Play non-vibrato?(ボロディンQ演奏会)

  • ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番
  • シューベルト:弦楽四重奏曲第12番
  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第15番
  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番より第1楽章
    ボロディンQ 2005年6月13日19時開演 ザ・フェニックスホール
Tower Records梅田店で買い物をしていて、偶然見つけたこの演奏会のチラシ。ショスタコーヴィチの第15番を実演で聴く機会はめったにないだろうということで、無理をおして聴きに行くことに。

1st Vnがアハロニャーンに交代してからのボロディンQは、4月14日付けの本欄で紹介したDVDでしか見聴きしたことはなかったので、どう変化したのかも興味があった。一曲目のベートーヴェンは、驚くほど密やかな入りに意表をつかれたが、全体に音量を絞ってリズムを生かしながら端正に歌を奏でていく解釈の意図はよく伝わってきた。第2楽章と第3楽章が特に印象に残った。音楽の重心は明らかにチェロのベルリンスキイにあり、堅固な枠組みの中で自由に旋律を歌っていくボロディンQのスタイルはコペリマン時代とそう大きく異なるものではない。ただ、両端楽章では細かいアラも少なからず気になったのも確かだ。

会場の雰囲気にも慣れてきたのか、2曲目のシューベルトは名演。緊密なリズムと濁りのないイントネーションでシューベルトの後期四重奏曲の魅力を見事に描き出していた。アハロニャーンもここでは伸び伸びと歌いきっていた。内声のアブラメンコフとナイディンの地味ながら確実な音楽作りも素晴らしい。そして、ベルリンスキイの深く重い渋みあふれる音色の魅力!この団体の真価が十二分に発揮された演奏であった。

さて、休憩後はお目当てのショスタコーヴィチ。後半の開演に先立ち、演奏者が退場しても拍手はしないように、とのアナウンスあり。入場後、舞台も照明を落として譜面台にライトを灯しての演奏が始まった。

凄いというか、もう何も言えません。出だしから延々とノンビブラートで異様な緊張感が漲り、それに耐え切れない客席はどうにも落ち着かない様子。もっとも、しばらくしたら、脱落して寝始める人が増えてきたのでよかったが。

もちろん、細かいことを言えば完璧とまでは言えない演奏だったかもしれない。だが、これほどまでにこの異様な作品の音楽世界を暴き出してくれる演奏が、他にあり得るとも思われない。死体の腐敗臭が漂うような第1楽章では、第二主題以外は終始ノンビブラートが貫かれ、調性的な音楽なのにどこにも身の置き所のない非現実感が見事に表出されていた。天国でもなければ地獄でもない、生きているわけでもなければ死んでいるわけでもない。そんな居心地の悪さは、第2楽章でクライマックスを迎える。断末魔のうめき声のような音列に続いて、何度もワルツを踊ろうとするもののすぐに力尽きてしまう様は、無骨でぎこちない(決して年齢的な衰えを指しているのではない)ベルリンスキイのチェロがいたたまれないほど適切に描いていた。この演奏を聴いて初めて、この楽章がわかったような気がする。そして第3楽章の苦しさに満ちた絶叫。続く第4楽章の腰を抜かすほどの美しさ(アブラメンコフの名技!)。それらを受けて出てくる第5楽章の「月光」。モノローグだけでひたすら時間と空間を埋め尽くすこの作品の奇妙さが、類まれな説得力を持った音楽としてホールを満たしている状況に、確かに蒸し暑い夜ではあったが、それでも空調がきいていた会場で、冷や汗ではなく、脂汗を何度も拭わずにはいられなかった。生の力はもはやどこにもなく、無気力というより、やはり死んでいるとしか言いようのない第6楽章が終わった後、たとえ事前のアナウンスがなかったとしても、拍手をできる聴衆などいるはずがなかっただろう。

67歳で既に死者の目で音楽を紡いだショスタコーヴィチの作品を、80歳を超えてまだまだ元気なボロディンQのチェリストが真摯に弾いている姿は、感動的でもあり、また邪悪な倒錯も感じずにはいられなかったが、ともかくも素晴らしい音楽であった。

アンコールはショスタコーヴィチの第1番から第1楽章。最後の四重奏曲の後に最初の四重奏曲というのは、なかなか洒落た選曲。音楽の作りは第15番の第1楽章に共通するものがあるが、やはり第1番は現世の音楽。どこか救われた。

終演後、一階ロビーでサイン会が行われた。現メンバーのCDは持っていなかったし、DVDはジャケット等が黒なのでサインに不向き、ということでサイン用に持っていったのが、ショスタコーヴィチの第15番のパート譜セット。サインは、ベルリンスキイ、アハロニャーン、アブラメンコフ、ナイディンの順番だったのだが、そこでのベルリンスキイとのやり取りが楽しかった。
ベ:(楽譜を見て、僕の顔をじっと見つめながら)「You played?」
僕:「Yes. I played the 1st Vn.」
ベ:「Oh. 1st Vn...」(横でアハロニャーンがにやにやしている)
ベ:(しばらく楽譜を見てから、冒頭を指差し)「Play non-vibrato?」
僕:(にやっとしながら)「Yes,of course.」
ベ:(くすりと笑って)「Very good.」(横でアハロニャーン、下を向いて笑っている)
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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏家_BorodinQuartet

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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