『新しい音を恐れるな』

  • メッツマッハー, I.・小山田 豊(訳):新しい音を恐れるな 現代音楽、複数の肖像, 春秋社, 2010.
メッツマッハーという指揮者の名は、「Who is Afraid of 20th Century Music?」と銘打ったハンブルク州立POとの一連のジルベスター・コンサートの録音で知り、またそれでしか知らない。その音盤を手に入れた時に、アンサンブル・モデルンのピアニストを務めていたことや、現代音楽を得意としていることを知ったが、いわゆる現代音楽には積極的に手を出していないこともあり、それ以上の興味を彼に抱くことはなかった。

「Who is Afraid of 20th Century Music?」とは、ディズニーの「三匹の子ぶた」の主題歌「Who's Afraid of the Big Bad Wolf?(狼なんか怖くない)」のパロディーらしいのだが、当時は音盤屋の店頭などで「誰が20世紀音楽を恐れるか?」という訳で紹介されていた記憶がある。帰宅途中に寄り道した書店でこの本を見かけた時に、書名中の“恐れる”という語で手持ちの音盤のことを思い出したこともあって、すぐに購入してみた。もっとも、CDと本のどちらもメッツマッハーの意図を汲まない直訳をしている点では、あまり感心できた話ではない。

率直に言って、メッツマッハーが本書で取り上げている作曲家のほとんどに対して、僕はそれほどの関心を持っていない。しかし、それでも本書は、すこぶる面白かった。特に、シュトックハウゼンとヘンツェについて触れた2つの章は、語弊を恐れずに言えば、実際の楽曲を聴く以上に胸躍る気持ちで読むことができる。他の誰でもないメッツマッハー自身が、これらの音楽を心の底から楽しんでいる様子が、行間から溢れ出ているのだ。とりわけ、シュトックハウゼンの「コンタクテ」という作品(僕は聴いたことがない)に取り組んだエピソードは、本書の白眉であろう。

大学時代、3学年上に大井浩明さんがいたこともあって、現代音楽の現場に居合わせる機会が何度かあった。今思い起こせばデタラメばかりの演奏ではあったが、ブーレーズやらヴェーベルンやら武満やらナンカロウやら、面白がって未知の音楽に体当たりする現場には、独特の熱気と興奮があった。

メッツマッハーのエピソードを僕の思い出と同列に語るつもりはさらさらないが、本書には現代音楽が生み出される現場の香りが全編に満ちている。最上の意味での入門書である。

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genre : 本・雑誌

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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