前線のための歌

  • 27のロマンスと歌 Sans op. J(ii), Композитор・Санкт-Петербург, 2005.
  • ショスタコーヴィチ:「前線のための歌」(27のロマンスと歌) Russkaya Conservatoria Chamber Capella (Toccata Classics TOCC 0121)
よく利用する楽譜の通販サイトで、「前線のための歌」という表題がつけられたショスタコーヴィチ名義の楽譜を見つけた。商品説明を読むと、大衆歌曲などの編曲が収録されているような雰囲気だったので、おそらくはその内の数曲がショスタコーヴィチによるのだろうと、さほど期待もせずに注文してみた。

届いた楽譜を見ると、全27曲がショスタコーヴィチが編曲したヴァイオリンとチェロの二重奏による伴奏で歌われる歌であった。もちろん「前線のための歌」という表題で知られる歌曲集はないし、いかにも大祖国戦争時の慰安用の音楽だと思われたので、半ば書き捨てられたような譜面を発掘して出版したものだろうとロクに調べもせずに、漫然と譜面や解説に目を通してみた。

その後、何気なくヒュームのカタログを見てみたら、「27のロマンスと歌」としてSans op. J(ii)という番号まで振られている曲集(?)であることを確認。すぐに思いが至らなかったのは不覚の致すところ。録音もないだろうと思っていたら、この出版譜に基づく録音が既にリリースされていた。実はこのアルバム、存在は知っていたのだが、タイトルやジャケットの雰囲気から勝手に「8つのイギリスとアメリカの民謡」Sans op. M辺りを中心にした内容だろうと思い込んで、きちんとチェックしていなかった。色々と大失態である。



慌ててCDも入手して、27曲の内容を整理してみた。ストーリー性を持った連作歌曲ではないので、楽曲の順番にさして意味はない。以下は、出版譜の順番に並べ、【】内にヒュームのカタログに記載されている順番を「H○」、CDの収録順を「Track ○」として示す:
  1. 【H26-Track 24】ポクラス:別れ
  2. 【H25-Track 25】ポクラス兄弟:嵐の雲ではない(映画「労働者の息子たち」より)
  3. 【H19-Track 27】ブラーンテル:シチョールスの歌
  4. 【H24-Track 26】ミリューチン:私たちに触れるな(映画「Митька-Лелюк」より)
  5. 【H27-Track 19】プリッツカー:少女の歌
  6. 【H23-Track 21】ドゥナエーフスキイ:なんと偉大な!(映画「ベートーヴェン・コンサート」より)
  7. 【H22-Track 22】ドゥナエーフスキイ:風よ歌え(映画「グラント船長の子供たち」より)
  8. 【H20-Track 23】ドゥナエーフスキイ:海の歌
  9. 【H21-Track 20】ドゥナエーフスキイ:アニュタの歌(映画「陽気な連中」より)
  10. 【H3-Track 4】ヴェッケルラン:ママ、愛って何?
  11. 【H1-Track 2】ベートーヴェン:満たせ杯を、わが友よ(25のスコットランドの歌より)
  12. 【H5-Track 1】ロッシーニ:アルプスの羊飼いの娘(「ソワレ・ミュジカル」より)
  13. 【H2-Track 3】ビゼー:ハバネラ(歌劇「カルメン」より)
  14. 【H4-Track 5】レオンカヴァッロ:アルレッキーノのセレナード(歌劇「仮面舞踏会」より)
  15. 【H6-Track 18】ヴェルストーフスキイ:ジプシーの歌
  16. 【H9-Track 11】グリリョーフ:小さなサラファン
  17. 【H8-Track 10】グリリョーフ:おかあさんに話しましょう
  18. 【H13-Track 14】ダルゴムィーシスキイ:熱病
  19. 【H12-Track 15】ダルゴムィーシスキイ:グラナダは霧に包まれ
  20. 【H10-Track 16】ダルゴムィーシスキイ:私たちの通りのように(歌劇「ルサールカ」より)
  21. 【H11-Track 17】ダルゴムィーシスキイ:コミック・ソング(歌劇「ログダーナ」より)
  22. 【H14-Track 6】ムーソルグスキイ:ゴパーク
  23. 【H16-Track 7】ムーソルグスキイ:ヒーヴリャの歌(歌劇「ソローチンツィの定期市」より)
  24. 【H15-Track 8】ムーソルグスキイ:パラーシャのドゥムカ(歌劇「ソローチンツィの定期市」より)
  25. 【H17-Track 9】リームスキイ=コールサコフ:ノルマンの商人の歌(歌劇「サドコー」より)
  26. 【H18-Track 12】イッポーリトフ・イヴァーノフ:岩の上に座る
  27. 【H7-Track 13】グラク=アルテモヴシクィイ:カラースとオダールカの二重唱(歌劇「ドナウ川のコサック」より)
まだきちんと精読した訳ではないが、楽譜の解説はロシア語のみだが、CDの英語解説は基本的に楽譜のそれに基づいている。楽曲の情報としては、CDを入手すれば十分であろう。

前線の兵士の慰安用という用途を考えても、これらの楽曲の選択が「よく知られている」という基準によることは言うまでもない。ただ、オペラのアリアなどは、必ずしも高級将校ではない一般の兵士に膾炙していたとは思えないが、少なくとも著しく難解で退屈するような歌は皆無である。ピッツィカートを多用した伴奏は、ギター風の響きを模したものだろうが、ギター一本の方がその目的のためには身軽で移動しやすいはずなのに、わざわざヴァイオリンとチェロの二重奏としたのは、おそらく具体的な音楽家のグループが想定されていたということなのだろう。

弦楽器二本という少ない編成にもかかわらず、それなりに広がりのある響きが生み出されているのは、ショスタコーヴィチの職人的な手腕を示すもの。ただし、演奏の難易度は決して低くはない。相応の技量を有した一流の演奏家が演奏したに違いない。

Russkaya Conservatoria Chamber Capella(適切な日本語訳が分からなかった)の演奏は、雰囲気も技術面も十分に満足できる水準である。繰り返しの一部が省略されているが、全く同じものを3回以上も繰り返して聴く必要はないので、妥当な処理だろう。とても楽しい音楽であることは確かだが、ショスタコーヴィチの作品として重要な位置を占めるものでないことも確か。本作品の録音が今後も定期的になされるとは考え辛い。場合によっては唯一の資料となる可能性もあるので、興味のある方は入手可能な内に確保されることをお勧めする。

HMVジャパン

スポンサーサイト

theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

comment

Secre

プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
カテゴリ
タグツリー
★ トップ(最新記事)
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
検索フォーム
人気記事ランキング
RSSリンクの表示
リンク
音盤検索
HMV検索
検索する

音楽関係のブログ(リンク・更新状況)
PopUp WikipediaⅡ
記事中の気になるキーワードをマウスで選択してください。Wikipediaからの検索結果がポップアップ表示されます。
Wikipedia
developed by 遊ぶブログ
Translation(自動翻訳)
FC2カウンター