京都の古本屋にて

所用で京大に行ったついでに、大学のそばにある古本屋を久し振りにのぞいてみた。左翼臭の漂う品揃えが懐かしく、書棚を眺めつつ学生時代にタイムスリップしたような気分で2軒をはしごし、計2冊を購入。

  • グラッシィーニ, G.・花野秀男(訳):収容所群島への道, 二見書房, 1974.
1969年に作家同盟を除名され、1970年にノーベル文学賞を受賞した直後にイタリアのジャーナリストがまとめたソルジェニーツィンの評伝である。この時点では、ソルジェニーツィンに亡命の意思は全くない(訳書の出版時には、既に国外追放されている)。ロストロポーヴィチとの交流などにも言及されているのではないかと期待したが、当時の住居を提供してもらっていたという以上の記述はなかった。とはいえ、フルシチョフからブレジネフにかけてのソ連の文化政策に関する詳しい著作を読んだことがなかったので、文学に限定された内容ではあるものの、とても興味深く読んだ。本書に収められたソルジェニーツィンの発言の数々は、いずれも激烈ではありながらも圧倒的な知性に裏打ちされた論理に貫かれていて、愚鈍な指導者や政治家にとって彼が不都合な存在であったことがよくわかる。入手しそびれたままになっている『収容所群島』も、そろそろ読んでみようかな。



  • ルスラーノフ・喜田説治(訳):逆説の国ソ連, 原書房, 1981.
もう一冊は、表紙に大きく「ソ連地下出版」と書かれていたというだけの理由で手に取ったもの。ルスラーノフというのはペンネームで、本名はボリース・エヴドキーモフというらしい。1972年に裁判の結果、精神病院に強制入院させられたとのこと。原題は「ロシア史における若者たち」という論文であるが、ロシア史については訳者がかなりの紙数を割いて補足している。

著者の歴史解釈にどれほどのオリジナリティがあり、(当時の)現代ソ連社会における世代間の隔絶に関する考察がいかに正鵠を射ているのかを判ずることはできない。ただ、本書の記述のあちこちに、まるで現在の日本について述べているのかと錯覚するような文章が現れることは、実に興味深かった。以下に、それらをいくつか列挙してみよう:
改革は不可避だった。だが、(中略)国民的自尊心を傷つけ、民族的文化的伝統を棄てることなしに、西欧的なものによってそれらをより豊かにすべきだったのだ。

一八六八年に始まった日本における明治の変革は、まさにこのような原則にもとづいて行われた。(中略)

変革は国民精神と国民的伝統をはずかしめず、ヨーロッパ文化によってかえってそれを強化した。日本を外面的にヨーロッパ化しつつ、彼らは内面的、精神的には、日本を傷つけなかった。

日本の伝統的な道徳的原則と祖先崇拝の風習はニ十世紀の日本にも中世のままに残った。このゆえに歴史的国家観念は保たれ、民族国家意識が維持され、国民は一体化され、社会的な動揺と激変は起らず、国の歴史にかつてなかった経済的繁栄と科学の隆盛が招来されたのである。(中略)

その結果として、日本のインテリゲンチアは常に国家的に物を考え、政治的に健康で、民族・国家的理想に深く信を置き、ユートピア的幻想にとらわれなかった。(pp.17~19)
政治革命が創造的、建設的になるのは、その革命が民族的である時だけである。すなわち、その革命思想が民族の歴史的過去によって基礎づけられ、民族の精神構造、民族的性格、民族の生活様式、精神的・道徳的美質、対外政策における国家的課題に合致するものである時に限られる。(p.46)
あらゆる政治体制は少数者の積極的支持と大多数の消極的同意がありさえすれば存在し得るものだ(p.90)
歴史は共産主義の運命にとって最も困難で錯綜した時期にフルシチョフを登場させた。彼はソ連のチトーになることができたのである。能動的でエネルギッシュで厚顔な彼は改革に着手した。だが、熟慮する能力のないこのへぼ政治家は、プログラム全体を適時に熟考することができず、臆病風に吹かれて、後向きになった。権力の地位への渇望にとりつかれた彼は、無制限の独裁への近視眼的努力の過程ですべてのものを敵に回してしまった。(p.119)
末期に近づいて腐りはじめた体制(レジーム)の特徴は、まぬかれ得ない必然性をもって政治的失策を積み重ねるところにある。(中略)

この≪まぬかれ得ない不可避性をもつ失策≫の原因は、権力が政治的な現実感覚を喪失し、社会と国全体との接触を失うことになる。新しい局面に入っても、どんな譲歩やどんな改革をもってしても、目的は達せられないのである。なぜなら、やることなすことが、同じまぬかれ得ないやり方で≪失策≫となり、そして権力の弱さを証拠だてて、社会の側からの新しい要求を呼び起すからである。(p.134)

固有名詞を適当なものに差し替えれば、明日の朝刊の論説に載っていてもおかしくないような文章ばかりである。さすが時代遅れの左翼政権、と言うべきか。

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genre : 本・雑誌

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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