映像作品を観て、時代の桎梏に思いを馳せる

  • 『クラシック音楽と冷戦~東ドイツの音楽家たち』 (Arthaus Musik 101 655 [DVD])
  • ショスタコーヴィチ:歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」 コンロン/フィレンツェ五月祭O他 (Arthaus Musik 101 388 [Blu-ray])
HMV ONLINEから期間限定セールの案内メールが届いたので、目に付いた映像作品を2点購入。といっても、実は2月の話なのだが。

共産主義あるいは社会主義の政治体制と音楽(芸術)との関わりについて、ソ連を主題とした文献やドキュメンタリー映像は、もちろん専門の研究者などとは比べ物にならないにせよ、これまでに少なくない数を見てきた。それぞれに立場の違いがあったりアプローチが異なったりはするものの、概ねそれらの全体像は共通していた。ソ連の影響下にあった当時の東欧諸国についても、ソ連の延長として理解してきたと言ってよいだろう。

「ドイツ・シャルプラッテン」レーベルを通して、その名はごく身近にあった「東ドイツの音楽家たち」についても、同様に捉えていた。しかし、振り返ってみると、(東)ドイツ人の立場から当時の東独楽壇を語った言辞に触れた記憶はほとんどない。率直に言って興味のある特定の音楽家(指揮者のケーゲルなど)を除き、東独という国が私の関心の範疇になかったということだ。この映像作品を手に取ったのも、偶然としか言いようがない。

約1時間のドキュメンタリーには、東独時代の歴史的な映像の数々や存命する(当時)関係者らのインタビューに加え、E.クライバー、アーベントロート、コンビチュニー、スウィトナー、マズア、シュライアー、フェルゼンシュタインなどといった著名な音楽家達の当時の映像もふんだんに散りばめられており、全体としては、「第二次世界大戦」「ベルリンの壁」「シュタージ(秘密警察)」といったキーワードから想定される通りのストーリーながらも、クラシック音楽ファンには見どころも少なくない。もちろん、取り上げられている音楽家の選択に物足りなさが残ったりもするのだが、それは私の好きな演奏家がいない、というだけのことであって、本ドキュメンタリーのテーマからすると恐らくはごく妥当な選択なのだろう。

学生時代にサークルの先輩が「シャルプラッテンの録音場所って、どれもこれも『ルカ教会』やな。どんなとこなんやろ?」と話していた、その教会の姿を観ることができただけでも、私にとっては価値のあるドキュメンタリーであったが、少なくとも東独楽壇の事情についてそれほど詳しくない人には、間違いなく十分に見応えのあるお薦めの映像作品である。ただし、日本語字幕には若干の不満が残る。

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商品の形で入手できる「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の舞台映像は、これで3つ目となる。フィレンツェ五月祭でのライヴ映像だが、演出も音楽も、全てにおいて常識的で穏当な仕上がり。この歌劇を知るという意味において、不足はない。

ただ、悪い意味で「クラシカルな名作」として扱われている感が強く、確かに初演から1世紀近くが経とうとしているのだから当然なのかもしれないが、しかし、それにしても作品に内在する野卑な力強さが随分と丸められていることに物足りなさが残る(たとえば第2場のアクシーニャの悲鳴など)。オーケストラも、技術的な切れ味はさておき、手堅さばかりが優先して切実で痛切な響きに不足している。

終演後のカーテンコールで、歌手たちが次々と満面の笑みで答礼している様子は、いくらイタリアとはいえ、この全く救いようのない作品には不釣り合いで、ショスタコーヴィチの音楽が様々な背景の呪縛から解き放たれるようになった、と好意的に受け止めるにはいささか苦々しい気分で視聴を終えた。私も歳をとって旧い世代になった…ということなのかもしれない。

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Shostakovich,D.D.

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プロフィール

Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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