ガーウクの10枚組BOX(Brilliant)

  • Alexander Gauk Edition (Historical Russian Archives) (Brilliant 8866)
12月16日17日、1月9日、そして21日の記事で紹介した買い物の完結編。これもまた1年ほど前にリリースされたBOXセット。収録曲は以下の通り:
【CD 1】
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番(モスクワ放送SO 1957.12.4)
ラフマニノフ:3つのロシアの歌(モスクワ放送SO 1956.12.19)
ラフマニノフ:カンタータ「春」(モスクワ放送SO 1958.6.26)
【CD 2】
ショスタコーヴィチ:交響曲第11番(モスクワ放送SO 1958.12.21)
リームスキイ=コールサコフ:賢者オレーグの歌(モスクワ放送SO)
【CD 3】
ハチャトゥリャーン:「スパルターク」組曲より(ボリショイ劇場O 1957.1)
グリーンカ:ポルカ第1番(ソヴィエト国立SO 1951.10.31)
グリーンカ:カマーリンスカヤ(モスクワ放送SO 1958.12.13)
【CD 4】
ハチャトゥリャーン:交響曲第1番(モスクワ放送SO 1958.12.15)
フンメル(グリーンカ編):友情の追憶(ボリショイ劇場O 1957.3.26)
グリーンカ(ガーウク編):愛国の歌(ソヴィエト国立SO 1950.12.30)
【CD 5】
ミャスコーフスキイ:交響曲第17番(モスクワ放送SO 1959.7.15)
プロコーフィエフ:十月革命30周年のためのカンタータ「花咲け、偉大な国土よ」(ソヴィエト国立SO 1961.4.15)
プロコーフィエフ:ロシア序曲(モスクワ放送SO 1961.1.11)
イヴァーノフ=ラドケヴィチ:ロシア序曲(ソヴィエト国立SO 1944.4.7)
【CD 6】
チャイコーフスキイ(ガーウク編):「四季」より(ソヴィエト国立SO 1953~4)
バラーキレフ(カゼッラ編):イスラメイ(モスクワ放送SO 1957.3.25)
グラズノーフ:交響的絵画「春」(モスクワ放送SO 1958.1.30)
グラズノーフ:3つの小品より「ワルツ」(モスクワ放送SO 1950.2.2)
アレーンスキイ:行進曲「スヴォロフの思い出に」(モスクワ放送SO 1958.2.1)
アレーンスキイ:24の小品より第24曲「草原にて」(モスクワ放送SO 1950.2.2)
アレーンスキイ:子どものための6つの小品Op.34より「ワルツ」(モスクワ放送SO 1950.2.2)
【CD 7】
チャイコーフスキイ:劇音楽「ハムレット」(モスクワ放送SO 1951.9.29)
チャイコーフスキイ:幻想曲「運命」(ソヴィエト国立SO 1948.7.31)
【CD 8】
チャイコーフスキイ:劇音楽「雪娘」(モスクワ放送SO 1951.9.17)
【CD 9】
リスト:ファウスト交響曲(ソヴィエト国立SO 1952.4.24)
デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」(モスクワ放送SO 1960.2.15)
【CD 10】
ベートーヴェン:「コリオラン」序曲(ソヴィエト国立SO 1953.11.1)
メンデルスゾーン:「ルイ・ブラス」序曲(ソヴィエト国立SO)
ビゼー:序曲「祖国」(モスクワ放送SO 1960.3.22)
カセルラ:狂詩曲「イタリア」(モスクワ放送SO 1960.9.7)
エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番(モスクワ放送SO 1956.10.4)
ミヨー:プロヴァンス組曲(モスクワ放送SO 1960.5.11)
例によって、収録年月日やオーケストラなどの録音データは、あまり信用できない。拍手も、笑ってしまうくらい明らかに後付けだったりする。以下、ディスク順に。

【CD 1】ショスタコーヴィチの第5番は、大熱演。オールド・スタイルな田舎臭い響きで思い切り鳴らし切った、この手のサウンドが好きな人にはたまらない演奏である。演奏者の興奮が直截的に伝わってくる一方で、独特の推進力を持った緊張感は終始維持されているところに、この演奏の非凡さがある。ショスタコーヴィチ自身がこういう筋骨隆々な激情型の演奏を好んだとは思えないが、そうした批判をも呑み込んでしまうスケールの大きさを持った音楽である。技術的な瑕は数え切れないほどあるが、うるさいことを言わないでこの世界に浸り、むやみに感動してしまうのも悪くはないだろう。一方ラフマニノフは、しっとりとした情感に満ちた、ごくオーソドックスな秀演。これぞロシアの抒情、と言わんばかりの説得力を持つ、素晴らしい音楽である。

【CD 2】先の第5番をはじめ、ガーウクのショスタコーヴィチ演奏にはいわゆる爆演が多く、第11番という作品には当然期待が高まるが、残念ながら肩透かし。随所でテンポや音量は煽られているのだが、肝心の音楽がそれほど盛り上がり切らない。オーケストラが技術的に粗いのはこのコンビの常だが、ここでは音楽の詰めも粗い印象である。魅力的な箇所は決して少なくはないものの、全体としては楽想がただ漫然とまとまりなく流れていく感じ。リームスキイ=コールサコフの作品は、初めて聴いた。きちんとした筋のある、小歌劇とでもいった風情の作品だが、歌詞も内容もわからない。わりとマイナーな部類の作品なのかな?演奏は、非常に落ち着いた、とても手堅いもの。

【CD 3】「スパルターク」抜粋は、非常に格調が高く、スケールの大きな秀演。選曲からして勢い一辺倒でないことは明らかだが、拍子抜けするほど淡々と音楽を紡いでいきながらも雰囲気は濃厚で、音楽の起伏は壮大極まりない。オーケストラも素晴らしい。真正なガーウクの姿を知るには最良の一枚だろう。グリーンカの小品も同様。「カマーリンスカヤ」冒頭の壮麗さが印象的。

【CD 4】ハチャトゥリャーンの交響曲は、以前Veneziaレーベルから復刻リリースされたものと、おそらくは同一音源(未確認)。曲良し、演奏良し、録音う~ん……といった感じ。思わぬ拾い物が、フンメルの夜想曲(変奏曲形式)をグリーンカがオーケストレイションした「友情の追憶」という曲。なぜ、こういう曲名なのかは分からないが、聴き覚えのある主題といい、慎ましくも多彩な変奏の数々がとても楽しい。ヴァイオリン独奏は妙に危なっかしいが、演奏そのものは端正で好感が持てる。「愛国の歌」は、1991~2000年の間、ロシア連邦の国歌だった曲。グリーンカが発表したのは旋律と低音のみだったらしく、ここで演奏されているのはガーウクがオーケストレイションしたもの。

【CD 5】ミャスコーフスキイの交響曲は、おそらくMelodiyaのスタジオ録音と同一音源だろう(未確認だが、演奏時間は酷似している)。復刻状態は良好。ミャスコーフスキイ中期の抒情的な傑作を初演者ガーウク自身が演奏しているというだけでも十分に価値はあるが、演奏そのものも申し分のない名演。隅々までしっかりと歌い込まれていながらも全体の造形が崩れることなく、スケールの大きい感動的な音楽に仕上がっている。ミャスコーフスキイが苦手な聴き手でも、この第2楽章には心を動かされるに違いない。ミャスコーフスキイ入門としてもお薦めの一枚である。プロコーフィエフの2曲は、率直に言って作品の印象が薄い。序曲では彼らしい響きも聴かれるが、カンタータは霊感に乏しい凡庸な出来と言って差し障りはないだろう。ガーウクの演奏は、手堅い。イヴァーノフ=ラドケヴィチという名は初耳で、どうやらここに収録されている「ロシア序曲」のみで知られている作曲家のようだが、なかなか楽しい作品。生気に満ちたガーウクの演奏も良い。

【CD 6】編曲物を中心とした、小品集といった風情の一枚。編曲者が明記されていない作品は、おそらくガーウク自身の手によるものだと推測されるが、確証はない。いずれもごく自然なオーケストレイションで、作品の持つ雰囲気が十分に活かされている。肩の力が抜けたようなガーウクの指揮も愉悦に満ちていて、非常に心地の好い一枚である。

【CD 7】チャイコーフスキイの、わりとマイナーな2曲。さほど魅力的とも思えない作品ではあるが、丁寧に歌い込むことで自然に雰囲気を立ち昇らせているところに、ガーウクの手腕を見ることができる。中でも、「運命」の壮麗なクライマックスは、なかなかのもの。

【CD 8】ニュアンスに満ちた、雰囲気のある素敵な演奏。チャイコーフスキイの「雪娘」というのは初めて聴いた曲だが、個々の楽曲はともかく、まとめて聴くのはいささか退屈する。

【CD 9】ガーウクのレパートリーの広さを窺わせる一枚だが、単に色んな曲を手掛けていたという次元に留まるものではなく、非常に優れた演奏であることに、率直に言って驚いた。特に感心したのはリスト。情感たっぷりの歌が展開されつつも全体の造形は揺るがず、この冗長な作品を飽きさせることなく、魅力的な音楽に仕上げている。オーケストラからは、ロシア流儀の音色ではあるが、とても格調の高い響きが引き出されている。デュカスも、悪くない。スケールの大きな愉悦に満ちた演奏で、アクの強い節回しが、悉くツボに嵌まっている。おそらくは色彩感に富んだ演奏だと思われるが、それを堪能できるほどの音質でないのが残念。

【CD 10】9枚目と同様に、多彩な曲目が並んでいる。こちらはより国際色が豊かで、通常のアルバムではあまり考えられないプログラムなのが面白い。だからといって、ただのアンコール集と侮るなかれ。このディスク、いずれ劣らぬ名演揃い。このBOXの白眉と言ってもよいだろう。最初のベートーヴェンとメンデルスゾーンもロシア色の強い歌い回しが印象的だが、凄いのはビゼー以降。大柄でありながらも時に繊細で抒情的な表情の多彩さ、熱い共感に満ちたテンションの高さ、生理的な快感すら感じさせる自在なテンポ変化、スケールの大きな造形…… こうしたガーウクの美点が最良の形で結実した演奏と言ってよいだろう。オーケストラの状態も良い。ガーウクにはどこか田舎臭く野暮ったい、鈍重なイメージしかなかったのだが、そうした先入観を一掃してしまうほどのインパクトのある一枚である。
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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 演奏家_Gauk,A.V. 作曲家_Shostakovich,D.D.

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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