さよならABQ

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アルバン・ベルク四重奏団フェアウェル・ツアー
  1. ハイドン:弦楽四重奏曲第81番 ト長調 Op. 77-1
  2. ベルク:弦楽四重奏曲 Op. 3
  3. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番 イ短調 Op. 132
  4. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op. 130より第5楽章「カヴァティーナ」
アルバン・ベルク四重奏団  2008年5月25日(日) ザ・シンフォニーホール
橋下知事にならって財政再建プログラム発動中の我が家だが、この演奏会だけはどうしても行かなければならなかった。僕が音楽の素晴らしさや楽しさを知ることができたのは、ひとえにABQの録音の数々のおかげ。演奏会に足を運んだのは91、93、94、96、98年の5回。この辺りは、ヴィオラ奏者のカクシュカ氏が逝去された時に本欄(2005年7月26日)でも述べたので、繰り返さない。

さて1曲目のハイドン。舞台に現れた4人への拍手は、既に熱烈なもの。大スターの最後の舞台という雰囲気が会場中に満ちている。ピヒラーは随分とナーバスになっていたようでフレーズのあちこちがぎくしゃくしていたが、これは10年前でも同様だったので驚くほどのことではない。それよりも、全体の音量がとても小さかったのが気になった。これは、純粋に加齢による衰えだろう。とはいえ、随所に聴かせる細かい仕掛けは相変わらずで、これだけ色んなことをしていながらも、全体のフォルムに歪みが出ないところは、まさに熟練の技といったところか。特に第2楽章の展開部で転調する辺りなどは、えもいわれぬ美しさ。全曲を通して、わりとあっさりと突き進んでしまったのは物足りなかったが。

2曲目はベルクの作品3。抒情組曲は91年の2回と94年の計3回聴いたが、作品3は今回が初めて。アンサンブルやあらゆる表現に一点の曇りもなかったのは、当然といえば当然なのだろうが、やはり他の追随を許さない境地には違いない。ただ、ここではピヒラーの音程の悪さが、少なからず気になった。また、エルベンのチェロも、全盛期の力と艶がない。ヴィオラのカリシウスを実際に聴くのは初めてだったが、第2楽章などで力強さを発揮するものの、基本的にはバランス重視の引っ込み思案な印象。いざという時のパワーはあるが、表現技術の引き出しの多さはカクシュカに及ばす…といった感じか。デビュー当時の録音に聴かれた、鋭く尖った表現意欲は完全に後退し、溢れんばかりの情感に溺れるような、濃密で余裕のある音楽に仕上がっていたところがとても興味深く、21世紀の今日ではベルクが既に古典となっていること、そしてABQの40年弱に及ぶ歩みを改めて実感した次第。

休憩時間にロビーに出ると、先輩やら後輩やら友人やらに出会う。皆に「工藤は来ていると思ったわ」と言われる。夢中でABQの音盤を聴き、手当たり次第に四重奏をやった学生時代に一瞬タイムスリップ。

後半。次に会場が明るくなったら、もう二度とABQの演奏を聴くことができないのかと思うと、やはり感傷的になってしまう。ベートーヴェンの15番は、1st Vnに要求される技術水準は前半の2曲よりも多少は楽とも言えるので、技術的な心配はなく、彼らの奏でる極上の音楽に身を委ねる。基本的にはいつもの彼らの演奏なのだが、客席にまで張り詰めた緊張感を放出していた昔と違い、気がついたら呼吸まで舞台上の彼らに同化していた…といった雰囲気の、さりげなくも大きな力を漲らせた場を作り出していた。白眉は、やはり第3楽章だろう。無条件に素晴らしかった。ふくよかなヴィブラートをかけて2分音符を奏で、全員が全音符でコラールを始めるとノン・ヴィブラート。この美しいと言うだけでは言い足りないほどの崇高な響きには、ただひたすら感動。ABQに対する思い入れがない聴き手でも、この楽章の演奏には文句をつけることはできなかっただろうと思う。この圧倒的な印象の中、終楽章はなんか妙にあっけなく終わってしまった感じ。ブラボー。

単にアンコールを期待する以上の熱烈な拍手を受けて、いつものシュルツの口上で始まったアンコールは、ベートーヴェンのカヴァティーナ。94年には13番全曲を聴いたし、アンコールでも毎回のように聴いた曲だが、これがもう……… これ以上に美しい音楽を聴くことは、これから先、きっと、ないような気がする。

あーぁ、終わっちゃった。

終演後は、ベルクの作品3のスコアにサインをもらいに…… すごい長蛇の列。楽屋口から正面玄関の方までつながってる。彼らはサインの時ににこやかに対応してくれるのも魅力だったのだが、今回は完全に流れ作業。ま、この人数じゃ仕方ないですね。

休憩時間に出会った先輩と後輩と3人で、軽くビールを飲んでから帰宅。印象深い、初夏の一日でした。
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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_AlbanBergQuartet

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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