ショスタコーヴィチ:未完のヴァイオリン・ソナタ(DSCH社)


  • ショスタコーヴィチ:未完のヴァイオリン・ソナタ(1945), DSCH, 2012.
7月4日のエントリーで触れたショスタコーヴィチの未完のヴァイオリン・ソナタについて、出版譜を米Amazonにて購入。日本国内の楽譜屋の店頭に並んでいないことはさして不思議ではないが、ネット通販ショップの類でもほとんど検索にヒットせず、手軽かつ迅速に入手できそうな手段が米Amazonのみだったのは少々意外。

楽譜の巻頭にはヤクーボフの解説が掲載されている。その要点は、以下の通り:
  • ソナタの作曲に着手したのは、1945年6月26日。
  • ソナタの第1楽章として書き始められた。
  • ソナタは提示部の終わりまで完成(自筆の清書が存在)、展開部の始め(22小節、ただし大きくバツ印が書かれている)のスケッチが残っている。
  • 作曲の動機、および途中で放棄された理由についての記述はない。
  • ソナタの2つの主題は、ほぼそのままの形で交響曲第10番の第1楽章に流用されている。
  • 第1主題の中には、交響曲第9番の第2楽章の冒頭主題に類似した部分がある。
  • 主題ならびに旋律の構成には、多声音楽の技法が駆使されている。
  • 多声音楽に対する関心は、「森の歌」の終楽章のフーガや、24の前奏曲とフーガへとつながる。
  • ソナタ冒頭のピアノの音型は、ベートーヴェンの月光ソナタと類似している。
残念ながら、最も期待していた楽曲成立の背景に関する新情報はなかった。交響曲第10番(と第9番)との類似については、少なくとも現時点では聴き手が自由に妄想を膨らませる余地が少なからず残されているということになる。第9番も第10番も人気のある交響曲だけに、ショスタコーヴィチ好きにとっては、新たな話のネタができたというところか。

バロック以前のポリフォニー音楽の作曲技法が駆使されているのは、大変に面白い観点である。ジダーノフ批判期に非現代的な技法に回帰したかのように言われることもあるが(24の前奏曲とフーガなど)、そうした古い時代の音楽や技法に対する興味が批判とは無関係のものであったことが、ヤクーボフ氏の指摘によって示唆される。

もう一点。作品134のヴァイオリン・ソナタの冒頭とこの未完のソナタの冒頭とは、訥々としたピアノの動きとヴァイオリンの息の長い旋律的な流れという点で類似している。また、作品134の第1楽章はト長調とされているものの教会旋法が用いられており、バロック以前の技法という点でも未完のソナタに共通するように思われる。オイストラフ(の誕生日)に献呈された作品134であるが、1945年時点でオイストラフとショスタコーヴィチとの関係はさして深いものではなかったので、これらの類似性は時代に対する思い出というよりは、純粋にヴァイオリンとピアノとの響き=高音楽器の純正律と平均律とが織り成す響きに内在する問題の、ショスタコーヴィチなりの解決策だったりするのかもしれない。

率直に言って、未完のソナタ自体はそれほど面白い音楽ではない(たとえば弦楽四重奏曲第4番の第1楽章の一部分だけ聴いているような感じ)。しかし、楽曲の背景を巡って広がるファンタジーは、熱心なショスタコーヴィチ・ファンの胸を熱くするに違いない。

なお、巻末には自筆譜(清書と下書きの両方!)のファクシミリが掲載されている。
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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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