『聴いておきたいクラシック音楽50の名曲』(河出文庫, 2013)

  • 中川右介:聴いておきたいクラシック音楽50の名曲, 河出文庫, 221p., 2013.

2004年に出版された『常識として知っておきたいクラシック音楽50』(KAWADE夢新書)の文庫版。旧版は未読だが、序文によると、選曲は変えていないが記述の一部は改訂しているとのこと。

いわゆる“入門書”というのは、書き手にとってかなり敷居の高いお題に違いない。メソッドが確立している事柄についてならば、通り一遍の内容を平易な表現でなぞるだけで、とりあえずは入門書として成立するだろうが(それが意味のある著作かどうかはさておき)、そもそも著作の対象である「クラシック音楽を、これから聴いてみたいと思っている人」の関心事を絞り込むのが困難であることからして、入門書の定型すら成立し得ないとも言える。

それでもレコードが高値の花だった時代は、聴くことのできる作品および演奏が限られていたので、「聴くことのできる音楽を、どう聴くか(あるいは、どう聴いているか)」という観点で、過度に専門的な話題に陥らないよう配慮したものを、入門書として世に問うことが可能だった。しかし、今は違う。楽譜さえ残っていれば、どのような作曲家のどのような作品でも、容易に耳にすることができる状況である。つまり「どう聴くか」ではなく「何を聴くか」というのが最初の問題となる。

それは、作品についてだけではない。同曲異演の聴き比べがクラシック音楽の楽しみの一つである以上、「誰のどの演奏を聴くか」という問題もある。

本書は、この2つの問題について、明解な基準で割り切っている。単なる時代順ではなく、いくつかのテーマに沿った選曲は著者の嗜好をさりげなく反映していながらも、概ね妥当なものと言えるだろう。一方、推薦盤については「とりあえずカラヤン盤を聴くべし」というスタンスをとっている。もちろん異論はあるだろうが、本書で挙げられているような名曲の“名盤”を網羅的に列挙するだけでも紙数は倍増するだろうし、“入門”しようとしている読み手はいたずらに混乱するだけだろうから、この割り切り方は一つの見識に違いない。

クラシック音楽の入門書には、入門書を手に取る人の多くが既に熱心な愛好家であるという固有の問題もある。本書の思い切った割り切り方は、彼らがそれに対して批判的に思いを巡らすことも可能という点で、広い読者層に訴えかける内容を持っているとも言えるだろう。

結局のところ、音楽は聴いてみなければ何もわからないのだから、どのように聴くか、ではなく、聴いてみようという興味を惹起することに集中しているのは潔く、それが本書の魅力であろう。

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theme : クラシック
genre : 音楽

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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