O. ディゴーンスカヤ:ショスタコーヴィチと「黒衣の僧」, DSCH社―(6)

この反映が、6ヵ月後に作曲が始められたS.P.シリーンスキイに献呈された弦楽四重奏曲第14番にも微かに散見されるという推測をしてみたい。イサーク・グリークマンと4月11日にレーピノで交わした前述の会話において、ショスタコーヴィチは「セレナータ」の編曲だけではなく、次の事実についても語った。彼は「レーピノで、新しい四重奏曲の第1楽章と、第2楽章の半分を書き上げた。『それは悪くない、と思います』と、彼は言い、皮肉に付け加えた。『でも、それが人生に価値をもたらすような種類の音楽とは想像しないでください。ともあれ、四重奏曲は仕上げられるでしょうし、ベートーヴェン四重奏団のチェロ奏者に献呈することになるでしょう』53」。「セレナータ」と四重奏曲が、一つの会話の中でこのように近しく話題に上がったという事実は、何も意味しないかもしれないし、あるいは、考察を一休みさせてくれるかもしれない。実際、どういう理由で、四重奏曲の進捗状況を友人に知らせる際に、ショスタコーヴィチは6ヶ月も前に編曲を終わらせた美しいイタリアのロマンスのことなどを思い出したのだろうか?もしかしたら、説明するには難しいような何らかの関連があったのだろうか?決定的な結論だと主張しないまでも、ある程度の推測をすることは許されるだろう。

ロマンスのイントネーションに満ちた弦楽四重奏曲第14番の第2楽章では、ある旋律(練習番号52から)を聴くことができる。それは、「ナポリの歌『Non ti scordar di me』」によく似ている54。さらに、ヴァイオリンとチェロの二重奏で奏でられる目立って情熱的で開放的な抒情を湛えた旋律が現れる(練習番号53)。そして、平行6度で奏でられるこの主題が、最初は19世紀のセレナードの様式の一般的なロマンスを想起させるならば、“イタリア風の”トニックの三和音に沿った平行上昇(練習番号53、7~8小節)はガエターノ・ブラガの「セレナータ」の編曲(練習番号10、7~8小節)、すなわち「過去を見つめる別れの眼差しの暗喩」のもう一つの例を直接的にほのめかしていると考えられる55

今のところ、四重奏曲をS.P. シリーンスキイに献呈すると決めた際、「天使のセレナータ」の原曲がチェロのための作品であることにショスタコーヴィチが気付いていたという直接的な証拠はない。しかし、チェロ奏者D. フェルシトマンが「セレナータ」の編曲の初演に参加したことを思い出してほしい。このことは、作曲家にとって秘密ではなかった。ロマンスの中心エピソードの中に通奏低音としてチェロを“聴いた”作曲家自身の要望によって、チェロ奏者が招待されたということも十分あり得る。

これらの状況を踏まえると、あまり目立たないある事実が、特別な重要性を持つ。手稿譜では、ショスタコーヴィチは声楽パートを「ソプラノ」と「アルト」と指定している。通常は楽譜を書き上げた時に作曲家が作る表紙に、機械的に書き始めた「アルト」という語を自ら線で消し、「メゾソプラノ」に書き換えている。興味深いことを記しておこう。低音の女声独唱(メゾソプラノやコントラルト)について「アルト」という用語は、ショスタコーヴィチの他の声楽作品では使われていない。一般的な例によれば、彼はこの用語を合唱(Alti)、管弦楽(V-le)、そして室内楽(viola)作品におけるパート表記にだけ使っている。ブラガの「セレナータ」の編曲の自筆譜に、なぜそのような例外的な書き込みが見られるのだろうか?この点については、まだ答えがない。もしかしたらショスタコーヴィチは、ブラガの「セレナータ」をその副題である「天使の歌」(すなわち、ソプラノとアルトから成る「天使の合唱」)という観点で捉えていたのかもしれない。あるいは、コントラルトとの類推から「アルト」という表記をしたのかもしれない。それとも、無意識の内に室内アンサンブルの可能性と結び付けて「アルト」という語を選んだのかもしれない(たとえば、弦楽四重奏。ヴァイオリンとチェロは、ソプラノとピアノが担当すると考える)。もちろん、これら全てについては、ただ推量することしかできない。ありはしない理由を探し求めているということもまた、あり得るだろう。しかしながら、あらゆる情報の断片を検討し、詳細を考慮に入れることで、弦楽四重奏曲第14番第2楽章の(ヴァイオリンとチェロの二重奏による)幻妙な主題(それは、四重奏曲全体を締めくくる最後のmorendoの前でも聴かれる)が、ブラガの「セレナータ」、より精確に言えば、その編曲(morendoで終わる!)の香りを漂わせているという考えに、否応なしに到達するだろう。そしてこの考えは、それほどあり得ないことでもなさそうだ。



  1. Glikman I.D. Journal VIII (ドミートリイ・ショスタコーヴィチ・アーカイヴス, f. 4. sec. 2. rec. gr. 8. sh. 28).

  2. Akopyan L.O. Dmitry Shostakovich: Opyt fenomenologii tvorchestva [Dmitry Shostakovich: An Attempt at the Phenomenology of his Creative Genius]. SPB. 2004. p. 397.

  3. 同上. P. 375.

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tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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