【楽曲解説】モーツァルト:弦楽四重奏曲第23番

Wolfgang Amadeus Mozart
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)


Streichquartett Nr. 23 F-dur, KV 590
弦楽四重奏曲第23番 ヘ長調 KV 590



 いわゆる三大交響曲(第39~41番)を書き上げた翌年(1789年)、モーツァルトはベルリンに向けて旅立ちました。晩年のモーツァルトが深刻な経済的困窮の中にあったことはよく知られていますが、その打開を図るべく、演奏会の興行収入や新作の注文を得ると同時に、プロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世(1744~97)に謁見して名誉と名声を得ることが、このベルリン旅行の主たる目的でした。旅行後、モーツァルトは「王のために四重奏曲6曲を書いている」と手紙に記していますが、「プロイセン王のために」と明記された第21番(KV575)に続いて第22番(KV589)と第23番(KV590)を完成させたところで作業は中断してしまいました。このような経緯からこれら3曲の弦楽四重奏曲は「プロイセン(プロシア)王セット」と呼ばれていますが、結局王に献呈されることなく二束三文で出版社に売られてしまった(出版はモーツァルトの死後すぐ)こともあり、王からの依頼が本当にあったのかどうかについては疑問が残ります。
 「プロシア王セット」最大の特徴は、チェロに堪能であったヴィルヘルム2世を意図して、チェロ・パートに高い音域での独奏的な役割が与えられていることにあります。しかし、このセット最後の第23番ではこうした機会音楽的な要素は影を潜め、古典的で簡潔な構成の中にロマン派を予感させる陰影を湛えた、モーツァルト最晩年の様式が示されています。第1楽章冒頭やベートーヴェンのスケルツォを想起させる第3楽章のトリオ、第4楽章の展開部などの激しく情熱的な気分と、第3楽章や第4楽章の冒頭などの清澄かつ流麗な音の流れとの対比が織りなす複雑な情感は古典派の枠を逸脱したもので、天才モーツァルト最後の弦楽四重奏曲に相応しい音楽です。とりわけ、単一主題によるソナタ形式の第2楽章は、A. アインシュタインが「あらゆる室内楽文献のなかで最も感情の繊細な楽章の一つ」で「生への、至福と悲哀に満ちた告別」と美しい形容をしたことでも有名です。


シュペーテ弦楽四重奏団 第7回公演(2017年4月22, 29日)

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theme : クラシック
genre : 音楽

tag : 作曲家_Mozart,W.A. 演奏活動_DasSpäteQuartett

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Yosuke Kudo

Author:Yosuke Kudo
B. モンサンジョン著『リヒテル』(筑摩書房, 2000)に、「音楽をめぐる手帳」という章がある。演奏会や録音などを聴いて思ったことを日記風に綴ったもので、実に面白い。

毎日のように音楽を聴いているにもかかわらず、その印象が希薄になる一方であることへの反省から、リヒテルに倣ってここに私も覚え書きを記しておくことにする。無論、リヒテルの深みに対抗しようなどという不遜な気持はない。あくまでも自分自身のために、誰に意見するわけでもなく、思いついたことをただ書きなぐるだけのことである。

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