【楽曲解説】ショスタコーヴィチ:組曲「黄金時代」

Дмитрий Дмитриевич Шостакович
ドミートリィ・ドミートリェヴィチ・ショスタコーヴィチ(1906~1975)


Сюита «Золотой век» соч. 22a
組曲「黄金時代」 作品22a



 旧ソ連が生んだ20世紀最大の作曲家ドミートリィ・ドミートリェヴィチ・ショスタコーヴィチは、他の偉大な作曲家達と同様に、あらゆるジャンルの音楽において多くの傑作を残している。エフゲニィ・アレクサンドロヴィチ・ムラヴィンスキィ、ダヴィド・フョードロヴィチ・オイストラフ、ムスチースラフ・レオポールドヴィチ・ロストロポーヴィチ、ベートーヴェン記念四重奏団といった名演奏家の存在によって作られた交響曲や協奏曲、室内楽曲はいずれも比肩するもののない名作ばかりであるし、他のジャンルと比較するとやや地味ではあるが、ピアノ曲にも洒落た佳曲が揃っている(彼自身、第1回ショパン・コンクールに参加するほどの名手であった)。また歌曲、特に晩年の作品の官能的な美しさは、この世のものとは思えないほどだ。近年録音される機会が増えてきた映画音楽や劇付随音楽なども注目に値する。前衛的な「鼻」作品15や最大の問題作である「ムツェンスク郡のマクベス夫人」作品29(1956年に改訂されて「カテリーナ・イズマーイロヴァ」作品114となる)、未完に終った「賭博師」(テーマがヴィオラ・ソナタ作品147に引用されている)、最大の駄作との呼び声も高い喜歌劇「モスクワよ、チェリョームシキよ」といった4作の歌劇はいずれ劣らぬ力作揃いである。

 一方バレエは、「黄金時代」作品22、「ボルト」作品27、「明るい小川」作品39の3作だけで、いずれも1930年代前半に集中して手がけられている。しかし、ショスタコーヴィチの多岐に渡る創作活動の中で、バレエは決して成功したジャンルとは言えない。彼がバレエを手がけた時代は、第1次及び第2次5ケ年計画の実施による発展とともにスターリン独裁に伴う思想的統制が強化され始めた時期であった。そのような流れの中で彼が取り上げたテーマは極めてイデオロギー的色彩の強いものであり、当時の社会状況を濃く反映したものであった。これは、プロコフィエフがおとぎ話や伝説に基づいてバレエの王道を歩んだのとは対照的である。さらに、採用された振付がバレエというよりはレビューに近いものであったことも彼にとって不利に働いた。そして1936年2月「プラウダ」紙上に発表された論文「バレエの偽善」で、コルホーズを主題にした3作目のバレエ「明るい小川」を厳しく批判されたショスタコーヴィチは、以後バレエへのアプローチを全くやめてしまう。

 しかし、こうした失敗の原因についてショスタコーヴィチは、「主な誤りは、台本の作者が、バレエ劇によってわが国の現実を表現しようとしながら、バレエ劇ということを少しも考慮しなかった点にあると私は思う。」というように台本と演出にその大きな責任があると捉えていた。実際、彼の音楽そのものは生き生きとした楽想や現代的リズムに満ち、機知とユーモアに溢れた注目すべきものである。1962年、レニングラードのマールイ劇場でボヤルスキーが振付けたマヤコフスキー原作の「お嬢さんとならず者」は、ショスタコーヴィチのバレエ曲を用いて構成されたが、この成功には彼の音楽が大きく貢献していた。余談だが、ショスタコーヴィチの他の絶対音楽作品(いくつかの交響曲やピアノ三重奏曲、ピアノ協奏曲など)によるバレエも数多く試みられている。

 さて本日演奏される「黄金時代」は、映画監督A. イワノフスキーの手による「ディナミアーダ」という台本に基づいた作品である。大まかな筋は次の通り:西側の資本主義国である某国で開催されている工業博覧会『黄金時代』に、とあるスポーツ労働組織によってソ連のサッカーチームが招待される。彼らは労働者達に人気を博すが、ファシスト達は彼らに対して陰謀をめぐらす。ミュージック・ホールでの馬鹿げた踊りやスタジアムにおける各種競技の光景などを織り込みながら、黒人のボクサーや地区の共産党員をはじめとする労働者達とソ連サッカーチームとの友情を描く。そして最後は、ファシスト達の陰謀が西側の共産党員の手によって暴かれ、喜ばしい労働の踊りによって幕となる。

 ショスタコーヴィチはサッカーの熱烈なファンであった(公式審判員の資格を持っていたほど。ただし、運動神経は悪かったらしい)が、「黄金時代」はサッカーをテーマとした唯一の作品である。オリジナルな形での再演は全くされないが、4曲からなる組曲作品22aは現在でも比較的よく演奏会で取り上げられている。組曲版の初演は、バレエの全曲初演に先立つ1930年3月19日に、A. ガウク指揮のレニングラード・フィルハーモニー交響楽団によって行なわれた。

【序曲】

 幕が上がる前の序曲と、博覧会場での見物客達の行進。

【アダージョ】

 第1幕でファシストの美人ダンサー、ジヴァがファンの男どもの挨拶に応えて舞う踊り。ソプラノ・サックス、ヴァイオリン、フルートのソロが、彼女の妖艶さと頽廃したフェロモンをまき散らす様を描写している。

【ポルカ】

 第3幕のミュージック・ホールでの余興として踊られる踊りの一つ。1927年のジュネーヴ海軍軍縮会議を風刺した踊りで、「平和の天使」と名付けられている。全曲中で最も有名な曲。

【舞踏】

 第1幕でジヴァがソ連サッカーチームのキャプテンを誘惑しようと踊るエロティックでどぎつい踊りに対抗して、ソ連サッカーチームのメンバーが踊る陽気で健康的な踊り。

かぶとやま交響楽団 第19回定期演奏会(1998年5月9日)

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genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D. 演奏活動_かぶとやま交響楽団

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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