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亡命と芸術

昨日、最近BMG-Melodiyaから再発されているボロディン四重奏団によるショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全集の1枚を購入した。以前Victorから発売されていた時に既に購入していたし、音質の向上といってもたかが知れているだろうからもともと買うつもりはなかったのだが、何気なくパンフレットを見た時に「弦楽八重奏のための2つの小品」が収録されていることを知り、早速買いに行った訳である。恐らく初CD化であろう。共演者はプロコフィエフ四重奏団。以前からこの録音の存在は知っていたが、曲の知名度の低さや演奏時間の短さなどから考えると、CD化される可能性は低いだろうと思っていただけに嬉しかった。

演奏はとても素晴らしかった。正確なアンサンブル技術に基づいた実に清潔で、かつ曲の内容を的確に捉えた演奏である。ベートーヴェン四重奏団と比べると、同じモスクワ楽派でありながらもその洗練されたスタイルに世代の差を感じさせる。しかも、“野暮”の一歩手前で踏みとどまっている“泥臭さ”が、極めてロシア的で魅力的だ。去年の秋に来日したベルリン・フィルハーモニー弦楽八重奏団の演奏会で聴いた熱気溢れる演奏も良かったが、やはりこちらのほうが“本家”といった趣がある。

ここで、注目したいのはボロディン四重奏団のメンバー。この八重奏曲だけ旧メンバーによる演奏だ。つまり、第1ヴァイオリンのドゥビンスキーが亡命する以前の演奏ということになる。ボロディン四重奏団は、旧メンバーの時代にも1~11番までのショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲“全集”を完成させ、その後12 & 13番の録音も残している。1~15番を収録した本当の全集は新メンバーになってから完成した。その新メンバーによる演奏が今回のCDに収められているものなのだが、旧メンバーによる演奏は現在のところCD化されていないようだ。

ここで、性急に「古い方が良い演奏である」ということを言いたいのではない。事実、11番までの“全集”に収録されている演奏は、新盤と比較して取り立てて優れている点があるわけではない。しかし、12 & 13番の録音だけは別格。四重奏団としてまさに絶頂期にあったことが分かる。

この壮絶な演奏を残してドゥビンスキーは西側に亡命した。その後もボロディン四重奏団はメンバーを代えて活動を続け、またドゥビンスキーも西側でボロディン・トリオとして活動している。

このように、旧ソ連は優秀な音楽家を数多く産み、また同時に数多くの亡命音楽家を産んだ。僕は、残念ながらそのことについて政治的な側面から語ることができるだけの知識は持ち合わせていない。しかし、純粋に音楽的な成果だけ見てみると、亡命した後にその芸術をより発展させた音楽家を、僕は知らない。もちろん、ロストロポーヴィチという大家はいるし、マイスキーとかウゴルスキーなどのように亡命して初めてまともな活動をできるようになった人もいる。でも、敢えて僕は言いたいのだ。「ソ連から亡命したことは、果して彼らの芸術にとってプラスだったのか」と。

ドゥビンスキーは、亡命後Chandos等で録音を行なっている。僕はショスタコーヴィチの作品しか知らないけれど、そのどれも前述の四重奏曲の境地からは後退していると言わざるを得ない。もちろん、優れた演奏ではある。しかし、あのまま突き進んでいれば…。先日扱ったバルシャイなんかにも同じことがいえる。モスクワ室内管弦楽団とのコンビであれだけ独自の境地を築き上げた彼が、いったいなぜ現在自分が行なっている演奏のレベルに耐えられるのであろうか?

60年代から70年代にかけてのソ連演奏界のレベルの高さと、その後の亡命ラッシュ、そして亡命演奏家の凋落ぶりを考えると、“ソ連”という国が音楽芸術に対して果たしていた役割とは何だったのだろうかと考えさせられる。そして、例のヴォルコフによる「ショスタコーヴィチの証言」に代表されるような否定的側面だけがソ連にあったわけではないと思ってしまうのである。外国人のたわごと、と言われてしまえばそれまでだが。

ここで1枚のCDを取り出してみよう。
  • Tchaikovsky: Serenade for Strings Op. 48
  • Shostakovich: Two Pieces for String Octet Op. 11
  • Shostakovich: String Quartet No. 8 Op. 110
    L.Gosman/The Soviet Emigre Orchestra (OLYMPIA OCD196)
演奏団体名の邦訳は「亡命ロシア人管弦楽団」となっていた。チャイコフスキーの冒頭に聴かれる万感の想いは、その演奏団体の名前にオーバーラップする。そしてショスタコーヴィチの凄惨な響き。「母なる大地、ロシア」を捨てなければならなかったということが、彼らにとってどんな意味を持っていたのか。僕には想像することすらできない。
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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_BorodinQuartet

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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