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クヮルテットのたのしみ


少しだけ、つまらぬ思い出話にお付き合い願いたい。

高校生の頃、弦楽四重奏の魅力に取り憑かれた僕は、受験勉強の寸暇を惜しんで(妙な表現だが)何度も擦り減るほど四重奏のレコードを聴いたものだった(LPの方が多かったから、文字通り擦り減った)。この頃に聴いたアルバン・ベルクQの録音の数々は、それゆえに僕の奥深くに刷り込まれている。何が有名曲なのかも分からず、ただただ手当たり次第に聴き漁っていたが、その内、情報が欲しくなって本屋の音楽書のコーナーに入り浸って立ち読み三昧が始まった。不勉強が祟って1年間浪人したせいで、時間ならいくらでもあった。何の変化もない退屈な日々の中で、まだ聴いたことのない作品や演奏に思いを馳せることが唯一に近い娯楽であり、大学に入ったら弦楽四重奏をしたい、という夢が心の支えでもあった(本末転倒もいいところだが)。

立ち読みだけでは飽き足らず、予備校に通うバス代をケチって何とか手に入れた本の一つが、『音楽の友』別冊の『室内楽ものしり事典』(音楽之友社, 1989)。そこに載っている、N響の首席第2ヴァイオリン奏者の山口裕之氏(当時はコンサートマスター)が中心となって活動していたゼフィルスQについての記事の中、選曲の項にさりげなく書かれている「ちなみに、アカデミア・ミュージックから出版されている『クヮルテットのたのしみ』という本は室内楽のファン必携の一冊で、聞いたこともない作曲家の室内楽作品のリストは非常に貴重なものだ」(pp.145~6)という一文を発見。こんなことを書かれては、居ても立ってもいられない。浪人生の身分で札幌から東京に市外通話をかけるのは憚られたのでハガキで問い合わせ、返信にあった指示通りに郵便局で代金を振り込んだことを記憶している。

現物が届くとすぐに読み始め、貪るように何度も読み返した。まずは、クヮルテットの結成から初お披露目に至るまでのユーモラスなエッセイ(?)の部分。どこかチェブラーシカとワニのゲーナの出会いのような団員募集のくだりは、著者と国も時代も共有していないので今一つ共感しきれないところもあったが、4人がそれぞれやりたい曲を好き勝手に主張し、結局ラズモスフキー第1番をやることになる初合わせの顛末などは、まだ夢でしかなかった自分の四重奏団を想像するに十分過ぎる生き生きとした描写で、暇さえあれば読んだものだった(後に、この記述が紛れもなく真理であることを何度も経験することになった)。後半の作品リストは、最初は「こんな曲があるのか」というだけで面白く、繰り返し眺めている内に各曲に対する著者(と訳者)のコメントの面白さに気付き、舐めるように読んだのも懐かしい思い出。

大学に入って、2回生になって初めて固定メンバーで四重奏に取り組めるようになり、ふとした折に弾きながら「あの本に書いてあったのと同じだ」と思ったり、楽譜屋や音盤屋に行く前に作品リストに目を通してみたりと、文字通りの愛読書であった。

メンバーの卒業と共に四重奏を解散した後は、本棚から出すこともめっきり減っていた本書の改訂増補版が出版されるとのメールが、アカデミア・ミュージックから届いた。新版を敢えて手元に置いておく必要性はなかったのだが、先日、一種の郷愁に駆られて、ついつい注文してしまった。

旧版との大きな違いは、作品リストの増補である(他に、訳者がアカデミア・ミュージックの機関紙に寄稿した文章なども掲載されているが)。ただ、本書においては、著者(あるいは訳者)が各曲にコメントしている点こそが重要なので、単に曲名と難易度だけを羅列した増補部分には、多少の資料的意義は認めるものの、本書の魅力とは異質なものを感じることは否めない。また、ショパンのピアノ協奏曲のピアノ五重奏用編曲の項で、「特に協奏曲第1番はよく売れています」(p.192)などと書かれているのも、無粋だなぁと思ってしまう。

とはいえ、旧版にもあった部分は、今読み返してもクヮルテット愛に満ちた珠玉の文章である。本書を手にしてクヮルテット道にハマる若者が今後も出続けることを祈りつつ、あの頃の初心を忘れずに、たまには楽器の練習もしようと反省しながら、懐かしく頁をめくりました。
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theme : クラシック
genre : 音楽

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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