ヴラフ四重奏団のドヴォルザーク
- ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第10、13番 ヴラフQ (Supraphon 25CO-2318)
- ハイドン:弦楽四重奏曲第番「ひばり」、ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」 スメタナQ ヴラフQ (EMI EAC-55078 [LP])
初めて聴いたヴラフQの演奏は、高校生の頃に買った「アメリカ」の録音だった。これはスメタナQによるハイドンの「ひばり」とのカップリングで、家に帰ってLPのライナーをよく見てみたら「アメリカ」の方は聞いたことのない別団体の演奏で、騙されたような、がっかりした気分になったことを記憶している。その後、上述した2,500円のシリーズでベートーヴェンを何枚か買ったりしたものの、私の中ではどこか野暮ったいチェコの一流半の団体といった認識であり続けた。有名か否か、という子供っぽい先入観をずっと引き摺っていたわけで、ただただ恥ずかしいことだ。
そんな訳で、特に期待するでもなく気楽に再生してみたのだが、第10番の冒頭が始まるや否や、これまでの先入観が一瞬にして吹き飛んでしまった。4人が一体となった温かみのある、極めて自然な情感が淀みなく流れるのを耳にして、たちまちスピーカーから聴こえてくる音楽の虜になってしまった。たとえば第2楽章の旋律を聴けば、「ヴィルトゥオーゾ」の類の形容は全く似合わないのだが、それでいて名人芸としか言いようのないヴラフ(第1Vn)の素晴らしさのみならず、その音楽性が他のメンバーと完全に共有されていることが分かる。まさに、弦楽四重奏の極致と言ってよい。時にヴラフを煽るかのように一層抒情的に歌い上げるスニーティル(第2Vn)のスタイルも、私の好み。これこそ「有機的なアンサンブル」と称するに値する。幾分冗長さを感じさせる曲ではあるが、些細な経過句に至るまで生き生きとした音楽の息吹に満ちているせいか、退屈に感じる瞬間が皆無。この曲の理想的な名演である。
第13番には、若き日のウィーン・アルバン・ベルクQ(初代メンバー)による名演があり、その精緻なアンサンブルと入念に作り込まれた歌い回しに対抗できる演奏は、少なくとも音盤においてはあり得ないだろうと思っていたが、のどかな情緒を漂わせつつも、内に活力を秘めたヴラフQの巧まざるアンサンブルは、ABQが切り拓いた現代的な洗練とは趣を異にしつつも、この名曲の名盤としてABQ盤と並び称せられるに相応しい傑出した仕上がりである。敢えて言えばABQの人工的な感触に対してヴラフQは自然な佇まいが特徴ということになるのだろうが、ABQに自然な歌心が不足している訳でも、ヴラフQにアンサンブルの精度が不足している訳でもない。
あまりに感激したので、古い「アメリカ」のLPも引っ張り出してみた。大ホールに響き渡るような派手さはないが、4人全員が心の底から歌い上げる第2楽章が実に感動的で心奪われたが、その他の楽章においても内から湧き出るような活力のある音楽に、「アメリカ」の、そして弦楽四重奏という編成の魅力を堪能した。
最近は買いたい音盤を決めて(検索して)ネットで購入してばかりだが、こうして店頭の棚を漫然と眺めて購入する昔ながらのスタイルも、やはりたまにはしておかないと……と思った次第。
なお本盤は、「スプラフォン・ヴィンテージ・コレクション」という廉価盤の一枚(COCQ-83821)として再発されている。

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