ショスタコーヴィチの世界初録音集


  • ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3、7、8番 セント・ローレンスQ (EMI 0946 3 59956 2 6)
  • ショスタコーヴィチ:映画音楽「女友達」、劇音楽「支配せよ、ブリタリア!」、劇音楽「スペインに敬礼」、交響的断章(未完) フィッツ=ジェラルド/ポーランド国立放送SO (Naxos 8.572138)
9月30日の記事の続き。時間に余裕もあったので、久しぶりに店内を色々と物色してみた。

まずは、ワゴンセールで1点。ショスタコーヴィチ生誕100年の時にリリースされたセント・ローレンスQのアルバムである。母国カナダでは随分と人気のある団体のようだが、僕が聴いたのは今回が初めて。溌剌とした生気に満ちた演奏で、技術水準も高く、人気があるのもよく理解できる。

第3番は、この団体の個性と相性の良い作品のように感じられたが、幾分攻撃的に過ぎて聴いていて疲れる。響きの調子が陽性一辺倒であるのも少し気になる。とはいえ、この曲に関しては、聴き手の好み次第で評価も分かれるものと思われる。しかし、第7番も同じような方向性で演奏されていることには、疑問が残る。終楽章のフーガなどは聴き手に対して派手にアピールするだろうが、ショスタコーヴィチ独特の静けさが損なわれている。第8番は作品の完成度が高いだけに、こうした解釈でも十分に訴求力を持つが、どこまでも陽気な響きの特性には違和感を拭いきることができない。

もう一点は、全曲が世界初録音の注目のアルバム。Naxosのように安定供給してくれるレーベルの場合、ついつい油断して買いそびれてしまいがちになるので、こうして思いついた時に入手しておかないと。

まずは、映画音楽「女友達」。この作品には組曲版がなく、室内楽編成で演奏された3曲だけが「3つの前奏曲」という題で録音されていただけである(Melodiya C10 26307 004 [LP])。映画そのものはVHSで所有しているので、当然音楽も聴いたことはあるのだが、画質だけではなく音質も随分と優れないものなので、最新録音で聴けることが何より嬉しい。「女ひとり」などと同様に、映画の音声トラック全て(自筆譜が紛失している楽曲も含む)をフィッツ=ジェラルドが復元し、そのスコアを自身で指揮して録音したものである。ただし、DSCH社のリストを見る限り、なぜかこの曲は新全集に含まれていないようなので、スコアがどのように出版されるのか、はっきりしたことはわからない。弦楽四重奏曲第1番の第2楽章とほぼ同じ(正確に聴き比べたりしたわけではない)第1曲をはじめ、ほとんどが室内楽編成であり、ショスタコーヴィチらしさに貫かれながらも、抒情的で穏やかな美しい音楽が多い。また、サイレント時代の伴奏音楽を彷彿とさせる響きも面白い。演奏にも不満はない。テルミンによる「インターナショナル」なども、ネタとしては最高だろう。

一方、劇音楽「支配せよ、ブリタリア!」の方は、合唱付きのフル・オーケストラ編成による6曲から成る。これもまたフィッツ=ジェラルドがスコアを復元したもので、DSCH社の新全集第116巻に収録される予定だ。どこまでがショスタコーヴィチ自身の手によるものかよく分からないが、同時期の舞台用音楽と似た作風である。演奏も、適度な華やかさを持った楽しいもの。

劇音楽「スペインに敬礼」は、新全集第121巻でピアノ・スコアのみが出版される予定になっているが、ヒュームのカタログには実際に使われたパート譜からスコアが復元されていると記されているので、この辺りが新全集でどう取り扱われているのか、よくわからない。本盤では、フィッツ=ジェラルドが“Original Sources”からオーケストレイションしたものが演奏されているとのことだが、この“Original Sources”というのが少しややこしい。詳しくはCDの解説書に記載されているのだが、後年、他の映画音楽等に流用した楽曲が少なくないようで、それをここで演奏しているようなのだ。一体、何が“オリジナル”なのかは、とりあえず新全集第121巻の校訂報告を読んでみないことには分からないようだ。このような問題はあるものの、ショスタコーヴィチ初期の前衛色が影を潜め、中期に顕著な分かりやすく穏やかな音調の楽曲が中心に構成されているのは、なかなか興味深い。

さて、僕が一番楽しみにしていたのは、最後に収録されている交響曲の断章(未完)だ。第4番として書き始められ、第1楽章の冒頭(主部に入ったところまで)が仕上げられたものの、結局未完のまま破棄された断章には既に複数の録音が発表されているが、本盤に収録されている断章は、交響曲第9番として書き始められたものとされる作品であり、これが世界初録音となる(世界初演は2006年にロジデーストヴェンスキイ指揮でおこなわれている)。実際に発表された作品70と同じ変ホ長調であること、フェイの『ショスタコーヴィチ ある生涯』の中にある「溌剌としたテンポで長調の、力強い勝利の曲」(P. 187)という記述にもよく合致することなどから、第9番の初稿という推察にも一定の説得力はありそうだ。この辺りについては、DSCH社から出版されているスコアを見てから、また改めて考えをまとめてみたい。作品自体は、第4番の世界を第8番の響きで表出したような、少なくとも“戦勝”とは関係のなさそうな音楽である。実際、ライナーには「1945年1月」という表記があり、戦勝ムードは高まっていたのかもしれないが、依然として戦争の真っ只中で書かれたものである。いわゆる「第九」ということで、自身の記念碑的な作品を構想していたのかもしれない。とにかく、暴力的なまでの推進力が印象的である。テンションの高い演奏は、若干の乱れがないわけではないものの、この作品が未完に終わったことを聴き手に惜しませるに十分なもの。

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tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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