪能できる聴き応えのある一枚である。


フランチェスカッティ盤と並ぶ定盤とされて久しい、グリュミオー盤。これは奥さんが実家に置いてあったもの。これもまた男らしくギラついた美音の魅力が卓越する。艶やかに底光りのする、こういう音色は、現代の演奏様式?奏法?では失われてしまったのかもしれない。


こうなると、現在活躍している奏者の演奏も聴きたくなり、他の買い物のついでにAmazonでレーピン盤を入手。レーピンの同曲は、2009年のN響定期での鮮烈な名演が印象深い(録画しなかったことが返す返すも悔やまれる)。本盤は1998年の録音なので、後年の変幻自在な境地にはまだ到達していないものの、既に完成し、磨き上げられた技術の凄まじさは筆舌に尽くし難い。往年の巨匠達の演奏が児戯に思えるほどの精度の高さだけでも十分に圧倒されるが、レーピンの魅力はまさに王道としか形容のできない風格のある音楽の佇まいにある。隅々まで響き渡るヴァイオリンは、現代の理想形と言ってもよいのではないだろうか。詩曲とツィガーヌも同様の名演。



レーピン (Vn) 準・メルクル/NHK交響楽団
第1651回定期公演(2009年6月18日)

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theme : クラシック
genre : 音楽

弦楽四重奏三昧(往年の団体ばかりですが)

  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第7、8番、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番 ヴァレンティン・ベルリーンスキイQ (Avie AV2253)
  • マルティヌー:ピアノ五重奏曲第2番、3つのマドリガル スメタナQ パーレニーチェク (Pf) (Supraphon COCO-78620)
  • モーツァルト:フルート四重奏曲第1~4番、オーボエ四重奏曲、ホルン五重奏曲、クラリネット五重奏曲 アマデウスQ ブラウ (Fl) コッホ (Ob) ザイフェルト (Hr) ドゥ・ペイエ (Cl) (DG 437 137-2)
  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集 ウィーン・ムジークフェラインQ (Tower Records DB1031~1038)
  • ベートーヴェン:後期弦楽四重奏曲全集 ヴェーグQ (Tower Records TGR-1004~6)
待ち合わせまでの時間潰しに、ディスクユニオン 大阪クラシック館へ。閉店10分前の駆け込みだったが、室内楽の棚に集中したせいか、思いの外収穫あり。

まずはショスタコーヴィチ。ボロディーンQの創設メンバーであったベルリーンスキイの名を冠した若手四重奏団によるショスタコーヴィチとベートーヴェンとのカップリング。ボロディーンQの十八番だった第8番と第7番と、チェロが活躍するラズモフスキーの第1番という選曲は、この団体名に相応しい。近年の若手団体らしく、個々の技量とアンサンブルの精度は非常に高く、弱奏部に傾倒した音作りがなされている。ショスタコーヴィチでは非常にオーソドックスな解釈がとられており、力感も十分にある水準の高い演奏である。一方のベートーヴェンでは、アーティキュレイションに細かな工夫がなされていて、いかにも現代風の演奏様式である。強奏部で線の細いざらついた音がするのは、少し惜しい。


学生時代、京都の四条寺町の電気屋で見かけたものの、手持ちの予算の関係で見送って以来、ついぞ出会うことのなかった、スメタナQによるマルティヌーを発見。圧倒されるほどのハイテンションで濃厚なロマンが奏でられるピアノ五重奏曲も素晴らしいが、何といっても「3つのマドリガル」が聴き物である。どこかささくれ立ったリズムと響きの中から郷愁に満ちた旋律が朧げに浮き上がる様を、甘美なノヴァークのヴァイオリンと武骨なシュカンパのヴィオラとの二重奏が見事に描き出している。


アマデウスQと(当時の)ベルリン・フィルの首席奏者らとの共演によるモーツァルトの管楽器と弦楽器のための室内楽曲集は、アマデウスQよりも管楽器の妙技を味わうべき内容。フルート四重奏曲では、ブラウの清冽なフルートに対し、ブレイニンのヴァイオリンがどうにも収まりが悪い。オーボエ四重奏曲は、コッホの音色がとにかく素晴らしく、フルートとオーボエの音域の違いのせいか、全体の響きもよりまとまっている。ホルン五重奏曲もザイフェルトの輝かしくもまろやかな音色の前に、弦楽器は存在感が薄い。

しかしながら、クラリネット五重奏曲だけは全く別物のように、アマデウスQの魅力が存分に発揮されている。要するに、2nd Vnのニッセルの存在こそがブレイニンの強烈な個性を四重奏団の魅力に転化するための鍵ということなのだろう。クラリネットのドゥ・ペイエとは、この曲を実演でも取り上げていたようで(BBC Legendsにライヴ録音がある)、五重奏として十分に練り上げていたということもあるのかもしれない。


キュッヒル率いるウィーン・ムジークフェラインQのベートーヴェン全集は、ちょうど私がCD蒐集に本腰を入れ始めた頃の新譜であった。当時の国内盤フル・プライスは学生の財布には厳しく、結局1枚も購入することはなかった。アルバン・ベルクQをはじめ、東京Q、メロスQなど、1970年前後に結成した団体が絶頂期にあった頃の演奏様式で、とりわけ強弱の明晰な弾き分けにこの団体の個性が窺える。中でも初期の6曲においてこの解釈が成功しており、きびきびとした造形が非常に立派である。さすがに後期の一部では技術的に舌足らずな箇所もないわけではないが、推進力のある理知的な音楽作りは全集を通して一貫している。


今回の最大の収穫は、ヴェーグQによるベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲集。今でこそこの全集を廉価で入手するのは容易だが、「タワーレコード オリジナル企画」としてバルトークの弦楽四重奏曲全曲と同時に初CD化された時は、初期・中期・後期の分売で、それぞれ、そこそこの値段がしていた。2018年1月2日のエントリーで取り上げたバルトークと同様に後期のセットだけ買い漏らしていたのを、ようやく見つけた。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を2~3セット買えそうな値付けではあったが、この機会を逃すわけにはいかない。しばらく緊縮財政を強いられるが、仕方ない。

演奏様式自体はかなり古風なもので、おそらくは使用楽譜の誤植によるのであろう音の間違いも少なくないが、おっとりとした余裕を漂わせつつも、繊細な表情の変化に卓越したアンサンブルの技が発揮されている。外見的にはそれほどの多彩さは感じられないのだが、各曲の各楽章の個性が見事に描き分けられた、弦楽四重奏の極意とでも形容したくなるような内容である。


theme : クラシック
genre : 音楽

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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